新型コロナウイルスの影響で病院経営が危機に陥っている。日本経済新聞のコラムでも今年4月の平均外来患者数が前年同月比の2割減、赤字の病院の割合が45%から67%に増えたと伝えている。

私も2007年から13年まで、経営危機にあった岸和田盈進(えいしん)会病院(大阪府岸和田市)の理事長に就き、再建に携わった。

病院経営で大きいのは、医療の価格は国が決める公定価格であることだ。ビジネスにおいて値付けは最も重要だ。商品の付加価値を高め、どう値付けするかで戦略が完成する。価格が既定ならば、もはや半分は経営ではない。病院は半官半民に近いため、危機の際は国が企業以上に支援すべきだが、根本的な誤りは病院自体の「経営」の欠如にあると考える。

医師法によれば、医療法人の理事長は原則、医師か歯科医師でなければならない。ただし、厚労相の認可を受けたものは、それ以外の理事からも選出できる。私もオーナーであるのに、理事として数年間携わった後、ようやく理事長に就任できた、おかしな仕組みだ。

病院が倒産したら、そもそも命が守れない。名医ほど、最先端医療を望み設備を積極導入し、過大投資でバランスシートの崩れを起こすことも多い。

新型コロナ対応での赤字の場合、コロナへの診療報酬が安すぎるという値付けの間違いもあれば、病院を“憩いの場”とする高齢者らの来院者が減ったことも最大の問題だろう。外食も損益分岐点が高い店は少々の客数減で赤字になる。コロナ禍が一つの契機であっても、従来の病院の損益分岐点が高すぎるという潜在的要因が根本にあると思う。

私は理事長時代にも、公的保険診療と保険外診療を併用する混合診療の導入や診療報酬の自由化、海外からの患者に日本の医療技術を提供するメディカルツーリズムなど、提言を続けてきた。

現在の医療態勢は自由主義社会の構造を無視している。「勝手な守り」は肝心な時に経営危機を引き起こす。名医と新人が同じ「価格」ではなく、差をつけるのも当然だろう。また診療報酬明細書(レセプト)も厚生労働省の添削が入る「ブラックボックス」で、かかる人件費も膨大だ。

規制緩和は、最終的には国民が幸せになる。既得権を守れば結局、国民が負担する社会保障費は増え続けてしまう。経営危機の今こそ、病院の株式会社化など規制緩和を検討すべきだ。医療界をプロ野球に例えるなら、4番打者(名医)が監督(院長)になれても、球団経営者になれるかは、まったく別の話だ。


【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より