「東京アラート」が発令されるなど警戒要請が続く。「夜の街」への外出自粛が呼び掛けられるが、街へはそもそも電車で行くわけであって、電車も「3密」(密閉・密集・密接)だ。「朝の電車」に対する対策は甘く、「夜の街」には厳しい、これでは感染防止の問題は本質的に解決しない。補償がない中では、夜の街のとくに中小の飲食店経営者は、生きていくために営業するしかない。都庁やレインボーブリッジを赤くするより「出すべきアイデア」があるのではと思う。

そうした中、大手外食事業者が加盟する業界団体、日本フードサービス協会が事業継続のためのガイドラインを出した。感染症対策の基本的対処指針にもとづき、店内では「できるだけ2メートル以上の間隔を空けて横並び」や「会話は控えめに」などの注意喚起がならぶ。

しかし、これは外食文化や居酒屋文化の魅力を否定している。横並びで顔も見ず、会話も控えるとなれば、外食経営者の私でも行きたくないと思ってしまう。

何より要請というあいまいな指示だと、あいまいな受け取りになり、実行性や効果に懸念を感じる。

しかし、海外には見習うべき例もある。例えば、香港ではレストランは1テーブル当たりの上限を4人以下とし、5月から8人以下に基準を緩和した。明確な指示だ。

シンガポールはイートインを禁止し、テークアウトのみにした。その分生じた人件費や家賃などの損失を国が請け負う形で、わかりやすく、何より政策が経営者目線だ。

外食には、お店でしか味わえない文化がある。協会は「日本の外食産業の発展と、豊かな食文化の創造に貢献」との理念をうたうが、このままでは「文化が壊れてしまう」。

外食産業も、これまで多くの雇用と納税を担ってきた。不急であっても不要ではない。今、業界そのものが「アラート」を発令するぐらい存亡の危機だと思う。

ワタミも居酒屋を65店舗閉店したが、かわりに今月来月で約25店舗、持ち帰りが好調の「から揚げの天才」をオープンさせる。新しい生活様式で、経営改革や構造改革は必至だ。しかし、居酒屋はなくならないと断言したい。

亡き恩師・つぼ八創業者の石井誠二さんは「居酒屋は、お酒や料理をただ提供するところじゃない。元気を提供するところだ」。そう言っていた。骨のある人が文化を守ってきた。ワクチンが開発されるまでは、グッと堪えることも多いだろう。しかし、しっかりと外食文化、居酒屋文化を守っていきたい。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より