緊急事態宣言の解除の流れが注目されるが、私は解除後も飲食店への影響は深刻なままとみている。営業時間の短縮要請や、新しい生活様式への対応など「経営を圧迫」する要件について、大企業は社会的責任から受け入れても、中小・零細は受けいれられないだろう。特に複数の店舗を経営する会社や、開業1年未満の会社への救済策は不十分であり、同業として今後の閉店廃業が、とても心配だ。

そうした中で5月の月末を迎える。先日、親しい北村晴男弁護士とラジオ番組で対談し、月末の今、「経営者がしてはいけない3つのこと」を聞いた。中小企業経営者の相談に多くのってきた北村さんは、資金繰りに困っても、「(1)高利貸に手を出すこと」「(2)友人、親族に連帯保証人になってもらうこと」「(3)仲間内の間で融通手形を出し合うこと」。この3つは、「苦しいのはわかるが、絶対に避けてほしい」と強調された。

北村さんによれば、銀行以外の高利貸を利用した場合、いかに有能な経営者でも精神的に追い込まれて、正常な判断ができなくなる。経営者が生命保険に入り、追い込まれる極端な例もある。連帯保証は、人間関係が崩れ、自己破産など再出発の手続きの際に知人に「迷惑かかる」と悩み、結局は手続きを先延ばしし、泥沼にはまるという。融通手形も連鎖倒産を招く恐れがあり、その場しのぎにすぎないという。

私も会社を清算した経験を持つ父から「銀行以外から借りるな」「手形は切るな」ときびしく言われ、30年以上守ってきた。

撤退も経営判断だ。北村さんがあげる、この3つの「してはいけないこと」は、撤退のデッドラインとするべきだ。現在と未来で時間軸を長く取って、自分を客観視しなければならない。追い詰められた時は、危機を2~3回乗り越えてきた先輩経営者に相談することだ。30年近く会社を経営してきた人は、必ず「してはいけないこと」を教えてくれる。

北村さんは「世間は誤解しているが、自己破産はあくまで再出発の手続き」という。そのうえで、法人と代表者の破産手続き両方を完了させるための弁護士費用、150万円は残しておくべきだと助言する。

本当に追い詰められたときは、やり直しの道を選択することは間違いではない。社会に1つ借りを作っても、もう1回立て直して、納税と雇用で社会に借りを返せばいい。お金より大事なものはある。家族や親友を連帯保証人にしたり、夜逃げをし、人間関係をすべて失うことは、経営者として「間違った道」だ。

はじめて店を持った高円寺。30数年前、資金繰りが行き詰まり、駅前の銀行の前で、涙が込み上げてきたことがある。ただ、銀行の帰り道、「正しい道」を選んだから今がある…。

どんなに苦しいことも、いつかは懐かしく思える。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より