非常事態宣言で一層注目される、新型コロナの経済的影響。「自粛要請と補償はセットで」という事業者の声が高まる。首相も都知事もそれに満足に応えきれない姿が続く。大前提、財政に余裕があるならお金を出すべきだ。私も、外食経営者として自粛要請の被害を受けている身だ。

しかし、補償を手厚く行う各国並みに日本には財政の余裕がない。その説明が足りないから一部のヨーロッパの国のように8割の休業補償といった措置を、なぜ日本もとらないのか…という声が高まる。すべてに応じていたら財政が持たないと「嫌われること」を言う政治家がいない。それどころが「お肉券」や消費税の減税が浮上するが、財源議論はない。そもそも借金頼みの国家経営をしてきた責任は大きい。

緊急経済対策の審議が国会で続いているが、絶対に、経済的な事情で亡くなる人を出してはならない。私の提案は「支払い猶予」の「徳政令」だ。経営者も個人も、最後に行き詰まるのは、支払いだ。融資の返済や家賃の支払い、さまざまな支払いに対して「3カ月間は支払いを猶予してもらえる徳政令が出た」と、経営者をまずは安心させることだ。

銀行や大家など、しわ寄せがくる先は、徳政令によって生じた「払い込まれなかった金額」を申請し、国からの融資支援を受ける。もちろん従業員への給料は支払う。政府は従業員を休業させた企業への雇用調整助成金を打ち出したが、企業負担分もあり、それが払えない企業もある、それも国が緊急融資をする。

感染の終息が見えない中で、経営者は「いくら借りていいのか…」と不安だ。徳政令は、支払えない分に限定したセーフティーネットだ。猶予してもらった支払いは将来、少しずつ返済していくことになる。

融資であれば、国家財政への影響は少ない。個人に対しても、マイナンバーカードを活用して資産状況を把握するなどし、本当に困窮している人を救済するべきだ。検討されている自己申告1世帯あたり30万円支給も所得減の定義など「欠陥」が心配だ。

大胆な給付や補償の方向性を示すと、ポピュリズムに歯止めがきかなくなる。しかし違う国もあった。ドイツの緊急支援策は、債務保証や出資、融資などの名目が並ぶ。支給は、従業員10人以下の事業者に対し3カ月で最大約176万円と比較的少額だ。ドイツは第1次大戦後にハイパーインフレで苦しんだ教訓がある。憲法でも財政規律が明記されている。国の借金を国民と政治家が意識している。「ドイツモデル」は大変参考になる。

国が借金を増やし、日銀が大量の円を刷る。いつか円の価値がなくなり、ハイパーインフレが起きたら、今以上の危機や、痛みが伴う。そうした説明をしないと、国民は「補償、給付、減税」を、日に日に求める。感染拡大の危機と国家財政の危機、2つの問題を国民と共有し、政治が解決すべきだ。

嫌われても正しい方向を示す、それが政治の役割だ。先月、空席だらけの新幹線に乗車した。日本が向かっている方向が心配だ。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より