レバノンに逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告だが、「経営理念」の角度で経営者を見る私にとっては、過去にゴーン被告が、バイクと接触事故を起こした際、ポルシェに乗っていたことを知って以来、違和感を覚えていた。日産車を愛用するのが普通ではなかろうか。

それ以前は、破綻寸前の日産に乗り込み、仏大手ルノーと組んだ部品共同調達や車体共通化、工場閉鎖などを含むコスト削減策など「リバイバルプラン」を掲げ、非常にオーソドックスな外国人経営者だと思っていた。しがらみにとらわれず、改革を推し進め一定の成果をあげたのは事実だ。

しかし、レバノンでの会見は経営者の資質以前の「残念」な内容だった。ゴーン被告は「自ら証拠を提示し、それに検察はどう反論したのか」を説明し、そのうえで「無実だ」と主張すべきだった。根拠も示さず、逃亡しただけでは、何ら正当性はない。

ゴーン被告は、サラリーマン経営者でありながら、権限を持ちすぎたかにみえる。改めて「サラリーマン経営者」と「オーナー経営者」(創業家)の違いを考えたい。

当初私も、会社は資本と経営の分離が一つの方法と考えていたが、35年間さまざまな会社を見続け「創業家経営の方が、百年企業を目指す上で良い」と思うようになった。世界的にも創業家経営による企業の方が、成績がいいと認められている理由として、創業者の理念へのこだわりが1つある。後継者は、幼少から、父親や、祖父の背中を見て、経営にとって大切な理念を見続けている。どんなに長く働いた社員よりも価値観が伝わりやすい。

また、会社の未来を考え、たとえ今期の利益を捨ててでも、10年後の利益のために我慢する、という近視眼的でない、中長期的な発想に立つことができる。創業家経営のサントリーなどにもそうした経営戦略の成功事例がある。

一方、サラリーマン経営者の場合、短期的な結果を求められることが多い。権力維持、高額報酬、経費の浪費などを続ければ、部下は必ず上司を見て、まねをする。ゴーン被告も同様で、サラリーマン経営者が、ダメになる典型的なパターンだ。

ワタミも、サントリーにつとめていた私の長男が執行役員に就任し、後継が注目され始めた。長男には、人間が失敗する「お金、お酒、賭け事」などについて書いた、これだけは守れという特別なメモを渡している。父親だからこそ、そこまで踏み込む。ゴーン被告からは、「何のために日産があるのか」という理念を感じなかった。

最近、対照的な経営者とゆっくり話した。100円ショップ最大手のダイソーの矢野博丈会長だ。世界に約5000店舗と、100円でモノを売る文化を作った人だ。しかし、いっさい自慢話をしない。私が活動する、カンボジアの教育支援や、岩手県陸前高田市での未来事業に「あんた、良いことしてるな~」と、口数少なに言い、破格の寄付を申し出てくださった。100円でお客さんの喜ぶ顔を見たいと、経営理念が明確で、陰では社会貢献をされている、こうした経営者を私は尊敬する。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より