大学入学共通テストへの英語民間試験導入と記述式問題の導入が見送られた。「どうなるかわからない」状態が長く続き、生徒をはじめ高校や大学の教員と民間業者を振り回したことを文部科学省は反省すべきだと思う。

私は2006年から08年にかけて、第1次安倍内閣の教育再生会議メンバーを務めた。英語の、「聞く」「書く」「読む」に加え、「話す」の技能を測ることは当時からの議題だった。必要性のある大事な試験なら、国がしっかりと予算をかけてやるべきだ。民間に試験を委託しようとした無理が、今回の一番の問題点だ。本来充実した試験には「多額の予算」がかかる。今回の問題は、制度設計の段階の経営のミスだ。試験の必要性とその予算を、しっかりと財務省にも国会にも理解を得るべきだったと思う。

例えば、論文試験ならば、採点者はプロ中のプロである必要がある。アルバイトの大学生では、厳密な採点ができず、「このパターンでこの言葉が使われていたら何点」などと、テクニカルな採点に終始する。本来は大学教授を日給で雇うなどの態勢が必要で、「予算」をしっかりかけなければならない。

財政健全化は重要だが、教育だけは予算をかけるべきだ。経済協力開発機構(OECD)がまとめた統計によると、16年の日本における教育機関に対する対GDP(国内総生産)比の公的支出の割合は、2・9%で、OECD加盟の36カ国中、最低だ。世界を意識し、他の予算を縮めてでも、教育費の比率は上げるべきだ。

郁文館夢学園の理事長や、教育再生会議のメンバーを務める中で教育に対して多くの提言をしてきたが、なかでも、学力のないまま大学に進学することを問題視し、高校卒業試験の導入や、都知事選に出馬した際は、グローバル社会に備え、高校生の10人に1人は、1年間海外留学させるべきとも提言した。

先日も、柴山昌彦前文科相と日本の教育の未来について対談した。AIとロボットなどに人間の仕事が奪われる時代に、人間だけが持つ関係性やリーダーシップなどの問題解決能力や、国境を超えて仕事ができる専門性が求められる。私が理事長を務める郁文館夢学園では、毎朝、新聞を読ませ、問題意識を持ち、自らの考えをプレゼンテーションするなど「人間力」を磨いている。

学校は「英語」を教えることが目的ではない。「英語を知らないと社会に出て困り、夢実現が遠のく」という目的意識の教育こそが重要だ。教育をゼロから見直す時期が来ている。私自身も、郁文館の系列で新たな通信高校をはじめる予定だ。「子供たちの幸せのためだけに学校はある、子供たちに夢を持たせ夢を追わせ夢を叶えさせる」という理念のもと、日本の教育のモデル校を作っていきたい。

「身の丈発言」の言葉狩りをするつもりはない。しかし私も、父が会社を清算し、ハングリーな環境で高校も大学も進学し、上場企業の創業者の夢を追った。クリスマスに、生きていく上で大切な考え方も、子供たちに贈りたい。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より