デモの影響を受ける「香港」、米中貿易戦争の現場「上海」などアジア各国のワタミを視察した。

香港国際空港に降り立つと、むしろ「いつもよりも静かすぎる」という印象を受けた。週末にはまだ大きなデモが続いているそうだが、街中で混乱を見ることはなかった。

ただ、香港和民もデモの影響で売り上げが落ちている。現地の生の声にふれると、「中国に支配されず、一国二制度を維持したい」という意見と「これ以上、デモが続くと売り上げが落ちるので嫌だ」という意見もあった。

政治に関心を示し、自らの意見を主張する、若者の未来を思うエネルギーは肯定する。日本の若者も、これぐらい政治や未来に「熱」を持つべきである。しかし、空港を占拠したり、一部が暴徒化することはあってはならない。デモにはマハトマ・ガンジーのような圧倒的なカリスマ指導者が不在にも思う。

私は、香港の問題は当面続くと観測している。前・外交防衛委員長と経営者コネクションで、上海で会った外交筋や経営者の話を総合すれば「中国は武力介入をしないだろう」。

中国政府は、香港の支配よりも中国経済の減速を恐れている。武力介入で香港経済がダメージを受ければ、中国経済にも波及し、共産党政権の信任も揺るぎかねない。デモ参加者が香港政府に提示している5つの要求を求め続ければ、長期化は避けられない。

米中貿易戦争で中国経済は減速といわれるが、上海のショッピングモールの客数や、店舗の売り上げなど見る限り、さほど失速を感じなかった。新規の出店も増え、繁盛店が多数進出しているのも事実だ。サービスが悪いとされた中国で、今や上海に、世界一のサービスを提供するといわれる火鍋屋がある。おしぼりを何回も出し、店のロビーには、ネイルサービス、VR、託児所まであった。味も価格も納得であった。ワタミの上海での新業態のアイデアも思いついた。

さらにワタミは、アジア圏で人気が急上昇している、日本橋・天丼の「金子半之助」と提携し、香港での運営権を得た。20年前に香港に進出したワタミの運営力を生かす。「金子半之助」創業者の金子氏とともに出席した、香港1号店のセレモニーは、長蛇の行列になり、さらなる出店も続々と決まり、デモの影響を取り返す勢いだ。

貿易戦争も、デモの影響も、サービスやアイデア、提携といった「経営」でそれを乗り切る方法は必ずある。経営は、前提や状況をいかに早く織り込むかだ。香港の社員から、サプライズで半月早い誕生日をお祝いされた。「不安を抱える社員」と「デモ」を心配したが、「笑顔でお祝いされ」「お店の行列」を見た。

未来は、その力強いこぶしで切り開いてほしいと願う。そして、オーナーが日本から来て、ガンジーの話をしていったと、それが彼らの心に残ればいい。「非暴力は人間に与えられた最大の武器であり、人間が発明した最強の武器よりも強い力を持つ」。ガンジーの思想が好きだ。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より