この夏も例年のようにカンボジアを訪れた。カンボジアは、内戦が長く続き、教育と社会インフラが破壊された。長年、日本も多くの支援を行ってきたが、近年は、対中国依存が顕著で、中国系の人とカネの流れが加速し、インフラも中国資本が入り、あげく中国系のカジノも出来ている。ただ、今年6月にカンボジア南部で建設中のシアヌークタワーが倒壊する事故が起きた。中国が建てた建物だが、多くのカンボジア人が犠牲となった。国内では「対中依存でいいのか」「民族の誇りはどうなるか」と気付き始め、再び日本への期待も高まっている。参院議員時代にはカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの5カ国との交流を図る「日本・メコン地域友好議員連盟」(メコン議連)の立ち上げ事務局長として交流活動を続けてきた。人口減少の日本において、経済成長の可能性を秘めるこの地域との関係性は重要だと提言を続けた。

私は、公益財団法人「スクール・エイド・ジャパン」(SAJ)の代表として、20年間にわたり30回以上、カンボジアを訪問している。SAJではこれまで、のべ約120人の子供を預かる孤児院の運営、300超の学校建設、そして毎年約1000人の子供への制服・文房具、食糧支援などをしている。

今回の訪問で、孤児院の26人の子供とともに、アンコールワットに行った。カンボジアの子供たちに「1つだけ神様お願いするなら、何をするか」と問うと、「アンコールワットに行きたい」と口々に答える。国旗にも描かれるアンコールワットに行くことは、多くの子供たちの憧れで、それを叶えてあげたいと親心が働く。

今回の訪問で嬉しかったのは、孤児院の子供たちがアンコールワットに落ちているゴミを拾っていたことだった。孤児院では、給食も分け合い、上級生が下級生の面倒を見て生活している。

かつて、孤児院の1期生の女の子が、私を追いかけ「辞書を貸して貰えませんか」とお願いされた。その子は、渡した辞書を大切に、勉強を重ね、日本の東大にあたるプノンペン大学日本語学科に合格した。

20年前は、カンボジアの子供たちは小学校も卒業できない状態だった。しかし今は、多くの子が中学や高校を卒業し、都市部での就労も可能になった。ただ仕事を通じて、技術や知識を身につける土壌がないという問題は残っている。

ワタミ傘下のカンボジアの特定技能実習生支援機関では、2022年までに1000人の若者の来日を目指す。私の目標は、日本で外食経営を教え、カンボジアでフランチャイズのオーナーになってもらうことだ。

辞書ひとつで人生を変えようとする若者がいる。そのハングリーさから「学ぶ」ことの方が多い。孤児院の子供たちに、アンコールワットでお土産用のお小遣いを渡した。それを自分のために使わず、親代わりへのプレゼントに使った。ゴミ拾いも、ハングリーも、親孝行も、日本人の根底にある文化だ。中国依存が少し揺り戻しの今、この子たちはこのまま「日本の影響」を受けて成長してほしいと願う。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より