世界三大投資家のひとり、ジム・ロジャーズ著『日本への警告』(講談社+α新書)を読んだ。日本の現状分析や将来への政策提言の面で共感するところが多く、「今の日本は何かがおかしい」という冒頭の書き出しから「付箋(ふせん)」をつけた。

 ロジャーズについては、2018年に日本株をすべて売却した話を聞き、注目していた。

 特に日本経済への先行きの指摘は厳しい。ロジャーズは日本株をすべて手放した要因として、日本の財政、人口減少、政治体質など、日本の将来への不安を、具体的かつ論理的にあげている。

 最も印象的だったのは《人口減少に、そして借金に対して何か手を打たなくては、日本は衰退を続けるしかない》《これから起きる破綻は、日本人が自身で決めたことにほかならない》というくだりだった。

 《これは私の“意見”ではない。意見に対しては異論が成り立つが、この問題は簡単な算数ができれば、誰でも明らかにできるものなのだから》と、述べている。つまり「意見」でなく「事実」ということだ。

 安倍総理や自民党にも批判的だ。《古い人間たちは、既得権を守るために自民党を支持し続ける。そして自民党は新しい活力ある若者や外国人よりも、古い人間を守ろうとする》。自民党参院議員として、内側から改革を実現しようとし、成果を上げられなかった私は、その「構造」をロジャーズより、解説できる。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁については、国民の《生活を破綻》させると、もっと痛烈に批判している。日銀が無制限に国債を買い入れ、紙幣を刷る金融緩和政策は、かならず円安を招くとし、《世界の歴史において、財政に問題を抱えた国の自国通貨はすべて値下がりしてきた》と警告している。

 今後、日本をどうすべきか、という点でも私の政策提言と重なる点が多い。最も共感できたのは、《もし私が日本の首相になり…責任を果たそうとするなら…何はともわれ支出の削減に取り組む》という点だ。さらに成長産業として「農業」の可能性に着目している点も、理にかなった見方だ。円安になると、海外農産物に対して国内農産物は「優位性」が生じる。さらに、品質の高い日本の農産物は、為替優位で、輸出産業になりうると、私も見ている。ロジャーズも人口減少で、土地があまり、移民やIT技術などを駆使し、日本独自の農業モデルが創出できると提言。ワタミが農業を中心事業に据える理由もここにある。

 ロジャーズの特徴は、「全体の俯瞰(ふかん)」と「歴史」を掛け合わせた視点だ。小国ながら、かつて繁栄を誇ったスペイン、イギリスを引き合いに出し、日本の命運を暗示している。投資家や経営者は、もうすでに、オリンピックの後を見ている。《オリンピックが国家にとってお金もうけになった例がない》《一部の人に短期的な収入をもたらすことはあっても、国全体を救うことにはならず、むしろ弊害をおよぼす》とあった。私もこの夏、本を執筆している。「警鐘」の鐘を鳴らす本としたい。

「今の日本は何かがおかしい」、私も当然そう思う。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より