「アベノミクス、あれ失敗でしょ?」

 ある上場企業の有名経営者が私に言った。経営者は経済の最前線にいる。任期満了を前に、私なりにアベノミクスの総括をしたい。

 1〜3月期の実質国内総生産(GDP)が先月20日発表され、事前予測に反してプラス成長となった。輸出以上に輸入が落ち込んだことによる統計上のトリックが大きい。「景気は悪くなっている」と受けとるべきであろう。

 私が参院議員になった6年前は、「デフレ脱却」と「経済再生」を目標に掲げたアベノミクスが始まった時期だった。私は日本のデフレは「円高こそが諸悪の根源だ」と考えていた。その点、円高を是正して、円安に振らせる点からみて、アベノミクスは正しかったと思う。

 「異次元の金融緩和」や「財政出動」「成長戦略」も正しいと思った。問題は、日本の財政が痛むことだったが、経済成長を達成できれば、財政はカンフル剤(景気回復政策)によって、健全化できる。カンフル剤で円安になった後に、実体経済を高めていければと考えた。経済成長の条件付きから考えれば、アベノミクスは日本の国が打つ「最後のばくち」だと思った。

 政治家は実体経済を知らない。経営者の視点を生かし「実体経済を上げる一翼を担いたい」と政治家になった。しかし現実問題として、アベノミクスは想定外の誤算が付いた。

 1つは、円安にもかかわらず輸出が伸びなかったことだ。日本の製造業の多くは外国に出ていってしまっていた。

 2つ目は、大企業の収益は伸びたが、雇用の7割を占める中小企業の収益が落ちた。円安による仕入れコスト増分を大企業への卸値に転嫁できず、多くの中小企業が業績を上げられなかった。

 この状況で、労働環境も良くなるわけがないし、マネーサプライが増えても利益が上がらないので、中小企業は銀行からお金を借りなかった。市中に出回るお金が増えなかった。

 私の得意分野は、アベノミクス3本目の矢である「規制緩和」であった。しかし規制緩和には既得権の抵抗が伴う。私も散々、提言に反対され実質、貢献はできなかった。一方、ビザを緩和して、外国人観光客数を増やすなど、規制緩和が進んだ分野もある。しかし進んだのはいずれも、反対の族議員や特定票がない分野である。

 アベノミクスの失敗は、「将来不安」を除くことができなかったことが大きい。私は、将来不安に対して、「労働力の確保」「経済活性化」「財政健全化」の3つを掲げた。まわりを見ると高齢者ばかりで、近い将来に年間80万人以上の人口が減るといわれている。GDPは人口だ。その点、米国は移民で人口が増えている。

 まず、現状を国民に知らせて、リーダーシップで指針を示すことが重要だと考える。冒頭のアベノミクスへの問いには、「誤算を認めて修正を期待する」が私の答えである。

 

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より