5月16日はワタミの創業記念日だ。5000万円の借金をして、東京・高円寺に居酒屋1号店を開店して以来、丸35年となり感慨深い。
この頃、「MMT(現代貨幣理論)」という財政赤字容認の経済理論が話題に持ち上がっている。ニューヨーク州立大学のケルトン教授らが提唱する説で、自国通貨発行権を有している国は、財政赤字に陥っても通貨を発行して債務返済すればいいので、債務不履行(デフォルト)は起きない、ようは「いくら借金をしてもいい」という理論だ。

私はこれを「悪魔のささやき理論」と呼び、猛反論したい。提唱者たちは、日本は「MMTに沿った国」といい「これだけお金を刷っても金利が上がらない、ハイパーインフレにもならないじゃないか」と指摘する。

一部の政治家の中には、「ではMMTで行こうではないか」という人もいる。「借金をして、新幹線や道路をつくり、公共投資でお金をばらまけば、景気が良くなる」と理論を正当化するが、それは経済が右肩上がりの場合に限られ、正しくない。

20年間GDPがほとんど成長していない現状の日本に、MMTの理論を持ち込めば、この国は潰れるしかないと私は考える。

MMTには「インフレにならない限り」という条件がつく。現状、日銀が金融緩和を進めても、お金は、日銀の当座預金にたまったままで、流通していないためインフレにならないだけだ。これが出ていってしまったら、インフレは止められない。
 
日銀の出口戦略や、ハイパーインフレになってしまった場合の策はない。そもそも、MMTへの最大の反論は、海外との取引で円の価値がなくなることだ。外国為替市場を閉鎖しなければいけない。

日本が財政破綻へと“茹(ゆ)であがる”寸前にもかかわらず、「まだ茹であがってないから、大丈夫でしょう」と主張するのがMMTだと思う。

インフレになり、金利が上がれば、借金が払えなくなるので、日銀も国も破産してしまう。金利を抑え、経済成長を上げていくことが、この国の経営者たる国会議員の本来の仕事である。

しかし、経済成長より、予算委員会では、永遠にモリカケ問題を追及し、議論する姿をここ数年、間近で見てきた。野党が与党を追及したいのはわかるが、本来ならば、日々増える国の借金のことこそ、追及や議論をするべきである。

MMTは「みんなが幸せになる」といわんばかりの理論で、耳に快い。まもなく参院選が近づくが、各党、国民が喜ぶことを掲げるだろう。しかし、「国民が喜ぶから」と、「国民のためになるか」は別の話である。

特に財政規律は大事な視点だ。私自身35年前、5000万円の借金をしたときから「借りたものは返すべき」という規律で経営をしてきた。いくら借金してもいいという姿勢では必ず破産する。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より