日本は、欧米諸国に比べて、
起業家教育が遅れていると言われ、
開業率も低い水準にあります。
私が理事長を務める郁文館夢学園では、
こうした現状を打破し、
少子高齢化によって、
これから縮小する日本経済において
雇用と納税を生み出す起業家を育成しようと、
高校生社長講座「起業塾」を開講しました。
生徒は、高校1年生から
起業に必要な知識を学び、
高校3年生で実際の起業を目指します。

私自身も教壇に立ちますが、
成功している経営者14名を
講師として招へいし、
実体験に基づいた実践的な講義を行います。
アントレプレナー教育を
実践している高校は
日本にも数多くありますが、
その多くは単発的なものであり、
3年間の本格的な起業家育成プログラムは、
日本の高校ではおそらく初なのではないか
と思います。

その「起業塾」がいよいよキックオフ
しました。
記念すべき第一回の講義で
私が生徒に伝えたのは
「起業の喜び」です。

(1)たくさんのお金を稼ぐことができる
(2)とにかく楽しい!
(3)社会課題を解決することができる

(1)たくさんのお金を稼ぐことができる
こう言うと「お金の亡者」だ
と勘違いされてしまうかもしれません。
でも、“欲”はあっていいのです。
そして、その“欲”は、
時間の経過や事業の成功と共に
変化していくのです。

実際、私がそうでした。
小学5年生で母を亡くし、
同じ年に父が会社を清算して、
我が家は一気に貧乏になりました。
父の使い古した黒い靴下しか穿けず、
友だちの穿く白い靴下がうらやましくて
仕方なかったです。
大人になったら社長になって、
絶対にお金持ちになってやる。
これが、“私の欲1.0”です。

大学生の時に、
何の事業で起業するかを決めるため、
北半球一周旅行に出ました。
様々な国で偏見や差別を目の当たりにし、
私は失望のどん底にいました。
そして、最後に訪れた
ニューヨークのライヴハウス。
素敵な音楽が流れる中、
肌の色に関係なく、老若男女、
誰もが笑顔で歌い、踊り、お酒を飲み、
食事をしている光景がそこにありました。
その素敵な空間で、私は感動のあまり、
涙が止まりませんでした。
人は、美味しい料理と良いサービスと
良い雰囲気のお店に仲間といれば、
とても幸せそうな笑顔になる。
私が「外食をやる」と決めた瞬間です。
「一人でも多くのお客様に
あらゆる出会いとふれあいの場と
安らぎの空間を提供する」
というワタミのミッションが
生まれた瞬間でもあります。
これが、“私の欲2.0”です。

24歳でワタミを起業して、
お店が大繁盛して26歳になったとき、
私は1億円を稼ぐようになっていました。
「お金持ちになって、
白のクラウンと家を買う」
と決めていたのに、
実際に買える身分になると、
私はどうしてもそれを買うことができません。
自分で稼いだ金だから
誰にも遠慮はいらないはずなのに、
なぜ、私はそれらを買うことに
躊躇してしまうのか?
そう思った瞬間、
お店で働く仲間たちの姿が
脳裏に浮かびました。
ハッ!としました。
このお金は私のお金ではない。
仲間と一緒に稼いだお金だ。
だから私は仲間を幸せにしたい。
そして、もっと多くの人たちを幸せにしたい。
そうして、ワタミのもう一つのミッション
が生まれました。
「会社の繁栄、社員の幸福、
関連会社・取引業者の繁栄、
新しき文化の創造、人類社会の発展、
人類の幸福への貢献」
これが、“私の欲3.0”です。

自分はマザーテレサにはなれないので、
自分の欲をゼロにすることはできません。
でも、自分の欲というコップの大きさを
一定に保てば、注がれる水(利益)が
増えれば、それはコップを溢れて、
社員というお皿に流れ込みます。
そして、その外にある取引業者様のお皿に。
もっともっと稼げば、その水は、
開発途上国にまで広がっていく。
私はこのコップを
「幸せのコップ」と呼んでいます。
つまり、“欲”は決して悪いことでは
ないのです。

(2)とにかく楽しい!
起業し、思いを共有する仲間と共に戦い、
多くのお客様から、株主様から、
お取引業者様から「ありがとう」をもらえる。
「ありがとう」が連鎖する。
こんなに楽しい仕事はありません。

(3)社会課題を解決することができる
起業し、事業を通じて、
様々な社会課題を解決することもできます。
例えばワタミでは、お弁当宅配事業を通じて、
650万人と言われる独居老人の問題解決に
寄与しています。
お一人住まいで寂しい思いをされている
年配の方にお弁当を届けた際に、
話し相手になる。
庭の水やりを手伝ったり、
買い物を代行してあげたりすることも。
ノックをしても返事がなく、
様子がおかしいと玄関を開けたら、
倒れていて、すぐに救急車を呼び、
一命を取り留めたことも。

起業は素晴らしい。
「起業塾」第一回で伝えたかったことは、
生徒の心に届いたようです。
生徒たちが実際に起業し、上場し、
多くの雇用と納税を生み出し、
日本経済の発展に寄与することを、
そして、夢を追いかける過程で
人間性が向上し、
幸せになってくれることを願っています。