特許などの判決集
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商標権侵害差止請求控訴事件



◆H16. 3.19 東京高裁 平成15(ネ)1521 商標権 民事訴訟事件

平成15年(ネ)第4925号 商標権侵害差止請求控訴事件
平成16年3月18日判決言渡,平成16年2月5日口頭弁論終結
(原審・東京地方裁判所平成15年(ワ)第1521号,平成15年8月29日判決)

     判    決
 控訴人(原告)  エノテカ株式会社

 被控訴人(被告) 株式会社グラナダ


     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴人が当審で拡張した請求を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。


第2 事案の概要
 本判決においては,原判決と同様の意味において又はこれに準じて,「本件商標権」,「本件商標」(別紙商標目録記載のもの),「被控訴人店舗」(原判決の表示は「被告店舗」),「被控訴人標章」(原判決の表示は「被告標章」。別紙標章目録記載のもの。同目録記載の番号に対応して「被控訴人標章1」のようにいい,これらを総称して「被控訴人標章」という。)との略称を用いる。
 1 本件は,控訴人が,イタリア料理レストランを営業して被控訴人標章1ないし3を使用している被控訴人の行為について,役務及び商標が同一又は類似するので控訴人の本件商標権を侵害するものであり,また,本件商標が控訴人の営業表示として周知であるので不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に当たるものであると主張して,商標法36条1項又は不正競争防止法3条に基づき,被控訴人に対し,被控訴人標章1ないし3の使用差止め及びこれらの標章を使用した営業の差止めを請求した事案である。なお,控訴人は,原審においては,被控訴人標章1のみについて上記のような標章の使用差止め及びその標章を使用した営業の差止めを求めたが,当審において,差止めの対象として被控訴人標章2,3の使用及びこれらを使用した営業を追加し,請求を拡張した。
 原判決は,被控訴人標章1は,本件商標とその外観,称呼,観念のいずれにおいても異なり,本件商標と同一又は類似するものということはできないとして,上記商標法36条1項に基づく差止請求及び不正競争防止法3条に基づく差止請求は,いずれも理由がないとして,控訴人の請求を棄却した。

著作権 民事訴訟事件



◆H16. 3.31 東京高裁 平成16(ネ)39 著作権 民事訴訟事件

平成16年(ネ)第39号著作権確認等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成14年(ワ)第23214号)
口頭弁論終結日 平成16年2月18日
判決
控訴人            株式会社スタジオビツク
                     (以下「控訴人会社」という。)
控訴人            A 
                     (以下「控訴人」という。)
控訴人ら訴訟代理人弁護士  村 松 靖 夫
被控訴人           株式会社学習研究社
同訴訟代理人弁護士    河 合 英 男
主文
     1 本件控訴を棄却する。
     2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。

(2) 控訴人会社が,別紙書籍目録1,2,9及び10記載の書籍につきいずれも4分の1の割合による著作権を,同目録3ないし8記載の書籍につきいずれも5分の1の割合による著作権を有することを確認する。
(3) 控訴人が,別紙書籍目録3ないし8記載の書籍につきいずれも5分の1の割合による著作権を有することを確認する。
(4) 被控訴人は,別紙書籍目録1ないし10記載の書籍を発行及び頒布してはならない。
(5) 被控訴人は,前項記載の書籍を廃棄せよ。

(6) 被控訴人は,控訴人会社に対し,142万8000円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を,控訴人に対し,102万円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
(7) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(8) 第(6)項につき,仮執行宣言

製作販売差止等請求控訴,同附帯控訴事件

判例 平成16年02月13日 第二小法廷判決 平成13年(受)第866号、867号 製作販売差止等請求控訴,同附帯控訴事件
要旨:
 競走馬の所有者は,当該競走馬の名称を無断で利用したゲームソフトを製作,販売した業者に対し,その名称等が有する
顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利(いわゆる物のパブリシティ権)の侵害を理由として当該ゲー
ムソフトの製作,販売等の差止め及び損害賠償を請求することはできない

内容:  件名製作販売差止等請求控訴,同附帯控訴事件 (最高裁判所 平成13年(受)第866号、867号 平成16年02月13日 第二小法廷判決
一部破棄自判,一部棄却)
 原審名古屋高等裁判所 (平成12年(ネ)第144号、467号)

主    文
       1 原判決のうち,平成13年(受)第866号事件上告人の敗訴部分を破棄し,同部分につき,第1審判決を取り消す。
         同部分に関する平成13年(受)第866号事件被上告人らの請求をいずれも棄却する。
       2 平成13年(受)第867号事件上告人らの上告を棄却する。
       3 第1項に関する訴訟の総費用は,平成13年(受)第866号事件被上告人らの負担とし,第2項に関する上告費用は,同第867号事件上告人らの負担と
         する。

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半9)

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半9)

ウ 発明の過程における被告の貢献について

(ア) 本件各発明がされるに至った経緯を要約すれば,第1に,それまでに被告
において試みていた,考えられる限りのあらゆる撹拌晶析法(強制流動を伴う晶
析法)により望ましい大きな結晶としてのAPMを得ることが失敗に終わり,も
はや他に晶析方法が考えられない状況にあったこと,第2に,CによりAPMの
特異な結晶形態が発見されたこと,その結果として,本件各発明がされたものと
いうことができる。

  すなわち,昭和44年から昭和46年までは,実験室におけるAPMの製法
研究とサンプル試作の段階であり,晶析方法も実験室的手法の域を出るものでは
なかった。昭和47年から昭和50年までの間には,ASH法(無保護のアスパ
ラギン酸無水物とフェニルアラニンメチルエステルを反応させる製法)によりA
PMの商業的生産技術を確立し,晶析工程については,実験室での基礎検討を積
み重ね,その結果,連続的撹拌冷却法による工業化を目指した。昭和51年から
昭和54年までは,いったん研究開発は減速したが,東ソー株式会社(以下「東
ソー」という。),財団法人相模中央化学研究所(以下「相模中研」という。)
及び被告との酵素縮合に関する共同研究を実施し,その経済性の評価を行った。
その後,改良Z法によるAPMの商業的生産技術を確立した。昭和55年から昭
和57年までは,工業晶析法に関して再度実験室に立ち戻って,基礎検討を再開,
走査電子顕微鏡による観察の結果,Cが静置晶析で得られるAPMの大粒径の結
晶が束状集合晶という特異な結晶形態をもつことを発見し,これを受けて静置晶
析法の工業的実施のための研究開発を行い,これに成功し,本件各発明がされる
に至っ
た。

(イ) 以上のように,本件各発明は,それまでの考えられる限りのあらゆる攪拌
晶析法による失敗の上で,かつCによる束状集合晶の発見に基づいてされたもの
である。アイデアを持つことと発明することは同じではないところ,本件各発明
は,Cによる束状集合晶の発見まではアイデアの段階にとどまっていたのである。

  また,本件各発明に関しては,結晶の細かさのために固液分離性が悪くなり,
その結果,湿結晶の水分含量が高くなり,不純物の付着が多くなり,かつ乾燥の
時間がかかる等の操作上の問題があるので,これを解決するためにいかにして大
きな結晶としてAPMの結晶を晶析させるかという課題は,被告から本件各発明
に至る10年以上前から与えられており,被告の晶析関係者の研究者が全力を結
集してその解決に取り組んでいたものであること,解決手段としての静置晶析の
発明は以上のような攪拌晶析法による失敗の累積の上でなされたものであること,
原告が本件各発明の当時,被告の中央研究所技術開発研究所のAPM開発グルー
プに課長として勤務し,問題解決の責任者の立場にあったことを考えると,本件
各発明に至る被告の貢献の程度は大きいといえる。 








味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半8)

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半8)

(オ) 本件各発明にかかる米国特許の実施により被告がサール社ないしNS社か
ら受領したロイヤルティ(原告の主張(2)ア(ア)及び(イ))は,その全額が「その
発明により」使用者である被告が受けるべき利益であるとはいえない。何故なら,
ロイヤルティ額はサール社ないしNS社の売上げに比例するが,この売上げはラ
イセンシーであるサール社ないしNS社の営業力に大きく依存しているからであ
る。したがって,サール社ないしNS社の売上高の相当部分,例えば90%以上
は本件各発明と無関係に同社の営業力により達成したものであり,本件各特許の
ライセンス収入は,残余の売上高についてのみ「その発明により」使用者等が受
けるべき利益と考えるべきである。

(カ) 被告によるAPMの市場における占有率は,本件各特許の存在の有無にか
かわらず極めて高いレベルに維持できたものであり,他社が本件各特許による実
施権の許諾を得たとしても,その売上高の総計は高く見積もっても被告の売上高
の1.5%程度に過ぎない。したがって,原告の主張(2)ア(ア)ないし(ウ)につい
ては特許法35条1項が準用され,被告の自己実施と考えられるべきである。
イ 隠れたロイヤルティ収入について

 原告主張の隠れたロイヤルティ収入というような収入はない。平成4年契約の
交渉過程で昭和57年に遡って2%のロイヤルティをNS社に支払ってもらうと
いう発想をもって交渉したことは事実であるが,これは同社の受け入れることと
はならなかった。

 別紙3(隠れたロイヤルティ収入に関する被告の主張)記載のとおり,平成4
年契約にしたがい被告が受領したイニシエーション・フィーとロイヤルティが,
特許報奨金の算定に際して計上した金額であり,供給契約による隠れたロイヤル
ティなどというものは存在しない。
ウ ヨーロッパ子会社買収の値引による利益について
 被告がモンサント社からスイス法人及びフランス法人の各株式の50%
を買収した際に,本件各発明のために買収価格の値引きを得たという事実はない。

 買収価格が6700万ドルとなったのは,被告が内部収益率,正味現在価値,
単純回収年数,株主資本利益率等により定められた投資採算性評価基準によって
計算し,充分に採算がとれる範囲での価格を提示し,相手も価格を提示し,その
間で妥協が図られて決定したものである。
エ APMの国内販売による独占的利益について

 被告がAPMに関してほぼ独占的に近い市場占有率を有していることは事実で
あるが,これはAPMを市場に初めて導入したパイオニアとしての被告の20数
年にわたる企業努力,うまみ調味料メーカーとして多年築いてきた名声と信用等
によるものであり,本件各特許とは関係がない。また,APMの価格は,常に他
の人工甘味料の価格との競争にもさらされており,本件各特許は市場における価
格支配力とは全く関係がない。

 そもそも,国内の実施は特許法35条1項による法定の通常実施権の範囲内の
行為である。被告が日本国内において本件各発明を実施してAPMを製造し,販
売したことによる被告の利益は,仮に本件各発明が譲渡されていない場合であっ
ても,特許法35条1項により当然被告が上げることができるものであるから,
これについて原告はいかなる対価請求権も有しない。
オ 「使用者等が受ける利益」については,以下の諸事実が考慮されるべき
 である。

(ア) 被告は,APM関連の特許及び製造技術によりAPMの中間原料及び最終
製品をアメリカ合衆国等において自ら製造し販売するのではなく,サール社ない
しNS社に独占的実施権を許諾する態様の経営判断を行ったものである。このよ
うな経営判断は,平成4年までは上記会社所有のAPMの用途特許(基本特許)
の制限の下では,被告が昭和43年以来随時開発し保有してきた数多くの特許も
アメリカ合衆国等においては単独では自己実施もできない状況において,長期間
の密接な事業提携の中で行ったものであるから,かかる事業提携の全体における
特許ライセンスの部分のみを取り上げて第三者への実施許諾ということは事業提
携の実態に反する。

(イ) 平成4年契約も,こうした長期間の密接な総合的な事業提携の延長上に位
置づけられる。したがって,上記契約によりNS社から受領する対価は,独立し
た第三者に対する単なる個別の特許ライセンスではないから,これによるロイヤ
ルティは,特許法35条1項により被告が無償で実施できる権利についての対価
を含む。

(ウ) サール社ないしNS社のアメリカ合衆国,カナダにおける事業は,被告と
の全般的な事業提携の下で行われてきたものであるから,その一端として残存し
た本件各特許のライセンスによる実施も被告の実施とみるべきものである。ヨー
ロッパにおけるEASA社も,ライセンス契約締結当時,被告の50パーセント
子会社であったし,平成12年3月には100パーセント子会社となったのであ
るから,同社の実施は自社実施と同視すべきである。
(3) 被告の貢献の程度

仮に,原告が対価請求権を有するとしても,被告の以下の貢献を考えると,原告
の行為の価値は微々たるものであり,すでに報奨金として支払った1000万円
が「相当の対価」というに十分である。
ア APM事業化の経緯について
(ア)
サール社は,同社が製薬会社であり,APMの原料であるフェニルアラニンの入
手も容易ではなく,アスパラギン酸との合成によりAPMを工業的に生産するこ
とは,アミノ酸技術をもっていない同社としては不可能であったため,APMの
事業化に積極的でなかった。被告の迅速,果断な決断と事業化への熱意によって
初めて,APMの事業化が実現したものである。

(イ) 被告は,サール社との共同研究,共同開発を実施するに当たってもAPM
の生産技術を確立することなしには対等の立場で交渉することはできないと考え,
昭和44年2月にAPMの合成法の研究に着手し,同年4月30日に「α-L-
アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステルの合成法」の発明(Z法の
基本発明)について特許出願をし,昭和45年3月18日に「フェニルアラニン
の製造方法」の発明について特許出願したことで,フェニルアラニンの工業的生
産の基本的な生産方法が確立され,同年10月26日に「α-APMを塩酸塩と
する不純物であるβ-APMから分離する方法」(塩酸塩特許)の発明について
特許出願した。

(ウ) 被告は,サール社との交渉の結果,毎月25㎏のAPMのサンプルを同社
に供給することとなったが,これは,同社が安全性試験を動物で実施するため,
また具体的な用途開発のためAPMを必要としたことによるものである。このサ
ンプル供給は,昭和44年9月から昭和46年9月まで赤字輸出で行われた。被
告が投入した研究開発要員は1年当たりのべ31.5人であり,これらの研究者
が費やした研究費を現在の費用に換算すると約7億円に達する。

 以上の結果,被告は,サール社との間で昭和45年3月23日に両者間の合弁
契約を期待して討議に入ること,その間,相互的に情報を開示し,秘密を保持す
ることで合意した。続いて,同年6月16日付けでAPM等の製品及びその原料
に関してサール社を被告の独占的ディストリビューターと指名する契約が締結さ
れ,その後,被告からサール社に対する及びサール社から被告に対するライセン
ス契約が締結された。 

(エ) サール社は,被告から供給を受けたサンプルを用いて動物実験による安全
性試験を実施し,その結果に基づいて昭和48年3月5日にFDAに食品添加物
としての認可を申請し,昭和49年7月26日に承認を得た。しかし,同年8月
16日に異議申立てが提出され,FDAは,同年12月5日に停止命令を発令し
た。そこで,サール社は,被告が行っていたラットの慢性毒性試験の結果を提出
し,これが功を奏して,昭和56年7月24日に仮決定,同年10月22日に承
認された。

  また,サール社は,昭和56年10月に炭酸飲料に使用することについてF
DAに承認申請し,昭和58年6月29日に炭酸飲料,炭酸飲料原料へのAPM
の使用が承認された。
  他方,日本では,同年8月27日にAPMを食品添加物として指定さ
れた。

(オ) 被告は,昭和46年から昭和55年の間に,APMの製造方法,APMの
用途,フェニルアラニンの製造方法,アスパラギン酸の製造方法に関し,多数の
特許出願をしたが,これらは被告の研究,開発の成果である。これを人員につい
てみると,昭和43年から昭和56年までの間に被告が投資した研究開発要員は
1年当たりのべ471人,研究開発費用は単純累積額で約39億円に達し,この
他安全性試験の外部委託費用,マーケット調査費,人事部等の研究者に対する業
務等の共通費を加えると約43億円に達する。また,被告は,パイロット・プラ
ント建設のために,合計約2億円の設備投資額を支出した。

(カ) 本件各発明が実施されたのは,以上のAPMの事業化の一環として行われ
たものであり,本件各発明はAPMの製造に関する全システムの一部の改良の発
明であるにすぎない。
イ APMの商品価値について

① サール社自身ではAPMのすぐれた甘味の質や甘味度を事業化できなかった
し,② APMが2つのアミノ酸からなるペプチドでありナチュラルさに魅力が
あったことや,チクロ,サッカリン等に代わって新しい甘味料が求められていた
ことは,業界の常識であったこと,③ サール社がブランド化戦略を進め,AP
M市場の拡大安定化することができたのは,サール社が被告の協力を得て,AP
Mの量産技術を確立することができたからであり,④ 被告の製造技術なくして
FDAの認可を得るためのサンプルもサール社としては入手できず,大量生産の
ための技術も取得し得なかったことからすれば,被告の貢献はサール社の貢献に
比べて低いという原告の主張は理由がない。





味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半7)

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半7)

ア 会計上のロイヤルティについて

(ア) 被告の稟議書(甲10)に記載された増分利益額113億7600万円は,
原告の主張(2)ア(ア),(イ),(ウ)a,(エ)aの4種類の金額であるが,これは発
明者に有利になるように格別の配慮をもって行った恩恵的な性質を有する報奨金
の支払の基礎として算出した金額であり,会社の義務の履行のために算出された
金額ではない。また,この金額は被告が受領したロイヤルティ額だけではなく,
その他被告の業績に貢献したと考えられる要素を金額に換算して,これらを積み
上げた金額である。

(イ) 昭和55年契約によるロイヤルティ(原告の主張(2)ア(イ))についてサー
ル社は,昭和55年契約にしたがい,G特許といわれる米国特許の同国における
存続期間の満了後も,昭和55年契約でライセンスされた対象特許のうち最後ま
で残る米国特許第4071511号の満了日である平成7年1月までの間,2%
のロイヤルティを被告に支払い続けていた。すなわち,NS社は,昭和55年契
約にしたがい,G特許の存続期間満了とは無関係に2%のロイヤルティを支払い
続けた。

 他方,NS社は,本件特許3ないし9については,平成4年契約にしたがい,
平成5年3月にイニシエーション・フィーとして1000万ドルを支払い,かつ,
平成6年4月以降平成11年3月までの間,2%のロイヤルティを支払い続け,
同月に支払い済みとなった。その結果,平成6年4月から平成7年1月までの間
は,NS社はランニング・ロイヤルティとして合計4%を支払った。本件特許3
ないし9に関しては平成3年8月に本件特許3が登録され,引き続き本件特許4
が登録され,この2番目の特許により実質的に特許としてアメリカ合衆国で保護
されることになったものであるが,1000万ドルのイニシエーション・フィー
は,平成4年契約の際のロイヤルティに関する両社の交渉の結果の妥協として支
払われることとなったものであり,契約書上,その性格は明記されていないが,
本件特許3ないし9の成立後,平成4年契約による平成6年4月からのランニン
グ・ロイヤルティの支払開始までの間の本件特許3ないし9の実施に対する補償
に相当するものであった。

 以上のとおり,昭和55年契約と本件特許3ないし9のロイヤルティとは無関
係なのであり,本件各特許に対するロイヤルティは専ら平成4年契約にしたがい,
支払われたのである。
(ウ) 欧州ライセンス契約によるロイヤルティ(原告の主張(2)ア(ウ))
について

  EASA社との契約は,APM製造工程の各工程に関する平成4年にライセ
ンスされた9件の発明及び平成9年に追加ライセンスされた7件の発明が渾然一
体となって有機的に結合し合っているのであるから,発明者に対する相当の対価
という視点で見た場合,90%であるはずがない。EASA社からのロイヤルテ
ィ金額に関する本件特許10の寄与を,許諾されたプロセスパッケージの許諾特
許発明の件数で配分して考えれば16分の1にとどまるし,平成12年以降はラ
イセンスの対象特許が52件となったので,52分の1にとどまる。被告は,新
しく採用された報奨制度の第1号として原告の報奨金額を極力優遇しようという
意図の下に算定したものであるから,これを相当の対価の算定基準として使用す
るのは適切ではない。
(エ) 被告の実施による独占的利益(原告の主張(2)ア(エ))について

  被告の実施は,被告が特許法35条1項にしたがって有する法定通常実施権
により行ってきたものである。また,原告は,国内及び北米における平成元年度
以前の販売額を考慮しているが,同時期には本件各発明のいずれも特許として成
立していなかったし,アジア及び中南米においては,いかなる特許も成立してい
ないから,同時期にはこれらの諸国においていかなる排他的権利も享受していな
い。




味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半6)

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半6)

〔被告の主張〕
(1) 「相当の対価」の算定方法

ア 特許法35条3項は,職務発明について特許を受ける権利を使用者が発明者
から譲渡を受けることに伴い,法律により特に定められたものであり,自由市場
における商品やサービスの売買の対価とは全く性質を異にする。本条は,従業員
保護の規定であると同時に発明者に給与その他の資金的援助をした使用者との間
の利益の調整を図る規定であって,使用者と従業員との衡平の理念に基づくもの
である。よって,「相当の対価」を通常の商品等の売買価格と同一視することは
できないし,この規定が憲法14条,29条に反するということはできない。
イ 相当の対価の算定に際して考慮すべき諸要素

(ア) 特許法35条4項に定められた「その発明により使用者等が受けるべき利
益」を考慮するに際して,当該職務発明を使用者が事業化しているか,あるいは,
事業化する予定,計画がなければ,いかなる利益も発生し得ないこと,したがっ
て,使用者が受けるべき利益もあり得ないことを前提としなければならない。そ
れゆえ,本件各発明を事業化するに至った被告の貢献をまず考慮しなければなら
ない。

(イ) 次に,事業化について,研究開発等に使用者がいかなる投資をしたか,こ
の投資のためにいかなるリスクを使用者が負担したかを考慮しなければならない。
(ウ)
また,本件各発明がされるについて使用者がした貢献を考慮すべきことは特許法
35条4項の定めるところであるから,当該発明に至った経緯における使用者の
貢献を検討しなければならない。
(エ) 「その発明により使用者等が受けるべき利益」を考慮するに際して
は,当該事業における当該発明の意義を検討しなければならない。
(オ) 当該発明について特許権を取得するために使用者がどれほどの貢献
をしたかも考慮しなければならない。
(カ)
また,「その発明により使用者等が受けるべき利益」は,第三者による発明の実
施を排除しなければ当然上げ得べき利益を上げられないので,第三者の当該発明
の実施を排除しなければならない。それゆえ,当該発明を排他的に実施するため
に,すなわち当該発明を実施する第三者の実施を差し止めるために,使用者がど
れほどの努力を払い,貢献したかも考慮しなければならない。
(キ) 使用者が当該発明の発明者に対して支払った給与その他の報酬も,
当然考慮すべきである。

ウ 特許法35条4項にいう「使用者等が受けるべき利益」とは,単に発明を実
施することによって得られる利益の額ではなく,それを超えて,特許を受ける権
利を承継し発明の実施を排他的に独占することによって受ける利益の額であり,
それは使用者が法定実施権に基づいて実施している状況において,譲渡により得
た排他権に基づき第三者に対して実施権を許諾する場合における競合他社の存在
等市場における状況,使用者の信用,営業力等使用者固有の要素,発明が関係す
る排他的要因による製品の状態への影響の外,ブランド力,デザイン,宣伝広告
の態様等商品に関する諸要因を考慮して定めるべきであり,使用者の売上げ自体
をそのまま計算の根拠として使用されるべきではない。

  上記にいう「利益」とは,専ら「その発明に起因して使用者等が受けるべき
利益」を意味し,その他の原因に起因して使用者等が受けるべき利益の額とは峻
別されるべきである。そして,使用者等又はライセンシーが強い営業力を持って
いれば,職務発明を実施した使用者等又はライセンシーは巨額の売上げを上げる
ことができ,その結果,使用者等は高額の利益ないしロイヤルティ収入を得るこ
とができるが,その営業力が弱い場合には逆に低額の利益ないしロイヤルティ収
入しか得られない。ここにいう営業力とは,使用者等やライセンシーの資本金額,
事業規模,従業員数,蓄積されている技術力,安定した品質の製品を生産できる
生産能力や生産設備,マーケティング力,営業努力等の全体を意味する。この場
合における使用者やライセンシーの強い営業力によりもたらされる高額の利益は,
その大部分が「その発明により」使用者が受ける利益ではなく,使用者等やライ
センシーの営業力によるものである。

  さらに,当該職務発明が基本発明ではなく,改良発明である場合,使用者等
やライセンシーは既に基本発明を実施して,これにより一定の売上げを期待する
ことができるのであるから,当該発明を実施することによりそれまで以上の多く
の売上げを達成できるものと仮定すると,「その発明により使用者等が受けるべ
き利益」には,当該改良発明を実施する以前から達成できていたレベルの売上げ
に対する利益あるいは当該発明を実施しなくても達成できるレベルの売上げに対
する利益やロイヤルティ収入は,上記算定に際してはこれに算入すべきではなく,
増加分の売上げに対する利益やロイヤルティだけを算出の対象とすべきである。
エ 原告は,被告の貢献度は合意がない限り考慮すべきではないと主張する
 が,特許法35条の明文にも同条の趣旨にも反するものであり,失当である。
(2) 本件各発明により被告が受けるべき利益の額について

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半5)

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半5)

カ 給与その他の報酬の支払による被告の貢献について

 特許法35条1項による使用者に対する無償の法定通常実施権が従業員に対し
て支払う給与等と十分な対価関係に立ち,衡平が十二分に図られているから,本
件各発明の相当の対価の算定上,原告の給与や賞与の金額を考慮すると,全く同
じ要素を使用者の利益のためにのみ二重に考慮することとなり,使用者と従業員
発明者との衡平を失する。また,原告に対して支給された給与,賞与等は,本来,
本件各発明の内容を評価して支払うものではなく,管理職にある者の管理能力,
経営能力等を評価して定められたものであるから,これを本件各発明の相当の対
価の一部をなすと評価することには,合理的な根拠がない。
(4) 共同発明者間の原告の寄与率

寄与率同意書(甲11)は,共同発明者それぞれの当該発明における寄与率を確
認したものであるから,原告以外の共同発明者の内心的意思がどうであれ,いわ
ゆる表示主義を定めた民法93条本文に基づき,原告を含む共同発明者間では,
① 本件各発明における相互の寄与率,② 本件各発明について支払われる特許
法35条3項の「相当の対価」の分配割合について,法的拘束力を有する合意が
成立している。よって,原告の寄与率は寄与率同意書記載のとおり6分の5であ
る。

 なお,原告は上記寄与率同意書作成当時,既に被告を退社しており,Cの上司
という立場にはなかったから,Cが原告に遠慮して,その意に反して同書を作成
すべき合理的理由はない。

  原告は,寄与率同意書の作成について,他の共同発明者と何ら協議をしてお
らず,他の共同発明者の内心的意思を知らなかったのであり,同書による合意に
ついて民法93条ただし書の適用の余地はない。

イ Cは,静置晶析法で得られる結晶の外観を走査電子顕微鏡で観察して束状集
合晶の構造をしていることを見出したのであり,新規物質としての束状集合晶を
発見したわけではない。すなわち束状集合晶は公知であり,その発見又は物質と
しての束状集合晶は本件各特許を構成しているものではない。また,Cは,工業
的規模の静置晶析法の構想を持っていたわけではなく,APMの静置晶析を工業
的規模で実現するにはどのような問題があり,それらの問題点をいかに克服する
かについては何もアイデアを持っていなかった。
ウ スチールベルト方式及びロータリードラム方式は,いずれも原告の提案
によるものである。

(ア) 原告は,被告の中央研究所エンジニヤリング第1室在籍当時,エポキシ系
樹脂の開発に携わり,高温で粘稠なエポキシ系樹脂のフレーク化技術の開発を依
頼された際に,スチールベルトクーラーを用いてフレーク化の実験を行い,開発
に成功し,その結果エポキシ系樹脂の少量生産設備を被告東海工場に導入するこ
とが決定され,フレーク化設備としてスチールベルトクーラーを被告東海工場に
導入されたという経験を持っていた。そこで,原告はAPMの静置晶析法に使用
する設備の考案時に連続的に静置晶析を実現する方法として,スチールベルトク
ーラーの使用を案出し,共同発明者であるDに対し,それを使用した静置晶析に
実験を依頼した。

(イ) 原告は,上記在籍当時,アシルアミノ酸金属塩(アミソフト)の新乾燥法
の開発に携わり,その際アミソフトの劣化を防ぎつつフレーク状の製品が得られ
る経済的な乾燥を実現するために乾燥対象物の厚みを薄くする必要があり,ロー
タリードラムドライヤーを選定し実験を行った経験を持っていた。そこで,原告
は,本件各特許明細書作成時に,ロータリードラム方式がAPMの連続静置晶析
法に適用できると考え,案出した。
 


味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半4)

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半4)

オ 権利化の過程における被告の貢献について

(ア) 本件各特許については,被告中央研究所のH所長から「装置特許にするの
ではなく,是非プロセス特許にした方がよい。」との示唆を受けて,原告が自主
的に特許出願したものである。原告は,本件各特許出願時に,被告特許部の担当
者に会っているし,特許明細書の作成を依頼したCとは,明細書の内容に関して
何度も打ち合わせをした。例えば,本件特許1の請求項5の「冷却面からの最大
距離が500㎜以下」としたのは,冷却時間は冷却面からの最遠点までの距離の
二乗に比例するとの非定常伝導電熱の原理に基づき,他社に本件特許1を回避さ
れない範囲で限定をするため,冷却時間について議論した後,原告の判断で決定
されたものである。

(イ) 原告は,静置晶析工業化技術はAPMを大量生産するのに重要な技術であ
り特許化する必要があり,またAPMの特殊な性状を踏まえれば,同技術は化学
工業的には新規性及び進歩性があると確信していたため,静置晶析法は特許には
できないという特許部担当者を説得した。その結果,被告は,昭和57年4月に
日本で特許出願を行い,その後ヨーロッパ,アメリカ合衆国,カナダで特許出願
をした。これらの外国特許出願の明細書には,すべてクレームに「Industrial
Scale」との文言が記載されているが,これは静置晶析法の特許化を強く主張した
原告の発案,主張が認められた結果である。現に,原告は,昭和61年5月に被
告の特許部のI副部長に上記文言の付加を提案している。

(ウ) 米国特許出願は,ロンドン大学J教授の著書の記述を理由に拒絶査定を受
けた。そこで,原告は,J教授にAPMの晶析の特殊性を理解してもらい,同教
授に特許性有りとの意見を宣言書の形で提出してもらえれば特許を取得できると
考え,昭和61年に同教授が来日した際,面会し,デモンストレーションを行っ
て,同教授にAPMの晶析ではシャーベット状の固相が生じることを観察しても
らい,APMの結晶成長の特殊性について説明し,同教授の関心を得た。

(エ) オランダ法人スイートナー社(以下「HSC社」という。)は,昭和61
年,本件発明10について欧州特許庁に対して異議申立てを行い,逆に平成2年
に被告が同社に対して侵害訴訟を提起した。そこで,原告の提案により,J教授
に訴訟への助言を依頼することにし,原告は,Cとともに同教授との間で数年に
わたる議論を重ねた結果,同教授にAPMの結晶成長の特殊性を理解してもらい,
「APMの工業的静置晶析技術は新規性があり,進歩性があることは明確である。
したがって特許として許可されるべきである。」旨の宣言書を米国特許商標庁に
提出してもらい,その結果,特許登録が認められた。

 以上の事実の外,異議申立事件や特許侵害訴訟においても,原告は詳細な供述
書を作成するなどして,主体的精力的に活動したことからすると,本件において
権利化の過程における被告の貢献の程度は少ない。






味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半3)

味の素「アスパルテーム事件」(職務発明)(後半3)

(3) 被告の貢献の程度に関する被告の主張に対する反論
ア APM事業化の経緯について

 APMの用途特許を有するサール社の立場は圧倒的に強く,被告と共同研究しなくても事業化していたはずであり,被告の迅速果敢な決断がなければAPMの事業化があり得ないとはいえない。

 なお,原告が主張している本件各特許により被告が得た利益の額は,あくまで被告がNS社等との間で締結した本件各特許を対象としたライセンス契約に基づくロイヤルティ収入であり,フェニルアラニンの製法やAPMの合成法,グルタミン酸ソーダの安全性試験,アスパラギン酸の製法,APMの用途に関する被告のノウハウないし特許は,本件で原告が主張しているロイヤルティ収入には何ら貢献していない。
   イ APMの商品価値について

 APMの人工甘味料としての商品価値を決定的にしたのは,① 砂糖に近い非常に良好な甘味の質を持ち,甘味度も砂糖の約200倍であること,② 2つのアミノ酸からなるペプチドであり,ナチュラルさに大きな魅力があったこと,③ 人工甘味料の巨大市場が存在するアメリカ合衆国において,チクロ,サッカリンに代わる新しい甘味料が強く求められていたこと,④ サール社の発表後,甘味の質,甘味度等でAPMを凌駕するものが見つからなかったこと,⑤ サール社がFDA認可の取得に成功し,その際安全性確認及び認可取得にサール社が約100億円もの多額の費用を支出したことと巨大な炭酸飲料市場が存在すること,⑥ NS社が多額の広告費をかけてニュートラスイートのブランド化戦略を進め,APM市場を拡大安定させたこと,以上の理由に基づくものであり,被告の貢献はサール社(NS社)の貢献に比べればはるかに小さい。

 そして,APMの商品価値の創出についての被告の貢献が極めて僅少であることは,① APMの安全性の確認を行い,FDAの認可を取得したのはサール社であり,被告ではないこと,② 被告の自社技術とAPMの商品価値の創出とは直接の関係はないこと,③ 被告は,サール社のAPMの用途特許に匹敵するような,大市場を創出できる用途技術の開発を行っていないことからも裏付けられる。
ウ 発明の過程における被告の貢献について

(ア) ① APMを甘味料として用いることを見出したのはサール社であり,被告ではないこと,② 本件各発明当時,APMが甘味料として商品価値があることは公知の事実であったこと,③ 本件各発明当時,被告やサール社は既にAPMを甘味料として製造販売する事業を開始していたこと,④ 被告はAPM事業についてほとんどリスクを負っておらず,大きなリスクを負っていたのはサール社であること,以上の事実を総合すると,被告がAPM事業を開始したことは本件各発明がされるについての被告の貢献した程度として考慮すべきではない。

(イ) 原告は,昭和47年末から昭和48年初頭に独自に行った静置晶析法に関する机上検討とベンチスケール実験により,晶析,分離,乾燥工程全体で見れば静置晶析の採用が投資効果の点ではるかに優れているという確信を持っていた。しかし,当時,原告以外には工業的規模でAPMの静置晶析を実現しようと考えていた者は1人もいなかった。原告は,昭和53年2月の研究再開後も,静置晶析法しかないとの確信を持って,独自に工業的規模の静置晶析装置の形状等を考え続けていたのである。

  共同発明者であるCは,昭和55年9月にAPMの束状結晶を発見したが,同人は工業的規模の静置晶析法の構想を持っていたわけではなく,APMの静置晶析を工業的規模で実現するにはどのような問題があり,それらの問題点をいかにして克服するかについて何らアイデアを持っていなかった。したがって,CがAPMの束状結晶を発見したことと原告が工業的規模の静置晶析法を考案したこととは直接の因果関係はないし,被告における静置晶析法以外の晶析法に関する数々の失敗の歴史が本件各発明に貢献したということはない。

  このように,原告が,被告の命令,指示を受けることなく独自に工業的規模の静置晶析法を考案して基礎実験を行い,被告やサール社を説得して,工業的規模での静置晶析法の研究を開始させた等の事実に照らし,本件各発明の過程での被告の貢献は小さい。

(ウ) 本件各発明の本質は,「工業的規模でAPMの静置晶析を実現する方法」であり,具体的には「シャーベットを形成する濃度範囲で,無撹拌で急速冷却が可能な工業規模の装置を用いて,工業規模で,無撹拌・伝導伝熱冷却を行うAPMの晶析プロセス」であるが,実用的な観点からは,重要構成要素は,① 工業的な規模で,無撹拌下で急速な冷却を可能ならしめる方法,② 簡単な操作で形成されたシャーベット状疑似固相を排出する方法,③ シャーベット状疑似固相形成に必要な初期濃度の3点であり,これらはすべて原告の着想によるものである。

  束状集合晶は,公知であって本件各発明を構成しておらず,束状集合晶の発見は,本件各発明を完成するに必要な具体的なアイデアや考案を全く提供していないから,本件各発明と無関係である。
エ 本件各発明のAPM生産技術上の意義
本件各発明は,以下の点で,APM生産技術の上で重要な意義を有する。

(ア) 静置晶析の工程は,APMの製造工程のすべてに関わるものではなく,その一部に関わる工程であるが,非常に重要な工程であり,逆に被告が静置晶析以外に重要な工程として主張するアスパラギン酸及びフェニルアラニンの製造方法やAPMの合成方法については,他社技術が多数存在する。

(イ) いずれの原料製造法及びAPM合成法を使用しても,最終工程として晶析,分離,乾燥工程を経て,APMの結晶を得なければならない。本件各発明は,APM特有の結晶化工程の課題を解決したもので,APM製造工程の中でも極めて重要な地位を占めていることは,東海工場のコマーシャルプラントや,サール社の米国最初のコマーシャルプラントにおいて,攪拌晶析が急遽静置晶析に変更されたことからも,明らかである。

(ウ) 本件各特許の他者排除力が極めて強力であることは,製法特許の他社排除力が通常,最終工程又は最終工程に近い工程のものの方が強いこと,本件各発明が,平成4年契約において改良特許ではなく,発明特許とされていること等の事実からも明らかである。

(エ) 静置晶析法により結晶化されたAPMは,束状集合晶という良質なAPMであることから,本件各特許の中には,当該束状集合晶の物質クレームも含まれる。