ソマリア沖「海賊対策」で隠蔽、自衛隊の残酷物語 | Wattan Net Life

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無道探訪‼︎                                         

 「悪者を成敗する、桃太郎の鬼退治」がごとき論理を押し通して、アフリカ・ソマリア沖「海賊対策」を前提にした海上自衛隊の艦船や装備、海保との任務分担等々の議論は、これまで野党の国会質疑の中でもなされてきたと思う。海上演習の様子などもテレビ等で御覧になった方は多いだろう。しかし、肝心の派遣される隊員たちの実態はどうであろう。

 今年2009年、2月21日の朝日新聞・朝刊の社説で「防衛省不祥事―『組織防衛』省では困る(2009/02/21) 」から、気に掛かる内容を見つけた。これは、昨年の9月、江田島・海自第1術科学校の格闘訓練で起きた訓練中の「事故」を取り上げている。この第1術科学校とは、ソマリアに派遣されるあの、”特別警備隊”の教育訓練を行なっている機関である。さて、「事故」当時、訓練監督の立場にいた教官が「移動のはなむけだった」などと述べた格闘組み手は、15人がひとり50秒ずつ徒手格闘によって1人の隊員(三等海曹)と対戦させるという「集団リンチ」に近いものだったようだ。組み手をさせらられた三曹は、この「事故」直後から二週間意識不明の後、病院で死亡した。

 記事の文中から引用。
海上自衛隊は直ちに調査と捜査を始めた。事故調査委員会は10月末、『教官の挌闘の指導者としての適格性は今後調査が必要』という中間報告は出したが、最終報告はまだだ。警察に代わって捜査している海上自衛隊調査隊もまだ検察庁への送検はしていない」という。

Wattan Net Life-江田島・第1術科学校

 前記述に「事故」と、カッコ付けで表現したのは、この一件が未だに海上自衛隊内部でのみ処理されており、利害関係のない外部機関からの調査が入っていない点である。防衛省・海上自衛隊は、一件の処理の仕方において、問題の当事者たちの責任を軽減しそれを庇うような対処では、亡くなられた隊員の遺族はもちろん一般の私たち国民も納得は出来ないだろう。

 そもそも、鍛えられた15人を代わる代わる相手にするのは有段者でさえ苦戦する。それをある程度の挌闘訓練を積んだ隊員とはいえ、意識を失いかけて倒れても、それを抱え起こして、なおも打撃を加え続けられたならば致命的な状態に陥ることなど、監督していた挌闘教官であるならば当然判るはずだ。打撃が人体に与える影響を学んでいる者なら、どの段階でドクターストップを入れるか理解している。それを、意識を失うまで打撃を加え続けた。果たしてこれを事故と呼べるのか。もはや、刑事事件に匹敵すると私は思っている。この件について、防衛省側が「前例のない事故」など述べるのは、今までも“同じような事案”で死者が出なかっただけでしかない。過去、同じような「集団リンチ事件」は何件も報告されている。部内で沈黙させている方が圧倒的に多い。警務隊による当事者への事情聴取にこれほど時間がかかっているようだが、おそらくこのような「事故」がマスコミ公表されたこと事態、海自には「前例のない」ことなのだろう。被害者である三曹の死亡が昨年9月25日、防衛省が調査という名目で隊長の移動を発表したのは同年11月27日であった。

Wikipedia特別警備隊 (海上自衛隊) から引用。
「事故の詳細調査のため現隊長を12月17日付で呉地方総監部付とし、後任に第3代隊長を再任させる防衛省人事を発令した」

 私はここまで書いていながら、胸のうちからふつふつと怒りが沸いてきた。防衛省は、アフリカ・ソマリア沖「海賊対策」派遣参加を目前に、特別警備隊の内部調査を先延ばしにしながら不祥事の隠ぺい工作を行なっているのではないか。本来ならば、しっかりと事実を調査し当事者たちの責任を追及しなければ、死亡した三曹の遺族もこれでは納得いかないだろう。当時の特別警備隊長だった熊谷公夫一等海佐を左遷しただけで済むものではない。集団暴行にかかわった当事者隊員15名と直接指導に当たっていた教官らにも調査追求するべきである。とくに、“ソマリア派遣”要員に入っている特別警備隊員で件の当事者がいれば、その者は要員から除外して調査対象にしなければ事実解明にならないのではないか。防衛省は、「なにがなんでもソマリア派遣優先」で事態を押し切ってしまってはならない。暴行で亡くなった三曹の遺族は、「訓練中の事故ではなく、脱落者の烙印を押し、制裁、見せしめの意味を込めた集団での体罰だ」と強く無念の言葉を述べている。

 自衛隊問題に関心を示す私たち、一般国民が野党議員たちに望むことは、こういった細かい事案を国会の場を使って調査・追求してもらうことだと思う。


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