兵士が戦場に赴くとは、自ら人間性を否定することになります。それを前回のブロブで映画の感想と自分の経験から述べたつもりでした。肝心なことは、その愚かさに気づいた者がそこから何を見出して自覚して何を行うかです。 一度は失った人間性を時間をかけて取り戻していく過程がとても大事なのはもちろんです。さらに、そこで得た教訓や人々との交わりの中から命の尊さ、人生の大切さを学んでいくことだと思っています。私はまだまだ未熟者なので、これといったことは言えません。それでも一つだけわかったことがあります。目の前で非道で理不尽な行いをする者がいて、それに立ち向かうことが正義であるといわれていたとしても、その相手の命を奪ってしまうことが問題の解決ではありません。非道な行いをする者にはそれをきちんと解らせる必要があります。自分の過ちをその身とその心に刻み込ませて二度とそのような行いをできないようにする必要があると思います。とはいえ「だから、警察や裁判所がある」などと簡単に締めくくるつもりはありません。それらの機関が実際にしっかり機能しているとは言えないからです。勿論だからといって個人の力ではどうにもなり得ません。多くの人々に働きかけ社会を変えていくしかないと解っています。
前置きが長くなりました。今日、こんな映画を観てきました。『ヒンド・ラジャブの声』カウテール・ベン・ハニヤ監督。
2024年パレスチナ、ガザ市北部においてパレスチナ人家族7人(うち子供4人)をふくむ、救助に向かった赤新月社の医療チーム2人がイスラエル軍の戦車攻撃によって殺害された実際の事件をもとに作られました。この映画では、激しい戦闘シーンや逃げ惑う住民たちのシーンはまったくありません。そのかわり、ガザ市住民を先頭の被害から救出しケガ人を病院へ搬送するための赤新月社救急連絡オフィスでコールサービスを行う職員たちが住民からの救助依頼を受けるシーンから始まります。
そう、「殺す側」の兵士は全く出てきません。逆に、軍から砲撃や銃弾を浴びせられ、まさに「殺される」危険のなかで生活するパレスチナ人の視点から捉えた実話をモデルにしています。そして主人公は、ハヌード(ヒンドの愛称)という6歳の幼い少女。家族と車で移動中、軍から最初の銃撃を受け、ハヌード以外の家族はみんな死亡。かろうじて彼女だけが助かり、閉じ込められた車内から携帯電話を使って赤新月社オフィスと連絡が取れたのであった。そしてこの映画の特出するべきところは、この少女と赤新月社職員との電話での通話記録(録音)をすべて使っているところです。勿論、出演している職員役はすべてパレスチナ人の俳優ですが、少女の声は実際に電話をかけてきた本人の声をそのまま使っています。なので、その録音に合わせて俳優たちは実際に対応した職員の台詞を喋っているわけです。勿論演じるのは俳優ですからその場の状況を理解しているのですが、電話口の声は実際に生死の危険に一人取り残され、今にも命の消え入りそうな悲痛な叫びを伝える幼い子どもの声なのです。それを相手にしてどんなベテランの俳優でも感情や主観を抜きには対応できないのでしょう。俳優も本気で泣いているようにも思えます。観ている私たち観客ですら「これはもう演技ではないな」とすら見えてくる場面もありました。映画の観客席を見回すと目に涙を浮かべる姿もちらほらと見受けられました。ハヌードが取り残された現場はまさに戦闘地区の狭間の危険地帯なのですぐには救急車で救援には行けない場所なのです。車で行けばわずか8分ほどの距離なのに最初の連絡から十数時間たっても車の安全経路をイスラエル軍と調整して許可が出ないと出動できません。ようやく許可が下りて救急車で迎えに行ったのですが、最後は悲劇が訪れます。
6歳の子どもがたった一人、重傷を負いながら死と隣り合わせの恐怖とたたかいながら、ずっと助けが来ると信じて待っていました。
ようやく、十数時間が経ってわずか数十メートルのところまで救急車がたどり着こうとしていたのに一発の戦車の砲撃がそれを台無しにしてしまったのです。どれほど落胆したかと、思うだけで胸が締め付けられそうになります。夜が明け、朝になるともう少女からの「声」は聞こえなくなりました。その日から軍の作戦は強化され、現場には14日間誰も立ち入り禁止にされました。あとは察する通りです。
ハヌードの家族を襲撃したイスラエル軍の兵士たちは、いったいどんな気持ちで機関銃の引き金を引いたのでしょう。明らかにそれが民間人の車であることは判っていたはずです。車の窓から子どもが外を覗いていたのは一目で判るでしょう。夜中の暗闇でさえ人の体温感知できる赤外線カメラで生存者がいると確認できるはず。なぜ、十数時間も戦車で待ち伏せするようにその場にとどまっていたのでしょう。まるで、猟師が傷ついた仲間を助けに来る獲物を待ち伏せするかのようなやり方は、相手が人間であると認めていないとしか考えられません。
ハヌード(ヒンド・ラジャブ)の母親と幼い弟だけは家にいて助かりました。その後、母親が赤新月者をとおしてイスラエルに対してこの虐殺事件の捜査を依頼しても、2年間まったく相手にされませんでした。ようやく軍が非公開による捜査を開始すると声明を出してもいまだに関係者は責任を問われないのです。
そんな状態では、もうデモをするしかないじゃないですか❗️



