おそらく、左翼系思想をお持ちの方には不愉快な本なのではないかと思った。右左どっちつかずの一般人の私には興味関心が高まった。

アマゾンの商品説明を引く。

メディアはなぜ左傾化するのか―産経記者受難記―(新潮新書) Kindle版
事件記者になりたい一心で産経新聞に入社した著者は、現場での同業者たちに違和感を抱くようになる。なぜ彼らは特定の勢力や団体に甘いのか。左派メディアは、事実よりもイデオロギーを優先していないか。ある時は警察と大喧嘩をし、ある時は誤報に冷や汗をかき、ある時は記者クラブで顰蹙を買い、そしてある時は「産経は右翼」という偏見と闘い……現場を這いずり回った一人の記者の可笑しくも生々しい受難の記録。
【目次】
まえがき
1 「会社を辞めろ」と言われた日
2 心情左翼なのに産経新聞に入ってしまった
3 NHKも新聞も殺人犯の言い分を垂れ流していた
4 古参の刑事が語る「冤罪論」を聞く
5 記者クラブで顰蹙を買う日々を過ごす
6 被告人の親族に怒鳴られる
7 殺人鬼の無罪を信じた共同通信の記者に驚いた
8 記者クラブの掟を破って朝日記者の嫌がらせに遭う
9 人権派記者は警視庁には来ない
10 警察幹部の目の前で取材メモを踏みつけた
11 取材協力者のおばさんはひたすら怪しかった
12 歴史教科書を巡るマッチポンプに呆れる
13 「沈黙の艦隊」の担当で幻聴に悩まされる
14 住民運動の主は後ろ暗かった
15 民主党の政治とカネにメディアは甘かった
16 左派と右派の対立は激化していった
17 マッド三枝、沖縄を行く
あとがき
【まえがき】
 埼玉県川口市である問題が勃発している。1990年代以降トルコから移住してきたクルド人と地元住民との間に軋轢が生じているのだ。僕が2~3人の川口市民から聞いただけでもゴミ問題、公園の使用方法、コンビニにたむろして若い女性に声をかけるなどの行為、クルド人の若者の危険な運転など、深刻な問題だという話だった。
 だがメディアでは産経新聞グループや読売新聞以外はこうした負の側面を取り上げない。テレビを含めてメディアは、彼らクルド人がいかにトルコ政府から抑圧され、虐げられたかという側面しか取り上げない。
 そんななか、元時事通信経済部記者でフリージャーナリストの石井孝明さんがクルド人ら11人から3月19日、500万円の損害賠償訴訟を提起された。司法記者クラブで日本クルド文化協会の事務局長らは会見し、「(石井さんの)SNSで一方的にデマが拡散され、子供がいじめにあうなどクルド人には大きな被害や影響が出ている」と訴えた。
 この件のネットニュースの見出しにメディアの立ち位置が如実に表れている。
産経新聞は「川口のクルド人ら11人、日本人ジャーナリストを異例の提訴 『人権侵害だ』 500万円請求」、朝日新聞は「在日クルド人に関する投稿『特定の民族への差別』 フリー記者を提訴」、東京新聞は「差別的な投稿で名誉を傷つけられた…川口のクルド人たちが石井孝明氏に慰謝料など500万円を求めて提訴」。朝日、東京は石井さんの投稿は「差別的投稿」だと決めつけているかのようだ。
 これに限らず、朝日、毎日、東京新聞などの左派紙といわれる新聞は、クルド人と地元住民との間の軋轢については極力目をつむる。ともすれば、産経新聞や石井さんのような報道は「ヘイト」扱いされる。
 思想信条は自由だ。クルド人というだけで排斥してはならない。彼らの政治的、経済的な自由はできる限り保証すべきだと思う。しかし、だからといって、今、川口で起きている問題に目をつぶって、彼らをかわいそうで抑圧された存在とだけ報じることが、真実を伝える報道といえるのだろうか。
 むろん、一部右翼系団体のようにわざわざ埼玉県まで出かけて行って「クルド人は出ていけ」とデモをするのは首肯できない。だが、住民の不満や不安、トラブルの実態を伝えるだけで、「ヘイトだ」と言いがかりをつけるようなスタンスでは、事実に立脚した報道からかけ離れる一方ではないか。
 実はこうした構図は、30年近く産経新聞の記者として働いていた僕にとっては目新しいものではない。かつて僕は、大韓航空機爆破事件を「韓国のでっち上げではないか」と言い張る通信社の記者と論争になったことがあった。また、のちに殺人で逮捕される人物を冤罪のヒーローだと信じている記者とも言い合いになったことがある。
 大学時代から過激な学生運動に身を投じ、メディア業界に進み、そうした人々が幹部になり、採用を担当する立場となり、また新たな人材が供給される。自分たちのイデオロギーの邪魔になるものは、極力、国民の目に触れさせない、という「ドグマ」があるのだ。これが報道機関の果たすべき役割だろうか。右だろうが左だろうが、事実の前には謙虚になるべきではないのだろうか。
 本書は、1991年に産経新聞に入社して2019年に退社するまで、記者として僕が経験したことの記録である。華々しい手柄話よりは、失敗やトラブルが多いこともあって、タイトルに「受難」の言葉を入れた。何せ冒頭はクビを宣告される話なのだ。
 僕は評論家や学者ではなく、ずっと現場で這いずり回ってきた記者なので、大所高所から「メディアの左傾化」を論じるつもりはない。ただ、現場でしか見えてこないメディアの実情というものがある。産経新聞は往々にして「右翼の新聞」と誤解されている。しかし、それが不当なものであることは、本書を読んでいただければおわかりになるだろう。同時に、多くのメディアが左傾化する事情も何となく見えて来るはずだ。
 また、そうした堅苦しい話を抜きにして、新聞記者が現場でどういうことをしているかについて、肩の力を抜いて楽しんでいただけるようにも書いたつもりだ。令和の今となってみると、かなり乱暴な話もあるのだが、ご容赦いただければ幸いである。
三枝玄太郎(さいぐさげんたろう)1967(昭和42)年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1991年、産経新聞社入社。警視庁、国税庁、国土交通省などを担当。2019年に退職し、フリーライターに。著書に『十九歳の無念: 須藤正和さんリンチ殺人事件』など。