グリップテープを貼りすぎると“サボテン”になる説
〜銃に愛を注ぎすぎた男たちの末路〜
■ はじめに:貼った者たちの“その後”
銃を握ったことがある者なら、誰しも一度は考える。
「もう少しだけ、グリップ感が欲しい」
「手汗で滑らないようにしたい」
「プロっぽく見せたい」
「見た目がカッコよくなりそう」
この“軽い気持ち”が、やがて人を狂わせる。
そして気づいたときには――
グリップが緑色のサボテンみたいになっていた。
■ 主人公:T氏(仮名)、アラバマ州在住
今回の「貼りすぎ系男子」の事例として取り上げるのは、私の知人・T氏(仮名)。
彼はアラバマ州で銃火器系の仕事をしている、40代のナイスガイ。
もともとシンプルなスタイルを好み、最初のころは「俺、テープとか興味ない派」と言っていた。
実際、T氏の最初の銃(グロック17)は、素のままで、実に美しかった。
……あの日までは。
■ きっかけは“たった1回の貼り付け”だった
事の発端は、ある暑い夏の日。
T氏はシューティングレンジで、いつものようにターゲットシューティングをしていた。
その日、T氏は手汗がひどかった。
「うわ、グリップぬるぬるする……」
「くそ、今日は記録落ちるかもなぁ……」
そのとき、近くにいたベテラン風の男性がこう言った。
「お前、グリップテープ、貼ってないの?」
「滑らんし、安定するし、なにより“プロっぽい”ぞ」
この“プロっぽい”というフレーズが、T氏の心を打った。
撃ち抜いた。
まるで.45ACPが心に直撃したかのように。
■ 第一段階:「とりあえず貼ってみた」
その夜、T氏はすぐにネットで検索。
「グリップテープ おすすめ」「プロ 愛用」「滑らない 魔法」などのワードを入力。
出てくる出てくる。
パックンチョみたいな滑り止め、サンドペーパー風、ラバータイプ、迷彩柄、グリーン、ブルー、ゼブラ柄。
選びに選んだ結果、黒のハニカムパターン・ラバータイプを購入。
そして翌朝、彼はグロック17のグリップにテープを貼った。
感想はこうだ。
「すごい……すべらない」
「手に吸いつく」
「なにこの安心感、包まれてる……」
「もはやグリップと結婚したい」
※個人の感想です。
■ 第二段階:「貼る場所が……足りない」
テープの快適さを知ったT氏は、すぐに追加で2セット購入。
次はトリガーガード下、マガジンバンパー、バックストラップ、
スライド横、フレーム上部、なぜかスライドストップレバーの根本にまで貼り出した。
「いや、ここ触れるとこだから」
「握ってる瞬間、たまに薬指がここに当たる気がして」
「念のため貼っとくわ」
「念のため」が増殖の始まりである。
■ 第三段階:「手に当たる=貼る」精神
貼る基準が完全に狂ってきた。
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「ホルスターに出し入れするとき擦れるから→スライドの側面にも貼る」
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「マガジンリリースボタンの外周→グリップ感必要」
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「銃を置く時に机に当たるかも→フレーム下部にも貼る」
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「マグウェルの内側→マガジン抜くとき指先が当たるから」
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「なんか“まだ貼れる場所がある”っていう謎の余白が怖い」
もはや、グロックが原型をとどめていない。
形状はあくまでグロックだが、見た目は業務用パチンコのハンドルに近づいていた。
■ ついに“サボテン化”する日
ある日、T氏は別の銃・1911を購入した。
それはそれは美しいニッケル仕上げの一丁だった。
にもかかわらず――
翌週には、同じテープが全身に貼られていた。
グリップの木製パネルの上から、ラバー。
セレーションの美しさも無視して、テープ。
ロゴの上にも、“滑り止め”という名の愛。
そして私は気づいた。
T氏の銃を3丁並べたとき、その外見がどれも、
**“サボテンに似ている”**と。
凹凸、トゲのような質感、触れると痛い、いや触れる気にならない。
視覚的に「近寄るなオーラ」を放ち始めていた。
■ 他人のグロックを見て、「なんで貼ってないの?」と言い出す
もはやT氏は、グリップテープ伝道師になっていた。
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「それ貼ってないと、夏、滑るよ」
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「ああ、俺の予備あるから貼る?」
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「おい、後輩。お前のM&P、ちょっと貸せ。今すぐ進化させてやる」
後輩が「いえ、自分そのままで大丈夫です」と言っても、
「いや、遠慮すんなって」と言いながらすでに貼り始めていた。
■ 気づけば“グリップテープ職人”へ
1年後、T氏はレーザーカッターを購入し、
自宅で自作グリップテープを製作するようになった。
素材はゴム、革、コルク、ハニカム柄、カーボン調など数十種。
タクティカルベストの内ポケットには常に8種類のサンプルが入っており、
会う人会う人に「ちょっと握ってみて」と言ってくる。
もはやただの銃マニアではない。
“握り心地オタク”である。
■ 本人は「貼りすぎ」だと思っていない
一度、私はこう言ってみた。
「ちょっと貼りすぎちゃってません?」
するとT氏は真顔で言った。
「え?貼ってるのは“必要な場所だけ”だけど?」
「このへん(トリガーガード裏)とか、普通にみんな貼ってるでしょ?」
「むしろ貼ってないと危ないよ」
中毒者の典型的なセリフである。
■ 結論:愛が深すぎると“植物化”する
グリップテープはすばらしい道具だ。
滑りを抑え、握り心地を向上させ、コントロール性を高める。
だが――
「どこまでが必要で、どこからが愛」か?
この線を見失ったとき、
あなたの銃は、立派なサボテンになる。
そして気づいたときには、
マガジンすらトゲトゲのゴムで覆われているかもしれない。
■ 追伸:T氏の夢
「将来的には、**銃全体をテープで包んだ“スリップフリー銃”**を作りたい」と語るT氏。
そのビジョンの果てに待つものは、
果たして銃の進化なのか、
それともタクティカル盆栽なのか――。
我々は、サボテンの行方を見守るしかない