親父健康シリーズ:酒編 〜アルコールは万能薬か地獄か〜
僕の親父は、生涯をかけて「酒は健康にいい」という説を証明しようとした人だった。
いや、証明というか……無理やりこじつけて、自分を正当化していただけなんだけど。
「酒は百薬の長」論争
まず、親父の口癖はこれだ。
「酒は百薬の長や。ワシは毎晩、薬を飲んどるんや」
その“薬”とは、もちろんストレートの焼酎。
しかもコップになみなみ注ぎ、「ほら見ろ、薬は多めの方が効くやろ?」と誇らしげに飲み干す。
医者が「酒を控えなさい」と言っても、親父にとっては「お前は酒の力を理解してない未熟者」という意味に変換される。
そういう脳内翻訳機を持っていた。
健康ドリンクの発明:焼酎ミルク割り
極めつけは、例の「焼酎ミルク割り」だ。
親父いわく、
「酒でカルシウム摂れるんやぞ?これで骨は強くなる。つまり、飲めば飲むほど健康や」
その理屈が成立するなら、僕は今ごろウルトラマンのように巨大化してたと思う。
実際は翌朝、トイレから響く断末魔の叫び。
「ぐぉぉぉぉおおおお!」
……あれはきっと、腸内環境が革命を起こした瞬間だった。
親父は青ざめながらも「ほら見ろ!デトックスや!」と笑っていた。
いや、あれはただの下痢や。
日本酒健康法:ぬる燗で医者いらず
ある冬の日、親父は日本酒をぬる燗にして湯飲みで飲んでいた。
母が「飲みすぎ!」と注意すると、親父は胸を張って言った。
「違う違う。ぬる燗はな、胃腸を温めて消化を助けるんや。医学的にも正しい!」
まあ、ここまでは一応理解できる。
しかし親父は続ける。
「さらにアルコールで脳が活性化する。つまり、飲めば飲むほど頭が良くなる!」
いや、親父よ。
その理屈なら東大生は全員、酒豪のはずやろ。
そして3合目を飲み干したあたりから「ワシ、ノーベル賞狙える気がしてきた」と言い出す。
……親父、もうすでに脳がアルコールに活性化されすぎてる。
ウイスキー健康法:水割りは点滴
さらに親父はウイスキーを好んで飲んだ。
理由を聞くと、また独自理論が炸裂する。
「ウイスキーの水割りはな、アルコールと水分が同時に摂れる。つまり点滴や」
いや、病院でそんな点滴されたら大問題だろ。
でも親父は真剣だった。
「医者よりワシの方が賢い」と本気で思っていた。
そして夜になると、ソファに沈み込みながらこうつぶやく。
「これがホンマの“自宅点滴”や……」
翌朝、二日酔いで倒れてた。
完全に副作用付きの点滴である。
ビール健康法:発泡健診
親父にとってビールは「食前薬」だった。
理由はシンプル。
「胃に炭酸が入るやろ?これで胃が目覚めるんや。つまり健診や」
いや、健診ってそんな意味ちゃう。
しかも彼は毎回、唐揚げと一緒にビールを流し込みながらこう叫んでいた。
「炭酸で油が流れるんや!カロリーゼロや!」
なぜかゼロカロリー信仰まで混じり出す。
多分、親父の胃袋の中では揚げ物とビールが相撲を取っていたと思う。
結果?もちろん脂肪の圧勝。
ワイン健康法:ポリフェノール無限信仰
親父が妙にオシャレぶる時期もあった。
そのときの口実が「ワインのポリフェノール」だ。
「赤ワインは心臓にええんや。ポリフェノールが悪玉コレステロールを退治する」
ここだけ聞くと、少し正しい気がする。
でも親父はそこから一気に暴走する。
「つまりワシが毎晩ボトル1本空けるのは、健康のためや!」
いや、親父、それはただの酔っ払い。
結局、酔った勢いでベランダから「世界の皆さーん!ワイン飲めー!」と叫んで近所迷惑になった。
たぶん悪玉コレステロールより近所の悪口の方が増えたと思う。
結論:親父に健康酒は存在しない
親父の「酒は健康」理論は、全て自分に都合よくできていた。
焼酎はカルシウム補給、日本酒は脳を活性化、ウイスキーは点滴、ビールは健診、ワインは万能薬。
結果?
親父は病院に担ぎ込まれ、「アルコールやめなさい」と叱られた。
でも帰宅後に放った言葉はこれだ。
「ほら見ろ、医者に診てもらえたやろ?酒のおかげで健康維持や」
……親父、最後まで勝手に勝利宣言。
やっぱり健康より、笑いと信念で生き抜いた男だった。