「実はたった今、女房が亡くなった。ナベに葬儀を頼みたい。」
ある日、知人から突然の電話が・・・。
聞けばお嬢さんの出産直後から体調を崩し、入退院を繰り返した末に力尽きたとのこと。
奥様がそんな状態だったと知らなかった私は、ただ驚くばかり。
ご遺体を安置後、ご自宅での打ち合わせには高校1年生の一人娘も同席しました。
16歳という微妙な年頃の女の子にとって、母親を失うことはどれだけ辛いことだろう・・・そんな私の心配は、彼女と会った瞬間から杞憂に終わりました。
「はじめまして。 よろしくお願いします。」
ペコッと頭を下げた彼女は、私に対して終止微塵の動揺も、そして涙すら見せなかったのです。
おそらく物心ついた時からお母さんが病身であり、この時が遠からずやってくることを彼女なりに覚悟していたのでしょう。
「祭壇のお花の色は、母が好きだったピンクにしてください。」
自分の希望をはっきり口にした彼女は、通夜当日弊社で用意した生花祭壇を見るや、
「わぁ~、綺麗っ!ありがとうございます。」
と私に笑顔でお礼の言葉を投げかけてくれました。
そしてお嬢さんは喪主を務める父親に常に寄り添い、彼が勤務先の同僚らに「ウチの娘です。」と紹介すると、
「父がいつもお世話になっております。」
と実にしっかりとした挨拶をするのです。
傍から見ていると、娘というより若奥様のよう・・・。😅
しかもその様子が父親からそうしろと教わったという風ではなく、ごく自然な所作が実に見事でありました。
翌日の告別式では、遺族代表として
「時々反発して喧嘩もしちゃっだけど、お母さんの娘でよかった。 私を生んでくれてありがとう。」
父親が全く手を加えなかったという、100%自分で書いたお別れの言葉を淡々と読み上げた彼女でしたが・・・私が最も驚いたのは告別式も終わり、精進落としを召し上がった後のこと。
三々五々席を立ちお帰りになり始めたご親族と父親が挨拶やら立ち話をしている時、なんと彼女はさりげなく机の上のお膳を片づけ始めたのです。
散らかったお皿やコップを、配膳スタッフの手が届くよう通側にさりげなく寄せる姿・・・。
私自身約20年葬儀屋稼業をしましたが、ここまで気配りをする子供さんは見たことがありません。
もちろん父親の躾けもあったのでしょうが、料理が得意だという彼女は病身の母親を気遣い、家庭では娘であると同時に主婦の役目をも果たしていたのでしょう。
〝厳しい環境は、人間を鍛える〟
成人式で酒を飲んで暴れまわるようなバカ者共より遥かに成熟した大人の振る舞いをする彼女を見て、そんな言葉が脳裏をよぎりました。
「将来は法律の道に進みたい。」
都内の有名進学校に通う彼女は、きっとその願いを叶えたことでしょう。
そしてその愛娘を、天国からお母様が優しく見守ってくれるに違いありません。