続・流通王  | ナベちゃんの徒然草

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還暦を過ぎ、新たな人生を模索中・・・。

昨日の拙ブログで取り上げた中内功氏。

一般的には寡黙で冷徹なワンマン経営者、というイメージが強かったと思います。

しかし、そんな彼に知られざる一面があったことを、 『流通王 中内功とは何者だったのか』 (大塚英樹・著 講談社・刊)から抜粋・編集にてあるエピソードを以下にご紹介致します。

           ◆     ◆     ◆     ◆

1967(昭和42)年5月のことであった。

客の応対を終えた社長秘書・清家が部屋に戻ると、中内は自分の机で膨大なファイルから書類を1枚1枚抜き取り、じっくり見ては感慨深そうな表情で判を押していた。

清家が客に会う前からだから、もう2時間もファイルに目を通していることになる。

そんなにゆっくりと書類に目を通す中内を見るのは初めてだった。

それは人事部から回ってきたファイルで、新規採用した高卒女子社員の履歴書と稟議書が2枚1組にセットされたものが200組ほど収まっていた。

それを中内は1枚ずつ丹念にチェックしていたのである。

清家は中内に向かって言った。

「社長、何時間かかっているんですか。 
そんな時間があったら、店でも回ってきたらどうです。」

中内は 「うん」 と返事をしたが、書類から目を離そうとしない。

「社長が女の子の顔を1人ひとり見ていてもしょうがないでしょう。
そんな仕事は人事部長に任せたらどうですか?

 

これからも店が増えるたびに女子社員が増えます。
いちいち見ていたらキリがないですよ。」

    

中内はおもむろに顔を上げた。

「そらそうやな。 君の言うとおりや。 
僕はこの子らとは、生涯一度も会わへんやろう。

 

しかしだからこそ、せめて写真を見て、ここで会おうと思うとるんや。
せっかくウチの店で働いてくれることになった人たちやないか。」

その言葉に、清家は一瞬身体がブルッと震えた。 彼は


(社長は、義理人情とか浪花節的な話は嫌いな人だろう)

と思い込んでいた。 中内には、論理的な回答が得られないと気が済まないところがあったし、何事も仮説を立てて科学的な手法に基づいて実証することを好むような一面が見受けられたからである。

(その社長に、こんな人情味溢れる一面があったとは、単なる合理主義だけの人ではなかったんだ。)

そんな清家の感慨を知ってか知らずか、中内は履歴書の束を両手で捧げ持つと、

「みんな、ええ顔しとる。 

しっかりやって店を盛り上げてくださいよ。」

そう言いながら、深々と頭を下げた。


           ◆     ◆     ◆     ◆

一代で大企業を築き上げた経営者には、凡人にはない感性・情念が備わっているようです。

 

 

 

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