現代では、時の政治家が本を出版することは珍しくないですが、おそらくこれ程世の中に影響を与えた著書はないでしょう。
『日本列島改造論』
今からちょうど50年前の今日・1972(昭和47)年6月20日、首班指名を受ける直前の通産大臣・田中角栄氏が日刊工業新聞社から刊行した政策提言の書です。
今は絶版になっていて書店で入手することはできませんが、当時500円・90万部以上のベストセラーとなったこの本・・・若い方でも、題名だけは聞いたことがあるでしょう。
「皆さ~ん、この新潟と群馬の境にある三国峠を切り崩してしまう。
そうすれば日本海の季節風は太平洋側に抜けて、越後に雪は降らなくなる。
みんなが大雪に苦しむことはなくなるのであります。
な~に、切り崩した土は日本海へ持って行く。
埋め立てて佐渡を陸続きにしてしまえばいいのであります!」
こんな突拍子もない演説をぶちかまし、28歳の若さで代議士となった角栄氏には、故郷・新潟の豪雪と過疎をなんとかしたい・・・という強烈な悲願があり、それが彼の政治思想の大きなバックボーンだったといいます。
「新幹線や高速道路を整備し、日本全国どこにも1日で行き来できる交通網を築くことにより、工業地帯を満遍なく拡張することで過疎問題も解決する。」
この田中氏の基本構想を基軸として、政策秘書や多くの官僚がその実現を夢見て執筆に協力したこの本は、当時多くの国民の共感を得たのですが・・・。
総理大臣の椅子を手に入れた角栄氏は、この著書に書かれた通り新幹線・高速道路の整備に力を入れました。
しかし彼の願いとは裏腹にこれを利用して利権を得ようとする人が開発を見越して土地を買い占め、その結果物価が上昇。
インフレが進んだところに決定的な追い討ちをかけたのが、翌1973年秋に起こった第4次中東戦争による〝石油ショック〟。
狂乱物価と金権政治問題により志半ば、在任期間2年余りで辞任した角栄氏でしたが、その後も闇将軍・キングメーカーと呼ばれ、政界に隠然たる勢力を持ち続けました。
その政治理念は高かれど、それを私利のためだけに利用せんとする人間の動きまでは〝お人好しの角サン〟は読み切れなかったのでしようか?
この著書にある〝グリーンピア構想〟は厚生・年金族の餌食となり、ガソリン税による高速道路建設は、道路族の利権と化してしまいました。
そういう意味では、良くも悪くも高度成長期の日本の指針を決定づけた一冊だったといえましょう。
また、この著書が刊行されたこの日が、執筆に大きく関わった秘書・早坂茂三氏(↓)の命日であることに、浅からぬ奇縁を感じざるを得ません。