「あの、そちらで葬儀をお願いしたいんですが・・・。」
突然高齢と思しき女性から電話がかかってきました。
聞き覚えのないお声でしたし、お名前を伺っても記憶のないその方は、以前お手伝いさせていただいたご葬儀の喪主様から弊社を勧められて電話されたとのこと。
大変ありがたいご紹介をいただいたわけですが、お話を伺うと予てより入院されていたご主人がその日の朝逝去され、まだ病院にいらっしゃる由。
すぐに寝台車のお迎えを手配し、ご自宅に搬送・安置させていただいた後、葬儀の打ち合わせに入りました。
奥様のお話では、90歳近い故人様はかつて国鉄で蒸気機関車の運転士をなさっており、その仕事に大変誇りを持っていらっしゃったとのこと。
葬儀には国鉄時代の後輩も何人か参列されると聞き、私はあることを思いついたのです。
通夜・告別式と葬儀は滞りなく進行し、導師様がご退堂なされた後に生花祭壇のお花を参列者の皆様から全て御柩に手向けていただき、喪主を務められた奥様からのご挨拶が済みました。
私は参列された数人の元・国鉄マンの方々に声をおかけし、御柩をお持ちいただくと、
「故人様、ご出棺でございます。」
と口上を述べると同時に、後方にいる女性スタッフに手で合図を・・・。
それを見た彼女が音響機器のスイッチを入れると、式場内には
〝ポォォォ~~~ッ〟
という蒸気機関車の汽笛が鳴り響き、その直後、
〝シュボッ・・・シュボッ・・・ボッ、ボッ、ボッボッボッ・・・〟
という蒸気の排気音が。
故人様のお旅立ちは、長年運転した蒸気機関車の汽笛と共に・・・そう思った私は、葬儀の前日にショップに行ってSLの音源が入ったCDを探し、ちょうど発車の瞬間の音が出るようにセットしておいたのです。
これは、奥様や会葬者には内緒のサプライズ。
ですから実際に皆さんがどんな反応をされるか分からなかったのですが・・・蒸気音と共に柩を外の霊柩車に運ぶ元運転士の方々の目からは、一様に涙が溢れているではありませんか。
そして式場内には、蒸気音と共にすすり泣く女性会葬者の嗚咽も・・・予想以上の反応に、仕掛けた私自身も感動。
そして火葬後の精進落としを召し上がり、会葬者を見送られた奥様からは
「渡辺さん、あの出棺の時のSLの音は、ビックリしましたョ。
でも後輩の方々も感じ入ったみたいだし、なにより主人が喜んだと思います。 本当に、ありがとうございました。」
と最後に言っていただけて、私はホッと胸をなでおろした次第。
式中のBGMに故人様のお好きだった曲を流すことはよくするのですが、たとえ一瞬でも人々の心に深く突き刺さる音がある・・・そんなことをあらためて認識させられました。