かなり昔のことですが・・・10月のある夜、サラリーマン時代の私が友人と2人で酒を飲んだ時のこと。
その友人はアメリカに留学経験があり、一時期ニューヨークで働いていたこともあって英語はベラベラ。
当時まだ若かった私は英語に若干興味を持っていて、趣味でアメリカ映画の台本(対訳本)を買い込み、映画を観ながらヒアリング等を勉強していた頃でした。
友人はその事を知っていましたので、だんだん酔いが回るにつれ、
「お前、○○○○って、どういう意味か分かるか?
えっ、分からない? なんだょ、そんなの初級コースの言い回しだぜ。
ったく、勉強が足りないんじゃないのォ?」
・・・ってな感じで、私をからかい始めました。
普段はいい奴なんですが、彼は酒が入るとネチッこくなるのが玉にキズ。
かく言う私も、質問に答えられないのがだんだんシャクに触ってきて、
「じゃあ、オマエ。 “Freeze!” って分かるかョ?」
と逆質問。 すると彼は、
「なんだぁ、ソレ。 『凍れ!』 ってか? 意味が分かんねぇ~ョ。」
「エッ、知らないの? 『動くな!』 って意味だョ。
アメリカじゃ警官とかに銃を向けられてそう言われたら、動くと撃たれるんだゼ。 映画なんかによく出てくるゾ。」
「ケッ、オレはお前と違って品行方正ですからネ~。
アメリカのポリスに銃なんか向けられた事ないから知りませ~ん!
そんなスラングばかり覚えてないで、ビジネス英語も勉強しろョ。」
「フンッ! 言ってろ、酔っ払い!」
・・・なんともしょ~もない、子供の言い合いみたいな会話でした。
しかし未だにこの会話を忘れられないのには、ワケがあるんです。
その悲劇は今から26年前の今日・1992年10月17日、アメリカ南部ルイジアナ州の州都・バトンルージュで起こりました。
当時16歳の高校生だった服部剛丈(よしひろ)君が、留学先の友人とハロウィン・パーティーに出かけたのですが、間違えて別の家を訪問。
出てきた家人のロドニー・ピアーズに拳銃を突きつけられ“Freeze!” と警告されたものの、服部君はその意味を知らず。
ハロウィンの仮装をしたままで更にピアーズに近づいたため、射殺されてしまったのです。
刑事裁判ではピアーズ被告は無罪。
しかしその後の民事裁判では、彼がガンマニアであり普段から粗暴であったこと、そして当日は酒に酔っており、わざわざ殺傷力の強いS&W社製の44マグナム(写真下)を取り出し妻の制止を振り切って家から出て発砲したことが明らかになったことから、遺族が勝訴するという特異な経過を辿りました。
またピアーズ夫妻が強硬な人種差別主義者であったことなど、銃規制問題と合わせてアメリカの暗部を浮き彫りにした事件でした。
前述の友人との会話・・・実は、この僅か数日前の夜だったんです。
事件が報道された翌日、その友人から
「この前飲み屋でオマエが言ってたこと、ホントだったんだな。
オレはラッキーだったょ。
もし同じ状況に遭遇してたら、オレも撃たれてたかもしれない。」
と神妙な口調で電話があったことも、はっきり憶えています。
今でもアメリカ映画やTVドラマで、 “Freeze!” を耳にするたび、この事件を思い出してしまう私。
※ハロウィンの悲劇と言えば、今から6年前の2012年にも、自分の母親から 「庭にスカンクがいるから駆除して」 と頼まれた男性が、たまたまこの家で開かれていたハロウィーンパーティーに出席するため黒と白の衣装を着て訪れていた女の子をスカンクと見間違えて銃撃し重傷を負わせるという、日本では考えられない事故もありました。
こんな痛ましい事故が何度もありながらも、アメリカという国からは銃がなくなることはないのでしょうネ。
あらためて、今日二十七回忌を迎える服部剛丈君のご冥福をお祈り致します。