ラスト・ラウンド <上> | ナベちゃんの徒然草

ナベちゃんの徒然草

還暦を過ぎ、新たな人生を模索中・・・。

Aさんは50歳半ばのサラリーマン。


勤務先でも要職を務め、バリバリ働いていたのですが・・・どうも疲れが溜まるようになり、食欲も体重も少しずつ落ちてきていました。


本人は 「きっと歳のせいだろ。」 と病院に行くのを嫌がったのですが、心配した奥様が半ば強引に連れて行き検査させたところ・・・診断は、進行性の悪性ガン。


いきなり余命半年の宣告がA夫妻に下ってしまったのです。


即入院してから約1ヶ月、Aさんは日々鬱々とベッドで寝るだけの毎日を過ごしていました。


親友のBさんが見舞いに訪れたのはそんな時のこと。 


Aさんは病気で弱った自分を見られたくなかったのか、奥さんには自分の入院を内密にするよう厳しく言い渡していたのですが、さすがに異変に気づいたBさんに詰問され、奥さんも遂に泣きながら事実を明かしたのです。


「よぉ・・・久しぶりだな。」


「な、なんだオマエ。 どうしてここが・・・。」


「バカ野郎。 オマエこそ、どうして黙っていた? 水臭いじゃねぇか!」


「あ、あぁ・・・悪かったナ。」


「でもまぁ、思ったより元気そうで良かったョ。 もう死にそうなのかと思って駆けつけたのに、損しちゃったぜ。」


「アホか、誰がそんな簡単に死ぬかい。」


しかしAさんはもちろんBさんも診断結果を知っているだけに、これ以上の軽口は叩けず、暫し病室内には重苦しい沈黙が流れるのみ。


・・・・・・・・・・・・・・・。


奥さんが耐え切れず、

「あっ、すみません、お構いもしませんで。

 私、下に行って何か飲み物買ってきますね。」


と言って病室を出て行くと、Bさんが重い口を開きました。


「おい、オレに何かやれることはないか?」


そう聞かれたAさん、暫し考えてこう答えた。


「・・・・ゴルフがしたい。」


        


「えっ? だってオマエ、その体じゃ・・・。」


「いや、オマエの顔を見たら、どうしてもやりたくなった。

 オレの最後の頼みだと思って付き合ってくれョ。 なっ!」


必死に頼むAさんの姿を見て、Bさんは決心しました。


「そうか、分かったょ。 やろう。 先生にオレが頼んでみるょ。

 オマエとは4ヶ月ぶりのラウンドだな。 楽しみにしてるゾ。」


「ありがとう、恩に着るょ。」


Bさんがすぐに主治医に相談したところ、


「そうですか。 今ならギリギリ大丈夫でしょう。

 本人がやりたいことを是非やらせてあげてください。」


善は急げ・・・とばかりに、Bさんは2人が共にメンバーであるゴルフ場に電話を入れ、3日後にツーサム(※2人だけ)での予約を取りました。


全ての段取りを終え、病室に戻ったBさんは、Aに告げました。


「おい、先生の了解も取ったし、コースも予約したからな。

3日後にオマエとサシの勝負だ。

朝オマエの自宅に寄って道具一式積んでからここに迎えにくるから、奥さんに用意してもらってくれョ。」


「・・・わかった。 すまんな、わがまま言って。」


「よせョ。そのかわりニギリはいつもの通りだからナ。容赦しねぇゾ!」

「おう、望むところだ。」


2人は固い握手を交わし、病室を出たBさんは帰路ハンドルを握りながら


(なんで、こんな急に・・・。  あんなに握力なくなっちゃって、アイツ・・・ゴルフなんて出来るのか?)


そんな思いがこみ上げると涙で視界が曇り、何度も路肩にクルマを停めざるを得ませんでした。  




                ・・・・・ To be continued.         
          



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