それを選んだのは集中力が切れてきたので早く買う本を決めたかったのと、「FISH CAKE」という簡単な単語の組み合わせとちくわの絵になんだか不思議な魅力を感じたからだ。


 フィッシュケーキとはちくわという意味があるのだろうか。ちくわの穴から流れ出た液体がワイングラスに入っていく絵が面白い。


 二百円でその薄い小説を購入し、その勢いで値段も見ずに先ほどの虚無犬を買ってしまった。

 六千八百円と、ブランド品のはずなので納得すべきなのであろう金額だったがものの価値や相場というものがよくわかっていない僕にとってはそれがいくらであるかよりも現時点で財布に四百八十円しか残っていないことが気に留めるべき内容なのだった。


 電子決済やクレジットカードも手続きがとても難しいので持っていないし、それによってなにか特段損をしただとか不自由だと思った印象はない。

 正確にはポイントを貯めるとか現金不可の店があるとかキャンペーンがあるとかという話は知っているけれど、元々思考できる量が人より少ない僕にはそういう人生を難しくすることはなるべく少ない方が「いい」のだ。


 本と犬の形の瓶を抱えて荒川沿いを進んでいく。

 すぐに名前のないその古物市場の端っこまで来てしまい、特にそれ以上何かに対して気になろうとする気力もなかったのでそのまま自宅へ引き返すことにした。


 バス停のある広く淀んだ道路から商店街の方に入るとミニスーパーの脇に生えたコンクリートの棒にまだ十分に綺麗なレジ袋が引っかかっていたので、抱きかかえていた犬と本をそれに入れた。


 言われてみれば、道には鉄やら真鍮やらアルミやらプラスチックやら、イチョウやケヤキやミモザなんかに紛れて色んな棒が生えている。


 そして僕にはそのうちのどれがどれだかはわからない。

 コンクリートの棒もそれっぽいだけでもしかすると違う材質なのかも知れなかった。

 僕はこの街で縦に横にと置かれた一本一本の棒について何も知らないし、街全体のことなんてもっと何も見えやしない。