久しぶりの長編妄想です。

しかも今回は恋愛ものじゃない。

主人公も男で意外な人物になってます。


参考までに過去の妄想の主役は

本仮屋ユイカさん

長澤まさみさん

柏木由紀さん

倉持明日香さん

などになってますが

今回は

みんながあまり好きじゃないかもしれない

あの人です。

あの人のことが少し好きになる妄想。










1960年代

港町



12歳の少年にとってサッカーボールは友達だった。

サッカーボールしか友達がいなかった。


周りの少年たちはみな野球少年。
サッカーのサの字も知らない。


だから少年は今日も一人ボールを蹴っている。
毎日蹴っているボールはボロボロだ。

布が破れている部分には
なんとガムテープが貼ってある。



そんな少年がドリブルするボールを奪う外国人


この港町にはしばしば外国の船乗りが
やってくる。

少年にとっては数少ない対戦相手だ。
と、いっても彼らの回すボールを追い回すだけなのだが。


しかし今日の外国人は少年にとって
いい対戦相手ではなかった。


サッカーの下手くそな日本人をなめてるのか
はたまたただ性格が悪いのか

少年をひととおり弄ぶとそのボールを海に蹴り込んでしまった。





少年はガムテープまみれのあのボールが陸に打ち上げられるのを待った。

が、いつまでたってもボールは来ない。

そのうちに日が暮れボールも見えなくなった。



次の日もその次の日もボールを探し海沿いを歩いたが
見つかることはなかった。






途方に暮れる少年の前に彼は現れた。


彼は15、6歳ほどの痩身の青年で
強めの天然パーマで
新品のサッカーボールを持っている。

そして少年の唯一の友達になった。


彼らは毎日同じ時間、同じ広場で
日が暮れるまでひたすら一対一を繰り返した。

しかし少年は一度として彼に勝てない。


彼はどの外国人の船乗りより遥かに上手いのだ。
体の小さな少年はドリブルをすれば彼に弾き飛ばされ
ディフェンスをすれば彼の得意なフェイントで翻弄された。

実力差のある2人だが毎日心からサッカーを楽しんでいた。

しかしある時を境に

少年は広場に来なくなった。


彼は毎日待ち続けたが少年はやってこない。


なにかあったのだろうか?


そんなことを考える彼の前に、
最後に少年が現れたのは、それから一月もあとのことだった。

少年は彼を初めて抜き去った。

ボールを右足の外側で触り
ゴムのようにしならせた右足で今度は反対側にはじくフェイント。

彼の得意なフェイントだ。

お株を奪われた彼は笑った。

少年も笑った。

彼が少年に何をしていたのかを聞くと
少年は笑いながら
病気で死ぬかもしれないことを話した。

彼はひどく動揺したが

しかし、将来ワールドカップで優勝する
という夢を語る少年の目には希望が満ちていた。








数日後





少年は帰らぬ人となった。




彼は少年の夢を叶えると心に決めた。

たとえ嫌われ者になろうと

どんなに長い戦いになろうと。

ワールドカップでこの国を優勝させてやろうと。












2014年

7月1日

リオデジャネイロ


ワールドカップのファイナル

対戦カードは盤石の闘いで決勝に進んだスペイン

そしてサプライズにつぐサプライズで
旋風を巻き起こす日本。

決勝でも日本がサプライズを起こし
先制ゴールを決めた。


その後もスペインのパス回しに翻弄はされるも身体を張りゴールは許さない。

最後まで必死で走り続ける日本守備陣。

イニエスタのシュートが長友の体に当たったボールを
吉田が大きくクリアした瞬間


長い笛がなった。


ピッチ上で、スタンドで、地球の反対側日本で

鮮やかに青が弾けた。




松木安太郎が仕事を忘れ吠えている。


その横で

セルジオ越後は静かに目を閉じた。



「なあ、見てるかい?

君の国、日本は強くなったよ。

僕の仕事はこれで終わりだね。

なかなか、楽しかったよ。」






試合後の祝勝会

そのきらびやかな会場に
セルジオ越後の姿はなかった。


その代わりに

さっきまでビールかけをしていたサッカー小僧たちが

なぜか
オンボロのサッカーボールを追いかけている。


そのきらびやかな会場にあるはずのない


ガムテープ張りのボールを。












僕から以上!あったかくして寝ろよ!!