ダイニングバー
「ときたま」
6 占い師照美の素性と月美(つきみ)
照美が、「ときたま」で働き始めたのは
月美との出会いからである。
月美は、ダイニングバーときたまのオーナーであり、
夜の8時から12時にナイトクラブを担当している。
月美の不思議な能力は、言いようがない。凄い人であるとしか言えない。
照美は、その昔、虹色橋の向こうの銀杏並木で
街頭占いをしていた。
どうして、ここにいるのかもよくわからないでいたのである。
生まれも親も照美は知らない。
自分の本当の素性はまったく記憶がない。
誰かに手を引かれて桜の花が降る大きな神社の前で
鬼ごっこの鬼になった。
10まで数えて、くりかえし10まで数えたが、「もういいよ」は聞こえなかった。
まだ小さく、10以上は数えられなかった。
まだ、照美には三度目の春のことであった。
富士山の神様を祭る神社の鳥居の前に、
置き去りにされていたことに、気づくのは、もっと後になってからなのである。
春の桜の花が咲く、あたたかな日差しの中で、
照美は、神社の神主に拾われ、
15歳になるまで大切に育てられた。
それから、神主の知り合いで、有名な陰陽師に預けられ、
様々な、呪術を習得する。
目まぐるしい才能は、師からお墨付きをもらうほどであった。
そこの修行が終わると、、密教の寺に入門した。
密教を学んでいるころ、マントラ占いに人生の不思議と森羅万象の神秘に
はまり込んだ。様々な宗教哲学を学ぶため、人の魂との出会い。
これまでの人生を聴く行、
この世界の街頭行という行を生業としながら、
日々淡々と生きているころ、月美と出会うことになる。
そのころの照美は、何も、
不満はなかったが、生きる事の喜びは、知らなかった。
ただ、知りたかった。
なぜ、隠れ鬼のままで、置き去りにされたか、
現世とあの世の世界を、行き来する術など訳もないことなのだが、
なぜ、この世と、あの世があるのか、人はなぜ、生まれ、何のために生き、
死んでいくのか、死んだらどこに行くのか。
あの頃の照美は、知らないことの恐ろしさに内心、
はらだたしさすら感じるような感情を持ち合わせていた。
随分こちらの世界でいる時間が長くなった。
月美は、猫のみこたを連れて現世の向こう、
の世界に入り込むことを、時々する人間のひとりである。
わたしが、照美と出会ったのは、
本来見えない世界で出会ったのだが、
照美は、そのことを覚えていない。
虹色橋の向こうの世界から、
月美に呼ばれてこの現世の世界に来たのだ。
向こうの記憶は、忘れ薬を飲まされて、
虹色橋を渡る前には、すっかり忘れてしまう。
照美が「ときたま」に来ることになったのは、
ある日、月美はいつものように、
虹色橋を私を連れて渡って、
月美は、橋の向こうの銀杏並木の下で水晶占いをしている照美の
前に座った時からである。
「何を占いますか?」
「あなた、この世界にはいつからいるの?」
「ふたつまえの、銀杏が取れる時期から、、、。」
照美は、透明に透け始めた身体を揺らしながら答えた。
「2年以上も、不幽霊たちの占いをしているってこと?」
「不幽霊?、、、?。なんでわかるの、、?」
まるで魂が振り子のように大きく振れる照美は、
今にも、肉体は消えてなくなりそうであった。
「私は、月美。あんた名前はなんていうの?」
「照美、、、。」
私は、二人のやり取りを聞きながら、照美の氣の色に驚いた。
(ねえ、月美、あの子さあ、凄いこだね。氣の色黄金色だよ。
でもなんで、この世界にいるのかな?連れて帰ろうよ。
本当にこっちの人になってしまうよ。助けてあげようよ。)
こっそり言うと、
「わかったわ、そうするつもり。」
きっぷのいい、男前の月美の性格は好きである。
「照美さんここにずっといてはいけないことはわかっていますね?
行くところがないなら、私のところで働いてみない?」
不思議な力が働いた。
照美は、こっくりとうなずいた。いや、うなずかされたのである。
「ただ、二週間だけ待ってください。予約があるので、
終わってからでないと、浮かばれない御魂たちは、
生きている人たちに悪さをし始めます。
いけるところまで連れて行ってあげなければ
約束は果たせませんから、、。」
誰と何の約束をしたのか、不思議に思ったが、
月美は、また、様子を見に来ることにした。
昼間の「ときたま」だけが、責任者のいないままOPENさせていて、
大和がの負担が大きくなってきていることに気付いていた月美は、
これは、一石二鳥だと思ったのである。
不思議な店「ときたま」は、
時を刻む特別な場所である。
いまでは、もう、照美は昼間の「ときたま」には欠かせない人材のである。
そして、この場所で、隠れ鬼の鬼を解除できることを、照美はまだ知らないのである。
照美と、月美。
まるで、正反対の性格で、赤い髪と黒い髪。
まるで、太陽と月のように、対局なのである。
月美が、なぜ、照美をこの世に連れてきたのかって?
それは、まだ、秘密である。
「みこたー。みこたー。」
照美の声である。
あの世にいた頃の照美はもうここにはいない。
少なくとも、よく笑い、よく怒る。楽しそうに暮らしていることは確かである。
また、猫を連れたお客がきたらしい、、。
雨の日の金曜日は忙しい。
最近の「ときたま」はと言えば、、、。
表から見ると緑の、オーロラカーテンが覆っているらしい。
オーロラは、地球が夢を見るときに見える、自然の現象らしい。
不思議な店、ダイニングバー「ときたま」は、
あなたの街のあの角の向こうに、今日は出ているかもしれません。
謎の女、、、。 月美のお話は、
それは、またのおたのしみなのである、、、。
つづく。
心の処方箋。まだまだつづくにゃん