夏掛の下の涅槃に息を止め
 

川の香も山の香もあり夏蒲団
 

日向くさきタオル掛けあり十五歳
 

ねえさんはいつもの仮病夏衾
 

蹴りとばす夏掛褪せたみどりいろ       【笑い仮面】

 

 

 《夏掛》という季語をはじめて知ったのは、おそらくは安東次男の《夏掛やつかひつくさぬ運の上》がきっかけだったんだろうと思う。《つかひつくさぬ運の上》ということは、まだわずかかもしれないけれど、まだ運が残っているということになる。そんな自分が、いま、やわらかな夏掛をかぶってうつらうつらしているんだな、という感慨を、さすがアンツグさん、いともそっけなく、けれどもちよっぴり自嘲ぎみに詠んでいる。

 ぼくも、子どものころに、タオルケットみたいなのを抱きしめて寝ていた記憶がある。とても甘やかな匂いがしていた。どうやら、ぼくの運は、残念ながら、そのころに使いはたしてしまったものと思われる。

 

 

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