「谷間に眠るもの」 
 
そびえ立つ山のへりから陽がふりそそぎ
小川のしぶきがこの窪地の若葉を叩き 
その銀色のとばしりに草たちが激しくなびくとき 
ちいさな谷間はひとつの光源と化してしまう。
 
若い兵士がぽかんと口をあけ、帽子もかぶらず
ひんやりとしたクレソンの群れに襟首を浸し眠りこけている。
草はなびき雲は流れ  
やわらかな光をほしいままにして緑の寝床で、蒼ざめて横たわっている。
 
両脚をグラジオラスの群れにつっこんで
病気の子どもみたいな笑顔を浮かべ彼は眠りこけている。
自然よ、寒い彼の体ををあたたかく包みこんでやってくれ。
 
風が運んでくる香りにも彼の鼻はぴくりともしない。
手を胸のうえに置き、横たわっている
彼の横腹には、ふたつの赤い銃創があいているのだ。
 
                                       1970年10月7日
          ★
 
     LE DORMEUR DU VAL
 
C’est un trou de verdure où chante une rivière
Accrochant follement aux herbes des haillons
D’argent ; où le soleil, de la montagne fière,
Luit : c’est un petit val qui mousse de rayons.
 
Un soldat jeune, bouche ouverte, tête nue,
Et la nuque baignant dans le frais cresson bleu,
Dort ; il est étendu dans l’herbe, sous la nue,
Pâle dans son lit vert où la lumière pleut.
 
Les pieds dans les glaïeuls, il dort. Souriant comme
Sourirait un enfant malade, il fait un somme :
Nature, berce-le chaudement : il a froid.
 
Les parfums ne font pas frissonner sa narine ;
Il dort dans le soleil, la main sur sa poitrine
Tranquille. Il a deux trous rouges au côté droit.
 
                                       7 octobre 1870.
          ★
 
 対プロイセンの戦禍(普仏戦争)は、ランボオ一家の暮らしていたフランスの北東部、アルデンヌ県にも及んでいた。フランスの国防軍も果敢に対戦したが、野戦砲と軍備品の鉄道輸送を巧みに利用したプロイセン軍の前にもろくも敗走、降参をするしかなかった。1870年10月という日付から見ると、この作品はプロイセンの部隊がアルデンヌ県から立ち去ったのちに書かれていることがわかる。
 
 それにしても、なんと繊細な筆致で描かれているのだろう。眩いひかりがさす草地、しぶきをあげる小川、そしてそこに蒼ざめた横顔をさらし横たわる少年……と、ちょうどゆるやかに地上から遠ざかり、すべてを俯瞰してゆく鳥の目で見たようなおおらかな光景だ。やがて、その目は《彼の横腹には、ふたつの赤い銃創があいている》ことまで伝えてくれるのだが。
 感傷を排し、見たままの戦禍を描いたゆえの普遍性がきわだっている、ランボオ最初期の代表作のひとつだ。