「雨季」

紫陽花の
いがいに細い茎を揺らして止まない
雨音が安息をもたない
わたしのわずかなまどろみを脅かしつづける
らんぷ

絵札のいちまい足りないタロットカード
たしかにどれもわたしの
所有であるのに
これほどにも他のものの体臭に
彩られているのは何故だ
蝸牛の殻の硬さは
喪に入ったばかりのつぶらな瞳だ
それをかくとくするための
いつもより地球がまるく見える夕暮れに
またひとつあたらしい
神話が生まれようとしている
六月の愉快な
今は雨季だ

          ★

 

 記録的に梅雨入りがおくれ、かわりに殺人的な猛暑が、日本列島を覆ってしまっている。沸騰している地球の異変のいったんを見せつけられているような不安ばかりがもくもくとわきあがってくる。

 それでも、どうしたものか、この作品をも一度、アップしたくてたまらなくなってしまうのは、どうしたもんだろう。高知市の病院の寮の一室で、息を殺すようにして書きあげたこの詩がちっぽけな孤独や疎外感をかかえこんでいた当時のぼく自身のレクイエムのように思えてしまうからなのかもしれない。

 もっと、感傷的で、とことん個人的なおもわくに由来しているだけのことかもしれない。よくわからない。
 1989年。

 

 

【笑い仮面】

 

画像:pinkoi