藤浪のうへに藤浪たちにけり
 

老農の背ナ丸かりき藤の花
 

山羊啼かせ藤房ふいの雲となり
 

眼帯の向かうの村の藤ひらく
 

藤棚の下で野点のあるらしく      【笑い仮面】

 

 

 このところ体調がすぐれず、いささか気分が凹んでいた。でも、体調がすぐれないのはいまにはじまったことじゃないしと、藤の花のゆれている景を思い浮かべてみたりする。数年前まで、郊外の、藤棚のある老人施設で勤務していたんで、たやすく脳裏にそのながめが浮かびあがってくる。わざわざ遠くまで出かけていかなくても、リーズナブルなトリップはできちゃうといわけ。

 

 それにしても、さいきん俳句がずいぶん下手になってきている。俳句らしきものを書きはじめた10年くらい前の作品と較べてみると一目瞭然、すさまじく貧相になってきている。ようするに、あれだろう。10年も惰性で詠んできて、いくらかは俳句らしくなってきたものの、こんどは自分らしさがなくなってきちゃったということだ。

 こんなんじゃいかん。うまくなくてかまわないから、もっと自分らしい句を詠まなくちゃ、ぽんこつな脳天の奥でひらめいているうすむらさきの藤の花をながめながら、唇を噛みしめていたりする。

 

 

画像:五月女佳織 日本画家