ぜんまいののの字もつるる日暮れかな
 

背をのばし老婆はぜんまい干すところ
 

雲臭し山薇のありどころ
 

ぜんまい汁あえて美味しと云はずとも
 

空あらばむらさきぜんまい絮を吐き 【笑い仮面】

 

 

 ぜんまいといっても、井上陽水の「ゼンマイじかけのカブト虫」のことではありません。と、いかにも昭和ちっくなだじゃれはおいといて、春になるとこいつよく目に飛びこんでくるのがが嬉しい。わらびやいたどりなんかとごっちゃになってしまいそうだけれど、ぜんまいの存在価値は、幼少期のぼくにとっては絶対的なものだった。

 

 あの《の》の字のように、くるくると渦を巻いたフォルムがこっけいやら、おそろしいやらで、じっと眺めては、あのくるくるを指先でほどいてみようとしてまわりから「なにやってんだ?」って笑われたものだった。くるくるの向こうには、いつもと同じ春の野山の景色があるだけで、そこにはらはら淡雪のような絮が舞って、またしてもぼくを喜ばせてくれたんだった、という昔々のものがたり。

 

 

画像:PIXTA