「裁きを待っている凶悪犯どもよ」

裁きを待っている凶悪犯どもよ、
独房のーーすでに判決がくだされ、手錠と頑丈な鎖でいましめられている殺人者どもよ、
ふしぎなことに、なんの裁きもうけることなく、手錠につながれることもなくこうしているわたしはなにさまなんだろうな?
誰よりも冷血で、呪われたこのわたしが手錠もかけられず、足首を鎖につながれてもいないなんて、いったいこいつはどういうことなんだろう?


夜のちまたをほっつき歩き、えんやな笑みをベッドにしきつめていた娼婦たちよ、
泥のような恥辱にまみれながら、おまえたちの恥辱をあげつらってばかりいるこのわたしは、いったいなにさまなんだろうな?

三十もの罪状をもった罪人たちよ、反逆者たちよ、
わたしはようやくみずから悪人であることを認めた、とことんまでその正体を追求してゆくつもりだ!
(お願いだ!わたしのことを褒めそやし、讃えたりしないでくれ!お世辞もまっぴらごめんだ!
わたしは、おまえたちが見たことのないものを見、おまえたちの知らない秘密をしっているんだから!)

この胸骨のうちがわで、わたしの狡猾さと息苦しさがせめぎあい、
うちつづく地獄の波しぶきが、ふいを装ってわたしの顔色にあらわれてくるーー
あらゆる欲望と不正は、わたしのものだ!
熱い友愛をかかげ、わたしは、これらならず者と生きてゆこう、
わたしも、あいつたちと同類だとわかってしまったのだから、わたしじしんが凶悪犯や街の娼婦どもと同じ生きものなのだから、
もうやつらをうとんじたりすることはなくなったーーそうだろう?わたしがわたしじしんであることをこばんでしまったら、こ

 の世はいったいどうなってしまうっていうんだね?

 

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     YOU FELONS ON TRIAL IN COURTS.

1YOU felons on trial in courts;
You convicts in prison-cells—you sentenced assassins,chain'd and hand-cuff'd with iron;
Who am I, too, that I am not on trial, or in prison?
Me, ruthless and devilish as any, that my wrists are not chain'd with iron, or my ankles with iron?

2You prostitutes flaunting over the trottoirs, or obscene in your rooms,
Who am I, that I should call you more obscene than
myself?

3O culpable! O traitor!
I acknowledge—I exposé!
(O admirers! praise not me! compliment not me! you make me wince,
I see what you do not—I know what you do not;)

Inside these breast-bones I lie smutch'd and choked;
Beneath this face that appears so impassive, hell'stides continually run;
Lusts and wickedness are acceptable to me;
I walk with delinquents with passionate love;
I feel I am of them—I belong to those convicts and prostitutes myself,
And henceforth I will not deny them—for how can I deny myself?

 

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 《誰よりも冷血で、呪われたこのわたしが手錠もかけられず、足首を鎖につながれてもいないなんて、いったいこいつはどういうことなんだろう?》と詩人は言っている。《三十もの罪状をもった罪人たち》《反逆者たち》、そして《えんやな笑みをベッドにしきつめていた娼婦たち》に向かって問いかけ、《わたしはようやくみずから悪人であることを認めた、とことんまでその正体を追求してゆくつもりだ!》と宣言をしている。

 ここまでみずからの生きざまをあらわに悔いた詩人はそう多くはいないと思うけれど、ホイットマンの懺悔はからっとしていて気持ちがいい。どういうふうな人生を歩めばこういう境涯にたっすることができるのだろう。

 

画像:soundcloud