笑い仮面のブログ-エロチック


傘の下で、
愛しあっていた
襟足やズボンの裾が濡れてしまうのは
嫌だったけれど
夜の雨と《大きな、黒い傘》が
いつも
ぼくらの躯をつないでいたんだ


おどろいた!
寝つけない夜に読んだ物語は
エロチックで
残酷な、
愛と死にかんする
うつくしいレポートだった
冷えたからだを重ねあい
求めあい 
ただ奪いあうことによってのみ
ひとは 快楽の
いびつであることを知り
いびつな歓びの
もえたつかなしみを知るという


引きおろしたショーツの奥には
だれかの指と舌が這った
気配があって
けれど 
その
重いぬめりに
触れてはいけない
そこに
きみの死の影はゆらめいている
もはや
後悔とも
空笑いともつかない嗟嘆
瑠璃色の
とんでもない勘ちがい
きのう、
抽斗の奥で見つけた
色褪せたスナップ写真みたいに
やるせなく、残酷な
ある記憶


傘の下で、
愛しあっていたぼくらの脚もとに
あつさと 激しさを増した滴が落ちてきて、
じっと見ていたら
そいつはまるで蛇の動きで
道端のくらい排水溝へとながれていったのだ


          ★


柴田元幸氏訳のジョン・マッギャバン『僕の恋、僕の傘』(角川書店)から着想を得て書いた。
2007年作。


                                           【笑い仮面】