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秋の4連休取らせていただきました。

今回は、車で、群馬のアート巡り中心の旅です。

何かと疲れ切っていたので、アートと温泉と秋の紅葉で疲れをいやしに行って
きました。


朝7時半に家を出て、10時には、群馬県みなかみ町にある、谷川温泉の中の、「天一美術館」に到着。

こちらは、銀座天一の創業者、矢吹勇雄さんのコレクションが楽しめるんです
ね。

建築家の吉村順三さんの遺作の建築というこの建物。

なかなかいいたたずまいで、紅葉の中に溶け込んでいました。

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展示作品数はそんなに多くないのですが、居心地のよい館内で、2時間ゆった
りしました。

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18世紀初めの、宮川長春、18世紀中期の宮川長亀、18世紀後半の歌川豊
廣らの、初期の浮世絵、そして、肉筆画は非常に少なく10数点しかないとい
う、18世紀後半の鈴木春信の秀逸な線画が美しい浮世絵や、

実に細かく、見事な線で描かれている、藤田嗣治のエッチング、「黙示録」。
そして、ピカソや、ジョルジュ・ルオー、ルノワール作品などもありましたが、


やっぱりこちらの美術館で素晴らしいのは、近代日本の洋画作品ですね。


安井曾太郎、梅原龍三郎、青木繁、熊谷守一、中川一政らの作品どれも良かっ
たです。

中でも、佐伯祐三の「弥智子」という作品が眼を引きました。
佐伯祐三が、あの独特のタッチで、こんなにかわいい少女も描いたんですね。
佐伯のイメージが変わるような新鮮な作品でした。


そして、それらの日本の近代洋画の素晴らしい作品が並んだ部屋の奥に、まさ
に、「岸田劉生ルーム」と呼べるような、岸田作品だけを並べた部屋がありま
した。


いやー、やっぱりここがこの美術館の大目玉、一番ですね。


凄い!





なんともかわいい「茄子図」(1924)など良かったです。

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そして、あの長女、麗子を描いた作品が、3つも同時に楽しめる。

木炭・水彩画の「麗子像」(1919) 5歳。

水彩の「麗子像」(1920) 6歳

そして、油彩の「麗子像」(1922) 8歳。正面から描かれていて、「正
面麗子」とも言われている作品ですね。

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僕はこれらの麗子像を、二つの違った視点から眺めました。


一つは、岸田は、明治の傑物だった岸田吟香の子息として、銀座の真ん中に生
まれ育ったんですよね。

で、頻繁にダジャレを言って、悪戯も相当だったらしいですね。


実は、なんとなくですが、岸田劉生って、僕自身と似ているなって思ったんで
す。


その岸田が、自分の愛する長女を描いたんですよね?

僕にも娘がいますが、想像してみました。
僕がもし娘を描くならどんな風に描くだろうって。


そう考えると、より、岸田の麗子像がすんなり僕の中に入ってきたんです。


岸田が描く、麗子って、どこか大人っぽいし、真剣で、意志の強さ、心の強さ
を感じる。


なんかわかるんです。もし僕が自分の娘を描くとしたら、やっぱり笑っていた
り、可愛らしく描くのではなく、強くたくましく、真剣な姿、強く生きていく
強さを感じさせるように描くだろうなって。立派に強くたくましく生きていっ
て欲しいという願いをそこに込めると思うんです。


また、娘って、もちろん自分とは別人格だけど、やっぱり親子だから、どこか
似ているものを感じる。


自分は年を重ね、自分のなかに本来あった可能性の、ある部分は伸ばせたかも
しれないけど、多くは伸ばせずに終わってしまった可能性も沢山あったと思う。
そして、余計な、どうでもいい垢というか、いらないものも沢山身に着けてし
まったかもしれない。


岸田劉生は、麗子に、自分自身がつけてしまった不必要な垢を、不純なものを
取り除いて、自分自身が持つ、純なもの、未開発の可能性を見出そうとしてい
たのではないでしょうか?


彫刻家が、一つの木片の中から、魂を彫りだしていくように、
麗子を通して、自分自身の純な部分をもう一度しっかり見据えようとしていた
のでは?なんて感じたんです。


自分の娘だからこそ、その中に、自分が持っているものと似たものがあるに違
いないと思ったから。


なんかそんな風に感じたんです。






もう一つの視点は、
岸田劉生って、敬虔なクリスチャンだったんですよね。

僕は麗子像に、実物に似ているというより、霊性を感じたんです。

割と裕福に育った劉生は、
実はどっかに甘えというか、弱さというか、楽な方に流れやすい自分を感じて
いたのではないか?

関東大震災のあと、家が被災し京都に移住した際、生活が乱れたことがあった
と言いますが、

割と、そうゆう弱さがあることを自分でも自覚していたのではないかなって思
いました。

だから、いつも自分を自分で戒めないといけなかった。


岸田の麗子像は、いつも父親が楽な方、怠惰な方、酒や女に流されるのを、無
言で戒める、お地蔵さんみたいな存在だったのではって思ったのです。


「お天道様は見ている」、そう、「麗子はいつも見ている。」


愛する麗子はいつも、お父さんをみてる。見てないようでも見てる。

劉生は、愛する麗子の前では嘘つけないし、麗子が恥ずかしい思いをするよう
なことはしてはいけないって、自分を、麗子像を描きながら戒めていたのでは
ないでしょうか?

笑ってない、厳しい表情で麗子を描いたのは、岸田がそんな気持ちでこの作品
を描いたからではないかって僕は感じました。


いやー、良かったです。


こちらの美術館はなんといっても、この岸田劉生の「麗子像」ですね。


そうそう、書き忘れましたが、この美術館、鑑賞ガイドというものがあります。

これが実に面白いのです。

とてもよくできていて、スタッフのこの美術館に対する愛を感じます。


こんな感じでとてもユニークで、これだけでも楽しめます。

もちろん無料です。

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岸田劉生作品に大満足した後、素晴らしい紅葉を眺めながら、沢渡温泉「まる
ほん旅館」に向かいました。

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(つづく)