「細川護立と近代の画家たち 後期展示」 永青文庫
を観てきました。
小林古径の「孔雀」(1934年 昭和9)や、
細川護立の依頼で描かれた、
横山大観、下村観山、竹内栖鳳というまさにオールスタータッグによる合作、
「観音猿鶴」(1910年 明43)
ももちろんよかったですが、
この日は、僕は
松岡映丘 「室君」(1916年 大正5)
にまさに圧倒され、釘付けになりました。
気が付いたら、この絵だけで、1時間以上鑑賞していて、その素晴らしさに打
ちのめされ、正直他の作品は、あまり心に染みこんできませんでした。
この作品は、室津(現在の兵庫県たつの市)に集まった遊女を描いたものなん
ですね。
室津は、以前映画「男はつらいよ」でロケに使われて、それを観て、ずっと、
いつかは旅したいなって思っていたのですが、未だに行くことはかなっていな
かったので、室津への思いも込めてじっくりこの作品を鑑賞しました。
室津は船旅交通の要であり古くより遊女の町として知られているそうで、奈良
期から平安期における遊女は遊芸によって神仏の教えを伝播していたというこ
と。
僕はあまり遊女に関しては知らないので、誤解があるかもしれませんが、素直
に今日この作品を観て感じた感想を書いていきますね。(遊女に関して詳しい
方、色々ご教授いただければ幸いです。)
画像ではわかりませんが、この絵の素晴らしいのは、細かく五月雨が静かにこ
の絵全体に静かに降っているんですね。
そして、左の上の方になるんですが、建物の向こうには、静かに海が顔を出し
ている。
この五月雨のしっとりとした感じや、遊女たちの体温まで感じられる、匂いた
つ感じが、なんとも艶っぽく、妖艶なんです。
この遊女たち、妖艶なだけでなく、僕は気高さを感じたのです。
この遊女たちの気高さは一体どこから来るのか?
神仏の教えを伝播するという宗教的なところから来るのかもしれませんが、
僕は、この遊女たちに、「不惑」を感じたんです。
選択肢が増えることは必ずしも幸せを増すわけではない。
選択肢が増えたことで、逆に迷いが増えたり、一つのことに、「退路を断って
覚悟を決める」ことが出来なくなってしまうこともある。
例えば、結婚でも就職でも、沢山の男から言い寄られて、選択肢が沢山あるな
ら、<とりあえず>A君と結婚して、嫌ならすぐ分かれて他の人とまた一緒に
なってもいいやって思うかもしれない。
沢山の会社から内定をもらい、絶対この会社に行きたいという決め手がなかっ
たら、<とりあえず>一つの会社に入って、嫌ならすぐやめてやれって思うか
もしれない。
僕はこの、<とりあえず>っていうのがあまり好きでないんですよ。
絶対この人と一緒になって、どんな苦労があっても、苦労を最後まで共にする。
この会社で最後までしっかり働き、何があってもあきらめず頑張る。
というような「退路を断った覚悟」がないと、本当の幸せには近づけないって
僕は感じるし、<とりあえず>の生き方ってそこから遠のいてしまうって感じ
ているんですけど、
この遊女たちには、僕は、不惑を、退路を断った静かなる覚悟を感じたんです
よ。どうゆう経緯で遊女になったかわかりませんが、なったからには、遊女と
してしっかり生き抜き、遊女として、人間として自分を高めていくという強い
覚悟を感じる。
そこに僕は、気高さを感じたのだと思います。
この遊女たちは、思い思いに自由な時間を過ごしているんだけど、その自由時
間の中にも、遊女として自分を高め、自分の人生をしっかり豊かなものにして
いくために、女を高め、芸を高め、精神性を高める準備をしているように見え
るんですよ。
ただ、だらだらと、自由な時間を無為に過ごしているわけではない。
キャバクラの客待ちで、たばこ吸いながらスマホいじっている子たちに、あま
り気高さを感じないのに、
この遊女たちには、凄い気高さを感じるのは、彼女たちの、迷いのない覚悟か
ら来るものなんだと思います。
その気高さに僕は圧倒されました。
画像だと全く分かりませんね。
本物はその大きさも含めて本当に圧巻です。
@2017年8月11日に追記します。
図録を観て、追記します。
松岡映丘自身の解説が図録にのっていたのですが、それによると、
この作品は、鎌倉時代の室津の遊女を描いたもので、鎌倉時代になると、室津も年々すたれていき、遊女たちも衰微していったということ。
この作品は、そんな衰微していく港町での、年増遊女たちの悲哀を描いたとのこと。
なるほど、確かに五月雨の感じなど、客が来ない寂しい感じが出ています。
客が少なくて暇が多いんだけど、僕には、この遊女たちが、くさっているようには見えなかったんですよ。
閑の中でも、きちんと準備している。部屋も綺麗に掃除しているし。
港町はどんどんさびれていっても、でも自分たちに他に選択肢はない。ココで頑張るしかないと努力を続けているように感じたのです。
僕は飲食店をしていますが、飲食店がダメになる一番の要因は、「暇」だったりします。
客が来なくなると、掃除も怠りがちになるし、努力も怠りがちになる。
逆に、日々色んな問題点が噴出する飲食店において、一番の問題解決の処方箋は、集客だったりするんですね。
様々な問題を一挙に解決するのが、お客様が沢山来ることだったりします。
お客様が来ないときの、モチベーションの保ち方、これが一番難しかったりする。
僕は、そんな暇な時のモチベーションの保ち方との闘いを続けてきたから、この、遊女たちの、寂れて暇が多い中での、気高さ、意識の高さに胸打たれたのかもしれません。
皆さまどう感じますか?
追記終わり。
永青文庫の、建物の中なのに、蝉の声や、鳥の声が聞こえる中で、来館者も少
ない中、本当にじっくりこの作品と向き合い鑑賞することが出来ました。
最高でした。