図書館の帰り道―。

天吾「そういえばさ、有紗って家どこなんだ?」

有紗「家?」

天吾「ほら、最初の頃なんかよく公園でばったり会ったりしてたろ?」

有紗「そうですね…天吾も、確かあの公園が帰り道だったんですよね。」

天吾「うん…てか、“も”って事はやっぱり有紗もあそこが帰り道なんだよな?」

有紗「…はい…でも、なんで?」

天吾「いや、それだったらこのまま家まで送ってってやろうと思って…。」

有紗「え!?い、いいですそんな…!」

天吾「俺が嫌なんだよ…具合が悪い奴、一人で帰らすの。」

有紗「あ、それならもう平気なんで…お、おんぶももう大丈夫です。」

天吾「…そうか?」

有紗の言う事を聞き入れた天吾は、有紗をゆっくり地面に下ろした。

有紗「うあ…。」

しかし、自分の足で立った途端、有紗は目眩でぐらつき転びそうになる。

天吾「お!?」

それを、すかさず天吾が支えた。

有紗「…すいません。」

天吾「…お前さ…。」

有紗「…はい…。」

天吾「…人って、もっと他人に頼って生きても良いんだぞ?ましてや、お前なんて普通の何倍もキツイ目に遇ってきたんだろ…だったら、尚更人に頼るべきなんだよ…それを、普通の何倍も我慢しやがって…。」

有紗「…だけど…迷惑がかかってしまうから…。」

天吾「…相変わらずバカだなっと。」

有紗「キャ!?」

天吾は、再び有紗をおんぶする。

天吾「迷惑かどうかは、お前が決める事じゃねえんだよ。」

有紗「…え?」

天吾「ほら、もう公園に着くぞ!早く道案内しろよ。」

有紗「あ、はい…えっと…。」

こうして、天吾は誘導の元、有紗をおぶって自宅まで送り届けた。

有紗自宅前―。

天吾「…なんだ、案外俺んちと近いじゃんか。」

有紗「そうなんですか?」

天吾「ああ。」

天吾は、再度有紗を下ろす。

有紗「あの、今日は本当にすい…。」

謝ろうとする有紗を、天吾が睨み付ける。

あ、そうだった…。

有紗「…あ、ありがとうございました。」

その言葉に、天吾から笑顔が溢れる。

天吾「今日の事は気にすんな…そんで、早く忘れろ。」

有紗「…はい。」

有紗は、明らかに不安げだ。

天吾「大丈夫だって!失敗なんて誰にでもあるし、この事知ってんのは俺だけなんだから、明日からまた普通にしてればそれで良いんだよ!」

そう言って励ましながら、天吾は有紗の頭をワシャワシャと乱暴に撫で回す。

有紗「うわわ、ちょっ止めて下さいよぉ!」

天吾「なんだなんだ?ちょっと前まで常にボサボサだったくせに、ちょっとは気にする様になったか!」

有紗「べ、別に…そういう訳じゃ…。」

天吾「まあ、つう訳だからさ…お前はもっと楽天的になれ…そんでもっと人に頼れ…今のお前には、いじめも消えて頼れる相手も周りに出来たんだから…そうだろ?」

有紗「…あの…例えば…例えばなんですけど…。」

天吾「ん?」

有紗「…頼れる相手って、私には誰が居るんでしょうか?」

天吾「…」

俺…と、言いたい所だが…俺には、頼られるだけのスキルが何も無い。

ここでカッコつけて、いざとなった時にゴメン無理じゃ目も当てられん。

天吾「…海とか、珠稀とか?なんなら、英吉だって今じゃお前の味方じゃんか。」

有紗「…そうですね。」

…やっぱり、俺だ!とは、言ってくれないんだ…。

天吾「…そんじゃ、また明日…。」

有紗「…はい…また明日…。」

そう言って、天吾は自宅に帰っていった。

有紗「…でも、今日の天吾…なんだか凄く優しかったな…。」

有紗は、はにかむ顔を隠す様に、鞄を
ギュッと抱き締める。

有紗ママ「今の彼氏?」

有紗「わっ!ママ!?いつからそこに!?」

視線の先には、玄関のドアからニュッと顔を覗かせた、母親の姿があった。

有紗ママ「有紗の声が聞こえたから、ちょっと…それより、今の彼氏なんでしょ?いつからお付き合いしてるの?」

有紗「違うよ!今のは、天照天吾君…ただの…。」

有紗ママ「…ただの?」


天吾『友達でもなんでもないし。』


有紗「…ううん。」

ただの友達なんかじゃない。

有紗「私の、大切な友達だよ。」

有紗ママ「…そう。」

有紗ママが、ニッコリと微笑む。

だが、距離が縮まりはじめた二人の間に、またしても事件が降りかかる事を、この時の有紗はまだ知らない。
図書室を出た天吾は、一人でブツブツと呟きながら歩いている。

天吾「俺だったから、有紗は前進する事が出来たとか…海の奴、あんな媚び売ってなんのつもりなんだ?」

そもそも、あいつが言ってた重大ななにかってのも、単なる憶測なんだろ?

話聞いてると、海も有紗について深く知ってる訳じゃなさそうだし。

天吾「…今度、機会でもあったら有紗に直接聞いてみっかな。」

その頃、教室―。

英吉「ねえねえ、有紗ちゃん。」

有紗「…はい?」

英吉「俺らさ、せっかく友達になれたんだから、アドレス交換しなきゃダメだと思うの!」

有紗「…え!?」

英吉は、戸惑う有紗を尻目に赤外線の準備を勝手に始めている。

英吉「…あれ?まだ準備してないの?ほれ、早く携帯。」

有紗「あ、あの…その…私ですね…。」

?「残念でした!有紗ちゃんは、実は携帯持ってないのです。」

戸惑う有紗を見かねて、突然女子生徒が二人の間に割って入ってくる。

有紗「…たまちゃん。」

彼女の名前は、『横溝珠稀』(よこみぞたまき)。

どうやら、クラスの中で最も有紗と気があったらしく、最近では一緒に居るのをよく見かける。

有紗にとっては一番の友達になり得る人物だ。

英吉「ええ!?そうなの?」

珠稀「だって、私だって有紗ちゃんのアドレス知らないんだよ!ねー、有紗ちゃん。」

有紗「あ、うん…ごめんね、今どき変だよね。」

珠稀「えー、そんな事無いよ!皆持ってるからって、本当は要らない物を、無理に持ってるって方が変だよ!」

有紗「…そうかな?」

英吉「おい、タマ…有紗ちゃん一言も要らないなんて言ってないじゃん。」

珠稀「あれ?もしかして、本当は欲しかった?」

有紗「う、うん、確かに…今までは、要らなかった…かも。」

珠稀「じゃあさ、じゃあさ…今は欲しいと思ってる?」

有紗「…ちょっとだけ…。」

珠稀「えー!そんじゃ、決まり!」

有紗「…え?」

珠稀「今日の帰り、欲しい携帯見付けに行こ!」

有紗「…え、えー!?」

珠稀「…嫌?」

有紗「い、嫌じゃないけど…。」

英吉「よっし!そんじゃ、携帯買ったら真っ先に俺とメアド交換ね!」

珠稀「ダメー!最初は私となの!!ね、有紗ちゃん?」

有紗「…う、うん…そうだね…。」

珠稀「…ん?」

そこに、図書室から天吾が帰ってくる。

ゲッ…まだやってんのかよ…。

天吾「英吉、そろそろ自分の席に戻れよ。」

英吉「あ、わりい…とりあえず、アドレス交換楽しみにしてるからね~。」

そう言って、英吉は自分の席に戻っていく。

天吾「…なんだ、英吉とアドレス交換すんの?」

有紗「…あ、はい…なんか、そうみたいです。」

珠稀「私ともするんだよ!」

天吾「…あー、うん…。」

珠稀「でも、その前に携帯だよね!」

天吾「なに、お前携帯持ってないの?」

有紗「…はい。」

天吾「まあ、要らなかったわな。」

そういう俺も、大して役には立ってないが。

天吾「でも、良かったじゃん…これから、どんどん必要になってくるんじゃん?」

有紗「…あ、あの…。」

天吾「…ん?」

有紗「…えっと…やっぱり…なんでもないです…。」

天吾「…なんだよ。」

珠稀「…んー?」

珠稀は、先ほどから様子のおかしい有紗を見て何か感ずく。

珠稀「…あー…そっかぁ。」

有紗「どうしたの?」

珠稀「んーん、なんでもない…フッフー。」

有紗「?」

昼休み―。

有紗と珠稀が、仲良く昼食をとっている。

珠稀「有紗ちゃんってさぁ…。」

有紗「はい?」

珠稀「テンテンの事どう思ってる?」

有紗「…テンテン…って、なんの事?」

珠稀「天照天吾!名字にも名前にも天っていう字が入ってるから、テンテンなのら。」

有紗「あ、そうなんですか…天吾の事ですか?」

珠稀「えー!有紗ちゃん、テンテンの事天吾って呼んでんの!?」

有紗「…それは…まあ、はい。」

珠稀「うーん、でも変だなぁ…なんで、お互い下の名前で呼びあう仲なのに、テンテンは有紗ちゃんの事友達なんかじゃないなんて言ったんだろ?」

有紗「…下の名前で呼んでるのは、覚悟を決めさせる為の成り行きというか…。」

珠稀「なにそれ意味わからん。」

有紗「…ちょっと説明が難しくて。」

珠稀「まあ、テンテンの事はさておき、今知りたいのは有紗ちゃんの気持ち!」

有紗「…分かりません。」

珠稀「ワカラナイ?自分の事だよ大丈夫?」

有紗「…なんだか…天吾とは、もうこれ以上仲良くなれる気がしなくて…天吾も、私を避けてるようなそうじゃないような…。」

珠稀「有紗ちゃんは、テンテンと仲良くなれなくても良いのら?」

有紗「それは嫌です!…多分。」

珠稀「多分かい!でも、そう思ってるなら相手から歩み寄ってくるのを待ってたら駄目なんじゃない?ましてや、相手はテンテンなんだから…テンテンってさあ、なんだか仲良さげにしてる人達とも、一定の距離を感じるっていうか…まあ、なかなか上手くやってるんだけどね。」

有紗「…そうなんですか?」

珠稀「そう!だから、もっと仲良くなりたいなら、有紗ちゃんから歩み寄ってあげないと、テンテンからは近寄ってきてくれないよ!ぜったい!!」

有紗「…でも、どうすれば…。」

珠稀「丁度良いじゃない!」

有紗「…へ?」

翌日―。

先生「えー、今から班ごとに二人一組に別れて、授業で使えそうな資料を集めて、レポートにして提出してもらう…くれぐれも、どちらか片方に任せっぱなしなど無いように、平等に役割分担するんだぞ。」

英吉「有紗ちゃーん!一緒にやろー!!」

有紗「え!?」

先生「お前、ちゃんと話聞いてたか?班ごとの二人一組だ…お前は、二宮とは別の班だろ。」

英吉「ええー!!そんな縛り決めてなんの意味があんだよ!不公平だよこんなの!」

先生「…なにがだ…。」

珠稀「有紗ちゃーん!一緒にやろー!!」

先生「珠稀てめえぇぇ!!」

放課後―図書館。

と、いう事で…。

天吾「これ、使えそうか?」

有紗「あ、はい…ありがとうございます。」

結局、天吾と有紗が組む事になった。

携帯は、昨日のうちにゲットした…あとは、それを天吾に切り出せば良いだけ…これって、凄い千載一遇のチャンスだよね。

有紗「あ、あの…」

天吾「このページ丸々写しときゃ、それっぽく見えっかな?」

有紗「へ?あ、ああ…そうですね。」

天吾「…ん?いま、なんか言おうとした?」

有紗「い、いえ…続けましょう。」

有紗は、作業を続ける。

天吾「…そういえばさ…聞きたい事があったんだけど…。」

有紗「…はい。」

…なんだろう?

天吾「あの…なんて言えばいいのか分かんないけど…お前が、変わった理由っつうの?」

有紗「…それは…天吾が、色々してくれて…。」

天吾「じゃなくて!その前!お前…元は、今みたいに身なりもちゃんとしてて、性格もそんなおどおどしてなかったらしいじゃん。」

有紗「…え…。」

天吾「それで、高校入る前に何かあったんじゃないかって話になって…そこんとこ、どうなのかなぁ…なんて。」

その話を切り出された途端、有紗の呼吸が急に荒くなる。

天吾「…有紗?」

有紗「…そ、それは…その…うプッ!!」

天吾「ギャアアア!?」

有紗はパニックで嘔吐してしまった。

帰り道―。

体調を崩した有紗を、天吾がおぶって歩いている。

有紗「ごめんなさい…。」

天吾「いや、俺の方こそ…なんかごめんな…。」

有紗「ごめんなさい…。」

天吾「もういいから…。」

有紗「ごめんなさい、ごめんなさい!!」

天吾「分かったから!そんなに謝んなよ!!」

有紗「…う、うう…。」

あまりの恥ずかしさから、有紗は思わず天吾の背中に顔を埋めた。

天吾「…ほんとごめん…有紗にとって、そんなに嫌な思い出とは知らずに…なんか…ほんと無神経だった…。」

有紗「…天吾が謝らないで下さい…私が、いつまでも引きずってるのが悪いんです。」

天吾「…そんなに、嫌な事だったのか?」

有紗「…」

天吾「悪かったよ!もう、この事には一生触れない…。」

有紗「…うん。」

なんだ…有紗って、こんなに弱々しい奴だったのか…。

それなのに、そんなに辛い出来事を、たった一人必死に抱え込んで引きずって…。

なんか…こいつを護ってやりたいと思った。

天吾「…そういやさ、携帯買うんだろ?買ったら、俺ともアドレス交換してくれよな。」

すると、天吾の背後から突然携帯が差し出される。

有紗「…ん。」

天吾「…なんだ、もう持ってたんだ。」

有紗「…私、まだ交換の仕方分かんないです…やって下さい…。」

天吾「任せとけ…。」

なんだろうな…それに、有紗に頼られるのって、そう悪くないかもな…。
それから数日―。

有紗の変貌にも周囲がだんだんと慣れ始め、有紗が男女問わず声を掛けてられている姿を、よく見かける様になっていた。

友子を始め、有紗をいじめていた女子連中も、あれからは比較的大人しく生活している。

特に、海への嫉妬心から有紗をいじめていた四宮は、有紗が海と釣り合う存在だと認めたのか、いじめる様な素振りは一切感じられなくなっていた。

こうして、いじめに来る者の存在は影を潜め、逆に好意を以て近付く者が増えた有紗の学園生活は、劇的な変化を遂げていった。

そして勿論、皆の興味がそちらに集中している為、思惑通り俺への嫌がらせもぱったりと治まった。

ただ一つ、誤算があるとすれば…。

英吉「有紗っちゅわぁ~ん!」

有紗「あ…お、おはようございます…。」

英吉「ちょ、天吾どけ。」

天吾「どわっ!!」

英吉は、ボーっと頬杖をついて座る天吾を席から突き飛ばし、有紗の隣に陣取った。

天吾「…英吉、てめえ…。」

…有紗への人気が集中しすぎて、俺の扱いが以前にも増してぞんざいになった事だ。

天吾「…」

英吉に席を乗っ取られた天吾は、無言で恨めしそうに教室を後にした。

有紗はそれを、心配そうに見詰める。

天吾「…ちぇ、皆有紗有紗うるせえっつの…マジで現金な奴等ばっか。」

有紗の周りには、連日常に誰かがいる状態が続き、天吾と有紗との距離は自然と離れていった。

これにより天吾は、自分が懸念していた事が杞憂であったと実感する事になる。

天吾「…はっ、そういえば…嫌いなら、今後は関わらなければいいとか…今思えば、自意識過剰も甚だしいな…。」

天吾は、窓越しに外の景色を見詰める。

天吾「…今となっては、有紗とは喋りたくても喋れない間柄…か。」

友子「なぁに黄昏てんだよ…まだ昼間だぞ?」

天吾「うおぅ!友子!?」

友子「…二宮の事か?」

天吾「…違うよ。」

友子「嘘つけ!友達じゃないとか言っといて、本当は今の現状にむしゃくしゃしてんだろ。」

天吾「…んな訳あるかよ…そんなの、ただの勘違いだ。」

友子「じゃあ、なんで嫌がらせされてた時より、今の方が元気ねえんだよ?」

天吾「は?そんな筈ないじゃん!マジで有紗とは友達でもなんでもないし…。」

友子「お前は、友達でもない奴の事、下の名前で呼ぶのかよ?」

天吾「…」

それはお前もだよ。

天吾「てか、いきなりなんだよ?有紗に絡めないから、今度はその原因作った俺を狙おうっての?」

友子「あ!?」

バチッ!!

天吾「ぐおっ!!」

友子が、天吾の肩目掛けて鉄拳を食らわす。

友子「てめえなんて狙っても、面白くもなんともねえわ、ボケ!…それと、てめえには忠告しといてやるがよ…二宮の見た目が変わろうがどうなろうが、そんな事私には関係ないからな…。」

天吾「いっ…あぁ!?」

天吾は、あまりの痛みに肩を高速で擦っている。

友子「私に、あいつをいじめる理由なんて、端から無いんだよ。」

それを告げると、友子はその場を立ち去っていった。

天吾「あ、ちょっ!」

はあ?なんだあいつ…一体どういう事だ?

海「どうした?そんなに、肩を擦って…。」

そこに、今度は海が現れる。

天吾「…神奈川のでっかい版には、関係ねえだろ…。」

海「…毎度その呼び方、面倒じゃないか?」

天吾「うるせえな…どうせ、今日も有紗がお目当てなんだろ?だったら、さっさと行けよ。」

海「…いや、今日は君に話があって来たんだ。」

天吾「…俺?」

図書室―。

天吾「…で?わざわざ図書室まで来たけど?」

海「…有紗ちゃんを、改善…いや、元の容姿に戻したのが君だと聞いて…君は、何処まで彼女について知っているのかと思ってね。」

天吾「は?有紗の事って…。」

…まっっったく知らん!

天吾「…てか、元の容姿にって…そういえば、お前前にもそんな事言ってたよな…確か、君は昔の彼女を知らないのかー、とかなんとか…。」

海「ああ。」

天吾「お前こそ、有紗の事なんか知ってんの?」

海「僕が知る限り、中学までの彼女は今の愛らしい容姿そのままだった…それに加え、性格も元気で明るくそれでいて聡明な、皆から好かれる人気者だったと認識している。」

天吾「あいつが元気で明るく!?ウッソだぁ~!!」

海「僕も、高校で初めて彼女を見掛けた時は、とても同一人物だとは信じられなかったよ。」

天吾「…それが、なんで今みたいな感じになっちゃったんだ?」

海「…それは僕にも分からない…だが、高校に入学して彼女の名前を見付けた時、僕はすぐさま彼女の元に飛んで行ったんだが、その時点で既に有紗ちゃんの雰囲気や印象は今の状態になっていた…という事は、中学三年から高校入学までの期間に、彼女の性格すら一変させてしまうような、重大ななにかがあったのかもしれない。」

天吾「なんだよ!なんで、その重大ななにかを知らないんだよ?だってお前、有紗とおんなじ中学だったんだろ?」

海「いや、部活の練習試合の時に行った中学で、偶然彼女を何度か見掛けた程度だ…それからは、僕の単なる片想い…いわゆる、一目惚れってやつだな。」

天吾「…なんで告らなかったんだよ?」

海「当時の彼女は、そういう行為さえはばかれる程、僕には輝いて見えたんだ…今となっては、僕で良いのなら心の支えになってあげたかった…有紗ちゃんが、傷付いてしまう前に…。」

チッ、なんでこいつこんな良い奴なの?

顔も良いし、勉強も出来っし…なんか、生きてるのが馬鹿らしくなる格差だわ。

天吾「…ハァァ、あいつの事真剣に考えてるとこ悪りいけど、残念ながら俺は有紗について全然知らないんだわ…よって、俺はなぁんの力にもなれまっしぇ~ん…って事で、おつっす!」

天吾は、勝手に話を切り上げて教室に戻ろうとする。

海「…本当にそうかな?」

天吾「…あ?」

海「有紗ちゃんは、過去に深い傷を負ったのがキッカケで、心を閉ざし容姿まで変わってしまっていた…それを君は、どんな方法を使ったのかは知らないが、元の美しい姿に戻したんだ…つまりこれは、約三年もの間立ち止まったままだった彼女を、君が前進させたという事に他ならない…悔しいが、これは君だったから出来た事だと、僕は思っているよ。」

天吾「たまたまだっつの!たまたま俺が、無理矢理ビフォーアフターさせたってだけ!キッカケがお前なら、あいつを変えてたのはお前だったの!つまり、早いか遅いかの違い…分かる?」

海「…そうだな。」

天吾「んじゃ、今度こそおつー。」

天吾が、図書室を後にする。

海「君は、何にも分かってないな…天吾。」

天吾が立ち去った図書室で、海は一人悔しそうに拳を握り締めていた。

海「…僕では、彼女を外に連れ出す事さえ叶わなかったんだよ…。」