海「そうだな…まずは、バージョンアップするにあたって、君の今後の方向性を決めていこう。」

有紗「方向性ってなんのですか?」

海「女性…いや、男女問わずに人は、何々系とその見た目や性格から、それぞれがその人物に最も合致した印象で、カテゴライズされて生きている。」

有紗「…はあ。」

海「例えるなら、友子はギャル、四宮はガーリー、珠稀はナチュラルと分けて表現される…さしずめ今の有紗ちゃんは、珠稀と同じくナチュラル系…といっても、まだあか抜けない分地味なナチュラル系と言ったところか。」

有紗「私、地味ですか?」

海「ああ、俺は決して嫌いじゃないが、やはり多少なりとも化粧気は欲しいところだし、髪の質感もまだまだ向上の余地はある…服装に関しても身なりがキッチリしすぎていると、意図せずとも生真面目感が出てしまい、その結果地味と評される原因になっている…そして何より、君のその自信の無い喋り方と、あまり感情を表に出さない表情…根本的にあか抜けない理由は、そこにあると僕は考えている。」

有紗「…な、なんだか、直すところはたくさんあるみたいですね…。」

海「たくさんというか、向上させる箇所ははっきり言って君の全てと言っても過言ではない。」

有紗「…全て…。」

海「それで、君に最も適した方向性なんだが、ここはやはり清楚系で統一した改善をしてみたいと思う。」

有紗「そそそ、そんな、私が清楚になんて…なれるんですか?」

海「というより、君のイメージで清楚系以外のイメージが出来るというのか?」

有紗「…私が…ギャルとか?」

海「ギャルとか。」

有紗「有り得ないです。」

有紗はキッパリと即答した。

海「よし、決まりだ。」

その頃、天吾は―。

天吾「ちくしょう、石崎の野郎!あったま来たぜ!!」

他校の前で、誰かと待ち合わせていた。

?「おう、天吾!」

天吾「よう吉川!久しぶり…わりいな、いきなり呼び出したりして。」

吉川「いや、別にいいけどさ…どうしたんだよ?学校は?」

天吾「…ちょっとな…ところでさ、お前って確か石崎と友達だって言ってたよな?」

吉川「え?うん、幼稚園から中学までずっと一緒だったからな…で、石崎がどうかした?」

どうやら天吾は、石崎と共通の友達である吉川に接触し、石崎に関する情報を探ろうとしていた様だ。

天吾「…あいつ、見た目インテリ系じゃん?」

吉川「はぁ?うん…。」

天吾「やっぱさ、サイバーテロとか出来たりすんのかな?」

吉川「…わざわざそんな戯れ言言うためにここまで来たの?」

天吾「い、いや、これは物の例えでサイバーテロとか出来るくらい、その…ネットとかパソコンに詳しいのかなぁ…と思って…。」

吉川「…いや。」

天吾「え?」

吉川「むしろ、アイツそういうパソコン関係は全くもって駄目だから。」

天吾「…まったまた~。」

吉川「あいつ、キーボードも人差し指一本でしか打てないっつうの…ていうかさ、お前マジで何が聞きたいの?そろそろイラついてきたんだけど。」

天吾「あ、ああ…いや、ありがとう…それじゃ!」

石崎の情報を得た天吾は、そそくさと立ち去っていく。

吉川「あ、おい、天吾!?」

はぁ~!?マジかよ!石崎がパソコン類全般が駄目なら、あの事件…一体誰が仕組んだってんだよ!?
事件発生から三日目の朝―。

海「今日も天吾は来ないのか…。」

有紗「…はい。」

有紗と海は、教室の側の廊下で立ち話をしている。

海「それにしても、今日の身だしなみは気合いが入っているみたいだね…やっぱり、昨日の心境の変化が原因かい?」

有紗「…天吾が学校に来たとき、私の見た目がまた元に戻ってたら、天吾きっとがっかりしてしまうから…だから、出来るだけ頑張ってみました。」

海「…うん、そうだね。」

有紗の一途な想いに、海は笑顔で肯定はしたものの、内心は複雑な心境だった。

そして、有紗の言動が海に更なる妙案をもたらす。

海「…そうだな…これならもしや…。」

有紗「…どうしたんですか?」

海「君が落としてしまったイメージを、回復させる方法があるかもしれない。」

有紗「方法…ですか…。」

そういうと、海は場所を図書室に変え、その方法を黒板を使って説明しだす。

海「これが僕の考えた作戦…。」

バンッと力強く黒板を叩き付け、有紗の視線を集中させる。

有紗はその音にビクッと肩をすぼめる。

海「二宮有紗バージョンアップ作戦だ!!」

有紗「…はあ…。」

有紗はとりあえず拍手をしてみる。

海「君はある失敗がきっかけで、今の悪いイメージに振り回される結果になっている訳だが、それは故意ではなくましてや悪意を孕んだものでもない、いわば生理的な意味での悪いイメージ…つまり、有紗ちゃんは同情こそされても嫌悪され蔑まれる立場に居るのは、むしろおかしな話だとは思わないか?」

有紗「…はあ…?」

海「だったら、周りの皆も有紗ちゃんを心の底から憎んではいない筈、ならばそのイメージを回復させるのも容易い事だ…。」

有紗「…それが、バージョンアップ?」

海「そう!有紗ちゃん自身が、事件が起こる以前よりも更に内面と外見に磨きをかければ、周りもそれに感化されてまた有紗ちゃんの元に戻ってくる!つまり、有紗ちゃんの魅力を高めれば、周りは自ずと事件の事など忘れてくれるに違いないんだ!!」

有紗「…でも、私の見た目がこれ以上良くなるんでしょうか?」

海「何言ってる!君は自分をあまりに過小評価しすぎる…もっと自分の持つポテンシャルに気付くべきだ!君に悪気は無いのは分かるが、捉えられ方によっては君を悪意の対象として敵対してくる輩も少なからず居るかもしれないんだぞ。」

有紗「あ、ああ…はいぃ…自分に、自信を~…!!」

海「…まずは、その喋り方から直したいね…。」
放課後―学校から少し離れた路地。

天吾「よう。」

天吾は待ち伏せをして、学校帰りのある人物を呼び止めた。

石崎「…なんだ、天吾君か…二日もサボっていたと思ったら、俺に何の用?」

天吾「何の用じゃねえだろ…あの時、いきなり濡れ衣着せて、さも正論かの様にまくし立て、俺を犯人に仕立てあげやがって…お前の目的はなんだ?」

石崎「…目的?質問の意図が分からないんだが。」

天吾「お前だろ…真の犯人。」

それを聞いた石崎は、鼻で笑って呆れた様に斜め下を見る。

石崎「なるほど、そういう事ね…だけど残念…その解釈の方が君にとって都合が良いんだろうが、犯人は俺じゃない。」

天吾「じゃあ、なんであの時いの一番にでしゃばって、皆の視線を俺に集中させた!お前、普段は全然目立つような奴じゃねえだろ!」

石崎「心外だな、それじゃ俺が意見を述べる事が不自然な行為だと言いたげだ…お前は、黙ってただ生きてろとでも言いたいのか?」

天吾「ふざけんなよ!そうやって、話反らしてはぐらかそうったって、そうはいかねえんだよ!そういう所が怪しいって言ってんだ!!」

石崎は、感情的になった天吾を見て、頭を抱えて項垂れる。

石崎「そうかっかするなよ、まずは落ち着いて話を進めよう…天吾君、そんなに俺が犯人だと主張するなら、見せてもらおうか?」

天吾「…な、何を?」

石崎「何を?君が俺を犯人だと思う根拠は分かった…だから、今度はその根拠を確信するに値する、証拠を見せろと言っている。」

天吾「…そ、そんなのねえよ!!」

石崎「ハッ、だと思ったよ…だから君は、感情的に喚きたてるしか出来なかったんだもんなぁ。」

天吾「なんだと!?そんなもん、証拠が無くても…。」

石崎「相手に当たり散らすだけなら、猿でも出来る…俺達が賢いのは、理論を用いて話が出来るからだ…そんな俺達が、証拠が無くてもなんて断定の仕方はしちゃいけない…あの時の俺も、断言はしていなかっただろ?」

天吾は、下唇を噛んで怒りを抑える。

天吾「…だ、だけど…お前が仮に犯人じゃなかったとしても、反省とかしてねえのかよ!?」

石崎「反省?誰にだ…君にか?一体何故?」

天吾「お前があの時適当な事を言うから、俺はあらぬ疑いを掛けられて、真の犯人は今ものうのうと学校に通ってるんだぞ!有紗を今この時も狙ってるかもしれないんだ!!」

石崎「あの時の俺の行いを謝れと言っているなら、まずは君から謝ったらどうだ?」

天吾「…あぁ!?」

石崎「俺は確かにあの時、状況のみで考えうる犯人を口にした…それは、結果的に軽はずみな言動だったのかもしれない…だが、今の君にそれを咎める権限は微塵もない…何故なら、ただの一つの証拠もなく、俺と同じ思考で俺を犯人だと決めつけている君は、今君が憤っている俺と全くの同類だからね。」

天吾「…ぐっ…。」

石崎「自分の事を棚に上げすぎるなよ…最低の人間になりたくなければな。」

天吾「…石崎ぃ…。」

石崎「…これだけは釘を刺しといてやる…今こうして、憎まれ口を叩いちゃいるが、俺は本当に犯人じゃない…ま、それを信じるも信じないも、君の勝手だけどね。」

そう言って、天吾の肩をポンと叩いた石崎は、そのまますれ違い再び帰路に着いた。

石崎「犯人探し頑張れよ…あ、それと、二宮さんだが…君が来ない事をとても気にしているよ…どういう意味でかは僕には分かりかねるがね。」

そうして、石崎は天吾から完全に姿を消した。

天吾「…最後まですかした喋り方しやがって…ムカつく!」