高橋「立ち直る準備?自分の両足で、まともに立てもしないのに?この右目は、二度と世界を映さないのに?それでどうやって前を向けば良いの?それでどうやって一歩を踏み出せば良いの?それでどうやって立ち直れば良いの?ねえ、教えてよ!」

恵「…」

高橋「昔、貴方みたいに同じような詭弁を言ってきた人がいたわ…その人は、世界中には君よりもっと辛い境遇の人が沢山居るんだ、だからいつまでも甘えてちゃ駄目だって、私にそう言った…でも、この世に同じ人が居ない様に、苦しみだって二つとして同じ物なんて無いの…だから、私が本当は何に苦しんでるかなんて、他人に分かる訳無い…苦しみだけは、分かち合えるものじゃないの…そんな事も分からない人が立ち直れなんて、軽々しく口にしないで。」

恵「…でも、分かるんだ…君の気持ちなら。」

高橋「…まだ言うの!?」

恵「君が苦しいのは分かる、君はアイドルだったんだ…それはつまり、自分の美貌で夢を売る商売…そんな君が、致命的な傷を負わされ、しかもその事実を大きな力が、世間から消し去った…傷だけはどうやったって消えやしないのに…。」

高橋「…やっぱり…そんな薄っぺらな事しか言えないじゃない。」

恵「でも、君を本当に苦しめてるのは、そんな事じゃない…本当の原因は、自分自身への後悔なんじゃないのか?」

高橋「…へ?」

恵「自分は、まだ途中だった夢と、前だけを向いていた筈の心を、何の前触れもなく突然へし折られた…なのに、同じ事件を味わった筈の小嶋陽菜は、今や自分が当時描いてた夢の、遥か先に居る…その現実が、自分の限界を見定めてしまった…これが自分の結末だと悟ってしまった…あの時、諦めないでリハビリを続けていれば、治っていたかもしれない足を、見えていたかも知れない目を、可能性という名の希望を、不条理という名の凶器で潰してしまった…あの時、自分の弱さに屈してしまった後悔が、既に開かれている筈の未来から、目を背けさせてるんじゃないのか?」

高橋「なん…で?なんで貴方なんかに…そんな事…。」

恵「…俺も君と同じく、何度も事件に巻き込まれて、何度も絶望を味わわされ、何度も大切なものを奪われた…だから、形は違えど君の苦しみに、共感や理解は出来る…分かち合えるもんじゃ無いなら、二倍あればいい…一人じゃ無理なら、二人で乗り越えれば良い…手を差し出されたら…素直にその手を握り返せば良いんだ。」

高橋が涙ぐむ。

高橋「…本当にいいの?」