恵が、教室へと戻ってくる。

恵(どうやら麻友ちゃんの方は、全く問題無いみたいだな…大切に扱われすぎてて、逆に心配になるくらいだったし。)

柏木が恵に話し掛ける。

柏木「さっきのパン、ご馳走さま…多分美味しかったよ。」

恵「多分!?食べたんだよな?」

柏木「食べたけど、なんかよく分かんなかった。」

恵「…あぁ、そう。」

男子生徒が、恵と柏木のやりとりを遠くから観察し、その様子をノートに記録している。

(柏木由紀…天乃恵とは親しげだが、話しは上手く噛み合って無い様子。今日が転校初日だけあって、囮としては恐らく使えない。)

(北原里英…それを、恨めしそうに凝視している。三年間を同じクラスで過しているらしく、よく話しているのも度々見掛けるので、囮として使える可能性大。)

(前田敦子…今日も、いつもの様に寝ている。先生も半ば諦めているのか、最近は注意も余りされなくなった。しかし、男性教師の場合、たまにチラッと前田の顔を覗き込んでは、頬が緩んでるのをよく見掛ける。と、そんな事はどうでも良いのだが、天乃恵とはただならぬ関係の様に思える。噂の範疇を抜け出ないが、二人は付き合っているという説が、今でも根強く語られている。囮最有力候補。)

(高城亜樹…彼女も、今日が転校初日。先程の天乃恵とのやりとりを聞いていると、どうやら以前からの知り合いらしい。彼女については、更なる調査が必要。)

(渡辺麻友…彼女も、今日転校してきた一人らしい。車椅子に乗っており、この中では、天乃恵との関係が一番不明だが、休み時間の度に様子を伺いにいっている模様。要注目。)



放課後

恵「俺はこれから、麻友ちゃんの事で先生に呼ばれてるから、あっちゃん今日は、高城と先帰ってて。」

前田「分かった…ゆきりん、きたりえまた明日ね!」

北原「…本当に一緒に住んでるんだ…なんで今まで気付かなかったんだろ?」

柏木「あの…前田さんとはどういう関係なの?」

前田達が帰宅した後、柏木が、一人残った恵に尋ねる。

恵「ただの従姉だよ。」

柏木「なぁんだ、そうだったんだ。」

北原「なんだじゃ無いよ!従姉って言ったら、結婚も出来る間柄なんだよ!?それが一つ屋根の下一緒に暮らしてるなんて…しかも高城さんまで居るんでしょ!?あ~、やらしいったらありゃいない!!」

恵「…北原!?なんか…いつもとキャラが…。」

(さて、そろそろ調査再開といきますか!)

身支度を済ませた男子生徒が、再び調査に乗り出す。

恵「あ、それじゃそろそろ時間なんで、俺はこの辺で。」

北原「逃げるのか!!」

柏木「北原さん、落ち着いて!」

(あれ!?天乃の奴、職員室にいっちゃった。)



職員室

先生「なるほどな、お父様が元警察官のよしみで、渡辺を暫く預かる事になったと。」

恵「はい。」

先生「渡辺、大変だったみたいだな…先生も応援してるから、頑張れよ!」

先生が、渡辺をありふれた言葉で、励ます。

渡辺「…はぁ。」

恵「それじゃ、俺達はこれで失礼します。」

ガラガラ…

(お、出てきた!)

帰路に着く二人を、遠巻きから男子生徒が尾行している。

渡辺「あの先生、何を頑張れって言うんだろ…気休めなんか、止めてほしい。」

恵「そう言ってやるなよ…先生だって、掛けてやる言葉が見付からない事だってあるよ。」

渡辺「でも、憐れな物を見るようなあの眼…やっぱりイヤ!」

恵「それが悔しかったら、早くその脚治さないとな。」

渡辺「…」

恵「なんだ…機嫌損ねちまったか?」

渡辺「…迷惑掛けてごめんなさい…私、早く歩けるようになって、天乃君家出ていくから。」

恵「おいおい…今度は、何感傷的になってるの!?麻友ちゃんの脚は、精神性の物なんだから、ネガティブになればなるほど、治りが遅れちゃうんだぞ?」

渡辺「ごめんなさい…私、ただ天乃君に迷惑掛けたく無くて…。」

恵「…分かったから…だからもう俺に対して、ごめんなさいは禁止な。」

渡辺「…うん。」

恵「それに脚が治っても、別に家を出てく事無いんだぞ?俺達だって、追い出すような真似はしないし、好きなだけ居れば良い。」

渡辺「…ありがとう。」

(この二人、一体どこまで一緒に帰るつもりだ?)

そして、天乃家前。

ガラガラ…

恵「ただいま。」

「おけーりー。」

(え!?え!?一緒の家に入っていった!?どういう事だ…これ!?)



次の日

旧校舎・地下室

「ほう…天乃恵と渡辺麻友が一緒に暮らしてるのか…。」

「はい!」

「しかも、渡辺麻友はなんらかの理由で、脚が不自由みたいだな…。」

「しかし、天乃恵と一番親密なのは、恐らく前田敦子でして、一体どちらを囮に選ばれるんですか?」

「そんなもん迷うまでもない、天乃恵とただならぬ関係で、その上拉致しやすいと来れば…囮にするのは渡辺麻友…で決定だ。」