ヴェンダー
「おはようマイ・ディア♪ 今日の調子はどう?
う~ん、何も言わなくていいよ、
キミの欲しいものはわかってる・・・」

男が毎朝、ノラ編集者にささやくラブリーな台詞。
そのあとノラ編集者はもれなく50セント払い、
男=ムハンマド(仮名)は、
「スモールコーヒーのミルク入り、砂糖なし」
を渡すところが、ちょっとムードに欠けるのだが。

NYでいいなあ~と思うのは、朝だけ出ている
コーヒー屋台。
コーヒーだけじゃなく、ベーグルやドーナツ、
6Pチーズひとかけら、ゆで卵にバナナ1本、
オレンジジュースなんかも売っている。
ミッドタウンなど、ストリート毎にある勢いだけれど、
行列ができる屋台とそうでない屋台があり、ムハンマドの店は前者。

どこも値段も味も品揃えも、たいした違いはないようだが、
ムハンマドの「あらゆる常連の注文をすべて暗記しているところ」や、
「今日は寒いからチョコドーナツにすれば?」と巧みにすすめるところ、
スタバのコーヒーを手にベーグルだけ買う客には、
「俺のコーヒーが嫌いでもベーグルは忘れられないんだね♪」とイヤミでなく
ニコッと言うところが評価されているのでは・・・と推察。

ということで、
「NYに暮らす間は、アンチ・スタバ!ムハンマドに操を捧げる」と
誓ったノラ編集者であったのだが・・・。

PCが、ボロレジデンスのワイヤレスネットワークに繋がらない。
ネットワークキーが変更されたようだ(勝手に)。
このレジデンスは受付の人もしょっちゅう変わる。
急ぎの仕事がありワイヤレスは必須なので、受付の人が変わるたびに尋ねる。

朝、御茶ノ水博士と同じ髪型のデブ黒人おやぢに、
いつワイヤレス会社の人が来るか聞く。
「OK、OK、キミのためにすぐ来るように言うよ~」
・・・デブおやぢは常に返事はいいが、気がいいだけで全くアテにならない。

昼、感じいい&賢い美人黒人アンジェラに、ワイヤレスマンはいつ来るか聞く。
「確実なところはわからないわ、残念ながら。でも私の責任じゃありません」
・・・アタマのいい人は、常にこう来るんだ。

夕刻、いつもバカそうな縞シャツを着た白人に、ワイヤレスマンはいつ来るか聞く。
「あ~あ~水曜日です、たぶん・・・」

オドオドと答える若い男に、ついにキレるノラ編集者。
「いったい、誰が責任とるんですっ!あなた、名を名乗りなさい!
今、受付にいるからには、あなたがこのレジデンスの責任者ダス!」と恫喝。

・・・あれ~?わたしって怒らないタチで、責任者出せなんて言うの、生まれて初めて。
なんかNYで、野村佐知代化してますでしょうか・・・?

一瞬、そんなことが頭をよぎったが、縞シャツ男の
「ハーイ、ぼくはジョンです。キミの名前は? ないすトゥみーちゅー」
という笑顔の答えに脱力。
あなたとわたし、30回は会ってるよね・・・?

仕方なく近所のスタバ(★ワイヤレス1時間約7ドル。フツーのコーヒー1・7ドル)
に向かった。
まあ今日は月曜。
ジョンが「水曜日です!ぷろみす」と言ったんだから、それまでの辛抱か。
しかし、スタバはやっぱり慣れてるだけあって、居心地いいな~。
・・・ということで、ついワイヤレス1ヶ月(★約40ドル)を申し込んでしまう。
すまない、ムハンマド。
キミは朝、スタバは夜と、それぞれ別の形で愛すから・・・。

そう誓いながら仕事を終え、レジデンスに戻ると
「今夜ワイヤレスマンが来ました」という貼紙が!
人がスタバに行ってるスキに・・・。

「ジョン~!!!あなた、水曜日って言いましたね。
今日、来たんじゃない?あなたのレスポンシビリティっていったい~~!!」
詰め寄るノラ編集者。

「あ~あ~? ボク、あなたと話しました? スミマセン覚えてません・・・」
薄のろの本領を発揮し、ノラクラとかわすジョン。
キミをムハンマドの屋台に、丁稚奉公させたいよ・・・。

「丁稚奉公」が英語で出てこず、野村佐知代化が未遂に終わったノラ編集者。
・・・情けない。




土曜日、野暮用で5thアベニューあたりに行ったら、
デパート通りは買い物客でごったがえし、
新宿伊勢丹の地下食料品売り場みたいになっていた。

どこもクリスマスのデコレーションは素敵だけど、
あまりの混雑に辟易。
「ホリデーシーズンにつき半額サービス中★1ドル」
バスに乗って、ロウワーイーストに移動する。

クラブが開く夜は別として、陽のあるうちのこのあたりは、
土曜日でもひっそりとしている。
デートしているカップルもいるけれど、
寒いことも手伝って、人はまばら。
「犬に服を着せるなんてったく!」と思っていたが、
着せないと気の毒と思えるくらい、寒い。

古着屋の定期チェックを終え、お洒落雑貨屋TINYで
懸案の加湿器(★25ドルくらい)を購入。
形はおしゃれだけど、サイズがマグカップくらいだから役に立つのか…。

…と思って歩いていると、ふと、舗道沿いの窓ガラス近くに飾ってある絵が
目に付いた。
ごくごく小さいギャラリーなのか、個人のアトリエなのか、
中には同じ画家の作品が数点、飾ってあるようだ。
暗いがこっくりした色合いの人物画で、どこかに寂寥感がある。

部屋の真ん中に、キャンバスに向かっている男性がいる。
わたしに気づいたのか、ドアを開けてくれた。
「外は寒いでしょう?中に入っていけば?」そう言って微かに笑う。

人物画のほかに、暗い小さい海の絵がある。
油絵のように見えたが、違うようだ。
「ああ、キャンバスじゃないよ。ボード。板に描いているんだ。
この風合いが気に入っていて」
青い目をした男性が言う。
「画材が気になるって、キミも絵を描くの?」
「油絵は昔、描いていましたけれど…今は趣味さえ、なくなってしまいました」

クリスマスが近いからか、バッハの鎮魂ミサ曲がかかっている。
茶と白の大きな縞猫がやってきて、男性のジーンズに包まれた足によじ登る。

「僕も以前は油絵をやっていたけれど、これはアクリル。
油絵は乾くにも時間がかかりすぎる。僕には時間が足りない」

彼はウォルターと名乗り、わたしも名を名乗る。
「わたしは、あなたの作品の、あともすふぃあ、が好きです」
わたしが言う。
「僕もキミのアトモスフィアが好きだよ」
ウォルターが微笑む。立ち上がる。清潔な樹みたいに背が高い。
「新しいカプチーノマシンを買ったから、試そうと思って。飲んでいく?」
猫が、わたしたちのやり取りを、少し不快そうに眺めている。

一時間後。
わたしはベッドに横たわり、見知らぬ男性の指技に翻弄されていた。

流れているのは鎮魂ミサ曲ではなく、いまさらのマライア・キャリー。
漂うのはラベンターろうそく、猫の放つ日なたの匂い、絵の具の匂い
…でなく、デリバリー中華の肉と油の匂い。

わたしの身体を翻弄しているのは、ほど近くにあるマッサージ屋の
ガッチリ体型の中国人(英語がほとんど通じない…)であった。
(★チャイニーズマッサージ、30分で28ドル。
効くけど揉みかえしがスゴイ~)

ウォルターは素敵な人だけれど、推定70歳。
愛を育むには、ほんの少しだけ時間が足りないようだ。(当社比)

参考: 運命の女 特別篇
oji

チャイナタウンのベトナム料理屋で、
韓国娘ジニーと、フォーを食べる。
(★シーフードフォー4・5ドル。激安!)
幸せなカップルはこれから、ロックフェラーセンターの
クリスマスツリーを見に行くのだろうが・・・。

ジニーは24歳。
ソウルからNYに来たのは、彼氏を追ってだそうである。
その「彼」は日系アメリカ人。
ソウルで一年間、英会話学校の講師をしていた際、彼女と知り合ったらしい。
しかしその「彼」、せっかくやってきた彼女にすこぶる冷たく、
「月に1回くらいしか会ってくれない」という。

「日本の男って、そういうものなの?」
必死のまなざしでノラ編集者に説明を求めるジニー。
聞けば、彼氏のご両親もアメリカ生まれのアメリカ育ちだそう。
そんな人を「日本の男」と呼んでいいのか?
それ以前に、ナニジンだろうと、なんとなく結末は見える気が…。

だが、やめろと言ったって、こーゆーことは、やめられるものではなかろう。
「う~ん、わたしの英語力だとうまく言えない」
333ビールをがぶがぶ呑んで、適当にごまかす。

「フツーの日本人は、月に何度デートするの?」
「人によりけりじゃないの?」
「クリスマスはどう過ごすの?」
「人によりけりじゃないの?」

なおも話しつづけるジニーに相槌を打っていると、
隣のテーブルに、アメリカ人の女の子が座った。
年の頃は20代後半。ちょっとデブだが、結構かわいい。

「待ち合わせなの。すぐ来ると思うから、ビールちょうだい」チビで愛嬌のあるベトナム人店員に、馴れた様子で言っている。
しかしバドワーザーを呑み終わっても、もう一本頼んでも、
一向に彼女の連れが来る気配はない。
何度も何度も時計を見、しきりに携帯で電話しているが、
繋がらないようだ。

ようやくアメリカ娘の携帯が鳴った。
「どこにいるの…?えっ?まだ家?わたし7時って言ったよね?
7時。いまは8時15分前じゃない!」
矢継ぎ早に、なじっている。
向かいのテーブルでは、生春巻きを食べているうら若き黒人娘の手を、
金持ちそうな白人爺さんが、なでなでしている。
ジニーはまだ、彼の話をしている。

ジニーと別れ、カナルストリートからアップタウン行きの地下鉄に乗る。
走り出してまもなく突然停車し、15分もそのまま。
なんの情報もなく、閉じ込められる乗客。ようやく動き出したと思えば、
「すみませんが次の駅で終点とします。一人残らずさっさと降りなさい」と
すこぶる勝手なアナウンス。

地下鉄が駅に着いた。
扉が開く。
乗客たちは怒り出すと思いきや、みんなおとなしく降りて平気な顔。
「It's NewYork」
黒い小さな帽子をのせたユダヤ人が、独り言を言っていた。
















minato
正しい日本人として働く際、大いなる障害となった
嗜好…それは「トリ嫌い」。

長いこと、生きている鳥も死んだトリ(肉)も
忌み嫌う人生を送ってきた。
そのため焼き鳥屋に行けず、
ケンタッキー・フライドチキンに行けず、
付き合いの範囲を狭めたことも多々あった。(?)

かつ「お正月に明治神宮や実家に行くくらいなら、
北千住のスナックで知らない労務者と
歌っていたほうが良い」と言ってはばからぬ
無頼派(?)ノラ編集者がサンクス・ギビングを祝うわけがない。

よくわからないが感謝祭とは、日本のお正月に近いのでは
ないだろうか?
紅白のかわりにフットボールかなんかを一家で見たりして。
CICビクター・ビデオ
セックス・アンド・ザ・シティ シーズン 1
にも感謝祭のシーンが登場することは
なかった気がするので、独身女には辛い季節なのか…?

…などと思いつつ、ボストンに行ってきた。
レトロにアムトラックに乗って電車旅行。(★片道約100ドル)
朝の10時、食堂車でコロナを購おうと注文したら、
笑顔だった売り子兄さんの顔色が変わった。

「もし、今、呑むなら、あなたはアルコールに関して
深刻な問題を抱えていると人に思われる、と個人的には思う。
わたしの言っていることが理解できますか?」

…アメリカ人はなぜ、人の飲酒にこれほどまで横槍を入れるのか?
怪訝な顔でいると、
「今は朝。朝の10時。じ、ゆ、う、じ。わかりますか?」
念を押す、売り子兄さん。
「はい、10時です」
おとなしく同意すると、
「アメリカ人、特に東部の人間は、時間帯を意識するのである。わかった?」
悦に入り、ベロの動きまで見せつけて、さらに念を押す売り子兄さん。
悦に入るのはいいけど、あんた、商売人じゃないねえ…。
そう思いつつ、くじけてコーヒーを買う根性なしのノラ編集者であった。

翌日の11時。
装丁家のS田さんが絶賛していたボストン美術館にでも行こうかと、
のらくら部屋を出た。
ピカソの青の時代のヌードを見るのが趣味でもあるし、
たまには酒浸りから脱し、アートな旅を楽しむつもりであった。

…薄暗いホテルの、長い長い廊下。
歩いていくと、男女が抱き合っている。
べつに抱き合うくらいはいい。だが、よく見るとキスをしている。
べつにキスくらいはいい。しかし、それがめちゃんこ(死語)
ディープな、お互いを貪り食らうような、物凄いキスなのだ。
「できれば室内で執り行って欲しい」というレベルのキスである。

しかも女のほうはなんと、先ほど「お掃除はどうします?」と
ノックしてきたルームサービスのおばちゃん(推定61歳)ではないか…!

別に、場末のホテルではない。
星が四つあり、プールもフィットネスクラブもある、立派なホテルである。
相手の男といえば、やはりホテルのスタッフと思しき白髪頭の白人爺さんである。

朝の11時に熟年スタッフがディープキスしてるホテル…。
これが時間帯を意識する東部の頭脳都市、良識あるボストンなのか?

「旅人は何かを見ても、そのわずかな経験を基に、この国はこうです、
と決して言ってはならない。
わたしが見たときは、たまたまこうだっただけ、という認識を
持ち続けなければ、旅をする資格はない」
…というようなことを書いていたのは、曽野綾子さんだったと思う。

だが、クラムチャウダーを食べても(★どこでも7ドルくらい)
生牡蠣食べても(★どこでも半ダース12ドルくらい)サミュエル・アダムス呑んでも(★ボストンの地ビール。7ドル弱)ピカソ、浮世絵、ゴーギャンを見ても、
熟年のディープキスが浮かんでしまうボストン…。

「わたしが見たときは、たまたまこうだっただけ」
ということを、切に願うノラ編集者であった。


yoga

めっきり寒くなったSOHO。
むちゃくちゃお洒落な人&
むちゃくちゃスタイリッシュなゲイ&
むちゃくちゃ金持ちそうなドラッグクィーンが
混じった行列がある。

聞いてみると、DOLCE&GABBANA(最近別れたらしいが、
ゲイのカップルがデザインするイタリアのブランド)の
セールだという。
つられてベルトを買ってしまった。(★170ドルの60%オフ

NYはしょっちゅう、サンプルセールを
やっているようである。
Sigerson Morrison(NY発の靴ブランド)もやっていて、
黒いサンダル(★220ドルの70%オフ)も買っちゃった…。

しかし、いくらセールとはいえ、1ドル119円になった今、
どうにかこの、物欲という煩悩を振り払わねば…。

ということでNY名物・ヨガを始めることにした。
噂によるとホットヨガというものは
低温サウナくらいの室温の中で簡単なポーズをとり、
あとは瞑想してればよく、精神統一に効くらしい。
なあんだ、後楽園ラクーアのカップルサウナと同じ(←?)

行ってみたのはアッパーイーストにあるSome like it hot yoga。

http://www.somelikeithotyoga.com

初心者向けイントロダクション・レッスン。
(★最初の一週間は20ドルで通い放題。貸しヨガマット4ドル

バレエレッスン室みたいな鏡張りのヨガ道場(?)に、
生徒は女性ばかり8人ほど。
おのおのヨガマットを敷いて、水をがぶがぶ呑んでいる。
インストラクターは、ウィルヘルミーナという若い金髪美人

「ヨガとはスポーツではありません。身体の声を聴くことです。
瞑想を通して、心を開くことです。さあ、息を吸って~吐いて~」
…なんか、さんざん編集してきたニューエイジの本みたい。
ヒンズー教っぽいゾウの置物もあるし…。

などと雑念がよぎっていたのは、ほんの一分。
無我の境地に入った…わけでは、全くない。

すごーく簡単そうなポーズに、わたし一人が全くついていけない。
腕立て伏せの応用みたいのや、タイの「いらっしゃいませ」の変形ふう
ポーズをやるのだが、お洒落なウエアでこなしていく女の子たちのなか、
超ださい安ジャージ(★道端で19ドルで購入)を着たわたしだけ、
常にワンテンポ遅れる。
こりゃあ、小学校の体育の時間と同じじゃないか…。

「右足をあげて~かかとをちょっと浮かせ~パッとつかむ」
これを英語で聞きながらやるとなると、チャクラが開くどころか
脳髄が流れ出そうだ。
したたる汗で、ドブ川で溺れた野良猫のように全身びしょぬれ。
半べそになっていると、ウィルヘルミーナが近寄ってくる。
「ナイストライ!OK!」
爽やかに笑い、ぐにっと足を無理やり開く。ぐえ、阿鼻叫喚…。

修行でなく拷問のような一時間が終わり、寝そべって最後の瞑想。
「身体の声を聞きましょう~」
…もう、こんなことは沢山だと言ってます。
「胃をリラックスさせ~心を温かな塊とイメージしましょう~」
…わたしの胃は、アルコールで温まるほうがイメージしやすいらしいです。

なんて思っているうちに、心と筋肉がゆったりとほどけていく…。

数分後。
気がつくと、次のレッスンを待っている20人ほどの男女が、
一人、大の字で眠っているわたしを迷惑そうに睨みつけており、
ウィルヘルミーナが「メディテーションは、おうちでやってね」と
引きつった笑顔で懇願していた。