【内観21】から続く)

●日本の国への償いを

 以上の通り、私が内観を通じて得た体験から、自分なりのオウム問題の総括について述べてきました。

 これまで私をオウム問題の総括に強く向かわせたものは、やはり、子供の頃から抱き続けてきた日本の国への想いでした。

 「オウムは、現代日本の暗部を投影していた」
 「戦前・戦中の日本の過ちを繰り返したのが、オウムだった」

という論説は、オウム事件以後の20年以上にわたって、多くの識者によって説かれてきました。

 その一つ一つにはここでは触れませんが、私自身の経験に照らしてみても、その通りだと思います。

 だとすれば、オウムの罪に向き合い、総括していくことを通じて、過去や現在の日本の問題点を明らかにし、その克服のためのヒントが得られるのではないか?

 そうすることで、よりよい日本をつくることに、少しでもお役に立てるのではないかと考えたのです。それが、オウムによって深く日本を傷つけてしまった悪行に対する、せめてもの償いになるのではないかという思いがありました。

 


●国際会議で述べた「和の国」への想いと償い

 2013年5月25日から26日にかけて、世界各国の内観実践者が、東京都内に集まり、「第9回 内観国際会議」が開催されました。内観国際会議は、基本的に3年に一度、関係各国の持ち回りで開かれており、2013年は日本で開かれたのでした。

 会議には、オーストリア、ドイツ、アイルランド、中国、台湾、韓国、そして日本の大学教員や学校教師、企業経営者、内観研修所長など、多くの人々が出席し、各国の内観の実践状況や研究結果、体験談などを発表しました。

 私は、この2日間にわたる会議の一番最後に、発表の機会をいただきました。

 


 もともとナショナリストの傾向があった私がオウムというカルトに嵌り込み、その過ちに気づいて「ひかりの輪」の設立に動き、内観の実践を通じてカルトを抜け出してきたこと、20年ぶりに実家に帰って両親に受け入れられたこと、そして多くの人の内観のお手伝いに努めてきたこと――を、世界各国からの参加者の前でお話ししていきました。

 私の母が「あんたはどこに行っても、うちの子やで」と言って受け入れてくれたのをきっかけとして、天のお日様が、大地が、木々の緑が、雨や風が、天地自然のすべてが、同じ言葉を私に発して、「大いなる母」として私を受け入れてくれる感覚に包まれるようになったこと、そして、それは日本の自然だけでなく、おそらく中国に行って中国の自然の中に入ったとしても、同じような感覚に包まれるであろうこと。大いなる母なる自然のもとでは、日本人も中国人も、ひとしく母の子であり、つながりある存在であること。

 内観を通じて感じるようになった境地を、子供の頃から親しんだ中国古典の『論語』も引用しながら、約1時間にわたって述べさせていただきました。

 中国の方が比較的多く来られていたことと、私自身『論語』に親しんでいたこと、そして日中関係が難しい局面に至っていたことがあったせいか、自然と中国を意識した話し方になってしまったのですが、そのために講演終了後は、にこやかな表情の中国の皆さんに取り囲まれました。

 「あなたのお話は、私たち中国人の心を打ちました」と言われ、次々と握手や記念撮影を求められ、美しい中国の伝統工芸品まで頂戴したのは恐縮でしたが、内観を通じて中国の皆さんと心の交流ができたのは、うれしく感じられました。

 いずれにせよ、内観は、過激なナショナリズムやカルト(その両方は相通じるものがあるのですが)を克服し、人と人との「つながり」を回復する効果があり、人と人とを分断させるような危険な考え方が広がりつつある現代には特に必要とされるものだという訴えが少しでも届けられたのなら幸いに思います。

 そして、それが、本当に周辺諸国や諸民族と調和する、真の「和の国」としての日本のお役に立てるなら、日本の国に対するせめてもの償いになるのではないだろうか――そのように日々考えています。

                                                  (終わり)

 

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※ひかりの輪で取り組んできた内観については、こちらの記事もご覧ください。