製作年度:2003

製作国:アメリカ

監督:コーエン兄弟

出演:ジョージ・クルーニー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ジェフリー・ラッシュ、ビリー・ボブ・ソーントン

 

 腕利きの離婚訴訟専門弁護士、マイルズ(ジョージ・クルーニー)は離婚して財産と自由を手にしようとするマリリン(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)に勝訴する。彼女がそのまま引き下がるはずはなく……。(シネマトゥデイ)

 

 コーエン兄弟の映画は久々に見ました。「ノーカントリー」辺りは有名でしょうか。ジャンル問わず色々映画を作っている印象ですが、自分は結構昔見た時は、この監督の作品はわからなかったんです笑。でも、ちょっと経ってから色々見ると、独特の面白味が何となく理解できるようになって笑。それ以来はまあ、新作があると見たいと思える映画監督となりましたね。この映画も、どうなんでしょうか、コーエン兄弟作品の中ではそれこそ「ノーカントリー」辺りと比べると地味目な印象も受けますが、自分は凄く面白い映画だと思いましたね。まあ、これもコーエン兄弟流のブラックコメディ映画でしょう。一筋縄じゃ行かないロマンス映画と言いますか笑。ちょっとストーリーだけ見て取ると、この映画を被るタイプの物は自分は見た事が無いので、オリジナリティがあるなと勝手に思ったんですけどね。まず、ジェフリー・ラッシュの離婚劇が冒頭で描かれます。ただ、この映画は別にジェフリー・ラッシュが主人公では無くて、G・クルーニーが主人公の映画。しかも、ジェフリー・ラッシュの離婚劇が全編通して描かれる映画じゃありません。ただ、この冒頭部はあくまでこの映画のコメディテイストをきちんとまず見せるという意味合いで、この構成になったんじゃないかと思います。一応「騙し、騙され」みたいな話であり、なおかつ法律問題も絡む話でありまして、実際はややこしい面もあると言えばありますよ。でも、まずその事情はこの映画は冒頭で説明しないんですよね。ですから、単に「アハハ」と笑えるテイストでまず始まるのは、観客にとっては優しい作りだと思うんです。

 

 その辺が凄くコーエン兄弟の上手さだと思うんですよね。オープニングでまず観客の心を掴むって言う。この辺はC・タランティーノ作品なんかでも感じますね。単純にお話の「始まり」を一番最初に持ってくるのではなくて、お話の「テイスト」を説明する部分を冒頭に持ってくるという技。何か映画作りの余裕というか、自信というか。そういうのを感じる構成ですね。そして、G・クルーニー演じるマイルズの敏腕ぶりが描かれて行きます。離婚問題専門の弁護士ということで、初っ端からまず彼が自信満々の男であるということがきっちり描かれる。例えば、頻りに自分の「白い歯」を気にしているシーンが特に序盤で見せられるのですが、これはやっぱり自分の「見た目」に自信を持っている表れだと思うんですね。「今日もしっかりイケてるな、俺」みたいな笑。また、途中で自分が生活に「退屈」しているというセリフも語られます。弁護士として認められ、新車を買うくらい経済的にも余裕がありますが、何か彩りの無い生活だということですね。この辺のまず主人公マイルズの人となりが、基本的に映像にて説明されているのは映画らしくて良いポイントです。すんなりとマイルズの人間性がわかります。だから、無駄がないなと脚本的には感じるわけですね。そして、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ演じるマリリンというこの悪女が登場しますが、マイルズが彼女に一目惚れする展開になります。ただ、まあこれ普通に考えたらこのマリリンと言う女性は確かに美貌は認めますけども、性格的には明らかに悪いじゃないですか笑。じゃあ何故、マイルズが彼女に恋するのかというのは普通は疑問だと思うんです笑。でも、それはマイルズが生活に退屈しているという設定がちゃんと効いてくるわけですね。

 

 

 つまり、彩りの無い生活にマリリンのような一筋縄じゃ行かない悪女が現れたことで、マイルズが単純にやる気を出して、尚且つ彼女に注目してしまうという理屈が通ります。また、このマリリンにマイルズが一泡吹かされてしまう展開がありますので、要は彼にあった「自信」も崩れる。ここで、マイルズが「自信満々」だったというキャラクター設定が活きてきますよね。今までの彼のキャラクターがどんどん、マリリンによって振り回されるわけです。ですから、マイルズが「何だこの女は…」と燃えていく説得力になるなと思うんですね。そして、歪な恋愛劇の出来上がりってな感じでしょうか笑。とにかく、この明らかに「特殊」な恋愛劇をコメディとして仕立て上げようとする為の、言わば「下準備」が精密だなと感じます。それは人間描写ですね、やっぱり。そこが優れているからこそ、「ん?何で?」と言う風にこちらが変に混乱しないというか、「特殊」であっても面白がりながら見ていられる構図になっていると言いましょうかね。たぶん、大真面目にこの映画を描けば、もしかするともっと生々しい映画になったかもしれないし、ドロドロした映画になったかもわかりません。人によっては官能的に描いたり、サスペンス風に描いた人もいるかもしれません。でも、この題材をブラックコメディテイストの、ロマンス映画にしたというのは、やはりコーエン兄弟のユーモアセンスならではだと思いますね。一つのジャンルをまた違った角度から見て、「遊ぶ」と言いましょうか。考えてみますと、「バーバー」にしろ「ファーゴ」にしろ、やはりコーエン作品は共通してそういう風味がありますね。ただ「サスペンス」とかただ「恋愛」と言うだけじゃなくて、ちょっと良い意味で横道に逸れる余裕があるというか笑。結果的に終わってみれば、非常に多層的な映画に見えるという。凄くだから洗練されているし、オリジナリティに溢れていると感じます。

 

 また、これは自分の勘違いかもしれませんが、弁護士事務所のボスとマイルズの関係が、妙にダース・ベイダーと皇帝のような関係に見えましたね笑。マイルズはこのボスには何故か逆らえないし、困った時に助言を求めに行く。しかも、このボスの出で立ちが明らかに誇張された怖い老人みたいな見た目なので、何かその辺は思い切ったユーモアだなと思うんですよね笑。これまた、歪な師弟関係ですよ笑。結局、話はどんどんとエスカレートしていくのですが、やはり先ほど書きましたように、人物設計がしっかりと組まれている為に、どう転んでも不思議に思うことなく、むしろ「もっとやれ!」的な感じで、こっちもボルテージが上がるような出来上がりだと思うんです。これは、かなり理想的な映画の形では無いでしょうか。映画の中で「婚前協定を破る」という描写が結構あるんですけど、これまたラストの方で活きてきます。コメディ的な伏線がまた綺麗に回収されていく辺りも、さすがだなと自分は思いました。この映画はその、「大事なのはお金じゃなく、愛なんだ」っていう真っ当なテーマもあるのかもしれませんが、逆に言いますと、男女の関係で「約束」など無意味では?というテーマ性も感じるんです笑。と言うのも、やはりこのマイルズとマリリンの関係はかなり脆い物に見えますし、いずれはまた何らかの理由で破局を迎えてもおかしくないと思うんですね笑。破局どころか生きるか死ぬかの泥沼だったりする可能性もありますよ笑。アメリカは特に訴訟などが多い国ですから、結構一般的な問題としてあるかもしれませんが、実際日本に関してもそりゃ、最初は愛し合って結婚すると思いますが、結果離婚するとか、嫌いになるとかまあまあある話ですからね笑。でも、この映画はですね、結局その一瞬一瞬の「燃え上がり」とか「テンション」とか、それを大事にしていますよね笑。それが仮に勘違いとか、失敗だったとしてもいいんですよ笑。所詮、「愛」ってそういう事だと笑。「騙し合い」もこれ大事な所がもしかするとあるかもしれません笑。

 

 

 案外、綺麗事じゃない所を上手くコメディで描いてるのかなと思います。まあ、「ブラックコメディ」と言うジャンルほど難しい物はありませんよね。如実に作り手のセンスを問われます。ウディ・アレンなんかはそういうのがお得意な監督さんの代表格だと思いますが。この手の激烈な恋愛を、「真面目に~」と言うよりはウィットに富ませて描くのは、お見事だなと思いましたね。序盤でも書きましたが、存在自体は地味目な映画かもしれませんが、ハイクオリティだと思います。

 

 

おすすめ度☆☆☆☆☆