
ベジータと悟空の前に現れたもう一人のカカロット.
それは異次元からきた最後のサイヤ人だった.
1.もうひとりのカカロット
白昼夢というものがあるとしたら・・
まさしく昨夜のベジータの体験がそうなのだろうと思う。
自分が感じたあの感触や
しびれるような切ない気持ちは
本来の自分がもってはいけないものだと思う。
しかし。
いや、まて。
昼という字がつくのだから夜のあれは
白昼夢じゃないのか?
どうでもいいが・・・
ベジータはそんなことを
ただぼんやりと考えていた。
うずく。
自分の中のどこかが、うずく。
最後までベジータの手を握り締めていた
あいつのぬくもりは
はっきりとまだベジータの手のひらに
残っていたのだけれど
いまはもう彼はいない.
髪の毛一本のこさず
消え去ってしまった・・・。
「あーあ
いっちまったなあ」
声をだしたのは悟空だった。
その声にベジータの背中が
びくり、と反応した。
「せっかく仲良くなったのによー」
「ガキか、貴様は・・・」
ベジータは悟空の顔みた。
純真な子供のような瞳を持つ
いつもの笑顔がそこにあった。
「・・・」
ベジータは
じっと自分の手のひらを見つめた。
ふと視線を落とす。
ベジータの足元には
ベジータと悟空の影だけが
黒々と広がっていた。
異変が起きたのは
ほんの2、3日前の朝だった。
あまりの狭苦しさに
横にブルマとトランクスでも来たのかと
布団をめくって確認したベジータである。
ところが
隣に寝ていたのは悟空だった。
「・・・こいつ・・・
ほんとにねてやがる・・・」
いきなり悟空が
ベジータの身体を抱きしめた。
「あっ、
このくそやろうがっ!」
目を閉じたまま
ベジータの上に乗る悟空。
重たい。
そのうえ、・・・でかい。
「・・ぐは・・・
やめろ・・・・やめ・・」
「チチ・・・はらへった。」
「はらへったじゃねえっ!!!」
べし!
「いてててて!」
「でてけっ!」
悟空は目を真ん丸く開けた。
「・・殴るなよベジータ。
・・一寸お前に用があって
気を探ったら
偶然ここにでたんだ。」
「何を言ってやがる、
そう毎度毎度
俺が寝ている横にでるはずないだろう。」
「偶然だよ。
おめえの横ってぬくいし
おめえすごくいいにおいするしなア
ちょっと寝てみようかと・・・」
「それも何回も聞いたいいわけだな。」
「おめえだいてると気持ちいいんだよな」
「チチを抱け!
お前の女を!!
俺の足の間に
冷たい足をいれるな!」
「なんだよう・・・」
どげし。
悟空はベッドの下に蹴り出された.
「いちいち
おこんなよ」
床に座り込んだ悟空は
カーキ色のパンツに黄色いTシャツ姿だった.
「・・・なんの用だ?」
ベジータは布団をかぶりなおすと
悟空に不機嫌丸だしで
背中をむけた。
「かんじてくれよ・・・
この気を」
「気?」
「ほらあ・・
・・・これだよ」
ベジータは布団をかぶったまま
嫌そうに答えた。
「・・・・気分の悪くなる気があるな。
たしかに」
「まじめに考えてくれよ」
悟空は唇を尖らせた。
「いつからだ?」
「夜明けかなあ・・・・
こいつの着地音で
おらは目覚めたんだ.」
「さっさと見てくればよかろう。」
「えー?」
「俺をいちいち
くだらんことに巻きこむな。」
「だってよー
ベジータァ」
「・・・」
「頼むよ、
一緒に行ってくれよ」
それでも
ベジータにも気になる部分があるらしい。
ベジータも
ようやくのろのろと体を起こした。
「うるさい奴だ・・・先に行ってろ。
俺は後から行く。」
「なっ、なっ
頼むぜ、ベジータ.」
悟空はおでこに指を当てると
満面の笑みを浮かべ
さっと消えていった。
ベジータは悟空がいなくなるのを見計らって
ベッドから這い出し
床に散らかした下着やシャツを
ゆっくりと手に取った.
「厄介なことにならなきゃいいが」
そうつぶやきながら
多分ほとんど厄介な状態になってるんだろうなあと
ベジータは思うのだった。
「あら、ベジータ」
自室を出ると
いきなり廊下に洗濯物を抱えたブルマがいた。
寝癖のついたままのベジータが
ちゃんと服を着ているのを見て
ブルマが声をかける。
「めずらしいわね。
一体どうしたの?」
「ちょっと野暮用だ」
「朝の食事は?」
「戻ってから食う。」
「ええ?」
「・・そうだな。
カカロット3人分くらい用意しておいてくれ。」
「なによ、それ?」
「戻ればわかる。」
遠くのほうでベジータを呼ぶ
トランクスのはしゃぎ声が聞こえたが
ベジータはかまわず飛び出した。
「ちょっと、ベジータ!
買い物はどうするのよ!!」
ベジータは飛んだ。
がらにもなく胸がどきどきしている。
どんどん北へ向かっていくと雲が晴れ
荒れ果てた岩山の間に
「それ」がみえた・・・・。
ベジータは息を呑んだ。
想像はついていたものの
やはり驚かずにはいられなかった。
彼の目に飛び込んだもの
・・・それは間違いなく
フリーザ軍の
一人乗り宇宙船だったのだ。
その乗り物は
ベジータが昔それに乗って
数多くの星を破滅させ
数え切れない多くの命を踏みにじった事実を
否応なく彼に思い出させたのだった。
・・・つまらんものを見たもんだ。
「よう」
傍らには
悟空が腕を組んで立っている。
ベジータはすっと舞い降りた。
「どういうことか
さっさと説明しろ.」
「そんなの
おらにわかんねえって。」
「役に立たない野郎だ」
ベジータはちっと舌を鳴らすと
そっと宇宙船に歩み寄った。
「間違いない。
フリーザ軍のポットだ.
だが・・」
「なんだよ?」
「俺の知ってるものとは
微妙に違う。
ここをみろ」
「??」
ベジータはドアの横にある部分を指差した。
「これはな、
・・・ベジータ王族の紋章だ.」
「へえー」
「惑星ベジータが消滅するまで俺たちはこれを身につけていた・・・。」
おら、はじめてみた。」
「昔のことだ。
俺も
子供の時以来か。
まさか今さら・・・こんなものを
見るとはな。」
それでもベジータは紋章の部分を
なつかしそうに
そっと、なでた。
「でも問題は
中にのってるやつなんだよなー・・・」
「そのとおりだ」
「ベジータ、
おめえ開けてくれよ」
「なぜだ」
「なんかみたくねえんだよな、
おら」
「いいぞ。
予想どおりの奴だったら
この場で殺してやる」
「そりゃねえよ、
ベジータ」
悟空は慌てて
ポットのドアに手をかけた.
宇宙船は
特に壊れているわけではなく
ベジータの指示どおりの手順で
ドアは静かに開いた。
「あちゃー・・・」
悟空が叫んだ.
「本当におらだ。
おらがのってる。
もうひとりのおらじゃないか・・・」
2 おめえはおらだ.
ポットに中にいたのは
ふたりの予想どおり
悟空本人だった.
フリーザ軍の戦闘服を着た・・・。
ただし
年齢はずいぶん若く見える。
特に怪我をしている様子はなかったが顔は薄汚れ
戦闘服には何箇所も返り血がついている。
「・・・わかいな」
「ああ・・・」
悟空はどうしようという顔をして
ベジータを見た。
ベジータはすっと前に出ると
いきなりポットの中にけりを入れた。
どし。
「お、おい、
乱暴するなよ、
ベジータ。
おらがかわいそうじゃないか」
「知るか」
ベジータはこんどは
彼の頬をはった。
ビシ、バシ。
「おいおい
ひでえなあ・・・」
「貴様がこれごときで
どうにかなるものか。」
「でもさ、無抵抗な奴を・・・」
暫くすると
彼の両頬は真っ赤にはれあがった。
そうなってようやくもう一人の悟空のまぶたが
ぴくりと動いた。
「おっ」
悟空が慌てて駆け寄った。
「おめえ、
だいじょうぶか?」
「僕は・・・」
「・・・僕、だと?」
ベジータが
わずかにまゆを寄せた.
「僕は・・・
生きてるんですか?」
悟空がにっこり笑った。
「ああ、どうもそうらしいさ。
いてえところはないか?」
「このへんがすこし・・・」
彼は腫れたほおをさすった。
悟空はベジータのほうを見て
ほらぁ・・・という風に
にがわらいをした。
ベジータは悟空から目線をそらし
もう一人の彼のほうを
見つめていった。
「答えろ.
貴様は何者だ。」
次の瞬間。
ベジータの顔を見た彼の表情が
いきなり変わった!
「王子!!!」
彼はポットから飛び出して
ベジータの身体に
思い切り飛びついた。
彼とベジータの体格は同じくらいで
いきなり抱きつかれたベジータは
その場に押し倒されてしまった。
「王子、王子!!」
悟空より若い
もう一人の悟空は
ベジータの身体にしがみつき
いきなり大声で
わあわあと泣き出したのである。
ベジータは呆然とし
悟空はそんな二人の様子を
口をぽっかり開けてみている。
「いやぁ・・・
いいながめというか」
「そんなことをいってる場合か!・・」
「おらが
ベジータに泣きながら抱きつくなんてなあ・・・
かんげぇてもみなかった。」
「俺もだ。
貴様の責任で何とかしろ」
「はは・・・」
彼はいつまでもしゃくりあげ
ベジータの胸に
顔をうずめていたが
悟空が背中をさすってやると
ようやくゆっくりと顔をあげた。
「すみません・・・」
彼は涙をこぼしながら
つぶやくようにいった。
「いいさ」
悟空が優しく
かたりかけた。
「なあ、
おめえ
なまえは
なんていうんだ?」
「僕の名前は
カカロット・・・
サイヤ人の
カカロットです。」
「おおっ!
じゃあ
やっぱりおめえはおらか!」
悟空は嬉しそうに笑った。
「ベジータ、
よかったなあ。
純粋なサイヤ人がひとり
ふえたぞ。」
「そういう問題か、
ばかやろうが・・・」
「・・・というわけだ。」
「どういうわけだか
ぜんぜんわかんないわよ。」
ベジータはもう一人の少年悟空<以下カカロット>を
腰に巻きつけた状態で
カプセルコーポレーションにかえって来た。
カカロットはベジータから片時もはなれようとせず
子犬のようにまとわりついてはなれないのだった。
「でも若い孫くんって
懐かしいわねえ。」
「そか?」
「かわいいわあ。」
頬をなんとなくピンクに染めたカカロットは
ブルマを見ると
ふしぎそうにベジータに聞いた。
「この人は
王子のなんなんですか?」
「あたしはベジータの奥さんよ」
「奥さん!!
・・王子は結婚しちゃったんですか、
この人と.」
「・・・結婚はしてない.」
ベジータがそこだけ答えた。
「でも子供は作ったわよ。」
「俺が子供だよ」
テーブルのうえの食べ物に手を伸ばしながら
トランクスが喋った。
カカロットは黙り込んだ。
そしてぎゅっとベジータの背中を掴んだ。
「貴様、
そろそろ俺から離れろ・・・」
「す・・・すみません。
つい・・・」
頬を染めるカカロット。
ブルマの母親がニコニコと入ってきて
彼にトレーナーとジーンズを差し出した。
「ほらあ、
トランクスちゃんが着ていた服があったわわよ。」
「・・・ああ、懐かしいわね。
そういえば戦闘服もあったわよね。
大きいトランクスのが。」
「きがえて御覧なさい。
そうね、お風呂も入る?」
いきなりのアットホームな雰囲気に固まるカカロット。
悟空が背中をぽんとたたいた。
「とりあえずおめェも食えよ」
悟空は両手に食べ物を抱え、
彼にも手渡した。
「うめえぞ、
食事はこの世が一番さあ。」
「この世?・・・」
カカロットは不思議そうな顔をした。
「僕
あまり今食欲がなくて・・・」
「へーーーー、
食欲のないおらって珍しいなあ。」
「貴様は少し遠慮しろ。」
ブルマはさっきから気になってることを口に出した。
「カカロット君には
・・・尻尾があるのね.」
「なあなあ。
やっぱりそこ握られると
力抜けるとか?」
「いいえ」
カカロットは小さく首を振った。
「弱点ではありません。
僕らはえらばれた戦士で・・
ちゃんと訓練を受けています。
大ザルヘの変身も
自分の意志で自由に変われますから・・・
ご心配なく」
「へえ」
「えらいわねえ、
君は
ことばづかいもていねいだし・・・・。
孫くんよりも
悟飯君に似てるかもしれないわ。」
「そんなことはどうでもいい。
なんの目的でここに来た。」
「ちょっとベジータ!
もっと優しく聞きなさいよ」
「あの・・・」
カカロットはくちをひらこうとしたが
上手くことばが出ないようだった。
「僕を・・・この世界に送り込んだのは
・・・僕の世界のベジータ王子です.。」
「へぇ」
悟空は目を丸くした.
「おめェの世界にもベジータがいるんだな。
やっぱり若いのか。」
「はい・・・
この世界のベジータさんを見たときは
ほとんど印象は変わりませんでしたが・・・
僕の世界にも王子はいました・・・。
僕の世界では・・・」
「・・・」
「・・・僕が最後のサイヤ人です・・・。」
ベジータのまゆがぴくりと動いた。
「僕の王子は
僕をかばって
ころされました。」
「・・・」
・・・フリーザはサイヤ人を
みなごろしにしようとしたんです。」
悟空はベジータと顔を見合わせた。
「サイヤ人が王を中心に団結していたのが
気に入らないのと・・・」
「・・・」
「・・・伝説のスーパーサイヤ人の誕生を恐れたのです。」
「飲みなさい、
おいしいわよ。」
「・・・すみません・・・」
「貴様の世界でもフリーザがいるのか・・。」
「はい・・・
フリーザは冷酷で
僕らをただの捨て駒としてしか扱わなくって・・
ベジータ王はいつかフリーザからの支配を
抜けて独立したいと・・・」
「へえ」
「一度戦場に借り出されると
使い捨てられるのはサイヤ人ばかりで
殺されても遺体すら回収されなくて・・・
挙句の果てには王族まで差し出せとの命令で・・・」
ブルマがカカロットにオレンジジュースを差し出した。
彼はにっこり笑おうとするのだけれど
どうしても顔を上げられなかった。
「フリーザは
ベジータ王子を
自分のために要求してきたのです。」
カカロットは目に一杯涙を浮かべていた。
「あの日
フリーザは惑星ベジータの王宮に
いきなり乗り込んできたんです。
そして手当たり次第
攻撃をはじめました。
僕の父はベジータ王を守ろうとして殺され、
ベジータ王は王子を逃がそうとして
・・・・殺されました。」
ベジータがブルマに目配せをする。
トランクスを連れ出せ、と目で合図していた。
ブルマがうなづいた。
トランクスがその場から出て行ったのを確認すると
ベジータが口を開いた。
「続きを話せ・・・。」
カカロットは小さくうなずくと
テーブルクロスの上に大きな雫を落とした。
「僕らはポットの格納庫まで逃げたんですが・・・
すでにほとんどのポットは破壊されていました。
無傷だったこの一台・・・
まだ試運転もすんでいなかった
僕の乗って来たポットは
まだプロトタイプだったので
・・・隠してあったんです。
異次元移動装置のついた
最新型だったんです。
でも一人のりで・・・
僕は王子を乗せようとしたんですが
王子は僕をポットに押し込んで
・・・発進させたんです・・・。
僕があの人を守らないといけなかったのに
僕が・・・」
「・・・・」
「僕はポットの中で
王子がフリーザに殺された瞬間を見ました・・・。」
耐え切れなくなったカカロットは
再び声をあげて泣き出した。
ベジータは窓の外に視線を送っていたが
指先ががたがた震えていた。
悟空はあたまをぼりぼりとかきながら
そっとカカロットの肩に手をかけた。
「・・・すみません
取り乱しちゃって」
「仕方ねえさ
ひでえ目にあったんだろ?」
「此方の世界では・・・
悟空さん
・・・悟空さんでいいんですよね・・」
「ああ
おらは悟空だ。」
「悟空さんはスーパーサイヤ人になれますか?」
「ああ、なれるさ」
「ベジータ王子も?」
「当然だ。」
カカロットは立ち上がると姿勢をただし
二人の前にひざまづいた。
「お願いです。
僕をスーパーサイヤ人にしてください。
僕はフリーザと戦いたいんです。
殺されたみんなの敵を討ちたいんです。
お願いします。」
悟空はにっこり笑った。
「いいぜ。
おめえはおらだ。
何でも出来るさ!!」
3.修行
早速翌日早朝から悟飯や悟天、トランクスも混じった
ふしぎな修行が始まった。
聞けば年齢は17ということで
悟飯とカカロットはほとんど同年代である。
パオズ山はいい天気で
みんなでピクニックにでもいくような雰囲気ではあった。
空を行きながら悟飯がいった。
「おとうさん」
「何だ?」
「むかしおおきいトランクスさんとトランクスくんが
同じ世界にいたことがありましたよね。」
「そうだな」
「あのときを思いだしますね。」
悟飯が懐かしそうにいった。
「僕より若いお父さんなんて
なんだか不思議ですねー。」
「おらにだっておめえくらいの時があったさ。」
カカロットはブルマの出した新しい戦闘服を着ている。
子供達は珍しそうに彼の周囲に集った。
「おいで、悟天。」
「何?
兄ちゃん。」
悟飯とトランクスは悟空とカカロット、悟天を並べた。
「ここに3人並ぶと・・・
お父さんの成長記録だ。
ほんとにみんなにてるなあ。」
「ほんとだ!」
その様子に
緊張気味のカカロットも
少年らしい笑みを浮かべるようになっていた。
「じゃあみんな集って。
トランクスも笑うのはおしまいだぞ。」
悟空が話す。
「では修行をはじめる。
おらや悟飯はスーパーサイヤ人になるのにひどく苦労したんだが
このチビたちはあっさりとスーパーサイヤ人になってるわけで・・・
おらが教えるより
このチビたちとあそぶほうが近道だとおらは思う。」
トランクスがうなづいた。
「こいつらちっちゃいけれどフュージョンも出来るし
超3にもなれる。
すげえぞ。」
「そうなんですか」
「そうだよ!
おれたちすげえんだぜ!」
「うん!」
「戦闘は・・・
悟飯に教えてもらえ。
界王神のじっちゃんの呪いがかかってるから
おらよりつええぞ。」
「呪いなんかかかってないですよ、お父さん。」
「悟飯さん、ですか?」
「ああ、おらの・・・・おめえのこの世界での息子だ。」
「よろしくお願いします、悟飯さん」
「いえいえこちらこそ」
「おめえはおらだ。
環境さえ整えば
今にだって超化できるさ。」
悟天がそっとカカロットの手を握った。
「僕に任せてよ。」
「よく言った、悟天。
いいぞ」
「えへへ」
「・・・じゃ頼むぞ、みんな。
おらを強くしてやってくれ。
おらはあっちで寝てるから・・・」
「寝るのかよ、おじさん!」
悟空はふわり、と浮き上がった。
ちび達の姿がみるみる小さくなる。
「やっぱり・・・」
悟空がつぶやいた。
むこうの小高い丘の上にたつ
ベジータの姿が見えたのだ。
悟空は嬉しそうに方向を変えた。
「よう
ベジータ」
「・・・」
「心配で見に来たのか?」
「まさか」
「おめえもいいとこがあるじゃねえか?」
ベジータは悟空の顔を見つめた。
「・・・貴様が修行してやるんじゃないのか?」
「まあな・・・
そう思ったが十分下地はできてるようなんだ。」
「きっかけ・・・か?」
「そうだ
おらや悟飯は怒りや絶望から
超サイヤ人への扉が開いたが
チビども見てるとかならずしも
マイナスの感情がなくても
超化できるようだからさ。」
「そうか」
「わざわざ今以上に辛い思いをすることもねえさ・・・」
「・・・」
「子供は子供同士だ」
「17は子供じゃない。
一人前の戦士だ」
「そうだな・・・
おめえならそういうだろうと思ったさ」
悟空は青い草の上に
ゆっくりと寝そべった。
「おめえも
横になれよ・・・」
「ことわる」
それでもその場を立ち去ることなく
ベジータと悟空はふたりで空を見つめていた。
「なあ、ベジータ」
「・・・」
「この世におめえがいて
ほんとによかった。
おらはそうおもう。」
ベジータは悟空の顔をちらりと見たがすぐ視線をはずした。
「そうおもわねえか?」
「・・・くだらん。」
どこからか鳥のさえずる声が聞こえてきた。
そのころ子供達のほうは・・・。
お弁当の時間がやってきていた。
悟飯が自宅から3往復して持ち出した食料の山は
あっという間に食べ尽くされた。
「うわ、すごいや。」
悟飯が笑った。
おそるべし
サイヤ人の若者達の食欲である。
昨日はぐったりしていたカカロットも
今日はがつがつと食べつづけていた。
「悟飯さん、足りないよー」
「もう少ししたらブルマさんも
お弁当を持ってきてくれるからね。
まってなさい」
「いつまでいてくれるの、
カカロット兄ちゃん。」
悟天は思い切り彼が気に入ったようだった・・・。
何時の間にかカカロットの膝に乗っている。
「僕は本当はここにいるべき人間じゃないので・・・
出来るだけ早くもとの世界に帰ろうと思います。」
「えーーー」
「つまんないの」
「なんでー?」
カカロットはさびしそうに笑った。
「あの・・・」
「はい」
「カカロット・・さんは
そちらの世界の
ベジータさんの部下だったんですか?」
少し遠慮がちに悟飯が聞いた。
「僕ですか?」
「はい」
「まさか。
僕はペットみたいなもんでした。」
「ペット?」
「そうです。
王子は特権階級ですが僕は下級戦士の子でしたから。」
カカロットは恥ずかしそうに頭をかいた。
「下級戦士でも父親は
特に優れた戦士だったんですよ。
だから王に仕えてたんですけど。」
「そうなんですか?」
「でもそういうのは特別で・・・
僕は生まれたときの戦闘力が低くて・・・
軍には必要ないんで
処分されるところだったんです。
どこかとおい辺境の惑星に
送り込まれるところだったそうなんですが。」
「えー」
「そんなのひどいよー」
「僕らは生まれたときの戦闘力が全てですからね。
それを偶然王子がとめてくれたんですよ。」
「はい」
「ちょうどペットに犬がほしかったらしかったんですが
気に入ったのがいなくて・・・
それなら
くずでもよかろうと・・・」
「うはあ、くずですか?」
悟飯が声をあげた。
「でもさっきの組み手は凄かったですよね。」
「そうだよ
おにいちゃん。」
悟飯がもぐもぐしながら口を開いた。
「凄い潜在能力じゃないですか。
気がびりびりと痛いです。
戦闘力の高め方なんて凄く上手いですよね。
さすがだとおもいますよ。」
「はい」
カカロットはにっこり笑った。
「王子のおかげですね、それも。
王子が僕にトレーニングをつけてくれて・・・
最近は王子のパートナーは
僕でないと勤まらなくなっていました。」
「パパと悟空さんみてる限りでは
想像つかないなあ、
悟天。」
「そうだね、
トランクスくん。」
「きっかけをつかめれば
今すぐにでもスーパーサイヤ人になりますよ。」
「そうでしょうか」
「僕らのお父さんはスーパーサイヤ人になって
フリーザをやっつけたんですよ!
僕らも今までたくさんの敵と戦ってきました。」
悟飯はカカロットにリンゴを投げた。
「若いお父さんも
きっとフリーザをやっつけられると
僕は思います。」
カカロットはにっこり笑った。
「ぜひそうありたいです」
「カカロットさんはベジータさんが
本当に好きだったんですね。」
カカロットは頬を赤くして答えた。
「はい。
僕は王子を
心から愛していました。」
4.僕のベジータ
その日の深夜。
カカロットの乗ってきた宇宙船の
エネルギーチャージと点検整備がすんだ。
満足そうに笑顔を浮かべるブルマ。
ブルマは軍手をはずしながら
カカロットを呼び、
ひとつひとつ説明をした。
「ほら、とてもきれいになってるでしょう?
みてよ。」
カカロットは目を大きく開いた。
「ホントですね・・!
ブルマさんって
凄い人だったんですね・・・」
「当然よ・・・・。
天才なんだから、私。
父さんと一つ一つ確認したんだけど
特に壊れているような部分は
なかったわ。」
「そうですか。
ありがとうございます。」
「デモね
異次元移動装置だけは
設計図なしでは
判断できない部分があるの。
メカ的な故障はないし
プログラムにも
特に問題はなく見えるんだけど・・・」
「そうですか・・・」
「あちこち探したんだけど
設計図はなかったわ・・・。
どうする?
カカちゃん。
本当にもとの世界に戻れるかは
やってみないとわからないわ。
テストをする自信が
私にないのよ」
「そうですか・・・」
カカロットは王家の紋章の部分を
いとおしそうに何度もなでた。
「この移動装置を設計したのは
ベジータ王子なんです。」
「へえっ!
ここのベジータと
とんでもなく違うのね。」
「僕のベジータは
本当にすばらしい人だったんですよ。
強いし賢いし
愛情深くて。
・・大丈夫です。
僕は現にここにこれたのだし
僕は王子を信じてますから。」
ブルマはタバコを取り出した。
「ふうん・・・
そっちの世界のベジータに会いたかったなあ。
かっこよかった?
あいつ?」
「ええ、すてきでしたよ。
もうすばらしい人でした。」
「・・・がちゃがちゃとやかましいやつらだ。」
「あら、お帰り
私のベジータ。」
ベジータは眉間にしわをよせながら
ブルマをにらみつけ
カカロットのほうにあるいてきた。
そして彼の顔をじっと見つめた。
「・・そうか。」
「はい?」
「あっさり超化したんだな・・・」
「わかるんですか?!」
「当然だ。
貴様のまとってる
エネルギーが今朝と違うからな。」
「・・・」
「ブルマ。
明日はみんなをよんで
飯でも食わせてやれ。
もうそいつはでていくからな。」
その乱暴な言い方にブルマが怒った。
「何よ、ベジータ。
あわてて追い出す必要ないでしょう!」
ベジータは無表情でこたえた。
「・・・馬鹿な奴だ。」
「なによ!」
「こんな戦闘のない
平和ボケした世界にいれば
戦士としての感が狂っちまうだろう。
勝てる勝負も逃がしてしまうからな。」
「それが何だというの?
この子に今
たった一人で戦えというの?
この子の世界にはもうだれも
助けてくれる人はいないんでしょう?」
「・・・」
「だからあんたは戦闘オタクなのよ。
せっかく助かった命を
何のために捨てなきゃなんないのよ。」
「フリーザを殺せば
捨てることにはならない。
・・・ちがうか?」
「又あんたは殺すの殺されるのって・・・!
殺すだなんて言葉
私の前で簡単に使わないでよ!」
そのとき
カカロットがブルマの手をそっと取った。
「ありがとうございます。
でも・・いいんです。」
カカロットは小さくつぶやいた。
「僕の命は王子のものだから・・・」
「ベジータだったらここにもいるじゃない!!」
そのとき
カカロットの唇が
細かく
ぶるぶると震えだした。
「それがかなうなら・・
僕だって・・・」
それはとても小さな呟きだった。
「いえ・・・
そうじゃないです。
この世界に悟空さんと僕は
同時にいるべきじゃないんです。
今後どんな不都合が送るか
わかりませんし
今までだって
反発現象が起こらないのが
本当にふしぎなくらいでしたから・・・。」
「何いってるの。
たたかうことに反対してるんじゃないの。
もうすこし・・・
身体をやすめてからでいいじゃない。」
「・・・いえ・・・・
ありがとうございました。
皆さんには
本当にお世話になりました。」
「カカちゃん・・・」
「僕
明日の朝、戻ります・・・
皆さんになじんじゃうと
本当に辛いんで・・・
僕が帰ることは
だれにも言わないでください。」
ブルマの瞳から大きな涙がぼろぼろとこぼれた。
そして
最後の夜が来た。
体がだるい・・・。
ベジータは自分の部屋から
出る気がもうしなかった。
窓を全開し
一人星空を眺めてた。
早春の夜空にちかちかと瞬く小さな星の数々・・・。
かつてあのなかのどこかに
自分はたしかに生きていたのだ。
血にまみれ
死臭を漂わせて
ただ殺しつづけていた自分。
それが全てだと
信じていた自分が生きていた。
あのころの自分も
今の自分も
間違いなくおなじ自分だ。
では・・・
異次元の自分はどうなのだろう。
カカロットを助けようとして
殺された自分も
どこかの世界に存在していたのだという。
その自分は
あのカカロットを・・・。
いや・・・
カカロットはどうだ?
自分の知るカカロットは獣だ。
限りなく強く
・・美しい。
誰のものにもならない生き物だ。
ベジータが手を伸ばしても
もう少しのところで
届かない・・・。
殺したいほど
憎らしい男だ。
体中から
狂わせるような
男のにおいを撒き散らしているくせに
本人はそれに気がついていない。
そんな
腹ただしい奴だ。
でも別の世界では
同じ顔を持ち
同じ肉体を持ちながら
ベジータに忠実な
犬のようなカカロットも存在している。
ベジータの顔をじっと見つめる
彼の
黒い瞳が
・・・忘れられない・・・。
何時間たったろう。
何時の間にか眠っていたベジータは
小さな物音で
ふと目を覚ました。
枕もとに
誰かが立っている。
「何だ・・・貴様・・・」
ベジータは思わず声を出した。
それは間違いなく
カカロットだった。
「こんばんは。」
「・・・」
「鍵をかけないんですね。
おどろきました・・・」
「・・・」
「無用心ですね、
あなたは。」
彼が一歩ベジータに近づいた。
「俺の知ってるカカロットは・・・」
「・・・」
「瞬間移動とか言ってな。
俺の都合なんかお構いなしに
風呂場でも寝室でも勝手に現れやがるんだ。」
「・・・」
「鍵なんて意味がないんだよ。」
「そうなんですか・・・」
カカロットがベジータに顔を寄せた。
「もう一つおどろいたんですけど
・・・寝るときは貴方は
いつも全裸なんですか?」
そのとき
カカロットが
ふいにベジータの身体に手をまわした。
それは驚くくらい強い力で
ベジータの身体は
あっという間にカカロットの中に取り込まれてしまった。
「は・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・よ・・・よせっ!」
「乱暴はしません」
「何・・・いって・・や・・がる
・・・、くそっ」
ベジータはあわてて唇をぬぐった。
そして逃れるようにカカロットから
身体を離した。
「ぶ・・ぶっ殺すぞ
貴様!!」
カカロットは可愛い顔で微笑んだ。
「・・・貴方と悟空さんは愛し合わないのですか?」
「は??」
「こんな風に・・・」
カカロットは
ベジータの頬に手のひらをそっと当てた。
「ば・・馬鹿やろ・・・」
「・・好きな人を抱きしめるとか・・・
・・・・・口づけするとか・・」
「ぐっ・・・」
「・・もっとこれ以上の・・・」
ベジータはカカロットの顔に手を突っ張った。
「・・やめてくれ。
・・気分が悪い。」
「どうして?」
「貴様は俺の守備範囲じゃない。」
カカロットはくすっと笑った。
「そうですか?
そのワリには
キスしたら
舌が僕のほうにちゃんと入ってますけど」
「うそつけ!!」
「貴方って凄く可愛いんですね。」
「いいかげんに・・・」
「少しくらい抵抗されるほうが
絶対いいですよね^^」
カカロットはベジータの身体をひょいと抱き上げた。
「おい、こら」
「此方の世界の王子も本当に軽いなあ^^」
「ひとの話をきけ!」
「こういうのお姫様抱っこって言うんですよ。」
カカロットはベジータの身体を
再びポーンとベッドに投げ出した。
「ベジータさん。
観念して僕の物になってください。」
「うわ、
やめろ・・・」
「ほらほら
僕から逃げようとする姿が
とてもいいですね。」
カカロットは背後からベジータをおさえつけた。
そして彼を簡単にひっくり返すと
ベジータの首筋に顔をうずめた。
「どうです・・・?」
「・・・は・・あっ・・・や・・
やめろ・・」
「そうですか?
あなた自身は
やめてほしくなさそうですよ」
「・・・」
「涙を流してるじゃないですか・・」
「ば・・かやろっ!!・・・」
カカロットはベジータの表情を
満足そうに見つめている。
「ほらほら
大きな声を出すと
ブルマさんにきづかれますよ・・・」
「よ、よせっ・・・・・」
「こういう場面を見られても
いいんですか?」
「・・・・っ」
カカロットはベジータを押さえつけたまま
次第に自分の位置をずらしていく。
ベジータは歯を食いしばった。
「・・・僕と王子は
本当に愛し合っていたんです。」
「そいつは
俺じゃないだろうが!・・・・」
「貴方だって
ベジータだ・・・
僕は
何でも知ってるんですよ。
あなたのことを」
「・・・こんなことやってると
カカロットの奴が気づくぞ・・・
あいつがきたらどうするんだ。」
「いっしょに参加すれば
いいじゃないですか、
あの人も僕なんでしょう?
僕はかまわないですよ。
それとも・・・
悟空さんに見られると
まずいんですか?」
カカロットの動きが乱暴になり
ベジータの体が
大きくゆれた。
「ばっ
・・かやろう・・・・!!
それ以前の問題だ!!」
「もしかして初体験ですか?」
「そういう問題じゃねえ!」
「僕が嫌いですか?」
「・・・人の話を聞け!」
「初めてでなく僕が嫌いでないなら
何の問題もないじゃないですか。」
「くそー!
耳元でささやくなー!!」
「感じてます?
ここがいいんですか?
じゃあ力づくでも」
「それも違うだろ!!!!」
カカロットはにっこり笑うと髪を逆立てて
目を青く輝かせた。
「らちがあかないので
力任せにいきます。
あきらめてください。」
「そうか、戦闘か!!
戦闘なら相手をしてやる!!
さあかかってきやがれ!!」
「いや、それは違います、
ベジータさん。」
急にベジータは生き生きと目を輝かせ
さっと超化するといきなり窓から飛びだした。
「さっさとついて来い!!
修行をつけてやる!!」
「え、ええっ!」
大きな勘違いを抱えた二つの黄色い光が
夜空を横切っていった。
夜明け前。
夜露がふたりの髪をぬらしていた。
ふたりのサイヤ人は、はあはあと息を切らしながら
向かい合っていた。
「まだかかってくるか・・・」
「もう体が動かないです・・・」
「ざまあみろ・・・」
カカロットはがっくり膝をついた。
「凄いや、・・・」
「・・・」
「セックスより興奮しましたよ。」
「そうだろう。
俺たちは戦闘民族だからな!!」
「はは・・・
10回はいきましたねえ!」
ベジータの頬が赤くなった。
「・・・下品な奴だ」
しばらくして。
ベジータはだまって
カカロットのほうに
あるきだした。
カカロットの黒い瞳にベジータの顔が写っている。
きれいな目だなと
ベジータは素直に思った。
「星がきれいですね
ベジータさん・・・」
「・・・」
「惑星ベジータには
星空はありませんでした・・・」
「そうだな。」
ベジータが答えた。
「けっこうガス層が
厚かったからな・・・
いつもどんよりとした空だった。」
「ふふ・・・
僕の知ってる景色と同じですね。
「まあな」
「ベジータさん・・・僕」
「・・・」
「本当は貴方と別れたくありません。
このまま貴方と暮らしていきたい・・・」
「・・・」
「そんなこと
出来ないのはわかってるんですけどね。
・・・僕のベジータは死んでしまった・・・。
たとえフリーザを倒しても
そのあと僕は
何のために生きればいいんでしょう・・・」
「・・・・・」
「僕は
もうたった一人ぼっちなんです。
僕にはもうまもるべきものがありません。
いきていたって・・・」
「・・つまらんことを考えるな。」
ベジータがいった。
「生きろ。」
「え?」
「強く生きろ。」
「何のために・・・・・・」
「貴様自身のプライドを守るためにだ。」
ベジータは続けた。
「いつか死ぬ日まで
精一杯生きろ。
それが答えだ。」
「死ぬまで生きる・・・
ですか・・・」
「そのとおりだ」
「ふふ・・・」
カカロットはよわよわしく笑った。
「カカロット」
夜露を浴びたベジータの姿は
輝いて見えた。
そして
ベジータはカカロットに
そっと手を差し伸べた。
「こっちに来い・・」
「はい・・・」
「いまだけ
貴様のベジータに
なってやる。
日が昇るまでは
俺のために
ここにいろ。」
ベジータの意識が
「今」にかえって来た。
全ては過ぎ去った夢だ。
カカロットの流した涙のつぶも
明日になれば多分全て忘れてしまうだろう。
ベジータは何度も自分に言い聞かせた。
悟空は黙ってベジータの横に立っていた。
「ちょっとな」
悟空がベジータのおでこに指を当てようとした。
ベジータは青い顔をした。
「貴様!
勝手に俺の心を
読むなといってるだろう!」
「いいじゃねえか、
ヘルモンじゃなし」
「まったく
油断もすきもならない奴だ!」
「へへ」
それでも悟空は
まだ諦めきれないようで
名残惜しそうにベジータを見つめていた。
「なあ、ベジータ?」
「あいつさあ・・・
フリーザやっつけたら
また遊びにくるかなあ?」
「・・・さあな」
「うまくいくといいな」
「どうだかな・・・」
「なあ・・・ベジータ・・」
「うるさい奴だ。
・・・もう俺は帰る。」
「何だよベジータ。
つめてえなあ・・・。」
「貴様といても一銭の特にもならんからな。」
「そうか・・・?」
悟空はベジータの肩を突然抱いた。
それはベジータのよく知る
ごつごつした不器用な
悟空の手のひらだ。
その感触が今朝の記憶を鮮明に
ベジータに思い出させた。
それは
ベジータが今まで経験したことのない
息の止まるような
胸苦しさだった。
「・・・あいつには
あんなに優しくしてたくせにさあ・・」
悟空が耳元でささやいた。
ベジータは足を止めた。
首から耳までが
いきなり真っ赤になっていた。
「見てた様な口をきくんじゃねえ・・・!!
・・というか見てたんじゃあないだろうなあ!」
「・・・たまにはさあ
おらにも
優しくしてくれよ。」
「・・・ばかやろう!」
悟空の腕に
力が入った。
「おらだってさみしいさ」
ベジータは思わず悟空を見た。
風が過ぎ去っていく。
青空に
白い雲が
どこまでもどこまでも
広がっていた。
おわり
