ベジータと悟空の前に現れたもう一人のカカロット.
それは異次元からきた最後のサイヤ人だった.


1.もうひとりのカカロット




白昼夢というものがあるとしたら・・
まさしく昨夜のベジータの体験がそうなのだろうと思う。
自分が感じたあの感触や
しびれるような切ない気持ちは
本来の自分がもってはいけないものだと思う。
しかし。

いや、まて。
昼という字がつくのだから夜のあれは
白昼夢じゃないのか?
どうでもいいが・・・

ベジータはそんなことを
ただぼんやりと考えていた。

うずく。

自分の中のどこかが、うずく。

最後までベジータの手を握り締めていた
あいつのぬくもりは
はっきりとまだベジータの手のひらに
残っていたのだけれど
いまはもう彼はいない.
髪の毛一本のこさず
消え去ってしまった・・・。

「あーあ
いっちまったなあ」

声をだしたのは悟空だった。
その声にベジータの背中が
びくり、と反応した。

「せっかく仲良くなったのによー」
「ガキか、貴様は・・・」

ベジータは悟空の顔みた。
純真な子供のような瞳を持つ
いつもの笑顔がそこにあった。

「・・・」

ベジータは
じっと自分の手のひらを見つめた。
ふと視線を落とす。
ベジータの足元には
ベジータと悟空の影だけが
黒々と広がっていた。







異変が起きたのは
ほんの2、3日前の朝だった。
あまりの狭苦しさに
横にブルマとトランクスでも来たのかと
布団をめくって確認したベジータである。
ところが
隣に寝ていたのは悟空だった。

「・・・こいつ・・・
ほんとにねてやがる・・・」

いきなり悟空が
ベジータの身体を抱きしめた。

「あっ、
このくそやろうがっ!」

目を閉じたまま
ベジータの上に乗る悟空。
重たい。
そのうえ、・・・でかい。

「・・ぐは・・・
やめろ・・・・やめ・・」
「チチ・・・はらへった。」
「はらへったじゃねえっ!!!」

べし!

「いてててて!」
「でてけっ!」

悟空は目を真ん丸く開けた。

「・・殴るなよベジータ。
・・一寸お前に用があって
気を探ったら
偶然ここにでたんだ。」
「何を言ってやがる、
そう毎度毎度
俺が寝ている横にでるはずないだろう。」
「偶然だよ。
おめえの横ってぬくいし
おめえすごくいいにおいするしなア
ちょっと寝てみようかと・・・」
「それも何回も聞いたいいわけだな。」
「おめえだいてると気持ちいいんだよな」
「チチを抱け!
お前の女を!!
俺の足の間に
冷たい足をいれるな!」
「なんだよう・・・」

どげし。
悟空はベッドの下に蹴り出された.

「いちいち
おこんなよ」

床に座り込んだ悟空は
カーキ色のパンツに黄色いTシャツ姿だった.

「・・・なんの用だ?」

ベジータは布団をかぶりなおすと
悟空に不機嫌丸だしで
背中をむけた。

「かんじてくれよ・・・
この気を」
「気?」
「ほらあ・・
・・・これだよ」

ベジータは布団をかぶったまま
嫌そうに答えた。

「・・・・気分の悪くなる気があるな。
たしかに」
「まじめに考えてくれよ」

悟空は唇を尖らせた。

「いつからだ?」
「夜明けかなあ・・・・
こいつの着地音で
おらは目覚めたんだ.」
「さっさと見てくればよかろう。」
「えー?」
「俺をいちいち
くだらんことに巻きこむな。」
「だってよー
ベジータァ」
「・・・」
「頼むよ、
一緒に行ってくれよ」

それでも
ベジータにも気になる部分があるらしい。
ベジータも
ようやくのろのろと体を起こした。

「うるさい奴だ・・・先に行ってろ。
俺は後から行く。」
「なっ、なっ
頼むぜ、ベジータ.」

悟空はおでこに指を当てると
満面の笑みを浮かべ
さっと消えていった。
ベジータは悟空がいなくなるのを見計らって
ベッドから這い出し
床に散らかした下着やシャツを
ゆっくりと手に取った.

「厄介なことにならなきゃいいが」

そうつぶやきながら
多分ほとんど厄介な状態になってるんだろうなあと
ベジータは思うのだった。








「あら、ベジータ」

自室を出ると
いきなり廊下に洗濯物を抱えたブルマがいた。
寝癖のついたままのベジータが
ちゃんと服を着ているのを見て
ブルマが声をかける。

「めずらしいわね。
一体どうしたの?」
「ちょっと野暮用だ」
「朝の食事は?」
「戻ってから食う。」
「ええ?」
「・・そうだな。
カカロット3人分くらい用意しておいてくれ。」
「なによ、それ?」
「戻ればわかる。」

遠くのほうでベジータを呼ぶ
トランクスのはしゃぎ声が聞こえたが
ベジータはかまわず飛び出した。

「ちょっと、ベジータ!
買い物はどうするのよ!!」





ベジータは飛んだ。
がらにもなく胸がどきどきしている。
どんどん北へ向かっていくと雲が晴れ
荒れ果てた岩山の間に
「それ」がみえた・・・・。

ベジータは息を呑んだ。
想像はついていたものの
やはり驚かずにはいられなかった。
彼の目に飛び込んだもの
・・・それは間違いなく
フリーザ軍の
一人乗り宇宙船だったのだ。
その乗り物は
ベジータが昔それに乗って
数多くの星を破滅させ
数え切れない多くの命を踏みにじった事実を
否応なく彼に思い出させたのだった。

・・・つまらんものを見たもんだ。

「よう」

傍らには
悟空が腕を組んで立っている。
ベジータはすっと舞い降りた。

「どういうことか
さっさと説明しろ.」
「そんなの
おらにわかんねえって。」
「役に立たない野郎だ」

ベジータはちっと舌を鳴らすと
そっと宇宙船に歩み寄った。

「間違いない。
フリーザ軍のポットだ.
だが・・」
「なんだよ?」
「俺の知ってるものとは
微妙に違う。
ここをみろ」
「??」

ベジータはドアの横にある部分を指差した。

「これはな、
・・・ベジータ王族の紋章だ.」
「へえー」
「惑星ベジータが消滅するまで俺たちはこれを身につけていた・・・。」
おら、はじめてみた。」
「昔のことだ。
俺も
子供の時以来か。
まさか今さら・・・こんなものを
見るとはな。」

それでもベジータは紋章の部分を
なつかしそうに
そっと、なでた。

「でも問題は
中にのってるやつなんだよなー・・・」
「そのとおりだ」
「ベジータ、
おめえ開けてくれよ」
「なぜだ」
「なんかみたくねえんだよな、
おら」
「いいぞ。
予想どおりの奴だったら
この場で殺してやる」
「そりゃねえよ、
ベジータ」

悟空は慌てて
ポットのドアに手をかけた.
宇宙船は
特に壊れているわけではなく
ベジータの指示どおりの手順で
ドアは静かに開いた。

「あちゃー・・・」

悟空が叫んだ.

「本当におらだ。
おらがのってる。
もうひとりのおらじゃないか・・・」













2 おめえはおらだ.




ポットに中にいたのは
ふたりの予想どおり
悟空本人だった.
フリーザ軍の戦闘服を着た・・・。
ただし
年齢はずいぶん若く見える。
特に怪我をしている様子はなかったが顔は薄汚れ
戦闘服には何箇所も返り血がついている。

「・・・わかいな」
「ああ・・・」

悟空はどうしようという顔をして
ベジータを見た。
ベジータはすっと前に出ると
いきなりポットの中にけりを入れた。

どし。

「お、おい、
乱暴するなよ、
ベジータ。
おらがかわいそうじゃないか」
「知るか」

ベジータはこんどは
彼の頬をはった。
ビシ、バシ。

「おいおい
ひでえなあ・・・」
「貴様がこれごときで
どうにかなるものか。」
「でもさ、無抵抗な奴を・・・」

暫くすると
彼の両頬は真っ赤にはれあがった。
そうなってようやくもう一人の悟空のまぶたが
ぴくりと動いた。

「おっ」

悟空が慌てて駆け寄った。

「おめえ、
だいじょうぶか?」
「僕は・・・」
「・・・僕、だと?」

ベジータが
わずかにまゆを寄せた.

「僕は・・・
生きてるんですか?」

悟空がにっこり笑った。

「ああ、どうもそうらしいさ。
いてえところはないか?」
「このへんがすこし・・・」

彼は腫れたほおをさすった。
悟空はベジータのほうを見て
ほらぁ・・・という風に
にがわらいをした。
ベジータは悟空から目線をそらし
もう一人の彼のほうを
見つめていった。

「答えろ.
貴様は何者だ。」

次の瞬間。
ベジータの顔を見た彼の表情が
いきなり変わった!

「王子!!!」

彼はポットから飛び出して
ベジータの身体に
思い切り飛びついた。
彼とベジータの体格は同じくらいで
いきなり抱きつかれたベジータは
その場に押し倒されてしまった。

「王子、王子!!」

悟空より若い
もう一人の悟空は
ベジータの身体にしがみつき
いきなり大声で
わあわあと泣き出したのである。

ベジータは呆然とし
悟空はそんな二人の様子を
口をぽっかり開けてみている。

「いやぁ・・・
いいながめというか」
「そんなことをいってる場合か!・・」
「おらが
ベジータに泣きながら抱きつくなんてなあ・・・
かんげぇてもみなかった。」
「俺もだ。
貴様の責任で何とかしろ」
「はは・・・」

彼はいつまでもしゃくりあげ
ベジータの胸に
顔をうずめていたが
悟空が背中をさすってやると
ようやくゆっくりと顔をあげた。

「すみません・・・」

彼は涙をこぼしながら
つぶやくようにいった。

「いいさ」

悟空が優しく
かたりかけた。

「なあ、
おめえ
なまえは
なんていうんだ?」
「僕の名前は
カカロット・・・
サイヤ人の
カカロットです。」
「おおっ!
じゃあ
やっぱりおめえはおらか!」

悟空は嬉しそうに笑った。

「ベジータ、
よかったなあ。
純粋なサイヤ人がひとり
ふえたぞ。」
「そういう問題か、
ばかやろうが・・・」







「・・・というわけだ。」
「どういうわけだか
ぜんぜんわかんないわよ。」

ベジータはもう一人の少年悟空<以下カカロット>を
腰に巻きつけた状態で
カプセルコーポレーションにかえって来た。
カカロットはベジータから片時もはなれようとせず
子犬のようにまとわりついてはなれないのだった。

「でも若い孫くんって
懐かしいわねえ。」
「そか?」
「かわいいわあ。」

頬をなんとなくピンクに染めたカカロットは
ブルマを見ると
ふしぎそうにベジータに聞いた。

「この人は
王子のなんなんですか?」
「あたしはベジータの奥さんよ」
「奥さん!!
・・王子は結婚しちゃったんですか、
この人と.」
「・・・結婚はしてない.」

ベジータがそこだけ答えた。

「でも子供は作ったわよ。」
「俺が子供だよ」

テーブルのうえの食べ物に手を伸ばしながら
トランクスが喋った。
カカロットは黙り込んだ。
そしてぎゅっとベジータの背中を掴んだ。

「貴様、
そろそろ俺から離れろ・・・」
「す・・・すみません。
つい・・・」

頬を染めるカカロット。
ブルマの母親がニコニコと入ってきて
彼にトレーナーとジーンズを差し出した。

「ほらあ、
トランクスちゃんが着ていた服があったわわよ。」
「・・・ああ、懐かしいわね。
そういえば戦闘服もあったわよね。
大きいトランクスのが。」
「きがえて御覧なさい。
そうね、お風呂も入る?」

いきなりのアットホームな雰囲気に固まるカカロット。
悟空が背中をぽんとたたいた。

「とりあえずおめェも食えよ」

悟空は両手に食べ物を抱え、
彼にも手渡した。

「うめえぞ、
食事はこの世が一番さあ。」
「この世?・・・」

カカロットは不思議そうな顔をした。

「僕
あまり今食欲がなくて・・・」
「へーーーー、
食欲のないおらって珍しいなあ。」
「貴様は少し遠慮しろ。」

ブルマはさっきから気になってることを口に出した。

「カカロット君には
・・・尻尾があるのね.」
「なあなあ。
やっぱりそこ握られると
力抜けるとか?」
「いいえ」

カカロットは小さく首を振った。

「弱点ではありません。
僕らはえらばれた戦士で・・
ちゃんと訓練を受けています。
大ザルヘの変身も
自分の意志で自由に変われますから・・・
ご心配なく」
「へえ」
「えらいわねえ、
君は
ことばづかいもていねいだし・・・・。
孫くんよりも
悟飯君に似てるかもしれないわ。」
「そんなことはどうでもいい。
なんの目的でここに来た。」
「ちょっとベジータ!
もっと優しく聞きなさいよ」

「あの・・・」

カカロットはくちをひらこうとしたが
上手くことばが出ないようだった。

「僕を・・・この世界に送り込んだのは
・・・僕の世界のベジータ王子です.。」
「へぇ」

悟空は目を丸くした.

「おめェの世界にもベジータがいるんだな。
やっぱり若いのか。」
「はい・・・
この世界のベジータさんを見たときは
ほとんど印象は変わりませんでしたが・・・
僕の世界にも王子はいました・・・。
僕の世界では・・・」
「・・・」
「・・・僕が最後のサイヤ人です・・・。」

ベジータのまゆがぴくりと動いた。

「僕の王子は
僕をかばって
ころされました。」
「・・・」
・・・フリーザはサイヤ人を
みなごろしにしようとしたんです。」

悟空はベジータと顔を見合わせた。

「サイヤ人が王を中心に団結していたのが
気に入らないのと・・・」
「・・・」
「・・・伝説のスーパーサイヤ人の誕生を恐れたのです。」

「飲みなさい、
おいしいわよ。」
「・・・すみません・・・」
「貴様の世界でもフリーザがいるのか・・。」
「はい・・・
フリーザは冷酷で
僕らをただの捨て駒としてしか扱わなくって・・
ベジータ王はいつかフリーザからの支配を
抜けて独立したいと・・・」
「へえ」
「一度戦場に借り出されると
使い捨てられるのはサイヤ人ばかりで
殺されても遺体すら回収されなくて・・・
挙句の果てには王族まで差し出せとの命令で・・・」

ブルマがカカロットにオレンジジュースを差し出した。
彼はにっこり笑おうとするのだけれど
どうしても顔を上げられなかった。

「フリーザは
ベジータ王子を
自分のために要求してきたのです。」

カカロットは目に一杯涙を浮かべていた。

「あの日
フリーザは惑星ベジータの王宮に
いきなり乗り込んできたんです。
そして手当たり次第
攻撃をはじめました。
僕の父はベジータ王を守ろうとして殺され、
ベジータ王は王子を逃がそうとして
・・・・殺されました。」

ベジータがブルマに目配せをする。
トランクスを連れ出せ、と目で合図していた。
ブルマがうなづいた。
トランクスがその場から出て行ったのを確認すると
ベジータが口を開いた。

「続きを話せ・・・。」

カカロットは小さくうなずくと
テーブルクロスの上に大きな雫を落とした。

「僕らはポットの格納庫まで逃げたんですが・・・
すでにほとんどのポットは破壊されていました。
無傷だったこの一台・・・
まだ試運転もすんでいなかった
僕の乗って来たポットは
まだプロトタイプだったので
・・・隠してあったんです。
異次元移動装置のついた
最新型だったんです。
でも一人のりで・・・
僕は王子を乗せようとしたんですが
王子は僕をポットに押し込んで
・・・発進させたんです・・・。
僕があの人を守らないといけなかったのに
僕が・・・」
「・・・・」
「僕はポットの中で
王子がフリーザに殺された瞬間を見ました・・・。」

耐え切れなくなったカカロットは
再び声をあげて泣き出した。
ベジータは窓の外に視線を送っていたが
指先ががたがた震えていた。
悟空はあたまをぼりぼりとかきながら
そっとカカロットの肩に手をかけた。

「・・・すみません
取り乱しちゃって」
「仕方ねえさ
ひでえ目にあったんだろ?」
「此方の世界では・・・
悟空さん
・・・悟空さんでいいんですよね・・」
「ああ
おらは悟空だ。」
「悟空さんはスーパーサイヤ人になれますか?」
「ああ、なれるさ」
「ベジータ王子も?」
「当然だ。」

カカロットは立ち上がると姿勢をただし
二人の前にひざまづいた。

「お願いです。
僕をスーパーサイヤ人にしてください。
僕はフリーザと戦いたいんです。
殺されたみんなの敵を討ちたいんです。
お願いします。」

悟空はにっこり笑った。

「いいぜ。
おめえはおらだ。
何でも出来るさ!!」














3.修行



早速翌日早朝から悟飯や悟天、トランクスも混じった
ふしぎな修行が始まった。
聞けば年齢は17ということで
悟飯とカカロットはほとんど同年代である。
パオズ山はいい天気で
みんなでピクニックにでもいくような雰囲気ではあった。

空を行きながら悟飯がいった。

「おとうさん」
「何だ?」
「むかしおおきいトランクスさんとトランクスくんが
同じ世界にいたことがありましたよね。」
「そうだな」
「あのときを思いだしますね。」

悟飯が懐かしそうにいった。

「僕より若いお父さんなんて
なんだか不思議ですねー。」
「おらにだっておめえくらいの時があったさ。」

カカロットはブルマの出した新しい戦闘服を着ている。
子供達は珍しそうに彼の周囲に集った。

「おいで、悟天。」
「何?
兄ちゃん。」

悟飯とトランクスは悟空とカカロット、悟天を並べた。

「ここに3人並ぶと・・・
お父さんの成長記録だ。
ほんとにみんなにてるなあ。」
「ほんとだ!」

その様子に
緊張気味のカカロットも
少年らしい笑みを浮かべるようになっていた。

「じゃあみんな集って。
トランクスも笑うのはおしまいだぞ。」

悟空が話す。

「では修行をはじめる。
おらや悟飯はスーパーサイヤ人になるのにひどく苦労したんだが
このチビたちはあっさりとスーパーサイヤ人になってるわけで・・・
おらが教えるより
このチビたちとあそぶほうが近道だとおらは思う。」

トランクスがうなづいた。

「こいつらちっちゃいけれどフュージョンも出来るし
超3にもなれる。
すげえぞ。」

「そうなんですか」
「そうだよ!
おれたちすげえんだぜ!」
「うん!」
「戦闘は・・・
悟飯に教えてもらえ。
界王神のじっちゃんの呪いがかかってるから
おらよりつええぞ。」
「呪いなんかかかってないですよ、お父さん。」
「悟飯さん、ですか?」
「ああ、おらの・・・・おめえのこの世界での息子だ。」
「よろしくお願いします、悟飯さん」
「いえいえこちらこそ」
「おめえはおらだ。
環境さえ整えば
今にだって超化できるさ。」

悟天がそっとカカロットの手を握った。

「僕に任せてよ。」
「よく言った、悟天。
いいぞ」
「えへへ」
「・・・じゃ頼むぞ、みんな。
おらを強くしてやってくれ。
おらはあっちで寝てるから・・・」
「寝るのかよ、おじさん!」



悟空はふわり、と浮き上がった。
ちび達の姿がみるみる小さくなる。

「やっぱり・・・」

悟空がつぶやいた。
むこうの小高い丘の上にたつ
ベジータの姿が見えたのだ。
悟空は嬉しそうに方向を変えた。



「よう
ベジータ」
「・・・」
「心配で見に来たのか?」
「まさか」
「おめえもいいとこがあるじゃねえか?」

ベジータは悟空の顔を見つめた。

「・・・貴様が修行してやるんじゃないのか?」
「まあな・・・
そう思ったが十分下地はできてるようなんだ。」
「きっかけ・・・か?」
「そうだ
おらや悟飯は怒りや絶望から
超サイヤ人への扉が開いたが
チビども見てるとかならずしも
マイナスの感情がなくても
超化できるようだからさ。」
「そうか」
「わざわざ今以上に辛い思いをすることもねえさ・・・」
「・・・」
「子供は子供同士だ」
「17は子供じゃない。
一人前の戦士だ」
「そうだな・・・
おめえならそういうだろうと思ったさ」

悟空は青い草の上に
ゆっくりと寝そべった。

「おめえも
横になれよ・・・」
「ことわる」

それでもその場を立ち去ることなく
ベジータと悟空はふたりで空を見つめていた。

「なあ、ベジータ」
「・・・」
「この世におめえがいて
ほんとによかった。
おらはそうおもう。」

ベジータは悟空の顔をちらりと見たがすぐ視線をはずした。

「そうおもわねえか?」
「・・・くだらん。」

どこからか鳥のさえずる声が聞こえてきた。





そのころ子供達のほうは・・・。
お弁当の時間がやってきていた。
悟飯が自宅から3往復して持ち出した食料の山は
あっという間に食べ尽くされた。

「うわ、すごいや。」

悟飯が笑った。

おそるべし
サイヤ人の若者達の食欲である。
昨日はぐったりしていたカカロットも
今日はがつがつと食べつづけていた。

「悟飯さん、足りないよー」
「もう少ししたらブルマさんも
お弁当を持ってきてくれるからね。
まってなさい」
「いつまでいてくれるの、
カカロット兄ちゃん。」

悟天は思い切り彼が気に入ったようだった・・・。
何時の間にかカカロットの膝に乗っている。

「僕は本当はここにいるべき人間じゃないので・・・
出来るだけ早くもとの世界に帰ろうと思います。」
「えーーー」
「つまんないの」
「なんでー?」

カカロットはさびしそうに笑った。

「あの・・・」
「はい」
「カカロット・・さんは
そちらの世界の
ベジータさんの部下だったんですか?」

少し遠慮がちに悟飯が聞いた。

「僕ですか?」
「はい」
「まさか。
僕はペットみたいなもんでした。」
「ペット?」
「そうです。
王子は特権階級ですが僕は下級戦士の子でしたから。」

カカロットは恥ずかしそうに頭をかいた。

「下級戦士でも父親は
特に優れた戦士だったんですよ。
だから王に仕えてたんですけど。」
「そうなんですか?」
「でもそういうのは特別で・・・
僕は生まれたときの戦闘力が低くて・・・
軍には必要ないんで
処分されるところだったんです。
どこかとおい辺境の惑星に
送り込まれるところだったそうなんですが。」
「えー」
「そんなのひどいよー」
「僕らは生まれたときの戦闘力が全てですからね。
それを偶然王子がとめてくれたんですよ。」
「はい」
「ちょうどペットに犬がほしかったらしかったんですが
気に入ったのがいなくて・・・
それなら
くずでもよかろうと・・・」
「うはあ、くずですか?」

悟飯が声をあげた。

「でもさっきの組み手は凄かったですよね。」
「そうだよ
おにいちゃん。」

悟飯がもぐもぐしながら口を開いた。

「凄い潜在能力じゃないですか。
気がびりびりと痛いです。
戦闘力の高め方なんて凄く上手いですよね。
さすがだとおもいますよ。」
「はい」

カカロットはにっこり笑った。

「王子のおかげですね、それも。
王子が僕にトレーニングをつけてくれて・・・
最近は王子のパートナーは
僕でないと勤まらなくなっていました。」
「パパと悟空さんみてる限りでは
想像つかないなあ、
悟天。」
「そうだね、
トランクスくん。」

「きっかけをつかめれば
今すぐにでもスーパーサイヤ人になりますよ。」
「そうでしょうか」
「僕らのお父さんはスーパーサイヤ人になって
フリーザをやっつけたんですよ!
僕らも今までたくさんの敵と戦ってきました。」

悟飯はカカロットにリンゴを投げた。

「若いお父さんも
きっとフリーザをやっつけられると
僕は思います。」

カカロットはにっこり笑った。

「ぜひそうありたいです」
「カカロットさんはベジータさんが
本当に好きだったんですね。」

カカロットは頬を赤くして答えた。

「はい。
僕は王子を
心から愛していました。」

















4.僕のベジータ



その日の深夜。
カカロットの乗ってきた宇宙船の
エネルギーチャージと点検整備がすんだ。
満足そうに笑顔を浮かべるブルマ。
ブルマは軍手をはずしながら
カカロットを呼び、
ひとつひとつ説明をした。

「ほら、とてもきれいになってるでしょう?
みてよ。」

カカロットは目を大きく開いた。

「ホントですね・・!
ブルマさんって
凄い人だったんですね・・・」
「当然よ・・・・。
天才なんだから、私。
父さんと一つ一つ確認したんだけど
特に壊れているような部分は
なかったわ。」
「そうですか。
ありがとうございます。」
「デモね
異次元移動装置だけは
設計図なしでは
判断できない部分があるの。
メカ的な故障はないし
プログラムにも
特に問題はなく見えるんだけど・・・」
「そうですか・・・」
「あちこち探したんだけど
設計図はなかったわ・・・。
どうする?
カカちゃん。
本当にもとの世界に戻れるかは
やってみないとわからないわ。
テストをする自信が
私にないのよ」
「そうですか・・・」

カカロットは王家の紋章の部分を
いとおしそうに何度もなでた。

「この移動装置を設計したのは
ベジータ王子なんです。」
「へえっ!
ここのベジータと
とんでもなく違うのね。」
「僕のベジータは
本当にすばらしい人だったんですよ。
強いし賢いし
愛情深くて。
・・大丈夫です。
僕は現にここにこれたのだし
僕は王子を信じてますから。」

ブルマはタバコを取り出した。

「ふうん・・・
そっちの世界のベジータに会いたかったなあ。
かっこよかった?
あいつ?」
「ええ、すてきでしたよ。
もうすばらしい人でした。」
「・・・がちゃがちゃとやかましいやつらだ。」
「あら、お帰り
私のベジータ。」

ベジータは眉間にしわをよせながら
ブルマをにらみつけ
カカロットのほうにあるいてきた。
そして彼の顔をじっと見つめた。

「・・そうか。」
「はい?」
「あっさり超化したんだな・・・」
「わかるんですか?!」
「当然だ。
貴様のまとってる
エネルギーが今朝と違うからな。」
「・・・」
「ブルマ。
明日はみんなをよんで
飯でも食わせてやれ。
もうそいつはでていくからな。」

その乱暴な言い方にブルマが怒った。

「何よ、ベジータ。
あわてて追い出す必要ないでしょう!」

ベジータは無表情でこたえた。

「・・・馬鹿な奴だ。」
「なによ!」
「こんな戦闘のない
平和ボケした世界にいれば
戦士としての感が狂っちまうだろう。
勝てる勝負も逃がしてしまうからな。」
「それが何だというの?
この子に今
たった一人で戦えというの?
この子の世界にはもうだれも
助けてくれる人はいないんでしょう?」
「・・・」
「だからあんたは戦闘オタクなのよ。
せっかく助かった命を
何のために捨てなきゃなんないのよ。」
「フリーザを殺せば
捨てることにはならない。
・・・ちがうか?」
「又あんたは殺すの殺されるのって・・・!
殺すだなんて言葉
私の前で簡単に使わないでよ!」

そのとき
カカロットがブルマの手をそっと取った。

「ありがとうございます。
でも・・いいんです。」

カカロットは小さくつぶやいた。

「僕の命は王子のものだから・・・」
「ベジータだったらここにもいるじゃない!!」

そのとき
カカロットの唇が
細かく
ぶるぶると震えだした。

「それがかなうなら・・
僕だって・・・」

それはとても小さな呟きだった。

「いえ・・・
そうじゃないです。
この世界に悟空さんと僕は
同時にいるべきじゃないんです。
今後どんな不都合が送るか
わかりませんし
今までだって
反発現象が起こらないのが
本当にふしぎなくらいでしたから・・・。」
「何いってるの。
たたかうことに反対してるんじゃないの。
もうすこし・・・
身体をやすめてからでいいじゃない。」
「・・・いえ・・・・
ありがとうございました。
皆さんには
本当にお世話になりました。」
「カカちゃん・・・」
「僕
明日の朝、戻ります・・・
皆さんになじんじゃうと
本当に辛いんで・・・
僕が帰ることは
だれにも言わないでください。」

ブルマの瞳から大きな涙がぼろぼろとこぼれた。










そして


最後の夜が来た。











体がだるい・・・。

ベジータは自分の部屋から
出る気がもうしなかった。
窓を全開し
一人星空を眺めてた。
早春の夜空にちかちかと瞬く小さな星の数々・・・。
かつてあのなかのどこかに
自分はたしかに生きていたのだ。
血にまみれ
死臭を漂わせて
ただ殺しつづけていた自分。
それが全てだと
信じていた自分が生きていた。
あのころの自分も
今の自分も
間違いなくおなじ自分だ。
では・・・
異次元の自分はどうなのだろう。
カカロットを助けようとして
殺された自分も
どこかの世界に存在していたのだという。
その自分は
あのカカロットを・・・。

いや・・・
カカロットはどうだ?

自分の知るカカロットは獣だ。
限りなく強く
・・美しい。
誰のものにもならない生き物だ。
ベジータが手を伸ばしても
もう少しのところで
届かない・・・。
殺したいほど
憎らしい男だ。
体中から
狂わせるような
男のにおいを撒き散らしているくせに
本人はそれに気がついていない。
そんな
腹ただしい奴だ。

でも別の世界では
同じ顔を持ち
同じ肉体を持ちながら
ベジータに忠実な
犬のようなカカロットも存在している。

ベジータの顔をじっと見つめる
彼の
黒い瞳が
・・・忘れられない・・・。




何時間たったろう。
何時の間にか眠っていたベジータは
小さな物音で
ふと目を覚ました。
枕もとに
誰かが立っている。


「何だ・・・貴様・・・」

ベジータは思わず声を出した。
それは間違いなく
カカロットだった。

「こんばんは。」
「・・・」
「鍵をかけないんですね。
おどろきました・・・」
「・・・」
「無用心ですね、
あなたは。」

彼が一歩ベジータに近づいた。

「俺の知ってるカカロットは・・・」
「・・・」
「瞬間移動とか言ってな。
俺の都合なんかお構いなしに
風呂場でも寝室でも勝手に現れやがるんだ。」
「・・・」
「鍵なんて意味がないんだよ。」
「そうなんですか・・・」

カカロットがベジータに顔を寄せた。

「もう一つおどろいたんですけど
・・・寝るときは貴方は
いつも全裸なんですか?」

そのとき
カカロットが
ふいにベジータの身体に手をまわした。
それは驚くくらい強い力で
ベジータの身体は
あっという間にカカロットの中に取り込まれてしまった。

「は・・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・よ・・・よせっ!」
「乱暴はしません」
「何・・・いって・・や・・がる
・・・、くそっ」

ベジータはあわてて唇をぬぐった。
そして逃れるようにカカロットから
身体を離した。

「ぶ・・ぶっ殺すぞ
貴様!!」

カカロットは可愛い顔で微笑んだ。

「・・・貴方と悟空さんは愛し合わないのですか?」
「は??」
「こんな風に・・・」

カカロットは
ベジータの頬に手のひらをそっと当てた。

「ば・・馬鹿やろ・・・」
「・・好きな人を抱きしめるとか・・・
・・・・・口づけするとか・・」
「ぐっ・・・」
「・・もっとこれ以上の・・・」

ベジータはカカロットの顔に手を突っ張った。

「・・やめてくれ。
・・気分が悪い。」
「どうして?」
「貴様は俺の守備範囲じゃない。」

カカロットはくすっと笑った。

「そうですか?
そのワリには
キスしたら
舌が僕のほうにちゃんと入ってますけど」
「うそつけ!!」
「貴方って凄く可愛いんですね。」
「いいかげんに・・・」
「少しくらい抵抗されるほうが
絶対いいですよね^^」

カカロットはベジータの身体をひょいと抱き上げた。

「おい、こら」
「此方の世界の王子も本当に軽いなあ^^」
「ひとの話をきけ!」
「こういうのお姫様抱っこって言うんですよ。」

カカロットはベジータの身体を
再びポーンとベッドに投げ出した。

「ベジータさん。
観念して僕の物になってください。」
「うわ、
やめろ・・・」
「ほらほら
僕から逃げようとする姿が
とてもいいですね。」

カカロットは背後からベジータをおさえつけた。
そして彼を簡単にひっくり返すと
ベジータの首筋に顔をうずめた。

「どうです・・・?」
「・・・は・・あっ・・・や・・
やめろ・・」
「そうですか?
あなた自身は
やめてほしくなさそうですよ」
「・・・」
「涙を流してるじゃないですか・・」
「ば・・かやろっ!!・・・」

カカロットはベジータの表情を
満足そうに見つめている。

「ほらほら
大きな声を出すと
ブルマさんにきづかれますよ・・・」
「よ、よせっ・・・・・」
「こういう場面を見られても
いいんですか?」
「・・・・っ」

カカロットはベジータを押さえつけたまま
次第に自分の位置をずらしていく。
ベジータは歯を食いしばった。

「・・・僕と王子は
本当に愛し合っていたんです。」
「そいつは
俺じゃないだろうが!・・・・」
「貴方だって
ベジータだ・・・
僕は
何でも知ってるんですよ。
あなたのことを」
「・・・こんなことやってると
カカロットの奴が気づくぞ・・・
あいつがきたらどうするんだ。」
「いっしょに参加すれば
いいじゃないですか、
あの人も僕なんでしょう?
僕はかまわないですよ。
それとも・・・
悟空さんに見られると
まずいんですか?」

カカロットの動きが乱暴になり
ベジータの体が
大きくゆれた。

「ばっ
・・かやろう・・・・!!
それ以前の問題だ!!」
「もしかして初体験ですか?」
「そういう問題じゃねえ!」
「僕が嫌いですか?」
「・・・人の話を聞け!」
「初めてでなく僕が嫌いでないなら
何の問題もないじゃないですか。」
「くそー!
耳元でささやくなー!!」
「感じてます?
ここがいいんですか?
じゃあ力づくでも」
「それも違うだろ!!!!」

カカロットはにっこり笑うと髪を逆立てて
目を青く輝かせた。

「らちがあかないので
力任せにいきます。
あきらめてください。」
「そうか、戦闘か!!
戦闘なら相手をしてやる!!
さあかかってきやがれ!!」
「いや、それは違います、
ベジータさん。」

急にベジータは生き生きと目を輝かせ
さっと超化するといきなり窓から飛びだした。

「さっさとついて来い!!
修行をつけてやる!!」
「え、ええっ!」

大きな勘違いを抱えた二つの黄色い光が
夜空を横切っていった。





夜明け前。
夜露がふたりの髪をぬらしていた。

ふたりのサイヤ人は、はあはあと息を切らしながら
向かい合っていた。

「まだかかってくるか・・・」
「もう体が動かないです・・・」
「ざまあみろ・・・」

カカロットはがっくり膝をついた。

「凄いや、・・・」
「・・・」
「セックスより興奮しましたよ。」
「そうだろう。
俺たちは戦闘民族だからな!!」
「はは・・・
10回はいきましたねえ!」

ベジータの頬が赤くなった。

「・・・下品な奴だ」

しばらくして。

ベジータはだまって
カカロットのほうに
あるきだした。
カカロットの黒い瞳にベジータの顔が写っている。
きれいな目だなと
ベジータは素直に思った。

「星がきれいですね
ベジータさん・・・」
「・・・」
「惑星ベジータには
星空はありませんでした・・・」
「そうだな。」

ベジータが答えた。

「けっこうガス層が
厚かったからな・・・
いつもどんよりとした空だった。」
「ふふ・・・
僕の知ってる景色と同じですね。
「まあな」
「ベジータさん・・・僕」
「・・・」
「本当は貴方と別れたくありません。
このまま貴方と暮らしていきたい・・・」
「・・・」
「そんなこと
出来ないのはわかってるんですけどね。
・・・僕のベジータは死んでしまった・・・。
たとえフリーザを倒しても
そのあと僕は
何のために生きればいいんでしょう・・・」
「・・・・・」
「僕は
もうたった一人ぼっちなんです。
僕にはもうまもるべきものがありません。
いきていたって・・・」
「・・つまらんことを考えるな。」

ベジータがいった。

「生きろ。」
「え?」
「強く生きろ。」
「何のために・・・・・・」
「貴様自身のプライドを守るためにだ。」

ベジータは続けた。

「いつか死ぬ日まで
精一杯生きろ。
それが答えだ。」
「死ぬまで生きる・・・
ですか・・・」
「そのとおりだ」

「ふふ・・・」

カカロットはよわよわしく笑った。

「カカロット」

夜露を浴びたベジータの姿は
輝いて見えた。
そして
ベジータはカカロットに
そっと手を差し伸べた。

「こっちに来い・・」
「はい・・・」
「いまだけ
貴様のベジータに
なってやる。
日が昇るまでは
俺のために
ここにいろ。」


























ベジータの意識が
「今」にかえって来た。
全ては過ぎ去った夢だ。
カカロットの流した涙のつぶも
明日になれば多分全て忘れてしまうだろう。
ベジータは何度も自分に言い聞かせた。

悟空は黙ってベジータの横に立っていた。

「ちょっとな」

悟空がベジータのおでこに指を当てようとした。
ベジータは青い顔をした。

「貴様!
勝手に俺の心を
読むなといってるだろう!」
「いいじゃねえか、
ヘルモンじゃなし」
「まったく
油断もすきもならない奴だ!」
「へへ」

それでも悟空は
まだ諦めきれないようで
名残惜しそうにベジータを見つめていた。

「なあ、ベジータ?」
「あいつさあ・・・
フリーザやっつけたら
また遊びにくるかなあ?」
「・・・さあな」
「うまくいくといいな」
「どうだかな・・・」
「なあ・・・ベジータ・・」
「うるさい奴だ。
・・・もう俺は帰る。」
「何だよベジータ。
つめてえなあ・・・。」
「貴様といても一銭の特にもならんからな。」
「そうか・・・?」

悟空はベジータの肩を突然抱いた。
それはベジータのよく知る
ごつごつした不器用な
悟空の手のひらだ。
その感触が今朝の記憶を鮮明に
ベジータに思い出させた。

それは
ベジータが今まで経験したことのない
息の止まるような
胸苦しさだった。





「・・・あいつには
あんなに優しくしてたくせにさあ・・」

悟空が耳元でささやいた。

ベジータは足を止めた。
首から耳までが
いきなり真っ赤になっていた。

「見てた様な口をきくんじゃねえ・・・!!
・・というか見てたんじゃあないだろうなあ!」
「・・・たまにはさあ
おらにも
優しくしてくれよ。」
「・・・ばかやろう!」

悟空の腕に
力が入った。

「おらだってさみしいさ」

ベジータは思わず悟空を見た。













風が過ぎ去っていく。



青空に
白い雲が
どこまでもどこまでも
広がっていた。








おわり




<1.ベジータとブルマ>


「ベジータ,準備出来たわよ」

おもむろに振り返りブルマがベジータのほうを見た.
腕組みをしたベジータは無言で近づき

ブルマにそっと目線を向けた.

「完璧か?」
「当たり前よ」

ブルマがベジータに答える.
髪が乱れて化粧が取れている.
この作業は彼女にとってもかなり労力を尽くした仕事のようだった.
べジータから頼まれた仕事、
それは異次元からきたあの少年が乗っていたマシンを参考にした
異次元間移動マシンの製作である.
タイムマシンまでは手がけたことのあるブルマだったが
異次元となるとかなり勝手が違った.
それまで見たこともなかったそ「マシン」を
数日前に点検したときに取っておいたデータ、
それだけで同じものを短時間に作り上げられたというのは
彼女の「才能と財力」のなせる技である。

「大丈夫.安心していってらっしゃい」

胸を張るブルマにベジータは首をかしげた。

「・・・いやに素直に送り出すんだな.
昨日まで大反対してたんじゃないのか」

ブルマはタバコに火をつけた.
そしてにこやかに微笑んだ。

「そりゃあ,
あんた一人で出かけたらいつ帰ってくるかわからないでしょう.
反対もするわよ。
向こうにいっぱい敵がいたら喜んで住み着いちゃうかもしれないし」
「ああ,楽しみだな.
ここのような安穏とした生活には
飽き飽きしているからな」
「でしょう?
でもね、
今週の土曜日はトランクスの授業参観があるのよ.
たまにはベジータにも学校に行ってもらわないと.」
「そんなもん行かん!」
「やっぱり。
・・・そう言うと思った.
でも子育てって言うのは夫婦の共同作業なのよね.
あんたも行くのよ.
絶対帰ってきてもらわないと困るから・・・!!
せっかく買ったあんたのスーツだってとっても高かったのよ、
あんたって、タッパはないのに見事な筋肉だし」
「知るか!」

ベジータは話を打ち切った。
彼の興味はもう妻にはない。
大体口でブルマに勝てたためしもない。
彼がすべきこと,それは
目の前のマシンにさっさと乗り込むことだけだ。
ベジータは白い手袋を両手にはめ、無視を決め込むとマシンのドアを開けた.

「いくぞ」

中から新しい金属のにおいがする。
べジータは中を見回した。
なかなかいい出来だ・・・・そう思う・・・.

「ん・・・?」

マシンは基本部分は異次元からきたあのマシンを
モデルにしているはずだった
・・・がいやに広い.
ベジータは中に踏み込んでみた.
操縦席に手をかけるとドアが自然と閉まった.

「何でいすが二つあるんだ?」

操縦席の横にシートがもうひとつ.
怪しい。
だが考えるのは性に合わない。
どうでもいいか、と思いながら
ベジータは操縦席に腰を下ろした.

「おっす,ベジータ」
「カカロット!」

おどろいた!
いきなり孫悟空が隣の席に現れたのである.

「貴様!
何しにきた!」
「あ,おら,ブルマに呼ばれて・・・」
「いきなりでてくるな!」
「そっか?
いつもとおら、かわんねえぞ」

そのときスピーカーからブルマの声がした.

「孫くん、いらっしゃい!!」
「ヤッホー、ブルマ!」
「ベジータ!孫くんとちゃんと帰ってくるのよー」
「な、な、なんな・・・・・」

ベジータが言い返す暇も与えず
無線は一方的にきられた。
音を立てて自動操縦装置が作動し
戦闘マニアのサイヤ人たちは目的地点へむけて、
時間と空間の世界に投げ出されたのであった.







<2、二人の旅>



異次元を航行するというのは不思議な感覚だった.
数多くの星を飛び回ったベジータですら
感じたことのないものである.
体よりも精神に負担がかかっているような・・・
ベジータ自身の記憶に圧力がかかってくるような・・・
そういう不快な感覚がのしかかって来ている.
地球人ならともかく
自分は平気だ,とベジータは思った.
鍛え方が違う。
今まで戦ってきた相手の中には
精神に攻撃をかけてきるやつも大勢いたから.
そう思いながらちらりと横を見ると

・・・・悟空は寝ていた.

バチン!

ベジータは思わず頭をはたいた.

「ばかやろう,
何のんびり寝てるんだ!」
「えっ,
もうついたのか?」
「寝ぼけやがって.
大体、なんで貴様がここにいるんだ.」
「何でってさ・・・
おめぇがあいつに会いに行くって言うからさぁ,
おらも,って」
「ブルマがしゃべったのか」
「そうさ.」

悟空は大あくびをする。

「3日前にあいつが帰った後,
おらもちょっとあいつが心配になって『様子を見に行こう,』
って言ったらおめぇ
『しるか!』ってたろ?
それがやっぱり会いに行くってったら
当然おらも,じゃねえか?」
「会いに行くわけではないさ」
「・・・えっ?」
「フリーザをぶっ殺しに行く.」
「ええ?」
「異次元だろうがフリーザはフリーザだ.
借りは返しておかないとな」
「おめえをやったフリーザは
未来の息子がやっつけたじゃねえか.」
「黙れ,貴様なんかもう帰れ!」

悟空がぶーぶー騒ぎ出した。

「こんなぐにゃぐにゃした気分じゃ瞬間移動もできねえよ!!!!」
「なんだ、
瞬間移動は異次元でもできるのか?」
「そんなのわかんねえよ!・・・
ああ,気分悪い・・・」
「気持ちが悪いか,カカロット」
「そうだよ・・おめぇ大丈夫なのか・・・」
「もちろんだ」
「おら、吐きそうだよー」

・・・俺の勝ちだ.

内心でそっと微笑んだベジータであった.








<3.3つの心>






突然体がふっと楽になった.
長かったのか短かったのかわからない
異次元への旅が終わったようだった.

「やっほーーー!」

まっ先に飛び降りたのは悟空だった.

「ひぇえー,ここが惑星ベジータか.」
「ガキか・・・きさまは・・・」

ベジータは無言で降り立ち
さっさとマシンをカプセルに収納する.
そして上目遣いで周囲を見渡した.
似ている,とベジータは思った.

・・・自分の記憶の中の惑星ベジータに似ている.

「ベジータ,ここがおらたちの故郷なのか?」

悟空がきょろきょろしながらたずねる。

「そうだ・・・異次元ではあるがな.
貴様もここで生まれたんだろう」
「だろう,って・・・」
「俺は貴様が生まれたころはここには住んでいなかったからな.
もうフリーザ軍にいた.」
「そんな子供のときからか」
「そうだ」
「ふうん」
「・・・・だが貴様の父親にはちらりと会ったころがある」
「そうなのか?」
「ああ,
詳しくは覚えていないがな」
「・・・」
「・・・どうした.もう俺に聞かないのか?」
「・・・えっ?」
「わかってるぞ.
貴様ブウ戦でフュージョンしたときに
俺の記憶を読んだんじゃないのか?」

悟空がびくっとしたように思えた。

「べジータ・・・・・・
何でそんなことを・・・いうんだ・・?」

悟空を無視し、ベジータは歩き出した.
しかたなく悟空も黙って従った.
人気のない無機質な世界だ。
かつては繁栄していたのだろう、
悟空が見たこともない立派な建物が点在している。
ただいまは破壊の限りを受け
広大な廃墟と成り果てていた。
サイヤ人の生き残りどころか

死体すら目に付かないのがかえって気味が悪い。
気を読める彼らにとって
捜し求める相手は手に取るようにわかる.
彼らは瓦礫の上を羽のように飛び跳ねながら進む.
おそらくあの「カカロット」がこの世界に返ってきて
1日もたっていないはずだ.

いいタイミングでついたもんだ。

べジータは思った。
そういう点では確かにブルマは天才だった。

「ふん,気分の悪いやつらがわんさといるな.」
「そだな」
「ブルマのやつは異次元に手を出すな,といっていたが」
「ああ,歴史が変わるようなことは
しちゃいけねえといっていた」
「それならやつが俺たちの世界に来た時点でアウトだ.
だから・・・」
「だから?」
「かまうもんか.
みんなぶち殺してやる」

ベジータはいきなり宙にとびあがろうとした。

「ベジータ,やめろって!!」

そのとき背後のほうで大爆発が起こった.
閃光、そして地響き!

「カカロット、きたぞ!」
「まちげえねえ、フリーザの気だ!」

かなたの空に突然現れたのはあの「カカロット」とフリーザだった.
白い火花が大空を走ると
その場の空気が再び大音響に切り裂かれた。
フリーザはすでに最終形態になっている.
カカロットも金色に超化していた。
だが涼しい顔のフリーザに比べ、
すでに「カカロット」のほうは青い戦闘服が
胸まで引き裂かれ、右のわき腹が真っ赤に染まっていた.

「やべえ,おされてっぞ」

フリーザの動きは早く
カカロットの目がついていっていない.
よけきれず続けてエネルギー波を
正面から何度も食らっている.

「カカロット,気だ,気で感じとれっ!」

思わず悟空はこぶしを握り振り回した.
ベジータは黙ってみていた.
彼の洗練されていない動きにいらいらしてるように見えた。

「不細工な戦い方だぜ・・・」

そのとき.
ベジータの眉がぴくりと動いた.
確認するために神経を尖らせる。
しばらくしてベジータは口角を少し上げた.

「・・・やはりそうか.」

ベジータが小さくつぶやいた.

「あぶねえ!!」
「カカロット,ほおっておけ!」

ベジータは飛び出そうとするカカロットの腕をつかんだ.

「え,何でとめるんだ?
あいつ、やられちゃうぞ」

ベジータはにやりと微笑んだ.

「超サイヤ人のあいつにフリーザごときがかなうものか」
「そりゃそうだけどよお」

べジータは静かにすうっと空中に上がっていった.
懐かしい惑星ベジータの青空に
浮かんでいくベジータの姿.
エネルギー波の後の白煙が引くと
その姿はくっきり明らかになった.

「ベジータさん!」

「カカロット」が叫んだ.

「まさか、
どうして・・・」
「ベジータだって?」

おもむろにフリーザが視線を向けた.
腕組みをし,首をかしげる.

「ふうん・・・確かにあなたはベジータですね.
だけど感じがかなり違いますね.
いったいどういうことか,
説明していただきましょうか」
「・・・頭の悪い貴様には理解できないぜ」
「失礼な.
まあいいでしょう.
この死にぞこないをかたづけたら
あなたの相手をしてあげましょう・・・.」
「よく言うぜ」

ベジータは「カカロット」をにらみつけた.

「なんてざまだ,さっさと片付けちまえ!」
「ベジータさん・・・」
「傷つくことを恐れるな!
思い切りいけ!」

「カカロット」は額から流れ落ちる血をぬぐった.
そして大きくうなづいた。
白い手袋はすでに赤黒く染まっていたが
その手袋を脱ぎ捨て,
「カカロット」は力強く構えなおした.

「がんばれー,カカロット!」

悟空も飛んできて声を上げた.

「おらも見てるからなー」
「悟空さん・・・」

フリーザが声を荒げた.

「もうわけがわからないですね,
私はとても不愉快です.
こうなったらわけなんかききません,
早く終わらせるだけですよ!」
「カカロット,目で追うな,
お前の心で感じ取れ!」

ベジータが叫んだ.

「おまえはひとりではない!
お前が信じるもののために戦え!」
「はい!!」
「気を張り巡らしてみろ!!
今のお前なら気づくはずだ!!!」

ベジータの叫びに悟空もはっとした.

「この気は・・・・本当に弱いけど
確かにおらも感じるぞ.
・・・そっか,ベジータ!」

同時に「カカロット」の瞳も光が差した.
頬は見る見る紅潮し
口元が希望でほころんだ.
腰を落とし構えた手のひらに気を集めて
大きな塊にみるみる膨れあげていく・・・。

「覚悟しろ,フリーザ!」
「生意気な・・」
「いけーーーー!!!!」

3人の声がひとつになった.







<4.僕らのべジータ>



雷鳴がとどろいた.
戦いの終わりをつける轟きだ。
自然の摂理を無視するような大音響は雷雲を呼び
あたりにぽつぽつと雨を降らせ始めていた.

悟空は立ちすくんでいた.
足元には「カカロット」が倒れていた.
ずたぼろではあるが満足そうな顔つきをしている。

「こいつ・・・わらってやがる。」
「おめぇ大丈夫か・・・
すぐに楽にしてやるからな」
「仙豆を持ってきてるのか?」
「ああ」
「そうか.
そいつを頼む.」


ベジータはかつて自分の住んでいた城に
一人で向かった.
何もかもが記憶のままである。
フリーザを失った軍隊は混乱している。
ベジータを見ても
攻撃する意欲さえ失っていた.
城の内部は懐かしいはずの景色ではあるが
今のベジータには何の感激もなかった.

「これがフリーザ軍だ.
恐怖と暴力だけで支配する軍隊の
成れの果てだ・・・」

ベジータはつぶやいた.

ここに気を感じないザーボンやギニューとて
いまさら超サイヤ人の敵ではない.
いずれ遠征から戻ったとしても
何の脅威にもならないはずだ.

記憶をたどり、地下にどんどん降りていくと
厳重にロックされた扉がある.
ベジータはすっと超化すると
そのロックをおもちゃのように握りつぶして進んだ.
分厚いドアも指一本でぶち壊す.
そして目指す場所にたどり着いた。
最下層の窓も何もない真っ暗な部屋.
そこに、目指す人物がいた.

「・・・誰?」

その声に答えず、
ベジータは足を踏み入れる。
床に散らばる薬剤のビンをパリン、と踏み潰した.
いすのひとつさえない殺風景な場所に
鎖でつながれ
床に転がされた
黒髪の青年がそこにいた。

「ふん・・・」

ベジータは折れたアンプルのかけらを拾ってつぶやいた。

「ここの世界でも薬漬けか.
どうせ絶食と不眠不休のリンチのおまけつきだろう.
フリーザは趣味が悪いぜ.」

ベジータは青年の両手両足の鎖をはずしてやった.
体は傷だらけで裸同然の青年だったが
惨めな様子は微塵もなく
彼が最後まで誰にも屈指なかったことが想像できた。

「ありがとう。
あなたは・・・」

ベジータは答えず
ただにやりと笑った.


「どんな暴力もプライドを壊すことはできない・・・」

ベジータは青年に右手を差し出した.
青年はその手をしっかりと握り返した。

「・・・ということは
カカロットは助かったんですね・・・」

「・・・フリーザ軍の地獄の責めによく耐えた.
さすが,貴様もベジータだ」







ベジータは彼の身なりを整えてやる。
すべてのものがベジータの記憶のままに存在するのだった。
そしてしばらくすると悟空と「カカロット」が出迎えてくれた.

「王子・・・」

死んだと思い込んでいたベジータ王子は生きていたのだ.
あきらめることなくカカロットの来ることを信じて。
「カカロット」は声を上げて子供のように泣いた.
ベジータ王子は瓦礫の上に腰をかけ
カカロットに手を差し出した.
その手をカカロットがとり
頬に押し当ててワンワンないた.

いつしか雨がやむと、空が明るくなってきた。
やがて陽が傾きはじめた。
傷ついた二人を夕日が赤く照らした.
悟空は自分たちと同じ顔をした二人が
しっかりとからだをよせあっているのを見て
本当に戸惑っていた.

「・・・参ったなあ」

悟空がつぶやき,ちらりとべジータをみるが
彼はまったく無関心な様子だ。
悟空がそろそろと手のひらを
ベジータの方に伸ばそうとしたが
ベジータがあっさり払いのけた.

「どさくさにまぎれて何をしやがる・・・・」
「変な気持ちじゃねえよ」
「言い訳するところが怪しいぜ」
「なんだよう」
「なあ,あいつが生きてるってのはわかっていたのか,
最初から」
「いや・・・そうじゃないが・・・・
違和感があった.
利用できるものなら脳髄だけでも回収するフリーザが
王子をそのまま殺してしまうというところがな.」
「ふうん」
「そしてカカロットは
ここのべジータが殺される瞬間は見たが
死体は確認していない.」
「そうか・・」
「貴様も入ったことがあるだろう。
あのメディカルマシーンは失った組織も復活させるんだ.
頭と胴体が生き別れになっていなけりゃな、
・・・・間違いなく生き返る。」

悟空は泣き続けるカカロットの方に視線を投げかけた。
感情をそのまま受け入れてくれるパートナーが
彼にいることが
正直うらやましくもあったのだろう。
ベジータはかまわずつづけた。

「瀕死の状態に持ち込んでとことん恐怖を覚えさせ,
わざと治療し
次に終わりのない苦痛を与えつづける.
フリーザ軍では普通に使われていた服従プログラムだ.」
「じゃあおらの父ちゃんや
おめぇの父ちゃんもここでは生きてるかもな.」
「可能性はあるな」




「ベジータさん・・・・」

ようやく「カカロット」が歩み寄ってきた.
泣きつくしたのか、
すっきりした笑顔を浮かべている。

「本当にありがとうございました」
「まあな・・・」
「よかったな,カカロット.
がんばれよ」
「ハイ」
「そっちのベジータ王子も」

前髪を下ろした若いベジータ王子も
かすかに微笑んだ.

「おっしゃるように父王や,バーダックも
この国のどこかに幽閉されていると思います.
いずれ私たちはは国を建て直し
お二人をおよびしたいと思います.
そのときは・・・ぜひおいでください.」

ベジータはいった.

「いや,もう会うことはないだろう.」
「ベジータさん,
僕は、僕は!
・・・僕はあなたのことを忘れません!」
「カカロット.」

べジータは、抑揚のない冷静な調子で答えた。

「忘れろ.
・・・・貴様は貴様のベジータのために生きて行け.」

「カカロット」が言葉を詰まらせた。

「なんだよう,ベジータ.
おら,よくわかんねえよ」
「貴様には関係ないことだ」

さっさと空に飛び上がったベジータ。
後を悟空が追った.

「じゃあな,元気でがんばれようーー!」

悟空の声が響き渡り
地上の二人は空を見上げた.
二人の影はあっという間に
惑星ベジータの闇に消えていったのであった.







<その後の追記>



「ちゃんと着替えなさいよ,ベジータ」
「わかってる」
「学校に行くんだからね,
戦闘服なんて着てきちゃだめよ.」

ブルマの声が響き渡る.
朝食を済ませたベジータは
苦虫を噛み潰したような顔で

自分の部屋に帰ってきた.

うるさい女だ.
ベジータのベッドの上には
真新しいスーツが出してある.
地球で言えば値段がはって
「紳士らしい」衣類だそうだ.
だがベジータに言わせれば
窮屈なだけの趣味の悪い布っきれである.
わざわざ首を絞めてくださいと言わんばかりのネクタイなどは
ちぎってやろうかと思う.
それができないのは
それがまたブルマがわめく[ねた]になるからだ.

うるさいのは苦手だ。

ベジータがベッドのすみに腰掛けたとき
急に体がおもくなり
上からぎゅぎゅっと押しつぶされた.

「なんだなんだ!」
「おっす!」
「何をしやがる!!」

ベジータの上に突然悟空が現れたのだった.
ベジータが思わず跳ね除けたので
悟空はスーツの上にしりもちをついた.

「あ,馬鹿やろう!」
「なんだよー」
「スーツがしわしわになったじゃないか,
またブルマにどやされる・・・.」
「ははっ,何だおめえ
ブルマがこぇえのか」
「うるさい,何のようだ貴様!」
「ははは!」

悟空はいつもの胴着姿だった.

「この前さあ,
おらがおめえの記憶を読んだって話してたけど・・・」
「その話はもういい」
「よかないさ.
あれはフュージョンのときにおめぇとおらが融合して
気持ちが混ざっちまったんで,
わざとじゃねえんだ.
それだけを言いたかった.」

ベジータは悟空の顔を見た.

「なんだ、本当に俺の記憶を読んでだのか.」
「ああ.
でもわざとじゃねえ.
おらたまげちゃってさあ・・・
それ以来おめえを意識しちまって・・・
うまくいえねえが・・・
おらの知らないおめえがいっぱいいて・・・
おめえもつらい子供時代を送ったんだなあって・・・」

べジータはあっさりと答えた。

「ふん.
別にかまわんさ.
本当のことだ.」

ベジータは立ち上がり
窓辺にもたれかかった.

「フュージョンは不思議な一体感だったな.
体も精神もとけてしまうような感じだった。」
「・・・そうだな」
[あのとき
貴様の記憶も俺に流れ込んできた.
だから]
「だから?」
「俺は貴様の気持ちも知っている.」
「え,ええ,
ベジータ???!」
「貴様も俺の気持ちをしったのだろう.
お互い様だ.」
「おらの気持ちを・・・」

真っ赤になる悟空.
ベジータはふっと笑った.

「そういうことだ.
だから俺は気にしない.お前も忘れろ」
「忘れろ,忘れろって,
おめぇはいつもそうだ.
何でそう冷たく言いきれるんだ」
「俺は心を信じていない.
人の気持ちなんか変わるんもんだ.
あのときの貴様の心はあのときのもの.
そしてお前が読んだ俺の心も
そのときだけのものだ.
お前が俺の心をどう読んだかわからんが
今も同じ思いでいるとは限らんぞ.」
「ベジータ・・・お前ってば本当に屈折してるな」

ベジータは悟空に背を向けた.

「俺は今日は忙しいんだ,
貴様の相手をする時間がない.
帰れ」
「くそー,すげえ腹立ってきた.」

 悟空はすっくと立ち上がるとベジータの腕を取った.

「もう怒った.
おらと北の高山で今から修行だ!」
「ばか,
今日は父兄参観なんだ!」
「おらだってそんなの行った事ねーもん」
「貴様と一緒にするな!」
「裏の裏まで心を読んでやる.
もう遠慮しねーぞ」

悟空がベジータの体を抱えておでこに指を当てる.
あんまり支度の遅いベジータに業を煮やしたブルマが
部屋にはいってくるのと同時だった.

「どこ行くのよ,孫くん!」
「ちょっと修行にいってくらあ」
「あんた,
ベジータは置いて行きなさいよ!!!!」

にっこりわらって消えていった孫悟空,
手荷物のように抱えて連れ去られたベジータ.
ブルマの足元にはスーツがぐしゃぐしゃになって丸まっていた.

「なによ!
サイヤ人なんて最低!」


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おわり









それは月の明るい晩だった。



惑星ベジータの月は青く冷たい。
全ての甘い感情をなぎ払うように
ぎらぎらと天空に輝いている。
その透き通って輝く色は
伝説の超サイヤ人の瞳の様だと伝えられてきた。

超サイヤ人。
宇宙一冷酷で
この世で一番凶暴な
サイヤ人の悪魔。

何百年、もしかしたら何千年に一人現れる「かも」知れないその究極の戦士は
この世の全てを破壊し
その両腕であらゆるものを握りつぶし
サイヤ人たちをいつかこの閉塞した世界から救い出してくれる。
フリーザの支配する傀儡の王国で
皮を引き裂き
骨を砕き
肉をすりつぶす毎日。
殺し
殺され
憎み
憎まれ
終わりのない悪意に
肩までどっぷりつかったこの暮らしから。

多くの戦士たちが右端の欠けた月を眺めているだろう。
いろんな思いを抱えながら。
このとき、今・・・。



バーダックと呼ばれる男もそんな一人だった。

サイヤ人としては大きめの体を持ち
手足が太く長く
手のひらのごついその男は
ぼさぼさとした黒髪を
鬣のように振り乱していた。
濃くきれいにはえそろった眉毛と
白目勝ちの大きな鋭い瞳が印象的だ。
が、その風貌は典型的な下級戦士であった。
バーダック自身
自分がどうやってこの世にあらわれてきたのか
知るはずがない。
気がつくころにはすでに体は傷だらけで
いつも体のどこからか血が流れて乾くひまがなかった。
だがそれに何の疑問があるわけでもない。
彼に他の選択肢があるわけでなかったからだ。

当たり前のように毎日毎日繰り返される
侵略から帰って来たバーダックは
不機嫌そうな顔をしてあたりを見回した。
つかれきった兵士たちを取り囲むように
野卑な男達の笑い声が
そこら中で響き渡る。

「お帰り。
今日は早かったね。」

後ろから声をかけてきたのはセリパである。
彼が探していたのはこの女のようだった。
セリパは珍しい女戦士である。
体は小さいがメリハリのある美しい体をしており
茶色の尻尾もつやがありとてもしなやかで
彼女はその毛並みを誇りに思っていた。
さっきまで苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたバーダックは
突然表情を崩し
にかっと笑うと
セリパの頭を右腕で抱え込んだ。

「おう。
お前は元気にしていたか?」
「今朝別れたばかりじゃない」
「そうだな」
「あんた、あんまり疲れてないみたい。」
「まあな。
今日の仕事はたいしたことがなかった。
まだ暴れたりなくていらいらする。」
「そうなの?
他の奴らはくたくたって顔だけど。」
「そりゃ鍛え方が違うんだよ。」
「あんたは特別だよ。
まだ欲求不満で爆発しそうな顔に見える。」
「おうよ、
もう暴発寸前だぜ。」

バーダックはにやりと笑うとセリパの手をとって
その部分に触れさせた。

「・・あ、ほんとだ。」
「だろ」
「・・・」
「やらせろよ」
「バカ」

セリパが答え終わらないうちに
バーダックは彼女の体をひょいともちあげる。
そしてそのまま
バーダックはセリパを抱えて空に飛びあがった。

彼の背中を怪しい感覚が走る。
それは何か細かい線虫が
血管の中をうごめく感じに似ている。
彼の脳裏ににさっき殺してきた人間達の
さまざまな姿が浮かび上がる。
それは血流の流れとともに
熱く狂おしい疼きとなって
彼の下半身から脳髄にかけぬける。
殺してるときには気づかなかった
見えなかったはずの人間たちの顔が
今頃になってなぜかはっきり浮かび上がる。

いつまでたっても慣れねえぜ
この感触はよ!!

殺し続けてきた自分に
いまさら良心の呵責なんかがあるわけではない。
俺達は戦闘民族で
ほんの餓鬼のころから
殺し続けてきたのだ。

バーダックはセリパと二人
体をからませながら夜空を飛びつづけた。
彼女の唇を激しく吸い
骨がきしむほど体を抱きしめる。
抵抗する彼女の腕を締め上げて
装着しているプロテクターを乱暴にはがして
つぎつぎ地上に投げ捨てる。

「・・・いた、いたいよ
バーダック。
苦しい・・・息ができない」
「すぐによくなる
我慢しろ」
「いつだってあんたは人の都合も考えないで・・・
こんな所で・・・
誰が見てるかわからないのに・・・」
「ふん
スカウターつけてれば
誰にでもわかるさ。
俺とおまえの数値がむちゃくちゃ上がるんだから。
もうあがり方がジグザグだからな、
みんな笑ってやがるだろう。
見せてやればいいじゃねえか。
おまえだってそのほうがいいだろう?」
「んなわけないだろう・・・
ばかな男だねあんたは。」
「その口、きけなくしてやるさ・・・」

とにかく頭を真っ白にして
何もかも放出してしまいたい思いが
激しくあついうねりとなって
バーダックの体を激しく揺さぶる。
青い月を背景にして
二つの影が
限りなく絡み合い
けもののような叫びだけが
響き渡る。








「ほんとにあんたって底無しだよね。」
「おめぇにいわれたくないさ。
・・・ってなんだか寒くねえか?」

二人は抱き合ったまま
雲のように夜空を流れていたのだが
かなり遠くに来てしまったようだった。

「明日は俺は休みだからな。
もう朝までやるか?」
「ばか」

そのときセリパがバーダックの肩をたたいた。

「あ、あれ・・」
「なんだ?」
「みて。
あの建物・・・。」

遥か下のほう
セリパの指差す方向に
見慣れないつくりの小さな家がある。

「なんだろう、あれ。
こんな山の中腹に・・・」
「さあな・・・
かなり北のほうに来ちまったらしいが。
見かけねえ形の建物だな」
「一寸見に行こうか。」
「よしとけよって
・・・おい、いくのか!」

セリパはいたずらな微笑を浮かべて
静かに建物に飛んでいく。

「しかたねえなあ」

外見の質素さに比べて窓から見えるその部屋の中は
かなりな高級な雰囲気がした。
こういうものに疎いバーダックでもわかるような家具がおいてある。
ただ無駄に贅沢をしている感じではなかった。
しかし人の気配は殆どしない。

「あ、あれ」
「ん?」

奥のほうから現れたのは
年のころは14、5にしか思えない少女だった。
髪は長くまっすぐで腰の辺までつややかに流れている。
質素ではあるが上品な白いドレスを着ている彼女には
茶色の尻尾が生えていて
明らかにサイヤ人なのだが
その表情ははかなくおぼろげでやわらかい。
バーダックの知るおよそ残酷で狂暴なサイヤ人の戦士とは
とてもおなじ生き物とは思えなかった。

バーダックは思わずつばを飲み込んだ。

こんな生き物がいるのか。
正直にそう思った。

「メス?
繁殖用の・・・メスみたいね」
「メスか?
俺ははじめてみるが。
メスってのはこういうとこで飼ってる訳か?」
「いや、ちがうよ・・・
普通のメスなら繁殖コロニーにいる。
繁殖用のサイヤ人は数が少ないからどんどん使いまわされるだろう?
管理し易いように一ヶ所にいるんだよ。」
「ふうん」
「それに・・・
着ているものが違う。
メスはは病院の室内着みたいなのを着てるから。
あの子は結構いいドレスを着ているよ。」
「じゃあ何なんだ?」
「エリートが内緒で飼ってるんじゃないかな?」
「メスをか?
誰が?」
「しらないよ・・・
これ、見ちゃいけないものかもね。
さっさとずらかろうぜ、バーダック。」

セリパはバーダックの手をひいた。