それから数日後。
ブルマはトランクスを誘って街へでた。

「買物をしたいからついてきてね。」

そういうことは良くあることである。
トランクスは昨夜も家に戻らなかった後ろめたさもあり
素直にしたがった。

西の都の復興は早い。
然しそれはうわべの事で
中心部の居住区にいけばそこは更地だらけである。
個人の生活を国が救ってくれるわけではないのだ。
公園や河川敷には青いビニールシートが広がり
住む家を失った人たちがテント暮らしをしている。
ガス水道のない生活。
着の身着のままの毎日。
でも彼らだって
かつては家も家庭もあった。
仕事をして当たり前に暮らしてきたのだ。
四季のない西の都でも12月となれば夜は冷え込む。
家族を、友人を、仲間を失った人の生活は
そう簡単に元に戻るものではない。

ブルマ達が向かったのは
人造人間の被害にあった人たちが暮らすコミュニティだった。
ブルマは道をいきながら思いつくままに
食べ物や子どもの喜びそうな物を買い求める。
そしてそれを出会う子どもに配ばりながら歩いていた。

「お金なんて使い道がないと思ったけど
パパの残した財産が役に立ちそうね。」
「母さん、いったいなんで今日はこんなことを?」

トランクスは聞いた。
ブルマは目を丸くした。

「やだ、あんた、気がつかなかったの?
今日はクリスマスイブよ。」

トランクスはあっと言葉を飲んだ。

そうだったのか。

トランクスはまわりを見渡す。
無彩色の街。
クリスマスらしい雰囲気など微塵もない。
とてもそのような余裕がこの世界に感じられなかった。

「もうすぐいろんなオーナメントがここに届くの。
あそこにとても大きな木があるでしょう。
あれをクリスマスツリーにしましょう。
低いところは子ども達と一緒に。
高いところはトランクスが飾るのよ。」

ブルマの指差す方向にはとても古い大きな木がそびえている。
無邪気に笑みを浮かべる母親をみてトランクスは頬を染めた。
こんなときにこういう発想をする母親。
とても彼女にはかなわないと思ったのだ。

しばらくするといろんな商店から
大小さまざまな荷物が公園内のテント村に届き始めた。
モールやクリスマスディスプレイだ。
ブルマは嬉しそうに微笑んだ。

「さがせばあるものなのね」

次々と運び込まれる荷物。
トランクスは目を丸くした。

いったい、いつの間に、母さん…。

「どのくらい買ったのですか?」
「さあ?あればあるだけと言ったから…
たりなくてもあまることなんかないわよ。」

どんどん届くさまざまな段ボール箱に
子ども達がどこからともなく集まってくる。
色とりどりのサンタやトナカイが
箱の中にぎっしりつめられている。
それを見る子ども達の顔は生き生きしている。
触りたい、触りたいと目が訴えている。

「みんな、もっていっていいわよ」

ブルマがそう声をかけると
子ども達は目を輝かせて手に手にとり始めた。

「飾っていいの?」
「もってかえっていいの?」
「ほんとにいいの?」

口々に尋ねる子ども達にブルマが答える。

「いいわよ。
おうちや街を飾って頂戴」

歓声をあげる子ども達。
金や銀のモールを持って走り出す
思い思いにテント村を飾りだす。
飢えていたのだ。
美しい色彩に。
トランクスも照れながら
ブルマの指差す大樹に子ども達とともに飾り付けをはじめた。
はじめは怪訝な顔で見ていた大人たちも
子どもの笑う顔につられてどんどんブルマの元に集まってきた。

「あんたカプセルコーポの…」

周りの人がアッという顔をする。
ブルマは笑う。

「そうよ。私もまた頑張るから皆さんも頑張りましょうね。」

小さい幼児の手を引いたおばあさんが声をかける。

「頑張ってあんたのとこの製品を買うさ。
私はくたばるまでに会社を元通りにしてな。」

どっと笑い声が起こった。

「トランクス、任せたわよ」

急に言葉をかけられてトランクスは言葉に詰まった。
カプセルコーポレーションを立て直す。
そのようなことを今まで考えたことがなかったからだ。
トランクスはどぎまぎしながら周りを見回した。
暖かい視線が彼を取り巻いていた。
ブルマはにっこり笑うと
トランクスに赤い三角帽子をかぶせた。

「サンタだ。」
「髭がないけどサンタだ。」

子ども達は大喜びである。
それぞれが思うままに
トランクスの手を引き
ジャケットのすそをつかむ。

「わわっ!」

サイヤ人の血を引く戦士も
子供には勝てない。
トランクスは子供たちに振り回されながら
ツリーの準備を続けた。
わき上がる子供たちの
明るい笑い声。

ブルマはどんどん荷物を開ける。
いつのまにかそれを手伝う人がでて
テント村は活気に溢れ始めた。
笑い声と笑顔が集まる。
やがて次第に日が落ちて
あたりはうっすら日がくれて来た。
ブルマが発電機のスイッチを入れる。
トランクスたちの飾ったツリーがライトアップされた。
どっと歓声があがる。

「わあ。」

トランクスも思わず声をあげていた。
彼もはじめてみるクリスマスツリーだった。
そう。
彼も生まれてから今までにクリスマスツリーなど見たことがなかったのだった。

「母さん、クリスマスツリーって
こんなにきれいなものだったんですね。」
「そうよ、トランクス。
本当にこんな気持久しぶりだわ。」

ブルマが言った。

「光って本当に不思議だわ。」

西の都に巨大にそびえるクリスマスツリー。
人だかりはどんどん膨らんでいく。
輝く光に笑う人、また呆然とツリーを見上げる人。
立ち止まり涙を浮かべる人さえ現れた。
トランクスは固唾を飲んで人々の姿を見つめていた。
こんな明かりがこんなにも多くの人を喜ばせるなんて。
体が震える。
理屈じゃ、ない。

これが生きるということなのか。

トランクスの身体はしびれた。
こんな気持は初めてだった。
自分でどう言い表したらいいのか。
彼にはふさわしい言葉が思いつかなかった、どうしても。
トランクスは思わず母親を見た。
母親は
腕を組んでタバコをくゆらせている。
満足そうな顔をしている。

あなたはすごいです、母さん。

トランクスは心の中で繰り返した。
13.最終話 Pillar of light...光の柱



星が降るような夜空に輝くクリスマスツリー。
トランクスは楽しい光を始めて経験した。
ただ光っている。
そんな単純なことがこうも人々を喜ばせている。

そしてトランクス自身も
自分のふさぎこんだ気持が浮かれ出し始めていることに
気づくのであった。

たくさんの子どもの笑い声が聞こえる。
いつも暗い顔をしている大人たちも
子供の声に自然と元気付けられる。
こんな夜が今まであっただろうか?
トランクスは周りを見渡した。
星降る夜空に
輝く光のツリー。
たくさんの人々の
うれしそうな顔。
トランクス自身も小さな子供に囲まれて
満面の笑顔になっていたのだ。
トランクスにしっかりつかまる
小さな手、手。

そのとき。
肩まで伸びたトランクスの髪を強く引っ張る者がいた。

「え?」

無邪気な美しい気。
トランクスが思わず振り向く。
その手は黒い髪の少女に抱かれた小さな赤ん坊であった。
まだ歩けないくらいの…。
その小さい手がトランクスの髪をしっかりつかんでいる。
頬がまん丸で
唇がとても小さく突き出ている。
その愛らしさにトランクスは思わず微笑んだ。
赤ん坊を抱いている少女の年のころは
14,5歳くらいだろうか。
目を大きく見開いておろおろしている。
赤ん坊の行動にとにかく驚いているようだった。
あわててその小さい手を
トランクスの髪からほどこうとした。
真っ黒な瞳がとても美しくぬれるように光って見えた。
長い髪は背中まであって絹のようにつややかだった。
儚げな暖かい気。

「…!」

そのときトランクスは声をあげそうになった。
この気に、心当りがあったのだ。
とても暖かくとても懐かしい気
そして彼がずっとずっと
捜し求めてきた大切な気であった。

トランクスはじっとその少女の顔を見つめた。
何度も何度もその気を確かめた。

抱かれた赤ん坊の小さい手が
しっかりとトランクスの髪を握っている。
少女がその手を解こうとしても
小さい指ははなれない。
トランクスはいいよ、というように
少女に目で語りかける。
少女はトランクスの視線に気づくと目を伏せた。
頬があかく染まっているのが夜目にも判った。
その恥じらいを秘めた表情にトランクスは確信を持った。

「ああ…」

そのとき
トランクスの目から一筋の涙が流れた。
生まれて始めて流した涙。
かなしみや
怒りや
苦痛という負の感情からではない
暖かい涙の
一滴であった。

「ごめんなさい、
弟なの。」

少女は恥ずかしそうにうつむいた。
とてもトランクスと目を合わせることが出来ないようだった。
しばらく黙り込んでいた黒髪の少女。
赤ん坊に向かって諭すように優しく語りかけた。

「ほら、ごらんなさい。
お兄ちゃん痛かったわよ。」

トランクスはしばらく言葉が出なかった。
唇が開いても上手く動かない。
しばらくの沈黙の後ようやくトランクスは言葉を発した。

「…痛くても泣かないよ。」

そのとき少女ははっと目を見ひらいた。

「え?」

少女ははじめて正面からトランクスの顔を見た。
トランクスの顔をじっとじっと見つめた。

「まさか。」

少女ははじめて正面からトランクスの顔を見た。
黒い瞳がぬれたように輝いていた。

「…お兄ちゃんなの、あのときの…」

微笑むトランクス。
少女に向かって深く頷いた。
少女は動かなかった。
ただ唇を震わせてトランクスと向かい合っていた。
そして、搾り出すように言葉を発した。

「…お兄ちゃん、生きていたのね…!」

やっとそれだけ話すと彼女は言葉をつまらせた。

「君にお礼が言いたかった。
ずっとずっとあいたかったんだよ。」
「…みんな、みんな死んじゃったと思っていたの…」

トランクスは少女の瞳をしっかり見つめて答えた。

「僕は…君に救われたんだ。」

少女の瞳から大粒の涙。
真珠の珠のように
ぽろぽろとこぼれ落ちる。

「お兄ちゃんが生きていてくれたなんて…」

そっと手を差し伸べるトランクス。
彼女は差し出されたトランクスの手を
震える指でそっと握った。


聖夜は更けていく。
少女の弟は無邪気にトランクスに手を伸ばしてきた。
どうしても抱いてほしいらしかった。

「あ…ごめんなさい。」

少女が赤ん坊の身体をトランクスから離そうとすると
赤ん坊はまたもやトランクスの髪を思いっきり引っ張った。

「わあ、すごい力だね。」
「本当にごめんなさい…」

それを黙って見ていたブルマ。
笑いながら言葉をかけた。

「思い出すなあ。
悟飯君の髪の毛もトランクスが
そうやって引っ張ったものだわ。」
「悟飯さんの髪をですか?」
「そうよ。
こんなものじゃなかったけれどね。
それでも悟飯君笑ってたなあ…。
悟飯君は本当にあなたをかわいがってくれたものね。」
「悟飯さんが…」

トランクスは赤ん坊の小さい手に触れる。
やわらかく小さい手だ。
でもその身体には生きている喜びが溢れている…。

過去の世界では自分はこの赤ん坊くらいの大きさだった。
そしてその世界には若い母さんと生きている父さんがいた。
これからもあの世界で3人は生きていくのだろう。

…でも俺の住む世界はここなんだ。

トランクスは黒い手袋を脱いだ。
赤ん坊の目の前で彼は両手をそっと広げる。

「よーく見ててご覧。」

そういうとトランクスはかすかに両手に気を集めた。
ぼうっと輝く白い手。
その光はボールのようにまとまって強く輝きだす。
トランクスが片手をあげると気のボールは
そっとトランクスの手をはなれて夜空に向かって飛んでいく。

「お兄ちゃん、これどうやってしているの?」

少女が目を丸くした。

「ふしぎだろ…?」

トランクスは少女に優しく微笑みかける。

「わあ、すごいー。」

不思議な光にたくさんの子ども達が集まってくる。
輝く白い手にみんなが興味深そうによってくる。
赤ん坊も髪の毛をつかんだまま熱心に見入っている。
どの顔もどの顔もトランクスを見つめる。

「うーん…、これは…」

トランクスは笑いながら答えた。

「これはね、新しいマジックだよ。」
「すごーい!」
「手品だー!」

トランクスは次に両手を天に差し伸べると
その手のひらから次々気を発射した。
星降る夜空に届く光の柱である。
その光の柱はさまざまな色に輝き夜空を美しく照らし出す。
西の都のあちこちでどっと歓声があがった。
拍手。
歓声。
やむことがない。

「気の平和利用ね。」
「そうですね、母さん。」

しばらくの沈黙の後、ブルマは思い切ったように唇を開いた。

「ねえ、トランクス。」
「はい。」
「私はベジータやトランクスと違って
何の力もない弱い生き物なの。
あなたが一人で戦っていたときも
私は何の役にもたたなかったわ。
ごめんなさい。」

トランクスは驚いたような顔でブルマを見た。
ブルマは言葉を続けた。

「でもね。
戦いというのは
ベジータやあなたが考えていたことだけじゃないと思う。
壊された世界を
元のなんでもない普通の暮らしにもどすこと
それだってこれからの大事な戦いだわ。」
「母さん・・・」
「私はサイヤ人と暮らした女よ。
今闘うべき相手を失ったあなたがどんな気持でいるかは
私なりにわかるつもり。
でもあなたはベジータじゃない。
あなたは私の血を引く息子でもあるの。
だから
あなたの戦いはこれからも続くのよ。
私といっしょに。」
「母さん…」

トランクスは唇をかみ締めた。
そうでもしないと
泣き出してしまいそうだった。
そんな息子の肩を
ブルマはそっと優しくたたいたのであった。

この世界に平和が訪れて初めてのクリスマスイブ。
静かに静かに
夜は更けていく。
ブルマは夜空を見上げてつぶやいた。

「気弾をマジックなんていったら
ベジータ怒るだろうな。
馬鹿にするなー!とか言っちゃって。」
「でも悟飯さんなら絶対喜んでくれますよ。」

トランクスの放ち続ける光に人々が歓声をあげる。
トランクスの傍らにはブルマが、
反対側には黒髪の少女がそっと寄り添い立っていた。
イブの夜。
たくさんの心が
ひとつになった。

もう二度と戦わないよ。

悟飯さんは俺にそう言った。

はい。
戦士は俺でおしまいです。
サイヤ人の誇りを持った地球人として
俺はこれからあなたの分まで生きていきます。
俺は今から生き始めます!

「トランクス!
おっきいのをお願い!」
「はい、母さん!」

トランクスは夜空に向かって思い切り大きい気弾をはなった。

とどけ…
平和の願い!

「悟飯さん、悟飯さん 
…さようなら!」










この読み物は光の柱の後日談です。




その日パオズ山は輝くような五月晴れだった。
空はあくまでも青く
雲は白く漂っていた。
若葉の香りが風に乗って漂っている。
小鳥の声が飛び交うそんな中
孫家の玄関先に止めた自動車から降りてきた大男は牛魔王だった。
彼はもうかなりの年齢になるはずなのだ。
が、いつまでも外見がそう変わることはない。
それは彼が妖怪変化の血を引いているからかもしれないし
若いころに亀仙人の下で励んだ修行の成果によるのかもしれなかった。
彼は自分の領地を守り栄えさせるために
現在も多忙な日々を送っていた。
実際フライパン山でも人造人間の被害がなかったわけではないが
山深かったために都市部ほどの破壊はまぬがれたようだった。

実際外見の若さというのは
その人物の持つ生態エネルギーによるところが大きい。
砕けていえば気力とでもいうか。
普通の人間でも「若くあろう」と思えば若く見えるものである。
<それはブルマがいい例だと思われた。>
それを思うと牛魔王は自分の娘のことを思うのだ。

娘のチチの母親は人間だ。
外見も心も美しい女だった。
そしてチチは母親に似たのである。
我が娘ながら美しくかわいい女に育ったと思っていた。
それでも父親が牛魔王なのだから彼女も並みの人間ではないはずだった。
牛魔王は思い出す、今でも。
幼かったチチのかわいい姿を。
ウェディングドレスをきた三国一の花嫁姿を。
本当に清らかだったと思う。
それを思うとき
今のチチのやつれようには心が痛むのだ。
チチは実際の年齢よりもふけて見えるときがある。
そこに彼女の苦悩が今でもひしひしと感じられると思う。

なんで死んだか、悟空さん。

今でもときどきつぶやいてしまう。
いったとてどうなるものでもない。
でも。
彼が死ななければ
チチはこんな苦労はしなかったのだ。

彼は玄関先でぼんやり庭を眺めていた。
ここで悟飯が遊んでいたのだ。
本を読んだり
虫を観察したりして。
今でもちいさい木のテーブルといすが
主を待っている。

ここでは全てがあのころのままだ。

そのとき。
裏の竹やぶのほうから声がした。

「あ、おとう。」
「おう」

ただそれだけの会話だった。
チチは山吹色のチャイナドレスを着ていた。
髪は無造作に後ろで縛ってあり化粧はしていなかった。
両手に山菜を持った姿である。

「ちょっと裏の山にいってただ。」
「おう…うまそうだな。」

牛魔王はチチの抱えた山菜を指差した。

「そいつあぁ、刻んでみそと混ぜるとうめえんだ。」
「んだ。
酒のあてにもなるから、おとう、くってけ。」
「よっしゃ」

チチの後に続いて牛魔王はようやく家の中に入っていく。

薄暗いと感じた。
それだけ外が明るかったからかもしれなかった。
しかし
牛魔王の目に一番先に入ったもの。
それは山吹色の悟空の衣類だった。

窓際にさりげなくつるされたその衣類は
きれいに洗濯されていてちりひとつかぶっていなかった。
その下にはきれいに磨かれた靴が並んでそろえてある。

「おとう。
一緒に昼でも食べるか?」
「んだな。」

テーブルにつく牛魔王。
背後に悟空の気配が感じられるようだ。
かすかにゆれる悟空の帯が
5月の風を運んでくる。

いまさらながら娘の愛情の深さに
彼は心を震わせずにいられなかった。

「チチ」
「なんだ?」
「おめぇ、トランクスさんの結婚式どうするだ。」
「ああ…」

チチはお茶を入れる。
新茶のいい香りが部屋中に広がる。

「どうしようべなあ。」
「俺のとこにも招待状がきたんだが。」
「おとうがいってきてくれ。」
「俺がひとりでか?」
「いきてえ気もしないんではないが。」
「じゃあいくべ。
いまからドレスを買いにいくか?」
「だなあ…」

チチは自分も腰をおろした。

「おとうだから正直にいうが。」
「なんだ」
「おらトランクスさんをみるのがつれえんだ。」
「…」
「あの子をみると
悟飯ちゃんを思い出すべ。
悟飯ちゃんだって本当ならもう子供のいる年だもんなあ。」
「そうだな」
「そんな自分の気持ちがひがみのように思えてなんねえだ。」
「そんなことなかろう。」

牛魔王はチチに微笑みかける。

「だか?」
「子供がかわいいのは誰だって同じだべ。
俺だって今でもおめえがかわいいさ。」
「ばかいうでねえ。
もうおばあになっちまっただ。」
「かわいい娘だ。」
「おら、悟飯ちゃんがしんだってどうしても思えねえだ。
何しろ跡形もなく消えたということだけど…
おらなきがらをみたわけでねえからなあ。」

牛魔王は残りのお茶を一気に飲み干した。
そして静かな声で言った。

「チチ。」
「なんだべ?」
「フライパン山さけえってこい。
もう俺も一人じゃつらいんだ。
おめえには俺の血が入ってるんだ
俺のあとをつぐのは
やはりおめえだけだ。」
「んだな。」
「考えてくれ」
「だども…
もしかして悟飯ちゃんが帰ってきたらと思ってしまうんだよ。」






その後何日かたって
チチはトランクスから連絡をもらった。
結婚式に出てほしいという内容の連絡であった。
そして話したいことがあるといっていた。
パオズ山に迎えにくるということであったが
チチのほうから出向くことにした。

チチが西の都に出るのは何年ぶりだろう。
久しぶりに見る町並みはすっかりかわりはてていた。

「まるでおのぼりさんだべ。」

チチは思わずつぶやいた。
更地だったところには高層ビルが乱立している。
テント村だった公園には目新しい遊具がいっぱいできているし
道路には エアカーが渋滞している。
商店には食後の買い物を楽しむ人があふれかえっていた。

「ふしぎなもんだな。」

過去にこの世界が暴力と破壊にまみれていたなんて
まるでうそのようだ。

日曜日の昼下がりである。
ハンバーガーショップの前のベンチに子供づれがいた。
まだ少年のようにも見えそうな若い父親が
幼い子供に抱っこをせがまれていた。
子供は3歳か4歳くらいに見える。

さすがにもう胸は痛まないだ。

チチは自分で自分に言い聞かせた。
実際そんなことはないのである。
若い父親はどうしても悟空に見えるし
子供は悟飯にダブって見える。
どんなに時間がたったとしても
彼女の心から二人の面影が消えるはずはなかったのだ。
でも自分に言い聞かせることで
暗示をかけようとしているのか。


「チチさん。」

そのとき背後から声がした。

「どうもおまたせしました。」

それは今はカプセルコーポレーションの社長になった青年、
トランクスであった。
普段はブランド物のスーツ姿でいかにも青年実業家という彼である。
しかし今日は膝の抜けたジーンズにシャツというとてもラフな格好をしていた。
伊達めがねもしていない。

なんだか見たことがあるようなシャツだべ。

チチはそう思った。

髪は短くかり上げているが前髪は長く残している。
微笑んだ顔はおさないときそのままだった。

「母さんも連れてきたんですが、いいですか?
どうしてもチチさんに会いたいというんですよ。」
「ブルマさんも来てるだか?
忙しいのに悪いと思っていたんだべ。」
「いやあ、母さんも日曜祝日はちゃんと休みますよ。
ね?」
「そうよ、みずくさいわ。」

続いてエアカーから顔を出したのがブルマだった。

「会長さんのお出ましだべ。」
「やめてよ。」

ブルマは苦笑いをした。

「私もね
チチさんの話をきいてはじめて気づいたのよ。
今までどうして北の荒地にいかなかったんだろうと。」
「すまねえ。
急にいきたくなっちまっただ。」

トランクスは後部のドアを開けた。

「ドライブがてらのんびりいきましょう。
今日はとてもいいお天気ですよ。
エアカーで入れない場所まできたら
俺が二人を抱えて飛びますから。」

彼はチチを車内へといざなったのであった。

「すまねえ。
トランクスさんの彼女にはもうしわけなかったべ。」

後部座席でチチがつぶやいた。

「結婚前の大事な休日を。」

ウインカーを出しながらトランクスがこたえる。

「大丈夫ですよ、チチさん。
結婚すれば毎日会えるんですから。
今日は彼女もご両親とゆっくり過ごすでしょう。」
「そうだか…」
「聞いてよ、チチさん。
この子ったら家を出て行くなんていうのよ。
あんなに部屋が空いてるのによ。」

助手席のブルマが唇を尖らせた。

「…え、どうしてだか?」
「ああ…」

トランクスは赤くなった。

「新婚時代くらい二人きりで過ごしたいじゃないですか。」
「そりゃそうだべ。」
「私はどうなるのよ、トランクス!」
「ブルマさんはべジータさんの墓参りでもするだ。」
「えーーーーーっ、チチさんまでそういうことを。」
「新婚時代は貴重だべ。」
「なによー、
あたしの味方はないというの?」

トランクスが苦笑いをした。

「新婚旅行までついてくるというんですよ。」
「それはやめたほうがいいべ。」

トランクスはそうでしょうとでもいうようにうなづいた。
ブルマは頬を赤くしている。
どうやら本当に新婚旅行について行く気だったらしい。

「彼女には自分のことはすべて話してあるんです。」
「えっ」
「サイヤ人のことも、人造人間のことも全部です。
もちろん悟空さんや、悟飯さんのことも…。」

そうなのか、とチチはトランクスの後姿をみつめた。

「もちろん最初は驚かれたんですが。」
「だろうなあ。」
「俺は恵まれているんですよ…。」

そんなことはないだろうとチチは思う。
トランクスもまた孤独な子供だったに違いない。
顔を覚える暇もないうちに父親を無くし
同胞もなく
この世界の平和をたった一人で勝ち取ったのだ。
ほんのローティーンのときから
たった一人で。
つらくないわけがなかった。

「トランクスさんは
べジータさんに 似てきただな。」
「そうでしょう?
目もとなんかほんとうにそっくりだわ。」

それをきいてトランクスが口を開いた。

「チチさんは超サイヤ人の状態の悟空さんをおぼえていらっしゃいますか?」
「え…、ああ何度か見たことがあるべ。
「じゃあ、悟飯さんの姿は?」

チチは一瞬黙り込んだ。
そして小さい声でこたえた。

「ないべ。」

トランクスは静かに続けた。

「超サイヤ人の状態の悟飯さんの姿は悟空さんにそっくりだったんです。
そして今の俺の超サイヤ人の姿は
実はとても超サイヤ人の悟飯さんに似ているんですよ。」










風だけが吹いていた。
その場所にはやはり何も生き物の気配はなかった。
ある種のエネルギーが完全にその土地の構造を
分子のレベルから破壊しているかのようだった。
見渡す限り
岩、岩。
岩しかなかった。
大小の不自然に砕かれた岩が転がっている。
雑草の一本さえ生えていなかった。

この場所こそが目的地だったのだ。

トランクスは両脇にチチとブルマを抱いた状態で
できるだけゆっくり高度を下げた。
なるほど
この状態ではどんな飛行機でも
着地する場所を見つけることはできないだろう。

大地を踏みしめる。
硬い冷たい場所だ。

トランクスは二人に手招きをした。

「母さん。」

二人は足元に細心の注意を払いながら歩み始める。

「この岩は…」

トランクスはおおきな黒い岩の断面を指差した
一軒家くらいありそうな大きさだ。
刃物で切ったようにまっすぐ割れた岩である。
表面がガラスのように輝いていた。

「父さんが気で切断した岩だそうです。
ここで修行していたときに。
俺はそうききました。」
「べジータが?」
「そうです。」
「本当に断面がつるつるね。
なんだかあの人らしいわ。」

微笑むブルマ。

「それでこのぐちゃぐちゃなのが悟空さんです。」

そこには大小さまざまな岩が無造作に積み上げてあった。

「はあ、なんだか悟空さらしいべ…。」
「そうでしょう?」

トランクスは微笑むと次にかなり離れたあるポイントを指差した。

「あのわずかな平地に悟飯さんは住んでいました。」
「…えっ」

チチが声をあげた。


「俺が会社の倉庫から廃棄処分のカプセルハウスを持ち出したんです。
といってもかなり旧式の
テントに毛がはえた程度のものでした。
それを俺達は使っていました。
悟飯さんは俺が家に戻らなくなることをとても心配していましたが
俺はどうしても悟飯さんから離れたくなかったんです。
…あの場所にいってみますか?」

チチとブルマは一瞬顔を見合わせた.
が殆ど二人が同時にうなづいた。

「ではいきましょう。」

そこは猫の額もないくらいのスペースだった。
わずかに土壌が見えてはいたが草の一本もやはりはえていなかった。
しかしチチにはわかった。
この場所に息子の何かが残っていたことに。

足がふるえた。

トランクスはチチを真正面から見つめた。

「俺が今生きているのは
悟飯さんのおかげなんです。」

その息子の様子にブルマが息を呑んだ。

「悟飯さんがいなければ俺は超サイヤ人になれなかったし
人造人間たちを倒すことも
おそらくできなかったでしょう。
なのに…なのに俺だけが幸せになってしまって…」

トランクスの指が細かく震える。
チチはその握ったこぶしをただ見つめていた。

「許してください。
俺はチチさんに…嘘をついていました。」
「どういうことだべ?」
「俺は悟飯さんが人造人間に
跡形もなく消されたといってきました。
それがうそだったんです。」
「えっ?」
「悟飯さんが骨も残らず消えてしまったというのは
…嘘なんです。
悟飯さんが死んだとき
俺はその場にいたんです。
それはあまりに残酷な殺され方で…
俺はそのときショックを受けてしまって…
その姿を誰にも見せたらいけないと思ってしまいました。」
「トランクスさん。」
「…だから俺が勝手に荼毘に付したんです。
チチさんの気持ちも考えずに。
…それをそのときの俺はどうしても言い出せずに
跡形もなく消えてしまったと嘘をついてしまいました。
…俺はこれだけはあやまりたかったんです。」

ブルマは呆然としていた。

「しらなかった。」
「すみません…」
「トランクス!
あんた今まで嘘をついていたの?
いっていいこととわるいことがあるわ。」
「・・・ほんとうにすみません・・・でした」

トランクスはうな垂れた。
彼もまたつらい過去と向き合って苦しんでいる。
チチは目に涙を浮かべた。

「いい、
もういいべ、ブルマさん。」

ようやくチチが声を出した。

「おらもクリリンさんやヤムチャさんの無残な姿は
よく覚えてるだ。
あのときの恐ろしさは言葉には出せねえ。
・・・・ひどかったべ。
目を閉じるといつまでも浮かび上がるくれえだった。
思い出したくなくても目に焼きついて
おら、一年くらい吐き気が続いただ。」
「…私もそうだったわ。」
「それを思えば
悟飯ちゃんのなきがらを見なくてよかったと思う。」
「チチさんほんとうに…ごめんなさい。
トランクスを許してやって・・・。」
・・・なにをいうだ。
そのときのトランクスさんの年齢を考えればしかたないべ。
それより・・・よく一人で耐えてきたと思う。
おらは・・・感謝しているだ。」
「本当に俺は…なんとお詫びを言えばいいのか…」

トランクスは胸のポケットから古ぼけたカプセルを出した。
震える指でそれをチチのほうに差し出した。

「悟飯さんの暮らしていたカプセルハウスです。
俺達が暮らしていたそのときのままにおいてあります。
そしてこの中には悟飯さんの遺髪が少しだけあるんです。」
「…」
「どうしても
手放せなかった。
手放せば本当に
悟飯さんと分かれてしまう。
それが怖くて・・・
ようやくお母さんの元にお返しすることができます。」
「…長い間おせわになっただ。
感謝するべ。」

チチはそっとトランクスの両手を握った。

「幸せになってくれ、
トランクスさん。
悟飯ちゃんの分も幸せになってくれ。」

次第に太陽が西に傾きはじめる。
あたりは赤く照らされてきた。
壮大な夕焼けである。
空気が痛いくらいにすんでいるから
本当に燃えるように赤い夕日だ。
3人はただ黙ってそれぞれが立ちすくんでいた。

確かにここには何かがあった。
べジータの
悟空の
悟飯の
そして幼かったトランクスの何かが
ここにはあったのだ。
数奇な運命を背負った
サイヤ人の何かが…。
それぞれの思いが複雑に交差する。

「トランクスさん。」
「はい」
「ひとつおねがいがあるだ。」

チチの言葉にトランクスはゆっくり振り向いた。

「ここで超サイヤ人になってけろ。」

思いがけない言葉であった。

「おねげえだ。」

ブルマが微笑む。

「トランクス…」

トランクスは深くうなづいた。
少し距離をとったトランクスは軽く足を広げる。
こぶしを握り
唇をかみ締める。
髪の毛がガラスのような音を立てて逆立ち始める。
その一本一本がプラチナのように輝き
瞳は宝石のような深いブルーグリーンに輝きだした。

「ほんとに…きれいだな
これが超サイヤ人だべか。」

チチは涙をはじめてぬぐった。

「悟空さにそっくりだ。
本当に…。」
「俺の今の髪型は気づきませんか?
悟飯さんの髪型をまねしてるんですよ。」
「そうだか。
どうしてあのころのおらは
この美しさに気づかなったんだろうな。」
「俺だって自分の姿がどう見えるかなんて
そのときは考えていませんでした。」

光り輝くトランクスの姿。
それは本当に神々しいとチチは素直に思った。

「今日来てるシャツとズボンも昔悟飯さんが着てたものなんです。」
「…それでみおぼえがあっただか。」

光り輝く超サイヤ人の姿。
なんてうつくしいんだろう。
どうしておらはこんなことにそのとき気づかなかったのか。
黒髪の悟飯ちゃんも
金髪の悟飯ちゃんも
どちらも悟飯ちゃんだったのに。

「・・・ゆるしてけれ、
悟飯ちゃん。」









それから一年少し経ったころ。
ここは西の都の総合病院のなかである。

「うまれたべなー。」
「うまれた、うまれた。」

新生児室の前にチチとブルマの顔があった。
部屋の中では生まれたばかりの赤ん坊を
看護婦達が湯浴みさせている。
トランクスはたった今父親になったのだ。
赤ん坊はとても元気で変わった様子はないように見受けられた。
尻尾が生えていることをのぞいて。
医者も看護婦もどうも茶色の尻尾が気になるようだが
あえてみなそれに触れないようにしているようだった。

「はえてただな。」
「はえてたわね。」
「まあ、生まれる前から超音波の画像にくっきりうつっていたべ。」

サイヤ人の証はきっちり受け継がれていて
二人は思わず苦笑いをしたのだ。

「大猿に化けないことをいのるわ。」
「んだ。」

そのとき分娩室のドアが開いて
マスクと白い帽子をかぶったトランクスが出てきた。
満面の笑顔である。

「立会い出産の感想は?」
「いや、もうすごく感動しました。
女の人ってすごいですね、
俺、泣きそうでしたよ。
次も絶対立ち会います。」
「よかったわね、男の子ね。」
「はい!」
「私のときとえらい差だわ。」
「え?」
「べジータなんかぜんぜん無関心だったモン。
私が陣痛で苦しんでるのに
泣き言を言うな、
気合でのりこえろなんていってたし。」
「…気合だか?
そういう問題じゃないべ。
悟空さはそれはやさしかったなあ。」

しばらくすると
ガラスの向こうで赤ん坊が服を着せられているのが見えた。
小さい手足はせわしなく動く。
元気な様子が伺えた。
3人がガラス越しに覗き込む顔に気がついて
看護婦さんが赤ん坊をガラスの際まで抱いてきた。
そしてかわいい顔を見せてくれた。

「あ。」

思わず3人は声を出した。

「見た、今の表情。」
「見ました」
「みたべ」

「悟飯ちゃんにそっくりだった。」
「私もそう思った。」
「…悟飯さんは俺の赤ん坊にうまれかわったんでしょうか?」

チチの瞳から自然に涙が流れた。

「そうかも
そうかもしれないべ。」

チチは小さな声でつぶやいた。
そうかもしれない。
命には必ず終わりがくるけれど
魂はつきることがないのかもしれない。

おらの悟飯ちゃんは
新しい肉体に宿ったのかも知れないだ・・・。

そのとき彼女の背中に
暖かい手がそっと触れた。
ふとくて不器用そうな指の感触が
チチの背中をやさしくさする。

…悟空さ。
おめぇもそうおもうだか…。
おらもそうおもうだよ。



…おかえり、
…おかえり、悟飯ちゃん。