・・・ただ会いたかっただけなんだ。
たった一人の父さんに・・・。









トランクスは外へとびだした。
ベジータはさっさと飛び立ったのだろう。
外にはもう誰もいなかった。


「父さん…!」

トランクスは果てしなく広い空間に向かってその名をよんでみた。
答える声は聞こえない。
トランクスはこぶしを握る。
指先の震えがどうしても止まらなかった。

「…父さん」

トランクスは唇をかんだ。
ここは精神と時の部屋。
セルゲームに向けてベジータとトランクスは2人でこの部屋にはいっていた。
それから何ヶ月もたつ。
真っ白で何もない空間。
果てしなく広がり外界からは完全に遮断された場所。
その中でたった二人で過ごす毎日が続いていた。

はじめて部屋に入ったそのとき。

「これでいい…」

そう言って薄笑いを浮かべるベジータと対照的に
トランクスの表情はさえなかった。

…こんな場所で父さんと2人きり…

きりきりと胃が痛む。
こんなはずじゃなかった。
俺はこの人に会いたかったはずなのに
あんなに一目会いたかった父親なのに
この悲しさはなんだろう?

あのときの事をを思い出す。
人造人間が若い母親と赤ん坊の自分ののった乗り物を
打ち落としたときだ。
火を吐きながら落ちていく中に
自分と母親のおびえた顔がはっきり見えた。
なのに。
ベジータは眉ひとつ動かさなかった。
その時の氷のような冷たい瞳を
トランクスは忘れられなかった。
どうしても。

あんなの
人間の取れる行動じゃない。

二人でこの部屋に来てからも
トランクスは何度かベジータの本音を確認したいと思った。
しかしそれはいまだにできずにいる。

ベジータは会話どころか
目さえトランクスとあわそうとしない。
口から出るのは
自分と悟空のことばかりだ。
ベジータの心の中には
トランクスのことも
ブルマのことも存在していない。


トランクスはそらをみあげた。
真っ白な空を。
浮かび上がるベジータの冷たいひとみを忘れようと彼は
未来に残した母親の笑顔を思い出そうと努力した。
人造人間との戦いに敗れ
彼は病院のベッドの上で長い時間を費やした。

りんごの皮をむく母親に
トランクスは自分の決意を伝えたのだった。

「俺
17年前にいきます。
悟空さんにあって
修行をしてきます。」
「そう・・。
じゃあベジータにも会えるわね。
「はい・」
「おどろくわよ・・・
もう本当に戦闘お宅だから。」
「そうですか・・・」
「・・・ベジータはね、
とてもじゃないけど
父親という柄じゃないわよ。
ね、トランクス、
ぜったい期待しちゃだめよ?」
「わかっています。母さん。」

普段から母親に聞かされていた父の姿。
それを考えればベジータがトランクスを大歓迎するとは
どうしても思えなかった。
だからある程度の覚悟はトランクスにはあったはずだ。

でも。
でも
それにしても…。

あの冷酷さはなんなんだろう?

やはり心の片隅で
トランクスは期待していたのだ。
父親としてのベジータの姿を…。

辛いというよりも
淋しいというよりも
もっともっと深い闇。
絶望が彼の魂を蝕んでいく。
トランクスは白い世界に足を踏みいれる。
父親としてのベジータに希望はない。
わかっていてもトランクスはベジータの姿を求めた。
すでに食事の準備が整っていた。
普段トランクスに洟も引っかけないベジータだが
食事だけは食べにトランクスのもとへ戻ってきた。
生まれながらの王子のベジータは
自分で決して食事を作らない。
なければいつまでも食べないだけだ。
よっぽどひもじければ生で食べる。
おそろしく早食いで
ぐいぐい食べ物を詰め込んでいる。
食べた後は食べ散らかしたそのままで
後片付けなどけっしてしない。


…この人はどういう生き方をしてきたのだろう?

トランクスは黙ってそれを見てきた。
この人には大事なものが何かかけている。
トランクスはそう思う。

トランクスは・・・
自分で食事を作ることが出来る。
母親であるブルマは

「男の子だってご飯くらい作れないとね。」

といっていろいろな料理を教えてくれた。
破壊と殺人に彩られた残酷な未来の世界で
ブルマは息子にささやかな楽しみを教えてくれた。
辛いときも悲しいときも
ブルマの愛がトランクスを包んでいた。
トランクスは何時もあかるい母親を思う。
太陽のような人だと思う。
ほんとうに。

しかしベジータには
そういう感覚はないようである。

「何で母さんはあんなやつと・・・」

正直な気持ちだった。












そんなある日トランクスはこの場所にあるもので
かなり頑張って食事を作ってみた。
修行をしようとしてもベジータに邪魔者扱いされてしまう。
やるせない気持ちで一杯だった。

「気分転換になるかもな・・・。」

トランクスは自分に言い聞かせた。

粉を練り形を整えていく。
わずかにある調味料で
味を調えてみる。
自分のすむ未来の世界には食材は少ない。
だからこの部屋にあるものだけでも
彼は十分の料理を作ることができるのだ。

母親の言葉を思い出しながら彼はオーブンを暖めた。

綺麗な色のパンが次々とやきあがる・・・。

そのとき。
ベジータが姿をあらわした。
修行から帰ってきたはらぺこのベジータは
焼きあがったパンの香りに気づくと
無言でテーブルについた。
ベジータは何もいわないけれど
自分の前に食べ物を引き寄せて
がつがつとそれらを口にほおり込み始めた。
トランクスが恐る恐るスープを出すと
ベジータはそれをずずっと流し込んで
あいた皿をつき返した。

「おかわりしますか、父さん。」

無言でうなずくベジータ。

このときのトランクスの気持は言葉では言い表せない・・・。
自分の頬が赤くなるのがわかった。

父さんが俺の存在を認めてくれた。

何か間違ってるとは思うのだけど
やはりうれしかったのだ。

それからというもののトランクスは
まるでベジータの母親であるかのように
毎日食事を作り始めたのである。
会話も何もないテーブルではあるが
トランクスは父親とおなじ場所にいることが出来た。
ベジータと同じ部屋にいる。
それだけでトランクスはやはり幸せだったのだ。

「父さん…」

・・・父さんが
帰ってこない・・・。

果てしなく広がるこの空間で迷ったのだろうか?
そんなはずは無いだろうと思いながら
トランクスはその日も食事を作って待っていた。
スープが煮詰まり
パンが固くなっても
ベジータは戻ってこない。

この場所には
自分達以外誰もいないはずなのだ。

考えられることはただひとつ。



トランクスは白い世界に足を踏み入れる。

父親の気配を感じようと
彼は神経を尖らせる。


暫くしてトランクスはそっと宙に浮かび上がった。


まっ白な世界に
赤い血溜まり。
その光景はかなりな遠くからも
見えたのだった。

ベジータはたおれていた。
何もないただ真っ白な空間で。
彼は獣のように血まみれであおむけになっていた。
戦闘服はずたずたで
プロテクターは細かくひび割れ裂けていた。

トランクスはベジータに駆け寄った。

「父さん!!」

トランクスはベジータの腹部を抑えて
はみ出そうとしているベジータの臓物を
ぎゅうぎゅうと押し込んだ。
自分の上着をながく裂いて
ベジータの腹をきつく縛り上げる。

彼がパワーアップを求めるあまり
自分の体を傷つけたのは間違いなかった。

「父さん…、父さん」

トランクスは声をかけた。
が、ベジータはピクリともしなかった。

トランクスは足元に横たわるベジータを見つめて
・・・一言言った。

「貴方は…また自分の命を粗末にして…」


彼にとって現実の父親は遥か昔、
彼の幼いころに
人造人間によって無残にも殺されてしまった。
かすかに記憶にあるのがどんよりとした雨雲。
自分の頬に落ちて伝わった水の雫。
あれは雨粒だったのか
それとも母の涙だったのか…。

そうだ
もう2度と母さんを泣かせてはいけない
母さんを泣かせたくないんだ。

こんなことをもうさせちゃいけない、
2度と父さんを死なせちゃいけないんだ。
父さんなんだ。
この人は俺の

父さんなんだ。

トランクスは
ためらいながらも横たわるベジータの隣に腰をかけた。
かすかに感じるベジータの体温。
彼はまだ生きている。
トランクスはベジータの横にそっと身体を横たえてみた。
心臓がどきどきする。
そして
目頭が熱くなってくる自分に気がついた。
ベジータの顔を覗き込む。
傷だらけで血の気の無い白い顔。

これが俺の父さんの顔なんだ。

やっぱり目元が自分に似ている。
この人は俺の父親なんだ。
トランクスはため息をついた。

悟飯の言葉が思い出される。

「ベジータさんは強かったよ。
あの人は本当に闘争心の塊だった。
見た目はぶっきらぼうだけど
本当は優しい人だったんだ。」

悟飯さんはうそをつく人じゃない。
きっといつか…




「父さん、
父さん
死なないで・・・・。」







トランクスは夢を見た。
つらい過去の夢を見た。
トランクスはただ一人で悟飯を見送っていた。

にごった煙のような低い雲がが一面に垂れ込める暗い空。
ポツンポツン落ちてくる大きな雨のしずく。
彼は大きな木の枝や廃材なんかをうずたかく積み上げてやぐらを組んだ。
大切な師を見送るために。

悟飯はトランクスの目の前で息絶えた。
未来をトランクスの手にゆだねて。
トランクスはいつまでもじっと待っていた。
悟飯の瞳が開くのを。
いつかこの身体にぬくもりが帰ってきて
彼は再び目覚めるはずだった。

「トランクス君、待ったかい?」
と、言って。

やがて彼の身体から温もりが完全に消え去り
身体が石のように硬くなって
肌はろうの様に白くなった。
決して安らかではない彼の顔。
トランクスは何度も悟飯の唇を閉じようとしたが
かなしみに歪んだ彼の表情を変えることができなかった。
なによりも
何よりも冷たいからだ。
抱き上げると信じられないほど軽くなっていた。


違う
こんなの
悟飯さんじゃない!
こんな悟飯さんは誰にも見せちゃいけない・・・。

トランクスは、
だから、
一人で、
悟飯との別れの儀式をすることにしたのだ。

大切な師
悟飯の身体。
エネルギー波なんかで
一気に消し去ることは出来なかった。
迷った挙句トランクスは
いつか映画で見た
この前近代的な方法を選んだのだ。

やぐらの頂上にトランクスは
自分の着ていた上着とシャツをしく。
そして悟飯の身体抱き上げて
その体をそっと横たえていた。
そして思いつめた表情のまま
トランクスは右手を差し出し
やぐらに火をつけた。

赤い炎はだんだん大きくなって
やぐらをなめるように包んでいく。
次第に頂上へと昇っていく。
炎の色はいろいろに移り変わりながら
悟飯の身体も包んでいく。
わずかに見える黒い影だけが
悟飯がこの世に生きていた証なのだ。

もう泣けないと思っていた。
が、トランクスの頭についた傷が
また開いて
彼の瞳に血が流れ込んだ。
赤い涙があふれ出て
止めることが出来なかった。
トランクスは身体をぶるぶる震わせた。
胸をかきむしり
身体を大きくのけぞらせて
彼は天に向かってほえた。

僕は
僕は
もう一人ぼっちだ。

「悟飯さん!
悟飯さん!!!」


冷たい感触に
ベジータは目覚めた。
まだ頭がぼうっとして
全身がしびれていた。

死なないですんだということだけが
なんとか理解できた。

「これで又強くなったか・・・」

ベジータは体を持ち上げようとして
ようやくきがついた。
ベジータの胸の上には
トランクスの頭があったのだ。

「なんだ、こいつ…」

舌を鳴らしたベジータは
思わず彼を跳ね除けようとした。
そして気がついた。
この冷たい感触の原因に。

「…泣いてやがるのか?」

ベジータに寄り添うようにして
トランクスは深く深く眠っていた。
紫のブルマとそっくりな長い髪が
ベジータの身体に巻きついている。
長いまつげが彼女を思わせた。
手袋をはめていない指は長く
自分の手のひらとそっくりだった。

そして。
トランクスの身体がピクリと震えて
彼は確かにつぶやいた。

「父さん…」

ベジータの耳に届いたその言葉。
ベジータは頭の中で何度も繰り返してみた。

悪い気がしなかった。

しばらくして
ベジータはゆっくりと両腕をトランクスの背中に回してみた。
温かい身体である。
懐かしい香りがした。
ベジータはトランクスの髪に顔をうずめてみた…。

そしてベジータもまた
何事にもきづかなかったように再び目を閉じた。
何一つ音の存在しない
白い世界で
彼らの心臓の音だけが
混ざって響いた。



トランクス。
君は今どんな夢を見ているのだろうか?
プロローグ



飛ぶ鳥は飛んでこそ美しい。
野に咲く花は咲いてこそ美しい。
そんな当たり前のことが
どうしてわからなくなるんだろう・・・・・。

人が人を愛するとは
いったいどういうことなんだろう。
君を大事にしたい、
君を慈しみたい。
言葉では、こんなに簡単にいえるのに
本当は、どうしたらいいんだろう?
俺にはそれがわからない。

君を愛したいと思うこと、
君とともに暮らしたいと願うこと。
そんな小さな俺の願いが
君を苦しめ、俺を迷わせる。
君は、どうして泣くんだろう・・・?
俺はただ立ち尽くすだけ。
どうして?
どうしてこうなるのだろう。

やっぱり俺が悪いのか。
君を好きになった、そのことが。
君と一緒に暮らした、そのことが。
・・・そして、ただひとつの思い。
君を失いたくないと願うこの気持ちが・・・。
この気持ちが悪いのだろうか?
それでも俺は
君から離れられない。
自分がわからない。




*********



ヤムチャはこのところ、ずっとカプセルコーポレーションに帰っていなかった。
いや、・・・帰れなかったというほうが正しい。
ヤムチャは考える。
ブルマに変化があったのは
何時のころからだったろうかと・・・
それは些細なことから始まったのだ。
いつのまにか二人の目線が合わなくなっていた。
ヤムチャがブルマをみつめても、故意にブルマがそらそうとする。
ヤムチャはそう感じた。
それでもはじめは偶然かと思おうとしていた。
そのころからブルマはなんだかいつも何かを考えていたように思う。
新しい発明や研究ではない、何か。
だから、話し掛けてもヤムチャの話を聞いていないのだ。
そのうち。
いつからか、ブルマはヤムチャの部屋にとまらなくなった。
これまでとおなじ部屋にいるのにヤムチャのベッドに座らなくなったのだ。
そして、どんなに遅くまでともにいても自分の部屋に帰るようになった。

避けているのか?
この俺を?
いったいなんで?

ヤムチャの心に不安と違和感が広がる。
ヤムチャは確かめたかった。
二人の関係がまだ終わっていない事を。
ブルマの心がまだヤムチャにあることを。
だから、抱きたかった。
思い切り。
思い出のいっぱい詰まったこの部屋で。

ヤムチャの伸ばした腕が、ブルマの細い手首を握る。
空いている左の腕がブルマの背中に回る。
強く引き寄せる。
抱きしめる。
ブルマの体が少し震えた。
ヤムチャはブルマにそっと顔を近づける。
形のいい、赤い唇はいい匂いがする。
この唇をヤムチャはいままで何度味わってきたか。
ヤムチャはそっと顔を近づける。
然し、ブルマの唇はヤムチャを迎えいれなかった。
ブルマはそっと身体を離す。
そしてヤムチャの腕からぬけようとした。

ヤムチャがブルマの身体をもう一度抱き寄せた。
ヤムチャの腕にさらに力が入る。
太い指先が、ブルマの細い身体に食い込む。
ブルマの白い肌が赤くなる。
ブルマはヤムチャの胸板に両手を差し入れてその身体を突き放そうとした。

「やだっ・・・」

自分の耳を疑ったヤムチャであった。
思わず、ブルマに強い口調を使ってしまう。

「どうしていやなんだっ。
なんでそんなことを言うんだっ。
なんで・・・・・!」

ヤムチャの体がまた抵抗するブルマを包む。
力強く、激しく。
大きな手のひらがブルマの身体を捕らえて離さない。
ブルマの小さい顔にヤムチャが重なる。
ブルマの息が途切れる。
ヤムチャの胸がなんだか苦しくなる。
なのに、ブルマの体は硬いままだ。

俺はこんなに熱くなっているのに?
ブルマ、一体どうして?

何かにヤムチャはせかされるように突き動かされる。
かたくなにヤムチャを拒むブルマ。
やがて、それでもブルマの指先が震えだす。
耳に、うなじにヤムチャの熱い息がかかる。
ブルマの体が、いつのまにか熱くほてる。
ヤムチャはさらにブルマの身体をしっかり抱きしめた。
ブルマのつま先が床からかすかに浮いていく。

・・・ブルマ、・・・ブルマ。
俺のブルマ。

同じ言葉がヤムチャの頭の中を駆け巡る。

・・離したくない。

ヤムチャは自分のほおをブルマのほおにあてがう。
何度も何度も皮膚と皮膚をこすりつける。
両手はブルマの背中に回る。
一つ一つのラインを確かめるようにせわしく動く。
片足をブルマの開いた両の足の間に差し込み
ヤムチャは身体を強く押し当てた。
ヤムチャの息が荒くなる。
ヤムチャの唇が、ブルマの軽く閉じたそれにかぶさった。
力強くブルマを求める。
閉じた唇が、こじ開けられる。

「あ・・・・」

小さなため息。
ブルマがヤムチャにおもわず応えた。
ヤムチャは知っている。
ブルマのすべてを。
何処がどう感じるのか。
何処をどうされるのが好きなのか。
やがてブルマは抵抗しなくなっていた。
ヤムチャは安心したようにブルマを見つめた。
ヤムチャの影の中にぐったりおさまっているブルマ。
いつもと何処が違うのか・・・?

・・・いつものブルマだ。

ヤムチャはわざと少し乱暴にブルマをその場に押し倒した。
衣服をはだけられたブルマは、観念したように目を閉じた・・・。
鮮やかなブルーの髪が黒いカーペットに広がる。
白い肌が浮き上がる。
長い手足が無造作に投げ出される。

「ブルマ・・・」

ヤムチャが声をかけた。
左手でブルマの右手首をつかみ右の手のひらでブルマの頭をそっと抱える。
ヤムチャはブルマの首筋に顔をうずめた。
強く、弱く、肌を吸っていく。
耳、うなじ、肩・・・。

「ん・・・・」

ヤムチャの唇に力が入り、ブルマが小さく声をあげた。

「あ・・あ・・・・ヤムチャ・・」

その声にヤムチャは喜びを感じた。
不安だった心がうれしさに満ち溢れる。

・・・しかし、ブルマは涙を流した。
体の自由を奪われたまま小さな声で泣くように呟いた。

「おねがい、・・・・・もう、やめて。」

たしかにブルマはそういった。






その夜もヤムチャは、外で飲んでいた。
いくら飲んでも酔えなかった。
・・・何もかも忘れたかった。
少なくとも、酔いつぶれて眠りたかった。
ヤムチャのうけた心のゆさぶり。
どうにも否定しようが無い。
ヤムチャの心に大きく、小さく押し寄せてくる。
不安と衝撃。
ヤムチャはまずい酒を飲む。
ブルマの顔が思い出される。
そしてあの涙。

しかし、余り長く飲んでいると、その店にはいづらくなる。
ヤムチャが一人とわかると声をかける輩がいるからだ。
一人で飲むヤムチャを若い女がほおっておくわけはなかった。

・・・勘弁して欲しい。

ヤムチャは思う。
そんな気になれない。
悲しい酒だ。
一人で飲みたい。
酒のペースが進む。
うまくない酒。
楽しくない酒。
ヤムチャは今日も一人飲む。

追いかける女の声を振り切って、ヤムチャは店を出る。
そして次の場所へと移動する。
飲む。
酔えないまま、夜はふける。

ブルマ・・・。

その名を呼ぶ。

俺の女だ・・・。
ずっと共に暮らしてきた。
もう何年も。
俺たちは籍は入れていない。
でもそれは二人で決めたことだった。
お互いが自由であるために。
お互いを束縛しないために。

形式なんかいらない。

ブルマはそういった。
俺たちは一緒に生きてきた。
お互い信じあい、求め合ってきたから。
苦しい時も、悲しい時も。
身体も心もあわせて生きてきた。

・・なあ・・・そうだろう?
そうだったじゃないか。

夏の空を思い出すような、青い髪。
雪のように白くすべすべした肌。
そして脂肪がのった、全体のふくらみ。
・・・娘時代にはなかったそのやわらかさ。

俺は知っている。
俺だけが知っている。

ヤムチャは吸い込まれるように次の店に入っていく。
こんども暗く静かな店だった。
ヤムチャはカウンターの右端に席を取る。
暗い店内には10人も入っていなかった。

「いらっしゃい。」

愛想の無いマスターが迎えた。
ヤムチャはお絞りを受け取ると新しくボトルを注文した。

「あんた、今日も一人なんだねえ。」

初老のマスターは独り言のように呟いた。
ヤムチャは少しだけ笑顔をみせる。
ここでは誰一人ヤムチャを知らない。
気楽にひとりで飲むヤムチャであった。

しばらくして隣りの席に女が座る。
細い、化粧の濃い金髪の女だ。
ヤムチャの身体を観察するように見ていた。
ブランド物のジャケット・スーツに品のいいシャツ。
いかにも品物がよくて高そうなものを着ている。
さりげない細いシルバーのネックレス。
手入れされた髪は、かすかにいい香りがする。
そして。
着ているものの上からでもわかる、たくましい筋肉。
かなり鍛えてあるようだ。
さわらなくても、わかる。
体育会系の身体なのに汗臭さが無い。
セクシーとはこういう男をいうんだろう。
女はつばを飲み込む。

いいじゃない。

女はヤムチャの顔をのぞきこむ。
酔って赤味が差しているけれど
いかにもきりっとした美しい眉毛をしている。
そして、整った顔立ちをしている。
目のところに傷があるが、醜くない。
むしろ触りたくなる。

「見ないでくれ。」

ヤムチャはそう言った。
目を合わせないまま、呟くように。

「別にいいじゃないの、減るもんじゃないのに・・。」

そういいながら、女はヤムチャにタバコを勧めた。
ヤムチャは指で制止する。

「すわないんだ。」
「へー、そうなの。」

女はいぶかしげな顔をする。

「デモさ、あんた、匂うよ。
すごく上等のタバコのにおい。
・・・なのに、あんたはすわないの?」
「すわないんだ。」

それは、ブルマのつけた香りだ。
今来ている洋服も、靴もすべてがブルマが選んで買ったものだ。
ヤムチャのものでブルマの香りのしないものはない。
そういえば・・・。
ヤムチャは思い出す。
ブルマは未成年のころからタバコをすっていた。
本当はいいとこのお嬢さんなのに、すぐ男をからかったり
はすっぱな態度をとっていた。
露出度の高い格好をしたり、外見のいい男にふらふらしたり。

でも俺は知っている。
ほんとのブルマは、恥ずかしがりで、可愛い女の子だった。
頭もいい。
何より俺に尽くしてくれた。

俺は・・?
俺はさびしかった。
早く誰かと一緒に暮らしたかった。
であったブルマに俺はぞっこんになった。
誘われるまま、付き合い始め、そのままここに住み着いた。
早く家庭が持ちたかった。
そのときの俺は。

時が流れ、俺もブルマも大人になった。

俺は、変わっていない。
いまも、あいつが好きだ。
離したくない。
なのに。
ブルマはたしかに言った。



『もう、やめて・・・』


胸が苦しくなる。
ヤムチャはゆっくり席を立つ。
紙幣を何枚かそこにおいて、お釣りを断った。
マスターから上着を受け取り出口に向かう。
となりの女も慌てて後を追う。
ヤムチャはゆっくり女を振り返る。
怒るでもなく、いさめる様子もない。
ただ、一言つぶやいた。

「かまわないでくれよ。」

夜空に星が降る。

しかし、いくら歩いても女はついてきた。
こんな人ごみの中では舞空術は使いたくない。
目立って、写真をとられたり、テレビ局に追いかけられてしまう。
ふと悟空の瞬間移動がうらやましくなった。

・・・今度、本気で教えてもらうかな。

後ろを振り向かずにさっさと歩く。
後ろからかつかつ足音がついてくる。

すると、そのとき。
後方で誰かの叫び声がした。
ヤムチャが振り返ると、歩道のところに人だかりが出来ていた。
数人の男が暴れているように見える。。
ヤムチャは首をぐるぐる回しながら、後戻りをする。
こんなことはほおって置けない。
それがヤムチャなのだ。

少しはなれたところで様子を見る。
どうも一人の若者が5人の乱暴者に絡まれているようだった。
乱暴者が暴れるのに理由は要らない。
道端に足をなげだして座り込み、うっかりふみそうになる犠牲者を待ってたりする。
暴れるきっかけを待ってるだけなのだ。
こんな奴らに言葉では効き目は無い。

やれやれ・・・。

ヤムチャはその場所から静かに狙いを定める。
ゆっリ右手を差出手のひらに気を少し集めてやる。
それを5本の指先にそれぞれ分けて送ってやる。

・・・こんなもんかな?

傷つけないように、そっと、そっと気をつけて。
バッと発射した。
5本の気の流れは5人の男の身体にあたり、一瞬にして5人はふき飛んだ。

「な、なんだあ」

街路樹の根元に飛ばされた一人がヤムチャを見つけた。
そこにいたたった一人の男に彼らは圧倒される。
獣のような男。
狼のような鋭い目つき。
立ってるだけで十分怖い、と5人の男達は思った。
たしかにこの世には強いものはいくらでもいる。
でも地球人では間違いなくヤムチャは1,2を争う戦士だ。
ずっと戦ってきたのだ。
鍛え方が違う。
ヤムチャが一歩すすむと、野次馬までが蜘蛛の子を散らしたように去っていった。
残ったのは殴られていた青年一人。
ヤムチャはすたすたと近寄っていく。
おびえる彼にヤムチャは手を差し伸べる。
そしてヤムチャはにっこり笑った。

「大丈夫かい?」

うってかわって明るい笑顔だった。
青年は何度も頭を下げて去っていった。

「すげえ、いい!」

先ほどの女ははじめから最後まで見ていた。
ずっとヤムチャの後を追いかけていたのだから。

かっこいい。
強い。
笑顔が可愛い。
3拍子そろっている。
もう、何が何でもお友達にならなければ。

女は声を殺して拳を握った。

さて、どうしよう。
古い手だが、ここは贅沢はいえない。

女はその場にばったりすわりこんだ、そして。
女は声をあげた。

「・・・息が苦しい!!」

こんなのに引っかかる奴がいるのか。
こんな子供だましの演技に?
・・・・・いた。
こんな罠にかかる男が。
それがヤムチャであった。

先ほどの冷たい態度は何処へ言ったのか、ヤムチャは飛んできた。
心配そうに女の顔を覗き込む。
とてもやさしい顔をした。

「おい、大丈夫か?」
「あ、息が・・苦しいの♪(らっきー)」
「病院につれていってやろう。歩けるかい?」
「・・家に帰れば薬があるから・・お願い、あたしをうちにつれて帰って」
「よし、わかった。」

ヤムチャは迷わず、女を抱き上げた。
たくましい腕に女は思わずにんまりする。
ヤムチャは回りの人影を確認し、ふわりと浮き上がる。

・・・・何、この人飛んでるー--!!!

叫びたかったが、息が苦しいはずなので何とかこらえた女であった。
女の家まで10分もかからなかった。
ヤムチャは、女の一人暮らしのこの部屋に入った。
女を抱いたまま遠慮なしにすすんでいく。
まったく女に警戒していないらしい。
ヤムチャは女を抱いたまま、ベッドまで連れて行く。
横たわらせ、布団をかけてやった。
心配そうに顔を覗き込んでいる。

「薬はどこ?」

聞かれて女はあせった。
そんなの無いって。
いや無いではまずかろう。

・・これでいこう。

女はサイドボードからポーチを取り出しピルのケースを出す。

どうせ今日飲んでなかったし♪

女はこれ見よがしに薬を取り出した。
「キッチン、何処?」
ヤムチャは水を汲んでくる。

『何、この人すごく優しい!!』
少し後ろめたさを感じる、女であった。
でもついでに甘えてみる。

「のませて」

女はわざと苦しそうにいった。
ヤムチャはコップを女に差し出す。

「口で」

は?

「お兄さんの口で飲ませて。」

ヤムチャは真っ赤になった。
先ほどのかっこよさは何処にいったのか。

「そんなの、できないよ。」
「じゃあ、あたし、しんじゃうかも」
「そんな・・・自分で飲んでくれよ。」
「あ・・・おなかが痛い。」

・・・さっきは息じゃなかったのか?

ようやく気づいたヤムチャであった。

「何だ、うそかよ。」

でもヤムチャは怒り出したりしなかった。
女にはこれも以外だった。

「怒らないの?」
「・・怒ってどうするんだよ。だまされた俺が悪いんだよ。」
「へえ、そんなもんなの?」

久しぶりにヤムチャは笑った。

「こんなに笑ったの久しぶりだよ。」
「そうなの?お兄さんかわってるわね。」

ヤムチャは床に腰を下ろした。
些細なことで気分が切り替わる自分がおかしかった。
さっきまでぐずぐず考えていたのに・・・。
そんなヤムチャを女は頬を染めてみていた。

「ねえ、せっかくだから少しここにいてよ。」

女はヤムチャに頼んでみた。

「いいよ。」

あっさりヤムチャは応えた。
ほんとに可愛い笑顔だと女は思った。
女はキッチンに入り、いそいそと食べるものを作り出した。
そしてヤムチャにバーボンを出し、自分にも注いだ、。

「君は、お酒強いの?」
「まあ、飲むわよ。」
「そう。」
「じゃ、いきましょう。」

初対面とは思えない明るさがうまれた。
ヤムチャも女も遠慮しなかった。
やはりまだ飲み足りなかったらしい。
ふたりはがんがんグラスを開ける。
ヤムチャに笑顔が戻った。
女とヤムチャは話があった。
声がどんどん高くなる。
意外に女も子供の頃武道をやっていたという。
だから懐かしい天下一武道会の話が出来た。
ヤムチャも本当に懐かしくてしゃべらずにいられなくなった。
あのとき・・天津飯に足を折られたことを女は知っていた。

・・・そんなこともあった・・。
あの時はまだ天津飯は鶴仙人の弟子だった。
そして、そのとき、ブルマは本当に心配していたっけ。

それだけじゃない。
サイバイマンに殺されたとき。
ブルマは泣いたと聞いた。
俺のために。
そして、ドラゴンボールを求めてナメック星まで乗り込んだんだ。
そして俺を助けてくれた。
・・それだけじゃ、ない。

何時しかヤムチャは涙を流していた。

「どうしたの、お兄さん?」
「なんでもない・・」

女はヤムチャの手から空のグラスをとり飲み物を注いだ。

「のむ?」
「うん。」

グラスについで、そっと手渡す。
女の指が、ヤムチャの指にそっと触れる。

「あたしさ・・・お兄さんってすごくいい人だと思う。」
「なんで・・?」
「わかるんだ・・・。」

女はヤムチャの顔を見つめた。
整った顔に一筋の涙のあとがあった。

「つらいことがあるんだね、多分。」

女はヤムチャの後ろに回った。
そっとヤムチャの背中にもたれかかる。
大きくて、気持ちの良い背中。
服の上からでも筋肉の流れがわかる。
女はため息をついた。

・・・抱かれてみたい。
この身体に。
この腕で
めちゃくちゃにされたら、きっと虜になる・・・。

後ろから腕をまわす。
ヤムチャは動かなかった。
両手でヤムチャの胸の筋肉をなでる。
硬くて、・・・熱い。
ヤムチャは目をつぶった。
俺といるのは、見も知らぬ女だ。
女の手のひらが俺をなでる。
優しく、そして熱く俺をさわっている。
俺の身体はそれに応えようとしている。
腹の底から、熱い何かがにじみでるようだ・・・。

・・・・・・気持ちがいい。
・・たまらない。

ブルマに拒まれて、ヤムチャの身体は、欲望を抱えたままだ。
女が触る、その指の感触だけで、はじけそうな気持ちになる・・。
ヤムチャは拳を握る。
女の髪からいい匂いがする。

「お兄さん好きな人、いるの・・・?」

耳元で女がささやいた。
そっと息を吹きかける。
ヤムチャの体がかすかに震える。

「・・いる。」

搾り出すようにヤムチャは応えた。
震える右手でヤムチャはグラスを傾ける。

「どんな人?」
「どんなって・・」
「お兄さん、その人のことで泣いてるの?」
「わからないよ・・」
「でも泣いてる。」
「泣いてない。」
「泣いてるよ。」

女はヤムチャの首筋にそっと唇をはわせた。
はじめは浅く、弱くヤムチャの肌に歯を立てる。
ヤムチャはグラスをそっと床に置いた。

「悲しいの。あなたが泣いてるから。」
「・・・なんで君が・・・はじめてあったばかりなのに・・」
「なんでだろう・・わからないわ・・でも」

ヤムチャはじっと床を見つめた。
女はヤムチャの上着を脱がせた。
シャツのボタンに手をかけ、ヤムチャの胸に手を差し入れる。
思わずヤムチャは目を閉じた。

「その人は、あなたの事好きなの?」
「多分・・・嫌いじゃないと思う。」

女が、ヤムチャの胸に唇を当てた。

「好きじゃないの?」
「わからないんだ・・・もう」

ヤムチャは残りの酒を飲み干した。
自分でも飲みすぎてるのがわかる。

このまま、・・いっそ、このまま。

女の手のひらが下のほうに伸びた時、ヤムチャも彼女に手をのばした。
女の身体を抱きしめた。
吸い付くようなこの感触。
ヤムチャの五感を刺激する。

「どうして、俺にそんなこというの?」

ヤムチャは消えそうな声で呟いた。

「どうしてって・・理由がいるの?」

女はヤムチャの頬に自分の顔を強くあわせる。

「ね・・その人と一緒に暮らしているの?」
「そうだよ。ずっと暮らしてる・・・。」
「結婚しているの。」
「・・していない。」
「どうして?」

ヤムチャは黙り込んだ。

「それでいいと思っていたんだ。
・・・・形にとらわれたくないと彼女が言った。」
「・・・あなたは、どうだったの、結婚したくなかったの?」
「・・・したかった・・。」

ヤムチャは、もう一度かみしめるように、いった。

「彼女と結婚したかった。」

ヤムチャの唇を女がふさいだ。
身体を押し付けてヤムチャに覆い被さってきた。
熱い。
女の体温が、ヤムチャの動きを封じようとしていた。

ブルマ・・・。
俺は・・。

ヤムチャはそっと唇をずらした。

「やめてくれ・・・」
「あたしじゃだめなの?」

ヤムチャは、裸の女から身体を離した。

「だめなんだ・・・・。」

ヤムチャは、自分をあざけるかのように弱く笑みを浮かべた。

「・・・・・誰も彼女の代わりにはなれないよ。」





**********


エピローグ


夜が白み始めたその頃、ヤムチャはカプセルコーポレーションの近くに戻っていた。
東の空から次第に朝の日からが差し込んでくる。
夜明けが近いのだ。
空気は冷たく肌を刺す。
ヤムチャは、目の前のその大きな住居を見上げる。

・・・楽しかった・・・。

いろいろな思い出がここにあった。
そして初めて経験した家族がここにあった。
ここは、本当に自分の家のようだった。
本当に。
見慣れた景色。
さまざまの思い出。
ヤムチャの心に目に浮かんでくる・・・。

しかし。

俺は何時までもここに御世話になるわけにはいかない。
・・俺は、俺だ。

俺たちは多分スタートから間違っていた。
第一ボタンから掛け違えていたのだろう。
今ならわかる。
鳥のように自由を求め、恋人を求めたブルマと、
妻を求め、母を求め、家庭を欲していた俺。
二人の歩みが重なるはずがなかったんだ・・・。

いったい、人を愛するとはどういうことなんだろう。
ともに暮らすことだけが幸せなのだろうか?
はなれてしまえば、愛は育たないのだろうか。

違う、とヤムチャは思う。

たとえ別れてしまっても、
ブルマを愛するこの気持ちにうそは無い。
未来は失ったとしてもいままで俺達が暮らした月日は本物だ。
俺はブルマを愛している。
幸せになって欲しい。

・・・たとえ、ともに生きる相手が俺でなくても。


俺はブルマを忘れない。
多分、これからも、
ずっと。

俺の心はブルマのものだ。


べジータが地球にきて129日目になっていた。

べジータは自分の部屋のカーテンを開けた。
初秋をかすかに感じる風が彼の頬をかすかになでた。
しかしまた日差しは強い。

彼はまったく乱れていないベッドの上に腰掛けると
自分が床に脱ぎ散らかした衣類を手にとった。
べジータはまだベッドで眠ったことはなかった。
戦士としての彼の習慣が簡単に変わることはなかったのだ。
彼は立ったまま休息をとる。
よほど疲れているときでも床に座って寝るのである。

自分の記憶のある限り・・・
ベッドに横たわって眠ったことなどあっただろうか。

どんなに静かな暮らしにあっても
べジータは自分のしたことを忘れたわけではない。
べジータのすむカプセルコーポと同じ敷地の中に
ナメック星人の住む宿舎がたてられており
べジータは彼らと顔を合わすこともあったからだ。
ナメック星人がベジータを許すはずがない。
それにカカロットの息子も時々この家に遊びにきている。
自分が残酷に命を奪おうとした相手であり
自分に致命的なダメージを与えたミックスだ。
こちらのほうは一緒に戦ったこともあり
多少の好意はもっているのかも知れなかったが。

べジータには十分すぎるほどわかっていた。

自分は負けて殺されたのだ、という事実が。

フリーザとの戦いに恐怖し
何の抵抗も出来ずに殺されたのは俺だ。
そしてそのフリーザを殺したのはカカロットだ。

べジータはこぶしを握る。

このままでは終われない。
カカロットを
奴を殺さないと
俺はただの負け犬だ。

手にした衣類は青いシャツに生成りのパンツ。
自分が着ていた戦闘服や手袋なんかはもうぼろぼろで
どうしても着用することが出来なかった。

「同じ物を作れ」

彼は地球にきた直後
ブルマに一言命令を下したのだ。
ブルマは顔を真っ赤にした。

「あんたって本当にえらそうね、
お願いします、の一言は!」

ブルマはえらい剣幕でまくし立てる。
早口で、大声でぷんぷん怒る。
べジータは一瞬目を大きく見開いたが
どうも彼女にはうまく言い返す言葉が出ないようだった。

「私は天才だからこんなの簡単に作っちゃうわよ。
ちゃんと頼めば作ってあ・げ・る
頼みなさいよ」

べジータは耳が真っ赤になった。
自分でもそれがよくわかった。

このクソ女!

万事がこんな調子だ
狂ってやがる。

ということでべジータには戦闘服は今ない。
彼はブルマの母親が買い揃えた
地球の洋服をきているのだった。

戦闘のない129日間。
誰を殺すこともなく
誰にも傷つけられることのない129日間。
べジータの日々は
「当たり前に」すぎていったのだった。



その頃。

「どうしたの、この洋服!」

リビングに広げられた衣類の山。
それは新品の布のいい香りをさせていた。
シャツや、トレーナーやパンツなどの
男物が所狭しと広げられている。

ブルマの母親はニコニコと微笑んでいた。

「いいでしょう?
これなんかすごくいい色だし。」

「それはいいけど・・・一体誰の服なの?」

薄々わかっていながらも
ブルマは確認せずに入られなかった。

「べジータ?」
「そうよ、もうママうれしくってね
だってひさしぶりの男の子だもん。」
「男の子って年じゃないわよ、
あいつは。」

ブルマの言うことをきいてるのかどうか。
母親は広げたシャツを
またたたみながらニコニコするのだ。

「やだ、
べジータちゃんは何を着ても似合うわよ。
腰が細いでしょう?
姿勢もいいしね。
色も白いからどんな色も着こなせるし。
それで新しい洋服を着せてあげると
とてもうれしそうな顔をするのよ。」
「はぁ・・・・
ママったら・・・。」

母親は手を休めるとブルマに声をかけた。

「お茶飲む?」

二人がテーブルにつく。

「べジータには気をつけなきゃ、ママ。
あいつ何するかわからないわよ。
ヤムチャを殺させたのは
あいつなんだから。」
「そうね」
「ひどいやつよ。
この地球も滅ぼそうとしてたんだから!」
「でもね・・・」

母親はカップの中に砂糖を入れた。

「ママにはあの子がそんな悪い子に見えないの。」

「どこをどう見たらそう見えるのかしら。」
「あら、
ブルマさんだって
気づいていると思ったけど。」
「変なこといわないでよね。」

ブルマはお茶を一気に飲み干すと
さっさと席を立った。
「べジータのせいで
私は散々な目にあったのよ。
いい奴なわけないじゃない。」
「あら」
「最悪よ」
「じゃあ
なぜべジータちゃんをつれてきたの?」

ブルマは言葉を詰まらせた。

「パパに似たのよ・・。
私が小さいころから
パパが得体の知れない動物をひらってくるから・・・
だから・・・。」
「捨て犬じゃあるまいし。」
「野性の猿よ。」

ブルマは顔を真っ赤にした。










その夜は
ちょっとしたパーティだった。
あれから130日目の明日、
本場ナメック星のドラゴンボールが地球で復活する。
いよいよ孫悟空とクリリンが生き返るのだ。
悟飯が、チチが、牛魔王が、亀仙人が、
水しか飲めないナメック星人達も庭に
集まり立食形式パーティを楽しんでいた。

ベジータはいなかった。

いつしか宴は盛り上がり
夜もどんどんふけていった。
待ちに待ったのが明日なのだから
みんな泣いたり笑ったりした。
その後
ナメック星人たちが引き上げ
悟飯とチチが牛魔王につれられて家に帰り
亀仙人も宿泊する
カプセルコーポの一室に戻っていった。

大量の空き瓶と
ブルマと両親だけが残った。

「あらあら、
お料理がこんなに残っちゃったわね。
やっぱり悟空ちゃんがいないと寂しいわ。」
「大丈夫よ、ママ。
もうすぐべジータが
おなかをすかせて帰ってくるから。
あいつが全部食べちゃうわよ。」
「そうね。
べジータちゃんはそれはおいしそうに
なんでも食べるものね。」
「孫君も悟飯君もそうね。
サイヤ人というのはそうなのね・・・
たぶん。」

ブルマは業者に指示を出し
テーブルを一つ残して食事をまとめさせ、
後を片付けさせた。

「リビングに入れないの、テーブル?」
「あいつは誰にも会わないで
外で食べるほうがいいんだって。
ここにだしといてあげるわ。」
「まるで野生動物の
餌付けじゃのう。」

野生動物、と
ブリーフ博士がいって
ブルマと母親は顔を見合わせて笑った。

「本当にそのとおりだわ。
あいつナイフとフォークの使いかたも
ろくに知らないんだから。
シャワーだって石鹸を使った形跡がないし。」
「あらあ」
「ベッドだって使ってないみたいなのよ。
立って寝てるみたいなの。」

部屋に戻ろうとしていたブリーフ博士が
つぶやいた。

「そうじゃな・・・
彼は今まで
どういう生き方をしてきたんじゃろうなあ。」


秋の夜。
虫の声だけが庭にひびいている。
日中は暑いが夜はもう肌寒くなっていた。

「食い物はこれか。」

上のほうからべジータの声。
一人テーブルに残っていたブルマは
はっと上を見上げた。
満月を背負うようにべジータの黒いシルエットが
夜空に浮かんでいた。

「そうよ
あんたの分ばかりだから
みんな食べていいわよ。」
「ふん」

静かに下りてきたべジータは
腕を組んだままブルマをちらりと見た。
無言だった。

しかしべジータは
まるでブルマが
その場に「いない」かのように
さっさとテーブルにつき
がつがつと食事をはじめたのだった。

それはすさまじい勢いだった。
はらぺこの狼が(猿?)
空腹を満たすかのように
べジータは両手にもてるだけの食べ物を持って
ぐいぐい口に押しこんいる。

「ちょっとは
かみなさいよ。」

ビール用のジョッキに
ミネラルウォーターをいっぱいに
注いでやると
べジータは
激しい音を立てて
一気に飲み干した。

「味、わかるの?
そんな食べ方で。」
「わからん」
「何よ、それ。
結構たかかったのよ、
その料理は」
「そんなこと俺には関係ない。
食えればいいんだ。」
「・・・あんた、
ドッグフードでも気づかずに
食べるでしょうね・・・・。」

ものすごく早食いだった。
それは多分彼の習慣なんだろう。
フリーザ軍の中で
楽しいお食事タイムがあるなんてことは
ブルマにはどうしても想像が出来なかった。



初めてカプセルコーポレーションに
べジータを連れてきた日、
ブルマは本心では心配していた。
「あんたもくる?」と誘いながらも
凶暴な彼に本当は不安だったのだ。

その日カプセルコーポの前では
ブルマの母親がみんなを迎えてくれた。
ブルマの母親は花をいっぱい抱えた状態で
とてもにこやかにみんなを歓迎した。
でも
べジータはなかなか屋内に入ろうとしなかった。
まるでいじけた子供のように
最後の一人になっても
いつまでもその場にたったまま動かなかった。

「いらっしゃい、お名前なんていうの?」

べジータの素性を知らない彼女は
ニコニコしながら彼に近づく。
べジータの眉がぴくりと動いた。

「あ、ママ、あのね・・・」

ブルマが思わず声をあげた。
しかしブルマの母親は構う様子がない。

「あなた、
甘いものは好きかしら?」

べジータは案の定
眉間にしわを寄せた。
不機嫌な表情で何かいおうと
・・・彼は口を開いた。

そのとき
その口に
ブルマの母親がチョコクッキーを投げ込んだのである。

べジータは
目を見開いて彼女の顔を見た。
その半分開いた口に白い指を当て、
ブルマの母親がそっと口びるを閉じさせた。

「おいしいわよ、
食べてみて?」

屈託もなく微笑む母親。
べジータは、顔を真っ赤にして
口をもぐもぐさせた。

「どう?」
「・・・・・・うまい」

之がべジータのカプセルコーポでの
第一声だったのだ。

それはまだ幼い子供のようにも見え、
えさに釣られたワンコ(猿?)のようにも見えた。
口をもぐもぐさせる表情は
あの凶暴なサイヤ人の戦士の姿とは
到底同じ人物に思えなかった・・・。




そう
あれは奇跡に違いなかった。
ナメック星のドラゴンボールが多くの命を救ったのだ。
孫悟空とフリーザだけを除いて。
ナメックの長老が穏やかな語りで
事の次第を説明している間
ブルマはベジータをじっと見つめていた。

大好きなヤムチャを殺させた男である。
ナメック星では自分も殺されていたかもしれなかった。
許せるはずがなかった。

そんな凶悪な男も地球にやってきたのだ。

でもべジータは
血だらけだった。
全身に自分の血を浴びて
戦闘服は赤く染まっていた。
髪には大量の土がかぶさっている。
プロテクターと戦闘服の心臓のあたりが
黒くこげて大穴が開いていた。
しかし傷は見当たらなかった。
が、おそらくそれが
彼がナメックで「死んでいた」ことを物語っている。
彼は多分殺されたのだろう。
あのナメック星で。

彼も殺される側の生き物だったのだ。

ブルマはそう自分で理解した。

ナメック星人達が仮の宿を求めた時
彼女はそれを快く受け入れた。

「あんたも来たらー!
どうせ
宿賃もないんでしょ?」

その言葉はそう深い意味はなかったのだ。
ブルマにとって。
しかしベジータはプイと横を向いた。

怒ってどこかに飛んでいくかとも思っていたのに
べジータは木の幹に寄りかかったまま
わざとらしく顔をそむけたのだった。
それは小さな子供のようだった。

正直にそう思ったブルマにいたずら心が芽生え
彼女はもう一言声をかけた。

「いくらあたしが
魅力的だからといっても
悪いことしちゃダメよー」

そのときのべジータの顔を
ブルマは忘れない。
目を見開いて顔を真っ赤にしたベジータ。
汗をだらだらかき
どもりながらやっと口を開いた。

「げ・・・下品な女だ・・・・・・
・・・でかい声で・・・・」

真っ赤に染まった戦闘服と
うぶな少年のような表情。

この人は本当に
生まれながらの悪い人だったのだろうか。
ブルマはそのとき
はっきりそう思った。




「ねえ、お酒飲もうか?」

少し退屈してきたブルマは
そっとベジータに聞いてみた。

「アルコールは飲まん。」
「のめないの?」
「違う」

べジータはもくもくと食べ続けている。

「アルコールは判断力を狂わせる。
戦士にとっては致命的なダメージだ。」
「ふーん
でもここは地球よ。
あんた以上にやばい奴はいないわ。
ね、ちょっとのみましょうよ。」
「・・・」
「それとも酔っ払った姿を見られるのが
恥ずかしいの?」
「ばかな」
「・・・じゃあ、いこ。」

すでに十分飲んでいたブルマであるが
なんだかまだ
飲み足りなかった。
酔いのせいで
べジータへの警戒心の箍がはずれ
彼女の心には
理解不能な男(猿?)への好奇心が
むくむくと頭を持ちあげはじめていた。

積極的なブルマに
べジータは無言だった。
でも決してそれは不快ではなく
明らかに
どう反応すればいいのかわからないという感じである。

彼は今まで
自分に対してこんな対応をする女に
出会ったことがなかった・・・。

宇宙最悪の戦士べジータは
酔っ払いのブルマに手を引かれ
ともに屋内に入る。
なぜか手を振り解きもせず
おとなしくブルマの後を
てくてくついていく。

すでに両親も使用人も寝静まった屋内。
暗くなったリビングに明かりをつけたブルマは
ご機嫌でべジータをソファに座らせて
茶色いコニャックのビンを持ち出した。

「あんた、これ飲めるかなあ?」
「地球の酒か。
・・・まずくても
のめんことはないだろう。」
「へんないいかたね。」

べジータは差し出されたグラスに
自分で酒を入れてみた。

・・・いい匂いがした。






本当のことをいえば
酒を飲むのは初めてだった。

30年以上戦ってきたのだ。
たとえ戦闘中でなくても
隙を見せれば仲間にだってねらわれる。
飲めるわけがない。
それだけ恨まれることをし続けてきたのだ。
ずっとずっと・・・。

でも飲めないことを
ブルマにからかわれるのがいやで
べジータはグラスに口をつけた。
その酒は決して初心者向けの酒ではなく
一気に飲んでしまったべジータは
一瞬息を詰まらせた。
その後腹が急激に熱くなり
べジータは
ふう、とため息をついた。

それは不思議な感覚だった。
血の中を
炎がめぐる感じだ。

そののみっぷりを見たブルマは
べジータがかなりの呑み助だと思い込み
どんどんグラスに酒を注いだ。
一方酒の飲み方を知らないべジータも
ぐいぐい飲んでいた。

「いけるじゃん、べジータ。」
「まあな(違)」

頬を赤く染めたブルマも
久しぶりに飲む相手が出来てうれしいようだった。

べジータの横にブルマは腰をおろす。

「ねえ、
明日ナメック星のドラゴンボールが復活するのよ。」
「なに!」
「孫君が帰ってくるわ
・・・ヤムチャも。」
「ふん、
どうでもいいことだな。
しかしナメック語がわかりさえすれば・・・。」 
「・・・不老不死になりたい?
・・・今も?」
「わからん。」
「・・・あんたの夢って何?」


べジータは自分の舌が
かすかにしびれているのに
気がついていた。
これが酔っ払うということだったが
べジータにその自覚はなかった。
自分が饒舌になっているなと
薄々気づいていたが
ブルマの傍から今離れる気が起きなかった。

「ねえ」

とろんとした目でブルマが聞いた。

「なんだ」
「あんた、
好きな人いないの?」
「そんなもの必要ない」
「家族とかはいないの?」
「・・・」
「話しなさいよ」
「何で貴様に・・・」
「知りたいのよ、
あんたのことが・・・」

べジータは空のグラスをブルマに向けた。
ブルマがそこにジンを
どぶどぶとそのまま注いだ。

(作者注・こんな飲み方をしてはいけません. 死にます。)

「わからないんだ・・・何も。」

べジータは
ポツリとつぶやいた。

「なによ、それ?」
「俺たちは子供の頃からフリーザ軍にいたからな。
記憶は飛ばされているのさ。
今俺の持っている記憶も
多分後から埋め込まれたものだろう。
軍に入る前の記憶はけされて
もっていないんだ。」
「・・・つらいね・・・」
「なぜ?
なぜそう思う?」
「思い出がなければ生きていけないわ。」

べジータはブルマの顔をみた。
酩酊状態のブルマであったが
その瞳はべジータをしっかり見つめていた。

「ここで生きなおせばいいわ・・・
地球で・・・
誰だって
やり直すことはできる・・・。」

そういうとブルマは
突然べジータにもたれかかってきた。

「おい、何だ!!」

それは
やわらかい肉の感触だった。
絹のような髪の毛が
べジータのひざの上に広がり
成熟した女の香りが
べジータの鼻をついた。

べジータのひざで
ブルマは眠ってしまっていたのだ。

・・・わけがわからん。

それでもべジータは
おそるおそるブルマの髪に触ってみた。
暖かい地肌の熱が
彼の指を刺激した。

「おい・・・」

なにをやってるんだ、
俺様ともあろうものが。

俺はおかしくなっている。
一度死んでから。
戦う目的を失い
訓練にも気が入らず
こんなところで
俺は何をしているんだ。

カカロット。
貴様は明日この星に帰ってくるのか?

ひざの上にある
ブルマの顔をみる。
この女に憎しみが芽生えない。

今までかんじたことのない
暖かい気持ちが
自分の中にめざめているのに気がつく。

こんなことではだめだ・・・。
残虐非道な俺に戻らないと
こんな状態じゃ
カカロットを殺せない。

くそっ!!!

この女といると
調子が狂うぜ。

「・・・殺すか?」

べジータは自分で自分に語りかけた。
そしてすっと
ブルマの首に両手をかけた。

「あばよ」




「・・・ヤムチャ」

そのとき、ブルマがいった。
とてもちいさい声だった。
べジータはうっすらと笑い
両手の力を抜いた。

そうだ
殺さずとも他に手はある。
もっと長く苦しませる方法が。

べジータはブルマの体をひょいと抱き上げた。
ついでにビンに残ったジンを
一気に飲み干すと
目の前が一瞬暗くなった。
そこをこらえて
彼はブルマのプライベートルームに向かった。
足元がぐらぐらゆれていた。

ドアを片足でけやぶって
べジータはブルマの体を
セミダブルのベッドに乱暴に投げ出した。
ブルマは目覚めなかった。

クソ女め。
お前の男は
明日帰ってくるんだな
それなら
貴様の体中に
俺の印をぶちまけてやる。

ざまあみろ
俺をなめるな!
馬鹿な女め!

べジータはブルマのTシャツを捲り上げ
その肌を乱暴につかんだ。
そして短いスカートをたくし上げて
小さい布を一気に破った。
なまめかしい肉の香りがする。
ベジータはそのにおいを何度も確認し
にやりと微笑んだ。
ベジータはブルマの両ひざを乱暴につかむ。
両足を抱え込むと
彼はその間に一気に体重をかけようとした。

そのとき。

ブルマが動いた。
ブルマが
自ら彼女の両腕を伸ばし
べジータの首をしっかり抱いたのだ。





「なんだと」

ベジータは驚いて動きを止めた。
ブルマは目を閉じたまま
べジータに複雑に絡みつき
その唇に激しく吸い付いてきた。

べジータは体を震わせた。
自分はどうしたらいいのか
すぐに判断できなかったようだった。

ブルマの唇は
丁寧にやさしくべジータの唇をなぞり続け
甘い息をもらしながら
何度も彼自身を強く強く吸った。
その両腕はべジータの背中に回り
優しく優しく彼を抱いた。
ベジータは思わず体を震わせた。
ブルマの指の動きが
ベジータの背中に
しびれるような熱い感触を走らせたから。

ベジータはゆっくりと目を閉じた。

それは
ベジータにとってはじめての体験だった。

泣き喚き
嫌がるあいてを
殴り
たたきつけ
力で組み伏せる。
強いものが弱いものの
すべてを踏みつける。
それが
ベジータの知っている
セックスだったから。






「ヤムチャ
ヤムチャ・・・」





甘く切ないささやき。
ブルマは泣いていた。
ベジータはその言葉を聞き逃すまいと
耳を凝らした。

「馬鹿な女だ
・・・・自分の男と勘違いしてやがる。」

ベジータはつぶやいた。

そして
ベジータは
ため息をつく。

彼はブルマの頬を両手ではさむと








一度だけ彼女に
深く深く
キスをした。











ベジータはブルマにシーツをかけてやると
そのまま自分の部屋に戻った。
程よい酔い加減が
彼の足取りを軽くする。

自分の部屋に戻り
彼は大きく窓を開け放ち
夜風を取り込んだ。
鏡を見ると
自分の頬は赤く上気していた。
みたことのない自分の表情に
驚いたのはベジータ本人である。

「地球の酒も
悪くない。」

ベジータは星を見上げた。



その夜ベジータは
初めて
ベッドに横になって寝た。