
それから何日かたって久しぶりにベジータは
カプセルコーポレーションに帰ってきた。
ベジータがここに住むようになって
もうどのくらいになるのだろうか。
あせりがないといえばうそになる。
未来からきたあの青年。
彼のいうことを信じれば必ず人造人間は現れる。
超サイヤ人である彼が倒すことができないという人造人間。
もしそれが本当なら今の自分では勝てない。
間違いなく、死ぬ。
死ぬということ。
それはべジータにとっては単なる日常の出来事のひとつである。
フリーザ軍においては今見た同志が
次の瞬間に消滅していることなど何の珍しいことでもない。
暖かい血の通った体も死んでしまえばただの物体だ。
だから未来を考えたことも今までなかった。
フリーザ軍時代の自分ならいったいどうするだろう?
もちろんあきらめて死んでしまうことなどするはずもない。
ベジータはサイヤ人の王子だ。
たとえ力の差が歴然とあったにしても、
精一杯戦って
誇り高く散っていくだろう。
自分の命が惜しいわけではないのだ。
自分の命など
もうとっくに捨てている。
なにかが、ちがう。
自分の中で。
ベジータは自室に向かう。
腹はすいていた。
しかし台所に向かう気になれなかった。
ブルマの部屋にもいく気はしなかった…。
ドアをあけて自分の部屋にはいるべジータ。
きれいに掃除されたその内部。
ベジータは黙って足を踏み入れる。
懐かしい。
ふとそう思った。
なぜこんな感情が自分にあるのか、
彼には理解できなかった。
一歩踏み込んだベジータ。
ふと視線を上げると窓際に立つ人影が見えた。
ベジータの足が止まった。
「おかえり」
ブルマがいた。
ベジータの足が、なぜか震える。
ブルマがベジータに近づいてくる。
まっすぐベジータを見つめている。
ベジータは目をそらそうとした。
だけどできなかった。
ブルマがベジータの正面に止まった。
彼女は視線をベジータの足元に落とした。
そうしてそっと両手を差し出して
ベジータの左腕をしっかりつかんだ。
手袋。
ベジータはこの手袋をなかなか脱ごうとしなかったのだ。
何時も何時もベジータはこの手袋をしていた。
まるで人と触れることを拒むかのように。
ブルマはべジータの左腕をさする。
左手でベジータの手を握り
右手で大事に大事にさする。
ブルマのやわらかい手のひらが
ベジータの傷ついた体を震わせる。
この感じはなんなんだろう…。
「帰ってきたのね」
ブルマはそれだけいうと
そっとベジータの手袋を脱がせた。
白い指が現れた。
生まれのよさそうな
つめの大きい
きれいな手のひらが。
ブルマはそっと手をとった。
ベジータはブルマのすることを黙って見つめていた。
ほこりと砂と汗にまみれたベジータの姿。
そのべジータの体にブルマはそっと体重をかけた。
ベジータの体が一瞬震えた。
「帰ってきたのね」
ブルマはそう一言声をかけた。
ベジータはその時はっきり確認した。
自分がその言葉を待っていたという事を。
彼は感じている。
あれから会わずにいたその間、
彼を襲った正体不明の不安。
孤独を愛し一人で生きてきた彼が
はっきり感じた寂しさ。
そんな感情が今消え去ったのを。
親の愛を知らず
家族の暖かさも受けず
幼いときから戦闘員として生きてきた彼。
血にまみれ
心を切り裂いて
終わりのない戦いに
身をささげてきたベジータ。
だから目をつぶり続けてきた。
自分の中の感情に。
弱さも悲しさもすべて打ち捨てて
ただ生きてきた。
死なないために。
そんなべジータの心が
初めて
開いた。
ベジータはおそるおそるブルマを見た。
ブルマは微笑んでいた。
「まってたの。
あなたをここで。」
ベジータの口元がかすかに緩んだ。
ただそれだけなのだけれど
ブルマにはそれで十分だった。
そうだ。
私はやっぱりほしいのだ。
あなたの血を引く私の子供が。
傷だらけの体を見つめながらブルマは思う。
私はやっぱり、あなたの子を生む。
私のためにあなたの子を生む。
私の中に
間違いなく
あなたがいる。
ブルマは黙って涙を流す。
「なにもいうな。」
ベジータはそっとささやいた。
「俺を見ろ」
ベジータがブルマをしっかり抱きしめた。
「俺はここにいる。」
