
それは星のきれいな夜だった。
ベジータが重力室にこもってどのくらい日がたっていたのだろう。
突然大音響がしてすべての機械音が止まってしまったのである。
焦げ臭い匂いが一気に立ち込め
配管からどろどろしたオイルが漏れ出した。
灰色の煙が重力室一杯に立ち込めて室内の視界がさえぎられた。
このことはベジータのパワーが一回り上がった証拠であった。
<つまり、パワーアップするたびに壊してしまうということである>
然し、いいところで修行をきられたベジータは不満ではちきれそうであった。
「ちっ!」
ベジータは思わず壁を蹴った。
何かしないとおさまらなかった。
ドカッ!!!
軽く蹴ったつもりであった。
しかし重力室に大穴があいてしまい
そこから煙がカプセルコーポレーション内に一気に溢れ出した。
煙は各所のセンサーに反応し
あちこちで警報が鳴り響き出した。
そのときブルマは自分の部屋にいた。
なんだか気分の優れないブルマは
ベッドに腰掛けてぼんやり夜空を眺めていたのである。
全身が妙にけだるかった。
この2.3日微熱も断続的に続いていた。
ブルマはシャツのすそから手を差し入れて
そっと自分の胸を触ってみる。
探ると硬いしこりが出来ており
その表面は火の様にほてっている。
…間違いなかった。
ブルマの胸中は複雑であった。
ベジータとの関係が始まったのはついこの間のことだと思う。
一緒にいるようになってブルマは
はじめて知った。
ベジータの優しさに。
ベジータは根っからの悪人じゃない。
そう洗脳され続けていただけなのだ、とブルマは思いたい。
そしてベジータの心はいつもかすかにゆれている。
彼の心の中にはわずかに差し込む光がある。
その光がベジータを苦しめる。
ベジータがしてきた行為を
ベジータの目の前に突きつける。
それを完全に無視できないところに
ベジータの苦痛がある。
でもベジータは目をそらさない。
痛みも苦しみもそのまま受け止める。
逃げない。
そこが不器用だと思う。
優しさってなんだろう。
わかるようでわからない。
でも…。
サイヤ人の力。
ブルマには想像もつかない。
その気になれば
指一本で彼女をつぶせる。
そんな力を秘めた手が
ブルマをそっと支える。
ベジータは力加減を知っている。
ブルマを傷つけないように
ブルマが痛がらないように
細心の注意を図ってくれる。
本当にあなたはベジータなの?
ナメック星で私たちと敵同士だった
あのベジータなの?
地球でヤムチャや天津飯、餃子、ピッコロまで殺し
私を悲しませたあのベジータなの?
ああ。
でも、私にはわかる。
この人は
悪い人じゃない。
ブルマはそっと自分の乳房から手を離す。
ゆっくりと立ち上がり
デスクのある方向に向かった。
ブルマはふっと笑った。
ベジータの行動は本当にわかりやすい。
「またやったわね…」
くわえていたタバコをもみ消す。
デスクの上のモニターを開く。
「やっぱり…」
重力室に赤い点滅。
ブルマはすべての警報をきった。
重力室を壊したのだ、
ベジータがまた。
後始末は誰かがやってくれるだろう。
それはまかせればいい。
でも多分もうすぐくる、
ベジータがここに。
いらいらカリカリしながら。
彼は月のうちの半分ほどは北の高地でひとりで修行している。
そして食料を食べ尽くした頃戻ってきて
今度は重力室で修行する。
重力室が壊れるまで。
規則正しいといえば規則正しい。
重力室を壊してしまったベジータは
ブルマを探しに久しぶりに重力室から出た。
腹が思い切りすいていた。
しかしブルマはキッチンにはいなかった。
「くそっ!」
ベジータの気持ちは不満で一杯だったが
冷蔵庫を開けると、とにかくたべられそうなものをテーブルに広げた。
まずは食欲からなだめなくてはいけない。
サイヤ人の食欲はとにかく想像を絶する。
カカロットの食欲ににベジータが負けるはずがない。
おまけに二人ともけっこう悪食である。
トカゲや恐竜まで美味しく頂いているのだから。
よっぽどひもじいと火の通っていないものでもたべてしまうことがある。
だからベジータが冷蔵庫をいったんあけると
残るのは調味料ぐらいのものであった。
一通り冷蔵庫を荒らしたベジータは思い出したようにブルマを探し出した。
まっすぐ向かった作業場にまたも彼女はいなかった。
「畜生,何処にいきやがった…。」
ベジータはムカムカしながら彼女の姿を求めていた。
ブルマののプライベートルームの方角に向かう。
早速そちらの方へ歩き出すベジータ。
そのときベジータは気づいたのだ。
ブルマの部屋の方から流れ来る空気の色が今日は違うことに。
それはメスの獣の発する香りであった。
ベジータは立ち止まる。
そして気がついた。
彼女の中で何かが変わり始めていたことに。
ブルマの部屋の前についたベジータ。
ブルマはたしかにこの部屋の中にいる。
ベジータはしばらく立ち止まって何か考えていたがいたが
やはり彼女の部屋に入ることにした。
ブルマの部屋。
ロックがかかることはもうない。
ベジータは無言ではいっていく。
窓が開いて夜風が吹き込んでいた。
そこにくわえタバコの彼女の姿があった。
けだるそうに壁にもたれていたブルマは
ゆっくりとベジータのほうを見た。
「又壊したのね。」
かすかに顔色が蒼く見える。
「ああ…」
ベジータは感情の伺えない調子で答えた。
「頼む」
「頼むって…もう少し大事に使って、といいたいけれど…
また強くなったのね、ベジータ。」
「あたりまえだ。」
ベジータはブルマのほうに少しだけ近づいた、
ブルマの香りがベジータを包みこむ。
ベジータは眉をしかめた。
「貴様…何か変わったな?」
ベジータがつぶやいた。
背中を向けて窓際に立っていたブルマ。
ゆっくりと煙を吐く。
「なんでそんなこというの?」
ブルマは顔をそむけた。
ベジータはそっとブルマの背後に近づいた。
そして小さく言葉を発した。
「…匂いが違う」
ブルマは思わず振り向いた。
そしてにっこり笑った。
「まるで動物ね」
ベジータは硬い表情のままだった。
「図星か」
ブルマは答えなかった。
ベジータも黙っていた。
ブルマはベジータにそっと近寄り、体を預けた。
「図星なのだな」
ブルマの腕がベジータの首に回る。
腕に力が入ってベジータの顔はブルマに引き寄せられる。
唇が触れる。
ブルマの唇がベジータを激しくもとめる。
「ベジータ…」
ベジータは軽くブルマの唇を吸った。
やがてベジータはブルマから体を離した。
ブルマの瞳は潤んでいる。
ベジータはそんなブルマの頬をそっと手のひらでなでた。
「赤ちゃんが出来たの」
ベジータはなにもいわない。
二つの心臓の音が重なって体中に響く。
不安げなブルマの顔。
思い切ってベジータの目を見つめる。
「…生んでいいいかな?」
小さい声でブルマがつぶやいた。
静寂。
風の音だけが聞こえる
「なぜ…」
ベジータがいった。
「なぜ俺にそんなことを聞く?」
ブルマは黙り込んでしまった。
ショックを受けたわけではない。
でもやはり言葉が続かなかった。
しばしの沈黙の後ベジータがようやく口を開いた。
「生むのは貴様ではないのか?」
ブルマの開いた襟元のボタンをそっとはずす。
「お前は…」
ベジータはその手でブルマの熱く張ったそれらを丁寧に包む。
「俺にどうしてほしい?」
ゆっくりそうっとその部分をなでさすりながらベジータは続けた。
「俺の子を生めといえばいいのか?」
ブルマはベジータの背中に腕を回す。
普段より敏感になった胸のふくらみが
熱く、熱くなっていく。
ベジータの動きは優しい。
言葉とは裏腹に。
ベジータは続けた。
身を溶かすような愛撫と
つき離すような冷たい言葉を。
「…それとも生むなといえばいいのか?」
「ベジータ、あっ…」
ブルマの体は大きく震えた。
ベジータの動きに耐え切れず、ブルマはベジータの首に腕を回して
上半身を大きくのけぞらせた。
「俺にはわからない」
ベジータのその一言に
ブルマは思わず瞳を閉じた。
私が変わった。
ベジータはそういった。
でもそれ以上何もいわないのね。
普段より一回り大きくはった乳房は熱をもっている。
そうなのだ。
彼女は変わりつつある。
まだ目立たない下腹部の形。
だけど彼女は変わっていく。
いずれこうなることはわかっていた。
私は求めていたのだと思う…。
はっきり認めたくはなかったけれど。
私はほしかったのだ。
あなたと私がこの世に生きていた、という、証が。
ブルマは唇をかみ締めた。
『生むのは貴様ではないのか?』
この言葉はどういう意味なのだろう?
父親になることを拒む、ということではないのだろうか。
それ以外の汲み取りようは考えられなかった。
わかってはいた。
だけどやっぱり寂しさを感じずにはいられなかった。
ブルマの体はこうしている間にも変わっている。
いつもと違う肌のほてり
しこりを持ったはった胸。
触ると少しいたむ。
ブルマはこれから間違いなく変化していく。
これからどんどんおなかが大きくなって
何時か事実を隠すことができなくなる。
まさか、彼から温かい言葉が聞けるとは思っていなかった。
そんなことはわかっていた。
ベジータが父親になれるわけがない。
そんなことははじめからわかりきっていたことなのだ。
ブルマは口を閉ざした。
何度もいうがショックを受けたわけではない。
予想通りの答えだったから。
でも
やっぱり
涙が出た。
意外な自分の反応に彼女自身が驚いていた。
私はこんなに女々しい女だったのだろうか、と。
ベジータはいったいきづいているのだろうか?
彼女の涙に。
それともほんとにわかっていないのだろうか?
ベジータはブルマの体を引き寄せ、
自分の胸にしっかり抱いた。
でも、ただ、それだけだった。
ベジータは北の荒地に修行に出て行った。
何もいわないで。
ベジータ。
あなたがこれを喜んでくれなければ
ほかにだれが喜ぶというの?