眠れない夜。
長い闇。
風の音さえしない。

寝られないのは着慣れないパジャマのせいだ。

ベジータはそう思いたかった。

ベジータは見てしまった。
二人の超サイヤ人を。
フリーザを倒した未来からの超サイヤ人の少年。
それに驚く暇もなく
とうとうカカロットは帰ってきた。
一回りもふた周りも大きくなって。
そしてその姿をベジータの前にあらわした。
二人の超サイヤ人。
伝説の最強のサイヤ人。
まさに戦闘神。
金色の戦士。
フリーザが唯一恐れた超サイヤ人の姿を、
ベジータは見てしまった。
その圧倒的な二つの気は
ベジータの気持ちを「完全」に打ち砕いた。

…フリーザに勝つわけだ…。

フリーザが弱いはずがない。
ベジータが、今まで散々支配された男だったのだ。

あいつを倒し自由を得ることだけが目標だった。
それだけが。

夢はかなわなかった。
絶対的な力の差に涙まで流してしまった
ベジータである。
そのフリーザを、超サイヤ人の少年はいとも簡単に倒した。
ベジータの目の前で。

オレだけじゃないのか。
オレこそが
伝説の超サイヤ人になるはずだったのじゃないのか。
オレは今まで何のために耐えて来たんだ。
…自分の運命に。

一度はカカロットを認めたベジータであった。
敗北が決定的になり
ナメック星で命を落とそうとしたとき、
ベジータはフリーザとの決着をカカロットにゆだねた。
しかし。
実際にベジータは見てしまった。
自分がなれなかった、
伝説の二人の戦士の姿を。

眠れないベジータはベッドの中で何度も寝返りを打つ。
自分とのあいだにある、下級戦士との力の差。
ベジータはがたがた身震いした。

なぜ。
なぜ。

ベジータを支えていた砦。
サイヤ人の王子としてのプライド。
プライドがカカロットを許さない。

「下級戦士にこのオレが劣るなんて。」

ベジータは、思わず呟いた。

この悔しさは理屈ではない。
王子の血を否定されること。
それはベジータの死を意味するのだ。
このこだわり。
このプライドこそが彼の全てなのだ。

そのとき。

「よう、ベジータ」

ベジータは驚いた。
突然のことだった。
聞いた事のある声がする。
横たわるベジータの目の前に
黒髪のカカロットの顔があった。

「な、なんで貴様がここにいる?」

目の前でニコニコする男の顔を見て
ベジータは目を丸くした。
「ああ、なんだかなあ、
おめえの気を探っていたらここに出た。」
「勝手なことするんじゃない!」
「んなこといったってさあ…」

カカロットが顔を近づけてくる。

「やめろ。」

ベジータがそれを押し戻そうと暴れた。

「何が嬉しくて
貴様とおんなじベッドで寝てなきゃならないんだ!?」
「まあいいじゃねえか
嫌がるんじゃねえよ、ベジータ。」
「嬉しいわけないだろう」

カカロットはおき上がろうとしているベジータの手をつかんだ。

「さわるな!」
「まあ、まてよ」

カカロットはベジータの身体を自分のほうに寄せた。
悔しいがノーマルの状態でも
ベジータはカカロットにかなわない。
皮膚に触れるカカロットの肉体からは
激しいエネルギーが感じられる。
ベジータはそれを身体で感じずにいられなかった。

畜生
わざわざ見せ付けやがって!

「ちょっと会いたかっただけだ。」

カカロットに悪気はない。
無邪気な気だけが溢れていた。
それでもベジータはカカロットから身体を離した。

「おめえはすぐ怒っていけねえや。
少しは話を聞けよ。
オラはおめえと修行してえだけなんだから。」
「修行だと?」
「そうだ。
オラの相手は
おめぇしかいねえ。」
「オレはごめんだ。
貴様と修行するくらいなら、
人造人間に殺されたほうがましだ。」
「…なんでそんなことをいうのかなあ」

カカロットはくすりと笑った。
嫌がるベジータの身体を何度も絡めとろうとする。

「前は確かにおめえのほうが強かったが、
今はどうだ。」
「…」
「オラと組んだほうが早く強くなれるぞ。
なっ、いいだろ、ベジータ!
それに…
オラ、おめえにいろいろ聞きてぇことがあるんだ。」
「聞きたいこと…?」

ベジータはカカロットの腕を解きながら聞き返した。
この男がこんな気弱な顔をするのは初めて見た、と思った。
ベジータは腕を組みなおした。
ベジータの横にカカロットも腰掛け直す。
いつか見た山吹色の胴着。
かすかに獣の匂いがした。

「いってみろ」

カカロットは、しばらく息を止めていた。
ちらりちらりとベジータを見る。
やがて、思いつめたような声で彼は言った。

「なあ、ベジータ。
サイヤ人ってなんなんだ。」
「は?」

ベジータは目を丸くした。

「教えてくれよ」
「何言ってやがる。
貴様そのものがサイヤ人じゃねえか。
おまけに超サイヤ人様と来たもんだ。
カカロットさんよ」
「真面目に答えろよ。
オラ、変なんだ。
変なんだよ。
フリーザーをやってから。」

カカロットはため息をついた。
一呼吸おいてカカロットは続けた。

「オラは戦う事が大好きだ。
でもオラは、
相手を殺そうと思って戦った事は無かった。
つええ奴とであいてえだけなんだ。
だけど、フリーザーのときのオラは違った。」

ベジータはカカロットのほうを見る。
黒い瞳にベジータ自身が映っていた。

カカロット。
こいつの目は不思議だ。
オレの知ってる誰の目とも違う。
何処までも何処までもすきとおっている。
変な奴だ。

ベジータはふとそう考えた。
カカロットはベジータから目をそらさない。
まるでベジータにすがりつくように感じる視線。
ベジータは気づいている。
目の前のこの男に引き寄せられる自分の魂を。
強い物に惹かれるという自分の中の自然の摂理を。

それを知る事もなくカカロットは続けた。

「フリーザーをやって、オラは…笑ったんだ。
ナメック星から脱出するときに…。
宇宙船の中でだ。
あんな感じ…初めてで不思議だった。
こう体の中から、こそばいような感じが来て…。
なんていったらいいのかなあ。
…それで気づいたら笑っていたんだ。
超サイヤ人の姿で。」
「ほう」
「オラ、相手を殺して笑うなんて…
どうかしている、
変なんだよ、ベジータ」

カカロットは拳を握る。
そしてそっとベジータのほうを見た。

「ちっ!」

しかしベジータはカーペットの上につばを吐いた。
カカロットはそんなベジータを不思議そうに見つめた。

「ベジータ…?」
「くだらん」
「え、くだらんって?」
「何の不思議もないことだ。
そんな事をいちいちオレに言いに来るな。」

ベジータは立ち上がった。
カカロットを見ることも無く背を向ける。

「もう帰れ。」
「何だよ、ちゃんと答えてくれよ!!」
「ばかやろう。」

ベジータがカカロットをにみつける。

「俺たちは戦闘民族なんだ。
戦いの中でしか生きていけないんだ。
強い相手をやれば喜びを感じて当然だろうが。」
「…」
「貴様はサイヤ人だ。
貴様の親父も、
あのラディッツもそうだ。
オレだって、オレだって
もしフリーザーを殺したのがオレだったら、
心のそこから大笑いしたさ。
あいつの血を頭からかぶってな!」

カカロットはベジータの腕をつかんだ。
ベジータはその手を振り払おうとした。

「当たり前なのか?
敵の命を奪って笑うオラは
当たり前のサイヤ人なのか?」
「…そうだ」

ベジータはカカロットの身体をついた。
ゆらりと揺れるカカロット。
確かめるようにベジータの顔を見る。
そして。
カカロットは自分の手のひらを見つめた。

「イヤだ…」
「サイヤ人はな、
目的のためなら親兄弟だって殺すんだよ。
貴様だってラディッツを殺したじゃないか。」
「あれは…」

カカロットの脳裏にラディッツの姿が浮かぶ。
唯一の肉親だった。
そう。
たった一人の兄だった。

殺したのはオラだ。

「たしかにそうだ」
「貴様は立派なサイヤ人だぜ。」

そういってベジータは
窓から外の景色を眺める。
そんなベジータの姿を
黒髪のカカロットもぼんやり見つめていた。

そう。
地球に戻って来るまで、
カカロットにそう異常は感じられなかった。
ナメック星で超サイヤ人に目覚めたカカロットは
苦労して自分をコントロールする術を見につけた。
ヤードラットでの日々。
はじめは苦労した。
が、そのうち自分の意思で
超サイヤ人になることが出来るようになったのだ。

フリーザとの戦いは
たしかに異常な興奮状態の中で行われた。
経験した事の無い戦いだった。
只、それはクリリンの死に触発されたと思っていた。
そうして、
今日地球に戻って来たカカロットであった。
初めて自分がおかしいと思ったのは、
宇宙船が開いて、ベジータを見たときだった。
ドアが開いて、カカロットが一番先に探したのは、
ベジータだった・・・。
生き返っているはずだった。
ドラゴンボールの力によって。
そして、ベジータの姿を見たとき。
カカロットは体が
突然燃えるように熱くなるのを感じた。

・・なぜ?
ベジータの顔を見ただけで?

判らなかった。
どうしてなのか。
その後トランクスに誘われて
二人で超サイヤ人になったカカロットである。
目の前にトランクスを見ながら、
なぜかカカロットの頭のなかにベジータがいた。
カカロットの背筋から妖しい感触が登ってくる。
後ろめたいような、どろどろとした。

その夜。
カカロットは懐かしいわが家に戻った。
悟飯もチチも大喜びであった。
しかしなぜかカカロットの中では
ずっと血が騒いでいた。
ぶくぶくと何かが沸き立つ音がする。
自分の心の中で。
あわ立つ音がする…。
判っていたのだ。
自分の変化には。

眠れないカカロットは布団を深くかぶった。
この不安から開放されたかった。
が、あわ立つ音は消えそうに無い。
身体をかきむしりたいような、
叫びたいような
そんな気持が波のように押し寄せる。

「いけねえ…」

カカロットの隣ではチチがねむっている。
気を落ち着かせようとして、
彼はチチの頬をなでさする。
チチの顔をゆっくりと見る。

おちつけ
おちつけ悟空。

カカロットは何度も繰り返す。

オラにはチチがいる。

ひさしぶりにみるその寝顔。
柔らかく、美しい。
甘い香りがした。
悪夢を振り払おうとするように
カカロットはチチの乱れた髪に顔をうずめる。
懐かしい肌触りがする。
ほんの何時間か前に
自分にまるで生き物のように巻きついたその黒髪。
一本一本がいとおしい。
カカロットはもう一度甘い夢に浸りたかった。
自分の幸せに浸りたかった。
眠っているチチの体の上にそっとまたがる。
柔らかなチチの腹部。
カカロットはそっと手をおく。
自分の顔を近づけ、胸をあわそうとした。
そのとき。
目の前に広がるビジョン。
赤い海。
全身の毛がザワッと音を立てて逆立っていた。
見える。
血糊の中で笑う自分が。
金色の髪を逆立てて笑う、まさに悪魔…。

殺されているのは…チチ?
それとも悟飯?
なんで?
何でこんな光景が浮かぶんだ?

カカロットは頭を抱える。

いやだ。
見たくない。

カカロットはこらえる。
叫びだしそうな自分を。

なぜこうなったんだ。
助けてくれ。
オラはどうなるんだ。
教えてくれ。
ベジータァ。

どうしてベジータなのか。
自分でもわからなかった…。
気がつけば
カカロットはベジータの気を求めていたのだ。

「カカロット。」

ベジータが声をかけた。
闇の中に浮かび上がる整ったシルエット。
白く星の光に浮かび上がる。

「サイヤ人は冷酷非情な種族だという。
しかしそれは他の生物との比較に過ぎない。
オレたちは自分が生き残るために
ふさわしい進化をしているだけだ。
貴様もサイヤ人なら、それらしく生きるんだな」
「そうなのか。
それがサイヤ人なのか。
おめえのように血を浴びて
弱い奴にも容赦なく責めを与える。
助けを求める奴も八つ裂きにする。
おめえたちのやりかたを忘れたわけじゃねえ。
ひでえよ。
それがサイヤ人なのか?
それなら
オラ地球人のままでいい。
オラは殺したくねえ。
無駄な殺しはしたくねえんだ。
オラは
オラははただ、
もっともっとつええ奴と戦いたいだけだ!」
「違うな、カカロット。」

ベジータはカカロットをにらみ付けた。

「貴様はまだわかっていない。
所詮地球育ちのアマちゃんだ。
は!!
ただのくそ野郎だぜ、
貴様はな!!
所詮おちこぼれだ。
貴様には何もわかっていない。
戦って、戦って、相手を殺してこそ、
サイヤ人だ。
宇宙一残酷な民族
それが貴様とオレだ。
…オレは貴様を殺してやるぜ。
オレだって
超サイヤ人になってやるさ!
そして、必ず、貴様を殺す!」


ベジータがカカロットの顔をにらみ付けた。
その獣のようなベジータの顔をみたとき、
カカロットの身体に突然変化が起こった。

「あ…」

下半身がどくどく脈打って熱くなる。
額から汗がにじみ出る。
腕が震える。

「が、…ぐはっ…」

口から獣のような声が漏れる。
思わず胸をかきむしる。

「…カカロット?」

ベジータが顔を覗き込む。

「やべえ…押さえ切れねえ…」

そういったカカロットはがっくりと膝をついた。
歯を食いしばる音がする。
何度も何度も拳を握る。
しびれる。
体がしびれる。

「…あ…がっ!…」

ベジータはにやり、と笑った。

「ほう。
貴様にも来たか。
オレを殺したくなったのだろう?
理屈じゃない。
来るんだ。
突然な。
それがサイヤ人なんだよ。」
「言うな、ベジータ!」
「血のビジョンが貴様に見えるか?
見えるだろう。
お前の頭の中は今真っ赤なはずだ。
おぞましいだろう、貴様にとってはな。
だが、認めろ。
貴様はそれが快感になる。
たまらなく気持ちよくなるのさ。
お前はもう獣だ。
貴様はオレを殺したくなるんだよ。」

ベジータは大声をあげて笑った。

「は!
貴様もサイヤ人だ。
オレと貴様。
この宇宙でたった二人の
純粋なサイヤ人だ。
殺戮と破壊を好むサイヤ人さ!」
「いやだ…違う!
オラは、オラは
ベジータとは違う…!」

ベジータはベッドから立ち上がった。

「カカロット…」

着ていたパジャマを脱ぎ捨てる。
闇の中に白い裸体が浮かび上がった。
美しい筋肉の流れ。
鍛え抜かれた肉体が月の光に晒される。

「カカロット。
オレを見ろ。
オレと、貴様はどこがどう違う?」
「もう言うな!」
「ふっ。
目をそらすなよ、貴様の運命に。
貴様は超サイヤ人だ。
全宇宙で最凶最悪の悪夢だよ。
貴様自身がな!!」

カカロットの髪が光りだす。
ざわざわと音を立てる。
体から冷たい気があふれ出る。

「ああ、もう抑えきれねえ…!」

カカロットはベジータの身体にむしゃぶりつくように飛びついた。

「べ、ベジータ!!」

カカロットの太い腕。
ベジータの身体を絡めとる。
つめが食い込み、
ベジータの背中から血しぶきがあがる。
そしてカカロットは叫びを上げた。

「ガアアアアアアアアアッ!」

カカロットは瞬間移動で荒地に移動した。
月の光だけが存在する闇の世界に、
べジータを抱いたまま。
目が青く輝く。
しかし焦点はあっていない。
ベジータは確認する。
カカロットの赤い舌が
自分の血を求めて踊っているのを。
カカロットは全裸のベジータを地面にたたきつけた。
一気にはしる複数の地割れ。
しかし。
ベジータはされるままになっていた。
…見とれていたのだ、多分。
超サイヤ人になったカカロットの姿に。

ああなるのはオレなのだ。
オレだったのだ。

カカロットがベジータの黒髪をつかむ。
その端正な顔を光る目で見つめる。
ベジータはカカロットの顔につばを吐いた。
浮かび上がるふたりの薄い笑い。
カカロットはうなり声を上げた。
太い腕でベジータの白い身体を抱きしめる。
ベジータの体がぎしぎしきしむ。
ベジータは思わず小さく叫んだ。
想像以上の痛みであった。
だが。
ベジータの表情は穏やかだった。
痛み。
体が折れるような激しい痛み。

これだ。
オレはこれを待っていた。
嬉しいぜ、カカロット!
オレはこれで
戦える!!

「…狂えよ、カカロット。
貴様はただの化け物だ。」



日が高くなった。
まだ舞い上がる土ぼこり。
瓦礫が崩れる音がする。
ベジータの横にカカロットは横たわっていた。

黒髪のカカロット。
仰向けで天を仰ぐ。

澄んだ空。
雲が光る。
カカロットには全く乱れた様子はない。
しかし。
ベジータは・・・みるも無残な姿で倒れていた。
ベジータのその姿をカカロットは愛しそうに見つめる。
割れた額にこびりつく小石。
そっと手を伸ばし、ぬぐおうとする。

「・・・なぜ、止めを刺さない・・?」

消え入るような声でベジータが聞いた。

「貴様の勝ちだ。
オレを殺せ・・・」

カカロットはベジータを見た。

「いやだ。
オラは修行したいだけだ。
おめえを殺す気なんてねえ。」
「・・・所詮超サイヤ人にはなりきっていないのか・・・
馬鹿な奴だ。
オレを殺さなかった事、きっと貴様は・・・」

ベジータの言葉がきれた。

「ベジータァ・・・?」

カカロットはベジータの顔を覗き込んだ。
ベジータの唇はわずかに開いたまま、動きを止めていた。

「寝ちまったのか」

カカロットはベジータの身体に手をかける。
小さいけれど均整の取れた美しい肉体。
よく鍛えられて引き締まった筋肉。
白い陶器のような肌。

そうだよな。
おめえのこの身体。
本当にきれえだ。
これが純粋なサイヤ人なんだなあ・・・。


カカロットはベジータの体をそっと抱きあげた。
暖かいベジータの身体から、穏やかな気が流れている。
そっと抱きしめる・・・。

そうかあ。
おめえも戦いたかったんだあ。
ベジータァ。
オラがおめえを殺せるわけないだろう。
オラとおめえは
この世でたった二人の仲間じゃねえか・・・。









どのくらい気を失っていたのか。
ベジータが目覚めたところは自分の部屋の中だった。
慌てて起き上がる。
周りを見渡す。
カカロットは・・・・いなかった。
ベジータは、戦っていたそのままの
血まみれの姿のまま、ベッドに寝かされていたのだ。

・・・仙豆を食わせやがったな・・・。

全身が汚れてはいるが、ベジータに怪我はなかった。

・・・ふざけやがって!!

カカロットが自分にとどめを刺さない事が
ベジータの怒りに火をつける。
命を救われた事がベジータのプライドを傷つける。

「馬鹿にするなー--!!!」

ベジータの気が爆発した。
どーん!!という大音響が響き渡る。
青い光がバチバチと火花を散らす。
壁と天井に大穴があきそこから血のように赤い夕焼け空が見えた。

「何やってんのよ、ベジータ!!」

ブルマが駆けつけた。
顔面蒼白の姿でベジータの下にやってきた。
ドアは吹き飛ばされてもう無い。
瓦礫が飛び散り、
土煙が舞い上がっている。
振動であちこちのガラスが割れ、
配管からは液体があふれていた。

「もうめちゃくちゃじゃない!
何でここで修行するのよ!!」

そういいながらブルマの目はベジータの身体を見ていた。
血まみれではあるが怪我はない・・・?
不思議な状態ではあるけれど
胸をなでおろすブルマであった。

「怪我はないのね。
でもなんでそんなに血で汚れているの?
ちょっとよくからだを見せなさいよ。」

ブルマがベジータのほうに近づこうとした。

「よるな」

ベジータがうめくように言葉を吐いた。

「この俺に近づくんじゃない。」

ブルマの足がすくんだ。

「・・どうしたの?
ベジータ・・・いったいなにが・・・」
「俺に話しかけるな。」

ベジータは後ろを向いた。

「戦闘服を用意しろ。
いますぐだ!!」

ブルマはどうしたらいいのかよくわからなかった。
後ろを向いたベジータの肩は細かく震えている。
全身から青い気が立ち上っている。

「ベジータ・・・?」

ブルマがもう一度声をかけた。
ベジータは振り向きもせずに手のひらを前に差し出した。

「えっ?」

無言で気を発射する。
大音響とともに壁が崩れた。
ブルマの買った洋服が
べジータのためにそろえた家具が
瓦礫に埋もれた。

「どうして・・・
ベジータ!」

ブルマはベジータに駆け寄った。
彼の瞳を覗き込む。
ベジータはブルマから目をそらした。

「・・・貴様はいわれたことだけやればいいんだ。」

そして、足で瓦礫を何度も蹴飛ばした。
ほこりが一気に煙のように舞い上がる。
ベジータはブルマのほうを振り向いた。
そして小さく呟いた。




「貴様といると・・・・・だめになる。」






暗闇の中で
ベジータの記憶のなかにいる顔のない少女。
こちらを見つめてたっている小さな影。
ベジータはその少女を知っている。
しかし・・・。
いったい誰なのか・・・・?
ベジータは手のひらにねっとり汗をかく。

これは夢だ。

わかっている。
しかし、この場所からぬけられない。
あれは…いったい誰なのか。








空が青い。
青すぎる。
ベジータは、眉をしかめる。
どこかで小鳥のさえずる声がする。
水の流れる音がする。
こののどかさがベジータを苛立たせる。
ベジータは宙を飛び続ける。
逃げるように。
しかし、いったいどこへ???

ベジータの身体の内側から湧き上がる黒い感情。
どろどろと湧き上がる、この気持ち。
自分にも理解できない、ベジータの中の何か。
ベジータは、その得体の知れない力を振り切ろうとでもするように
今日も飛び続ける。

ナメック星で一度死んだベジータだった。
しかし。
ドラゴンボールが彼を再び生き返らせた。
そして彼は地球という星にいま暮らしている。
ただ、暮らしている・・・。
地球にきた当初は彼には野望があった。
カカロットを殺しこのちんけな星を踏みにじってやろうという。
そうだ。
はじめはブルマを利用するつもりだった。
この星一の財閥の娘。
優れた科学者であるブルマとブリーフ。
十分な食糧。
そして、眠る場所の確保。
その女を
利用するべきことはいくらでもあった。

・・・超サイヤ人になったカカロットを見たい。
そして奴を倒す。
そして、この星のドラゴンボールを手に入れるか・・?
それとも、宇宙船を作らせて、このくさった星を脱出するか。
徹底的に破壊したあと。

・・・しかしこの平和な暮らしにベジータの調子は狂い始める。
当たり前の朝がきて、当たり前に日が暮れる。
寝ている間に命を失うこともない。
食べるものがなくて苦しむこともない。
毎日血だらけになる必要がない。










neo


傷つき傷つけ、相手を殺す。
頭から足の先まで、血の匂いがする。
それがベジータの日常だった。
でもここではそんな暮らしが存在しない。
ベジータは思うのだ。

・・・・俺がおかしいのか?
俺の生き方を否定するのか!

山のような瓦礫。
散らばる死体。
踏みしめてあるく。
足元のあの感じ。
燃える街。

ベジータ達は、フリーザが目をつけた星にどんどん攻め込んでいく。
一気にたたく。
破壊させる。
湧き上がる昂揚感。
身体がぞくぞく震える。
この世界は強いものが勝つ。
弱ければ・・・・・死。
ただそれだけのことだった。
それは、ベジータだって同じことだ。
足元に絡みつく、血だまり。
粘った感触。
それはベジータを興奮させる。

・・・俺はこうして生きてきた。
これからもそうだ。

地球の日差しはあまりにも明るく柔らかい。
ベジータは右手で自分の胸を抑える。
眉をしかめ、口びるを少しゆがませて、彼はさらに飛び続ける・・。
どこまでも。







日が傾きかけて、ベジータは立ち上がる。
北の高地にある岩山。
ただ土色が広がるだけの乾いた場所。
ベジータは何をするのでもなくそこにいたのだ。
夕日がベジータの影を長く伸ばす。
その影の先に、ブルマがいた。

ただたっている。
ベジータはそのままで動かない。
歩み寄ったのはブルマのほうだった。

静かにベジータの背中に手を伸ばそうとする。
いつかベジータが倒れていたこの荒地。
なぜ、彼は何時もここに来るのか?
そしてブルマもどうしてここにいるのか?

・・・・愛じゃない。
ベジータなんか大嫌いだ。
嫌い。

なのにベジータの姿が消えると後を追う。
どうしてなのだろう。
ブルマは娘じゃない。
女だ。
なのにベジータを追ってこんなところに来る。

・・・あたしは何を期待しているんだろう。

ベジータがブルマの気に気づかないはずがない。
なのにベジータも動かない。
どこにも行かない。
ブルマとベジータの間はおよそ2メートルもないのに・・・。
この距離が・・・遠い。

あの時はじめてベジータはあたしの手をとった。

今でも胸が高鳴る。
ベジータの手。
手袋を脱いだ手は以外に白かった。
そして、柔らかかった。
つめは大きくて、指が長かった。
いかにも生まれのよさそうな手のひら。
・・だけど気持ちの伝わらない手のひら。
その手があたしの手をとった。
それだけであたしは全身の力が抜けた。
ベジータに抱き上げられたときはもう、体中が熱くなった。
こんな気持ち初めてだった。
あたしは全身の力を抜いてベジータの腕の中にいた。
・・しびれた。

だけどそれだけだった。
あれからまたベジータは元のベジータに戻った。
時々ふらりと戻ってくる。
誰に会うでもなくまた出て行く。
しゃべらない。
笑うことなどない。

・・・なぜなの?

ただ一つ変わったこと。
ベジータはここに来る。
この場所に。
あの時ベジータが倒れていた、この荒地に。









ヤムチャは自分の部屋にいた。
出かける気にならない。
だからといってブルマと行動をともにするのも嫌だった。
ベッドに横たわる。
ブルマの匂いがする。
甘い匂い。
もう何年もともに暮らした匂い。
ブルマはたしかに俺のものだ。
いろいろあっても夜にはこのベッドで過ごす。
それで分かり合えるはずだった。

なのに・・・。

ブルマの髪が落ちている。
ぬけるような鮮やかな色の青い髪。
ヤムチャはその髪をじっと見つめる。
昨夜のブルマのぬくもりをまだ感じる・・・。

なのに・・・。

ヤムチャは感じている。
不安を。
もう疑いようがなかった。
迷い、恐れる自分の心に。
目をそらすことが出来なかった。

何時までもこのままではいられない。

ヤムチャは盗賊だ。
だが誰が好き好んで盗賊などするだろう。
両親がそろっていれば・・・。
普通の家庭に育っていれば・・・。
ヤムチャだって、普通の青年だったに違いない。
幼いころの思い出。
それがヤムチャに影を作る。

・・・俺はやっぱりここにいちゃいけないのか。

暮らしが違いすぎる。
育ちも。
ブリーフ博士はヤムチャに何の偏見もない。
ブルマのママも。
まるでヤムチャを自分に子のように扱ってくれる。
ヤムチャはここで家庭の暮らしを体験した。
幸せだった、ほんとうに・・。
若いころ、女性のまえで緊張するあの経験は、
自分の生き方に対するコンプレックスではなかったかと思った。
ブルマの家庭に溶け込んでヤムチャは幸せだった。
しかし、何時までもこのままでいいはずがない。
ヤムチャは、ヤムチャだ。
いつかここから独立しなければいけないと思った。
しかし。

・・・ブルマはついてくるのか、俺に・・?
この生活を捨てて?
俺と二人で生きていけるのか???

ここにヤムチャの迷いがあった。
そして、確かめる勇気もなかった。
失うことがつらかった。
暖かい家庭を。
居心地のいい家族を。
仲間を・・・。

ブルマは俺についてくるのか?
それともやはり・・・。

答えの出ない問い。
出したくない問い。
ヤムチャは繰り返す。











harumama
「帰れ」

ベジータが言ったのはこの一言だけ。
振り向きもしなかった。
ブルマは、凍ったようになる。
指先が冷たくなる。

「貴様に用はない・・」
「でも、・・」

言いかけてブルマは息を呑む。
いつのまにか薄暗くなってきた。
ベジータの姿が闇に消えようとしていた。
溶けていく。
闇に中に。

ベジータ・・・。
・・どこに行くの?
たった一人で?

「ベジータ・・」

ブルマは本当に小さい声で言葉をかけた。
そのとき、ベジータがふっと振り向いた。
ベジータの表情が闇の中に浮かび上がる。
白い顔。
黒い瞳。
どこまでも黒くどこまでも深い瞳。
ブルマを見つめる。
さびしい瞳。

「ベジータ・・。」

ブルマが一歩進み出る。
ベジータが、・・動いた。

「あ・・・」

ベジータの白い手袋。
ブルマの両頬をそっとはさむ。

・・ブルマは目をそらさない。

ベジータの手が・・・
熱い。
とっても・・・。

ブルマはあっ・・と息を漏らした。
ベジータは手を離す。
そっと。
ブルマの足が震える。
身体が熱い、とっても。
指先がしびれる。

・・・この手のひらだわ・・・。

戦うときに恐ろしい気を発する、この手のひら。
いくつもの命を奪ったこの手のひら。
しかしいまブルマに触れるこの手のひらに残虐な様子はまったく感じられない。
感じるのは
悲しみと寂しさ。

・・・私には・・わかる。
なぜかうまくいえないけど。
この人は
悪い人じゃない・・・。

はっきりした理由は説明できない。
でもブルマはそう感じた。
ベジータは離した両の手を、ブルマの背中に回す。
ブルマは思わず目を閉じた。

ベジータが、ブルマを抱きしめた・・・。

ベジータの腕に力が入る。
黒っぽい戦闘服の下のたくましい筋肉。
触れる。
感じる。
心臓の音。
響く。
ベジータの息。
熱い。

わかる・・・この人は悪い人じゃない。

ベジータはブルマを抱きしめる。
その柔らかい身体に甘えるように。
その暖かさをむさぼるように。
ただ、抱きしめる。
いつしか、ブルマの手が伸びて、
ベジータはブルマに抱きしめられる。
小さな子供のように。
ブルマの胸に抱きしめられる・・・。
渇いて
渇いて
ヒビだらけのベジータの心。
砂漠のような、
岩山のような、
乾き切った、ベジータの心。
水がしみこむように
ブルマのぬくもりが
流れ込む・・・。


何時しかブルマは
泣いていた。

「泣かせたのか・・・俺が。」

ベジータがつぶやいた。

「悪かった・・・。」

そっと身体を離す。
ふっと現れた。
あの少女。
ベジータの脳裏に顔のない少女。
ベジータは、ブルマの涙を指でぬぐった。



「帰れ・・・ヤムチャのところへ」








その晩もベジータはカプセルコーポレーションには戻らなかった。
ベジータは岩山の陰で野宿をしていた。
なれた生活だった。
夜露がかろうじてしのげるその場所で、ベジータは眠りにつく。

ベジータは夢を見た。
初めて惑星の侵略に参加したあの日。
・・・夢見ていた。
あの小さな星を。

俺はまず偵察のためにあの星に下ろされたんだ…。
偵察という名の試練の為に。

夢の中でベジータはつぶやく。
その星は
小さな星だが美しかった。
青々と草木が茂り黄色い花が咲き乱れていた。
空気が澄んでいて風が光っていた。
そして。
地下資源が豊富だったんだ。
すんでる奴らはおとなしい生き物ばかり。
だから狙われた。
フリーザ軍に。

少女の姿が見える。
白いワンピースの髪の長い少女。
黄色い花束を抱えていた。
不思議といまは顔がある。
人懐こい小さい顔。
7つかそこらの年頃だろう。
ベジータに近づいてくる。
「こんにちは、どこからきたの?」
少女は笑った。

「貴様は俺がこわくないのか?」
ベジータは問うた。
「どうして?」
少女は笑った。

なぜ笑う?
なぜにげないのだ、俺から…?

夢と知りつつベジータは口を開いた。

「貴様は俺が怖くはないのか!?」





場面が変わった。
ベジータは群衆に囲まれていた。

「こいつはフリーザ軍だ!!」
「子供だと思って油断するな!!」
「皆殺しにされる前に殺してしまえ!!」

ベジータに投げられる石ころ。
もちろんベジータに何の影響もない。
しかし少女はベジータの前に立った!!

「ベジータをいじめないで!!」

少女に石の破片がいくつかあたり、少女は血を流した。
石つぶてはやまない。
弱い生き物の抵抗にベジータは嫌悪を覚えた。

弱い物に生きる権利はない。

戦士としてのベジータが目覚めようとしていた。
ベジータは気を高めた。
怒りの爆発。


「やめろ!!」

誰かが叫んだ。
土煙を上げるベジータ。
発する気。
一面の嵐。
叫び声。

「やめて、ベジータ!!
お父さんやお母さんもいるのよ!!」

ベジータに少女の叫び声が聞こえた。
我に帰る。
しかし・・・。
ベジータはおさなかった。
ベジータはまだ気のコントロールが十分出来なかった・・・。












「起きろって!」

ベジータの顔をたたく奴がいる。
カカロットだった。
ベジータは汗だくになっていた。

「・・・なんで貴様がここにいる。」

ベジータは飛び起きた。

「なんでって・・・おめえが呼んだんだ、オラを。」
「ふざけるな・・」
「冗談じゃ、ないぞ。」

カカロットはベジ-タの横に腰を下ろした。

「おめえの心がオラを呼んだ。」

カカロットはベジータの方を見た。
穢れのない透明な瞳。
ベジータの顔が映っている。
ベジータは目をそらした。
夜空に降り注ぐような、星屑。

「オラに話せ。」

ベジータはそっぽを向いた。
聞こえない振りをしている。

「おい・・・。」
「さわるな!」
「ベジ-タァ」

ベジータが立ち上がろうとしたとき。
カカロットも動いた。
両手両足を使ってベジータを仰向けに固定する。

「な・・・!」

無表情なまま、カカロットは、ベジータを見下ろす。
そして、気を発し、ベジータにショックを与えた。
たいした気ではなかったが、突然だった。
ベジータの抵抗が一瞬弱くなった。
そのとき、カカロットの指が伸びる。

「あっ、くそ!!」

ベジータの額にカカロットの指が触れた。
カカロットの顔が
・・曇った・・。




「・・・・・殺したのか・・・」

カカロットが苦しげに言葉を吐いた。

「貴様・・・読んだのか、俺の心を・・・汚いぞ、この野郎・・・」

ベジータも思い出した。
心を読まれた瞬間、その扉は開いたのであった。

初陣でベジータは少女の星を滅ぼした。
少女の顔を飛ばしたのは、他ならぬ、幼いベジータ自身だったのだ。

「読まれて悔しいか、ベジータ。
おめえの考えてることなんかオラにはお見通しだ。
悔しいか。
弱いってのは惨めだな・・・。」
「消えろ!」
「・・・いや・・おめえがあんまり弱いんでな、からかいたくなっちまった。
・・・オラは超サイヤ人になれる。
おめえはどうした。
何時までも弱いままか。」
「調子にのりやがって・・・!!」
「もっと読めたぞ、おめえのことは・・・。
おめえが昔を望むならオラがそうしてやろうか・・。」

カカロットは気を高め、金色に輝きだした。
黒い瞳は青く輝き
獣のようにベジータを見る。
冷たい月の様な輝き。
ベジータは動けなかった。

・・・これが超サイヤ人。

ベジータは、カカロットをまっすぐ見つめた。

その美しさにつばを飲み込んだベジータであった。
超サイヤ人・・・。
正に戦うための姿・・・。
しかしカカロットの様子はいつもと違った。

「ベジータ・・・おめえほんと弱いや。」

鼻で笑う。
ベジータの腹に、カカロットの手刀が入った。


・・いったいなにを・・・。

ずぶ、と中で握る。
そしてまた手のひらを開く。
握る。
ベジータの内部をもてあそぶ。
ベジータは、逃れようとする。
しかしカカロットはそれを許さなかった。
金色の気がベジータを打ちのめす。

「おめえの心を読んだとき、いろいろなことがオラに流れ込んできた。
おめえの望むことも。
されてきたこともだ。
・・・おめえはこれを望むのか?
答えられるのはオラしかいねえぞ。」

「ちが・・う、こんなことを・・・望むわけがない・・」
「ほんとにそうか?」
「くそっ・・」

ベジータは歯をぎしぎしいわせた。
腹からはどくどくと赤黒い血が流れ出る。

「まだコタエねえか・・・たいしたプライドでもないのによ。」

カカロットは薄く笑った。
その目はあくまでも冷たい輝きを放っていた。
白く輝く腕が伸びる。

「なにを・・!!!」

ベジータが叫ぶまもなく、カカロットはベジータの背中に気弾を放つ。
背中から腰が焼け、赤くただれた皮膚が現れた。

「まだ、屈辱が足りねえようだな。
もっと、もっとか・・?
もっとおめえの望むことをやってやろうか?」

カカロットはベジータの衣服をはいだ。
ベジータは蹴飛ばされて地に転がった。
闇に浮かび上がる血まみれの身体。
起き上がろうとするベジータ。
カカロットはそれを許さない。
ベジータの頭をわしづかみにする。
ガン!!
そのまま地面に押し付ける。
持ち上げる。
そのままぶら下げる。
カカロットは笑う。
ベジータの顔を自分の前にぶら下げる。
流れ出る鮮血。

「おめえは子供の時、小さな少女を殺した。
おめえに好意をもっていた少女を・・。
ひでぇやつだ・・・。
認めろ。
それを。
認めて詫びろ。
・・そして、泣け・・・。」

ベジータが泣くわけがない。
しかし、カカロットのつけた頭部の傷から血が流れ、
それが血の涙となって、ベジータの目から流れた。
カカロットは何かに取り付かれたように、ベジータをいたぶる。
殴る。
蹴る。

しかしベジータは逃げなかった。
むしろ積極的にそれを受け入れたように・・・見えた。

「最後までやってやろうか・・?」

カカロットはベジータをうつぶせのまま地面に押し付ける。

「おめえが望んだことだ・・。」

ベジータに一瞬慄きが感じられた。
顔が青ざめる。
身体が固くこわばる。
手足が冷たく冷える。

ベジータの身体が震えていくのをカカロットは感じた。

・・・ベジータ・・・おめえって奴は・・・。

カカロットは超化をといた。

「やめだ・・・」

黒髪のカカロットは、胴着を脱いだ。
自分はパンツ一枚になって、からから笑った。

「危うくマジになるとこだったぜ。」

しかしその目は笑っていなかった。

「ベジ-タァ・・・」

カカロットは、ベジータを抱き起こした。
ベジータは目をそらした。
まだ身体は硬かった。

「悪かったなぁ。」

そんな言葉は、身体の傷よりベジータを深く傷つける。
カカロットは十分それを承知していた。
山吹色の上着を裂き、ベジータの傷を縛った。
はみ出した腸が腹圧で飛び出そうとするからであった。
ベジータはされるままになっていた。

「オラのシャツとズボンはおいとく。
きてけえれ。」

カカロットはベジータの身体を抱きしめた。

「ベジ-タァ・・・」

ベジータの顔を自分のほうに向ける。
光のない瞳。
どこまでも暗く、深い。
その瞳がカカロットの胸を打つ。

なんて目をしているのか・・・。
ベジータ、おめぇ。
知るべきじゃなかったか・・・・・。

カカロットはベジータの心を読んだことを、少しだけ、後悔した。









3日経った。
あれから誰もこなかった。
ベジータは岩陰にいた。
カカロットの胴着はそのままだった。
着る気にならなかった・・・・。
もう動いても腸が出るわけではない。
しかしここを離れる気がしなかった。

・・あれから顔のない少女は現れない。

ベジータは空を見上げた。

・・・あれは現実だった、そして・・・

いまここで生きている自分自身も現実なのだと。
ベジータはそんな当たり前のことにようやく気がついた。
胸が狂しい。
カカロットに対する、ねたみ。
与えられた屈辱。
いろんな感情がベジータの中にあった。

いずれにしても。
奴は俺様が始末する・・・。

それだけは迷いがなかった。

急に胸が熱くなる。
ブルマの気を背中に感じたからだ。
近づいてくる。

乗り物が空から下りてきて、機械音が止まる。
ブルマが降りてきた。
ベジータは背中で感じている。
身体が暖かくなる・・・。

「これ・・・」

ブルマが声をかけた。

「孫君が今朝、うちにきたの。
着替えを持っていって欲しいと。」

腹に山吹色の血染めの布を締め付けただけの裸のベジータの姿に、一瞬ひるんだブルマである。

「それ・・・どうしたの・・・?」
「貴様には関係のないことだ。」

ベジータはそう答えると、ゆっくりブルマの声のするほうを振り向いた。

「その顔・・・どうしたんだ?」

ベジータは思わず声を出した。

「なんでもない。」
「しかし・・」

ベジータは声をつまらせた。
ブルマの頬にたたかれたような赤い跡があった。

「ちょっとね。
大した事じゃないのよ。
あたしだってやられっぱなしじゃないわ・・・。」
「・・・」

ヤムチャなのか?

そう聞こうとして、やめた。

ベジータは服を受け取った。
黙って袖を通す。
ブルマは黙って見つめている。
よく見れば、小さい身体だ。

でもいろんな苦しみをせおっているんだわ・・。
きっと。
かわいそうっていうのは、
好きだ、ということじゃない。
多分違う。
あたしは・・・。

「すまない。」

こざっぱりした洋服に着替えて、ベジータは、こうつぶやいた。
まっすぐブルマのほうを見つめている。
ブルマの青い髪が乱れていた。
近づくべジータ。

・・・ヤムチャの匂いがした。

そっとベジータはブルマのほうに手を伸ばす。
そっと。
ブルマはベジータの手をとって自分の頬にあてがう。

「泣くな・・・。」

ベジータが言った。

「俺なら、お前を泣かしはしない・・・・。」

ブルマが、身体を震わせる。
その身体を、ベジータがしっかり抱きとめた。
何度も、何度も、さするように、ベジータはブルマの身体を抱きしめた。
ブルマはその場に倒れこむように崩れた。

(あたし・・・どうしたらいい?
ヤムチャがいるのに・・・
どうしたらいい?)

ベジータは、ブルマの涙を吸った。
ナメック星の彼からは信じられない優しさであった。
ベジータの唇が、ブルマの皮膚をなぞっていく。
ベジータの息がブルマにかかる。

「ベジータ・・・」

目に涙をいっぱいためて、ブルマはベジータの瞳を覗き込んだ。
ベジータの黒い瞳が、まっすぐ、ブルマを見つめた。

「俺なら、お前を泣かしはしない・・・・。」

ベジータの唇が、ブルマのそれにそっと触れた。
ただそれだけのキス。
ベジータは赤くなっていた。

「俺は・・・・」

言いかけて、ブルマの顔から、ベジータは目をそらした。。

「え、何・・・ベジータ?」
「俺はこの星で生きていく。」