
この気持ちは何なのだろう・・・。
この体の奥の深いところのどこかに風穴が開いたような、
それでいて、激しい感情が湧きあがらない、この気持ち。
怒りが出ない。
自分に対して、こんなにいらだっているのに。
・・・いままで、自分も燃え上がらせていた激しい感情。
あきらめたのか?
そんなはずはない。
・・・ではどうして?
ベジータは答えの出ない思いをめぐらせる。
こぶしにびっしり冷たい汗をかく。
ベジータは見てしまった。
カカロットが超サイヤ人になれたのを。
ナメック星で確かに一瞬、奴が超サイヤ人になれる、と認めた。
でも実際に事実をつきつけられて、ベジータの魂はゆれた。
自分が自由になるためには強くあらねばならなかった。
誰にも支配されずに、生きていきたかった。
だからこそ、フリーザにも立ち向かった。
力の差は明らかだったが、そんなことはどうでもいい。
自分のとらわれた魂と、この体が自由になるために。
本当の自分を見つけるために。
自分のために生きるために。
ベジータはフリーザの前に無残に倒れた。
覚えている。
ベジータは泣いたのだ・・・。
自分とフリーザとの決定的な力の差を知った恐怖に。
そして、カカロットの前で・・・。
・・・あのまま死にたかった。
負けたのだ。
負ければ、死。
戦って死ぬ。
いつか死ぬ。
わかりきったことだった。
しかしベジータは生き返った。
ドラゴンボールの力によって。
「オラが超サイヤ人になったからって、気にすんな。
オラはオラだ。」
カカロットの声がした。
「オラはおめえが生き返ってくれてうれしい。
宇宙でたった二人のサイヤ人だもんな。
オラも、寂しかった・・。
オラは、オラが何者か知らなかったんだ。
おめえのおかげでオラは自分のことを知ることが出来たんだ・・・。」
カカロットの声が遠くに聞こえる。
そうなのか?
貴様はそんなことで満足できるのか?
・・・・所詮地球育ちのアマちゃんか。
俺は違う。
俺は、違うんだ!
カカロットはたびたび瞬間移動でベジータの下に現れる。
その何も疑っていない瞳を見ると、たまらなくなる。
かかわるな!
俺に・・・!
一人でいるより誰かといるほうがむなしくなる。
ベジータは一人高地の荒れ野に向かう。
そこには何もない。
乾いた、冷たい土地。
風さえ吹かない。
ベジータは一人気を発し、無茶苦茶に飛び跳ねる。
岩を砕き、地を割る。
山を裂き、自分を傷つける。
飛び散る破片を避けもせず、ベジータは叫び続けた。
「うおおおおおおおおおおーーーっ!!!」
無数の岩石がベジータを直撃し、ベジータは血まみれになる。
いくら血を流しても満足できなかった。
戦えなければ、俺じゃあない。
・・・・・戦って死んでいきたい。
自分の気に跳ね飛ばされて、岩山に吹き飛ばされる。
頭を強く打ち、一瞬、目の前がかすむ。
そのまま地面にたたきつけられ、しばらく動けなくなる。
・・・痛みを感じる。
生きている。
でも、何のために???
ベジータの脳裏を金色に輝くカカロットの姿が掠める。
・・・・悔しい。
初めて、そう思った。
ベジータは今もブルマの家にいる。
住み着いているというより、気が向いたときだけ、食料を得に戻るようなものだった。
ブルマはベジータの部屋を用意していた。
ヤムチャも同じくすんでいる。
・・・・恋人らしいから当然なんだろうが。
ベジータは2週間ぶりにここに帰ってきた。
「あら、ベジータちゃん、お帰りなさい。」
ブルマの母親が声をかけた。
この能天気な母親という生物はベジータの理解を超える。
せっせと世話を焼き、それを楽しんでいる。
ベジータは、はじめはいちいち反発していたが、いまはその存在を目に入れないことにしていた。
それにもかかわらず、この母親はベジータに食料を提供し、ほかの地球人と同じように声をかける。
・・・馬鹿なのか?
馬鹿といえば、ブリーフ博士もだ。
自分の娘を殺しかけた敵に重力室を提供している。
ベジータの要求を断ることもない。
ただの発明マニアなのか??
そしてヤムチャ。
こいつが一番わからない。
ヤムチャはベジータ達と命をかけて戦ったじゃあないか。
命を失ったじゃないか。
なぜ、俺といる?
出て行けといわない?
・・・・こんな想いがさらにベジータを孤独に追い詰める。
カカロット・・・貴様はどうしてこんな星で生きていけるんだ。
血まみれでほとんど裸同然のベジータは、とりあえずの衣服を受け取り自分の個室へと向かった。
角を曲がったところで、ベジータの足が止まった。
・・・ブルマがいた。
ベジータは目をそらす。
そのまま通り過ぎる。
背中にブルマの視線を感じた。
「パパ、メディカルマシーンって作れないの?」
ブルマは何気なく父親にそういってみた。
ブリーフ博士はお茶をのみ、一呼吸置いて答えた。
「できないことはないとおもうが・・・」
そして続けた。
「地球には神様がおるしのう。
デンデ君は、どんな傷でも癒してくれるんじゃろう。
それに仙豆もあるんじゃろう。
特に作る必要を感じないのじゃよ。」
「そうね。」
ブルマは答えた。
・・・ベジータの傷だらけの後ろ姿を思った。
ベジータは、どうしてメディカルマシーンを欲しがらないのだろう。
デンデの能力も仙豆もベジータに縁のないものであった。
ぼろぼろの体をベッドに横たえてひたすら回復を待つ。
そんな姿が目に浮かんだ。
・・・まるでけだものだわ。
いつもベジータはそうやって、体を癒す。
食糧を持ち込んで、ひたすらこもる。
動けるようになるまで、明かりもつけずに痛みに堪える。
そして、また出て行くのだ。
「ブルマ・・」
ヤムチャだった。
「おかえり」
ブルマはヤムチャに抱きつく。
考えても仕方ない。
ベジータがそれでいいなら私には関係ない。
ブルマは、ヤムチャに抱きかかえられて自分の部屋に向かった。
もう付き合って何年になるのだろう。
いつものように服を脱がされながら、ブルマは思う。
孫君と知り合った、ちょうどそのころ、ブルマとヤムチャも恋をした。
あのころヤムチャはかっこいい盗賊だったわ。
私だって若かった。
ヤムチャは素敵な男性になり、ブルマも女になった。
何度もわかれて、そしてまた求め合った。
いつしか一緒にいるのが当たり前になっていた。
・・でも私たちは結婚していない。
なぜ。
当たり前のようにヤムチャはブルマを抱き寄せる。
ブルマの髪を求め、
ブルマの体温を探る。
ブルマもヤムチャの体に包まれ、安心する。
・・・でも私たちは、結婚していない。
私は結婚したかったのだろうか?
ヤムチャと。
ヤムチャの唇がブルマの耳元に触れる。
ブルマは思わず声を漏らす。
ヤムチャは私をしっている・・・。
私の体のすべてを。
だから私はヤムチャと離れられないのだろうか?
私は、ヤムチャの体が好きなのだろうか?
この硬い、傷だらけのからだが。
私のすべてを満たす、この体が。
自虐的な想いがブルマをさらに感じさせる。
ブルマの乱れように反応したヤムチャは、大きく息を吐いて、
彼女を力強く抱きしめた。
ブルマは大きく胸をそらし、声にならない声を上げた。
ベジータは、出て行った。
ここにはいたくない、と思った。
べジータは、まだ傷のいえぬ体をそのままに、もてるだけの食糧を持って、空に飛び立った。
二人の気。
ベジータには到底理解できない気。
しかし、その気は、ベジータを傷つける。
傷つく?
この俺が???
俺にそんな感情があるものか。
ベジータは自問自答する。
俺は、誰にも邪魔されずに生きていきたい。
見下されたり同情されたりしたくない。
そのためには誰よりも強くなるべきなんだ。
宇宙一!
全宇宙一に!
・・・カカロット、お前を倒す。
唇を少しゆがませて、ベジータは北の空に消えていく。
その姿を遠くから見つめる影があった。
カカロットだった。
しばらく北の空を見つめていた彼は、ふっと姿を消した。
そのころ、ブルマはヤムチャといた。
ブルマは黙っている。
ヤムチャも黙っている。
いつものことが始まっていた。
ヤムチャは昨日帰ってこなかった。
わかりきってる事だった。
聞くまでもないことだった。
でもまた聞いてしまった。
予想通りの答え。
これもいつものことだった。
静けさを破ったのは、勝気なブルマのほうだった。
「・・・もういい。」
ベッドから立ち上がろうとする。
「なにがいいんだ。」
ヤムチャは憮然と答える。
「あんたが誰と遊ぼうとあたしには関係ないわ。
好きにしたらいい。
あたしはヤムチャを縛りはしないわ。」
「俺を縛らないのか。
心が広いんだな。
それはどういう意味なんだ。」
ヤムチャはブルマの手をとった。
力いっぱい引き寄せる。
「俺を縛らないってのは、自分も縛られたくないってことじゃあないのか。
そうだろう。」
「・・・どういう意味?」
「俺が聞きたいさ」
ヤムチャはブルマの顔を引き寄せた。
「なぜ、俺といる?」
「・・・いまさら・・・」
「腐れ縁か?それとも俺に対する哀れみか?いまさら追い出せないとか?
一度聞いてみたかった。
ブルマ、答えてくれ。」
「そんなこと・・・」
ヤムチャは美しい顔をしていた。
そして寂しい目をもっていた。
それは今も変わらない。
ヤムチャは優しい。
そして心が温かい。
文句があるはずがない。
「俺は・・・ブルマが好きだ。
この世の誰より愛している。
お前の指も、お前の髪の一本一本も愛しい。
だけど、おまえはどうなんだ・・・。」
ヤムチャはブルマの手のひらを自分の頬につけた。
「俺は時々不安になる。
果たして俺はブルマにふさわしい男なのかと。
いつかお前は俺から離れるのではないかと。
・・・そんな気がするんだ。
不安なんだ。
わかってくれ・・・ブルマ。」
ブルマの手のひらを、ヤムチャの涙がぬらす。
<だからといって、昨日の外泊は何なのよー!!>
ブルマは心の中で叫ぶ。
ヤムチャはいつもこうだ。
肝心のことは何も言わない。
そして私たちはお互いに何にも大事なことには触れないで、その場をやり過ごすのだ。
でも、ブルマは、ヤムチャの涙を吸う。
お互い核心に触れないまま、恋人ごっこは続いていく・・・。
そのころ、ベジータはどことも知らぬ土地に倒れていた。
ふかい傷口が突然ひらいたのだ。
と、いうよりも、ろくに手当てもしていないから、敗れかけたままだったという方が正しい。
急な激しい出血で、意識が遠のき、彼は墜落した。
落ちたとき、全身を強く打ち、彼はさらにダメージを受けた。
でもベジータは知っている。
この程度じゃあ、死なない。
それは幼少のころから幾度とも命を落としかけ、文明の力で生き返らされた彼だから判ることだった。
・・・俺はこうして生きてきた・・・。
戦い、傷つき、傷つけ、相手を殺す。
死のふちに立つとき、よみがえったベジータはさらに強くなる。
それはサイヤ人の特性らしい。
しかしベジータは体で覚えた。
子供のころ、それに気づいたベジータは積極的に戦闘の先頭にたった。
切り込み隊長である。
頭と体が泣き別れにならなければ、どうせ生き返る。
切り込み隊長をしていれば、一目置かれる。
プライドの充足とパワーアップ。
ベジータはこれだけを求めて生きていたのだ。
日が暮れようとしている。
夕日が赤い。
地面にたたきつけられたままのベジータに近寄る気配があった。
「ベジータァ・・」
それは髪の黒いカカロットであった。
カカロットは夕日を浴びて赤く輝いていた。
ベジータより二周りは大きい体。
美しい筋肉。
整った顔立ち。
ベジータは子供のころ、こんな男に一度だけ会ったことがあった。
・・・バーダック。
ベジータは目を閉じた。
・・・ベジータはそのまま夢を見た。
幼いころの惑星ベジータでの夢を。
帝王学を学び、いつの日か、王位を継ぐ、そのために過ごしてきたあのころを。
つまらない勉強に辟易していたころ、突然あの男は現れ、去っていった。
大きな態度で。
小ばかにした物の言い方で。
「戦闘に出たことがあるったって・・。
あんた死ぬ間際を経験しなきゃ、本当に戦ったとは言えませんぜ。
あんたにも、分かる日がいつか来ますよ。
お遊びやトレーニングじゃない戦闘が、どういうものか……」
確かにあの時そういった。
そうだ・・・確かにそうだった。
あいつは・・・俺を・・・一人の戦士としてみてくれた訳だったのだな・・。
ベジータはカカロットのほうにかすかに顔を向けた。
少し笑ったように見えた。
カカロットは、ベジータにそっと歩み寄る。
「・・なんだぁ、ほんとに気絶しているんだ・・。」
戦場で気を失うということは死を意味する。
しかしベジータの顔は、なんだか微笑んでいるように見えた。
「おめぇほんとうに疲れてるんだなぁ・・。」
カカロットはベジータの体を静かに抱き上げた。
今はベジータは何も気づかないだろう。
いまなら・・。
カカロットはベジータの体を優しく抱きしめた。
思った以上に小さくて軽いその体。
無数に広がる血しぶきのあと。
生暖かい血のにおいがする・・。
「おめえだって、このままじゃすまないよな。
オラを倒しに来いよ。
殺しに来い。
オラだってすんなりやられはしねえぞ。
オラだってもっともっと強くなる。
ベジータァ・・・おめえも・・・強くなれ。
もっと、もっとだ。」
カカロットはそうつぶやいて、ベジータの血まみれの手袋に口付けをした・・・。
「・・・・・・・ベジータ、オラを殺しに来い。」
カカロットは、はっとその気を感じると、姿を消した。
ベジータだけがその場に残された。
南の空からブルマの乗り物が現れた・・。
ブルマがベジータの部屋を見たとき、そこには誰もいなかった。
ただ血で汚れたシーツだけが残されていた。
ただ事ではなかった。
ベジータの傷の深さは、ブルマにはわかっていた。
「探しに行かなきゃ!」
ブルマは叫んだ。
「あいつはサイヤ人だろう。
大丈夫だから出て行ったんだろう。」
ヤムチャは言った。
「だめなの、すごい怪我だった。行こう、ヤムチャ。」
「・・・行かない。」
「え・・・?」
「俺は行かない。」
ブルマは険しい顔をした。
「いい!あたし一人で探すから!!」
ブルマは出て行き、ヤムチャは残った。
「あらあ、ブルマちゃんったらご機嫌わるいのかしら。」
ブルマの母親が、驚いたように言った。
「ちがいますよ・・・。」
ヤムチャは自分の拳をじっと見つめた。
認めたくないことを自分で認めようとしている、そんな気がした・・・。
ベジータは荒地に一人倒れていた。
白い顔が、血に汚れていた。
近づいてよく見ると、体のあちこちに裂傷が認められた。
皮膚も所々青黒く、また赤く内出血し、岩石の破片があちこちに食い込んでいた。
「なんでここまでするの・・・?」
持ってきた応急セットを開く。
滅菌テントを開き、ベジータと自分を外部から遮断した。
ベッドを設置する。
一通りのものは持ってきた。
丁寧に食い込んだ石をとりのぞき消毒する。
そっと張り付いた戦闘服を切り裂く。
中から新しい傷がバッと目に飛び込む。
「なんでここまでするの・・・?」
・・・いくら薬があっても足りない。
ベジータは、目を覚まさない。
いつしかブルマの瞳に涙があふれ、ブルマは声をあげてないていた。
「馬鹿だ、・・・ベジータ・・・」
私を殺そうとしたベジータ。
ヤムチャや天津飯、ピッコロ、多くのナメック星人、
そして数々の惑星を滅ぼしたベジータ。
残虐非道で大嫌いなベジータ。
・・でも、可哀想だ・・・。
こんな生き方しか出来ないなんて。
ベジータの姿はブルマの心を打ち砕き、ブルマはいつまでも泣いていた。
急にベジータの血圧が下がってきた。
血液が足りない。
地球のものがベジータに果たして合うのかわからない。
孫君だって同じサイヤ人だけど、血液型ってあるのだろうか。
・・・どうすればいい?
ブルマはしゃくり上げながら考えた。
・・・やはりサイヤ人の治癒力に頼るしかなさそうだった。
ブルマはそっとベジータに体をあわせた。
まるで母親が添い寝をするようにベジータの横にもぐりこんだ。
自分の洋服に血が付くのもかまわず、服のまま裸のベジータを抱いた。
ベジータは目を開かない。
体がどんどん冷たくなっていく。
・・・助かって・・・。
ブルマはベジータの体をそっとさする。
・・・・どのくらいたったのだろう?
ベジータの体は一向に暖かくならなかった。
・・・やだ、死んじゃうの・・・?
死んじゃいやだ。
ブルマは服を脱ぎ、自分も裸になった。
そっとベジータの体に自分を合わせる。
自分の体温をベジータに伝える。
ブルマの瞳から涙がどんどんあふれ出た。
可哀想だ、こんな生き方・・・可哀想だ・・・こんな死に方!
「孫君!来て!何とかしてあげて!!」
何もない荒地の夜にブルマの泣き声だけが響く。
いつしか夜はふけていった。
ブルマは涙をいっぱい目に溜めたまま、ベジータの横で眠っていた。
泣きつかれたのか、ブルーの髪が頬に張り付いていた。
「孫君来てって言ったってさ・・・
おめえがそんなカッコじゃあこれねぇって。」
いつのまにか、ベッドの傍らにカカロットが立っていた。
「さっき食わせようと思ったんだけど、ブルマが来たからさあ・・・。」
一粒の仙豆を取り出す。
「おめえ、意識があったら絶対くわねえもんな。」
カカロットは、ベジータの口を開かせ仙豆を押し込む。
「じゃ、な、ベジータ・・・」
・・・・ベジータは意識を取り戻した。
長い夢を見ていた・・・。
先ほどの懐かしい気・・・・バーダック?
まさか・・・。
体が暖かい。。
痛みも苦しさもない。
はっとして、体を起こそうとした。
「ブルマ・・・?」
ベジータの胸の上にブルマの青い髪。
そっと触れてみる。
その柔らかさに、おののく。
暖かい。
そして柔らかい。
ベジータはそっとブルマの背中に手を回す。
ブルマが何をしようとしていたのか・・・・。
ベジータにはわかった気がした。
そして傷が全快したわけも。
「・・・カカロット・・」
ベジータの腕に少しだけ、力が入った。
ブルマが動いた。
ベジータはブルマから体をずらし背中を向けた。
じっと息を殺した。
目を閉じた。
「ベジータ・・・」
ブルマはベジータのほうに声をかけた。
「治っている。」
ブルマは、ベジータの背中に手のひらを置いた。
「・・・あたりまえだ。」
後ろを向いたままベジータが答えた。
「俺は純粋なサイヤ人だ。貴様らとは違う。」
ブルマの声が高くなった。
「なーんだ、心配して損した。」
「そんなことはいいからさっさと服を着るんだな。」
ベジータは後ろを向いたまま言った。
ブルマは赤面し、あわててベッドを降りた。
「やだなあ・・ベジータ、あんたの服もあるわよ。」
ブルマは新しい服をベジータに投げつけ、笑った。
「・・・礼なんぞ言わないぞ。
お前が勝手にしたことだ。
昨夜のことは忘れるんだな。」
「はいはい」
ブルマは身支度をしながら明るく答えた。
「で、あんた、私に悪いことしなかったでしょうね・・?」
「するか!!!」
ベジータは今朝、ブルマの背中に手を回したことを思い出して、赤くなった。
ベジータも白い開襟シャツと黒いパンツをはいた。
ベジータはブルマにテントをたたむように言った。
ブルマが言った。
「かえりましょう・・。」
ブルマがカプセルを取り出し、投げようとするとベジータが手で合図をした。
「なにもださなくていい・・・。」
「え・・?」
ベジータは、ブルマのほうに歩み寄ると、初めてブルマに手を差し伸べた。
「え・・・・」
ブルマは動けなかった。
ベジータは目こそ合わせなかったがしっかりブルマの手をとった。
「じっとしているんだな。」
ベジータは、自分でも考えられないくらいそっとブルマを抱き上げた。
ブルマの心臓は高鳴り、ベジータの耳は赤くなっている。
ベジータはふわり、と浮き上がった。
二つの影は、一つに重なって南の空に小さく消えていった。
いい天気だった。
「おーーーい、ベジータ!
オラには何にもなしか?」
気を消して岩陰にカカロットが隠れていたことは、誰も知らない。
終わり

